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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!
砂 塵
しおりを挟むここは何処かの国。
砂丘の合間を縫って、砂塵の竜巻が晴天下の砂漠を疾走していた。
砂漠の上空では雲が割れ、その内部から巨大なペットボトルキャップの神が姿を現す。
ちょっとした球場サイズから、街を覆えるサイズ程もある浅い円筒形の飛行物体、バドキャプタンタイプと呼ばれるアルオスゴロノ帝国の兵器群が、乱雑に集合合体した不気味な空中要塞である。
しかも合体は現在進行形であり、今この間にも小型バドキャプタンが二機、下部付近に取り付いたばかりだった。
地上を一心不乱に貫き進んでいた砂塵の竜巻が砂の谷間を抜けた。
比較的平坦な場所に出た荒ぶる砂塵の正体、琥珀特急は、纏っていた砂のドレスを脱ぎ捨て、先頭車両を横に向ける。
制動力を押し出した宝甲のボディは再び砂を弾き飛ばし、先頭車両に追随してドリフト状態にもつれ込んだ後続車両の宝甲板が連続してバシャリと立ち上がる。
宝甲板の背部が太陽光に照らされた瞬間。宝甲板一枚につき四ヶ所設けられている丸いレンズ状のディテールから、オレンジ色のレーザー光線が連続で発射された。
レーザー光線の着弾目標はもちろん、上空を悠々と進む飛行物体、バドキャプタン集合要塞体である。
「!!」
だがレーザー光線は突如として虚空に出現した多数の【巨大な杖】によってあっさりと弾き返され、レーザー光線は霧散してしまう。
〔···通告したハズよ?進攻を妨げなければ報復はしないと···〕
レーザー光線を跳ね返し終えた多数の杖は、幻影のように一ヶ所に集結して一つの杖になった。
その巨大な杖の持ち主は、琥珀特急に向かって女性の声で話し掛けながら、徐々に姿を現していく···
鋭い目付きのイタチを思わせる兜に、肩アーマーに多量の毛皮のようなものを取り付けた女性的なスタイルの魔導師。
アルオスゴロノ帝国 クイスラン専用滅却機 エネスジュイガ。
琥珀特急のディーゼル車を思わせる運転席は、杖の先を自身へと指し示すエネスジュイガを黙って睨んでいたが、地下から迫る異変に気付きセンサーを周囲へと張り巡らせた。
モクモクと砂漠に潜行し、近付いて来る複数の巨大な影。
その多数の影は次々に砂中からボスボスと飛び出し、琥珀特急を取り囲んだ。
現れたのは頭部を機械に置き換えたような姿の怪獣軍団。
赤く光る単眼のカメラアイは、通常のベデヘムタイプの野生的な印象とは異なる無機質な凶暴性を秘めている。
〔お前が噂に聞くエネスジュイガ···クイスラン博士か?こんな所で会えるとはな?〕
電子的なエフェクトが掛かった声で、琥珀特急の警笛が響く。
〔広い場所に出れば街に被害が出ないと勘違いしているようだけれど?〕
〔対話無用ッ!!ハァッ!!!〕
宙に浮かぶエネスジュイガの背後で、バドキャプタン集合要塞体は明らかに加速している。
琥珀特急は全車体下面から波動を発し、ベデヘム達を怯ませる。
〔CHAIN!!〕
すると全ての車両が浮かび上がり、先頭車両を除く後続車両は装甲状に分解され、即座に先頭車両に結集する。
その眩い光の中、最後尾のタンク車二両が背中にそのままドッキングし、琥珀特急 人型戦闘形態が完成した。
〔!···やれ!〕
エネスジュイガの指示でカメラアイを赤く光らせ応えたベデヘム達は、砂に足をすこぶる取られるのも構わず突進した。
〔まぁ、ここだけを防いでも無駄だけどね?〕
ベデヘム達と格闘する琥珀特急を見下ろしながら離脱していくエネスジュイガ。
〔待て!クイスラン!〕
琥珀特急はベデヘムの一体の頭部を鷲掴みにして砂中に叩き付けながら、去って行くエネスジュイガに向かって叫ぶ。
だがベデヘム達の猛攻は激しく、追撃もままならない。そればかりか別動隊が近隣の都市に向かって進攻を始めたようだ。
〔くっ!〕
そしてバドキャプタン集合要塞体は、奮闘する琥珀特急を嘲笑うかのように新たな雲の中へと潜り込んで姿を消した。
〔フフ···フハハ···アハハハ···〕
エネスジュイガはベデヘム達の戦いを見守るように後ろ向きに飛んでいたが、クイスランの笑い声だけを残し、風景に溶けるようにその姿を消した。
一方、宇留達とアンバーニオンが居る琥珀神艦の発掘現場。
作業前らしく、多数の怪獣達が作業の準備をしている中、アンバーニオンは一匹の怪獣に案内され、作業通路を歩いていた。
両肩の琥珀柱は狭所を歩き回るには困るという理由から、救道の護パートツーモードにより、アンバーニオンのアームカバーとして変質している。
正直、アンバーニオンを睨む怪獣が何気に多い。ゴライゴの客人という事もあるのだろうが、ただそれだけが、アンバーニオン相手に無闇に絡んでこない理由だろう。
だが宇留はアンバーニオンを堂々と歩かせた。胸を張り周囲を見渡す余裕を持つ。
決して粗探しをするつもりは無かったが、現場は整理整頓が行き届き、要不用なものがしっかりと分けられている。ひとつだけ⋮化石ブース⋮という分別土場が大いに宇留の興味を引いた以外、作業エリア内は美しいルーティーンが敷かれているのが分かった。
それはゴライゴの指導がしっかりと行き届いているという事であり、改めて手は抜くまいと宇留は逆に恐縮した。
「ここですゥ」
「!」
いつの間にか立ち止まっていた案内役の怪獣が、アンバーニオンに日本語で声を掛けた。
先程から等間隔的に露出していた宝甲の壁面。
しかしその壁面には何か彫刻が施してある。
「これは?!」
何かのスイッチのようにそれは見えた。丁度アンバーニオンの掌程の大きさの楕円形の彫刻。
〔さわってもいい?ですか?〕
「ええ、どうぞどうぞぅ」
「ヒメナ!、触ってみるね?」
「うん、ゆっくり···」
ヒメナは神妙な口振りだったが、今は琥珀の中で探検隊ルックにその身を包んでいる。恐らくノリノリである。
アンバーニオンは慎重に彫刻へ手を伸ばす。すると触れるか触れないかのタイミングで、閃光がスパークする。
アンバーニオンの攻撃技のひとつである雷撃三発分程のエネルギーが、掌からスイッチに強制吸収された。
···ゴゴゴゴゴ!!
途端に琥珀の壁面が振動した。
怪獣達が慌てたのはほんの一瞬で、直ぐに現場は緊急体制に切り替わる。
「待避だー!ウォオオオオオッ!」
班長獣の合図で身を守る怪獣達。宇留も案内の怪獣と共に後退る。
白い砂塵の中に響く大量の落石音、それはいつになっても治まらない。
ベキベキ!ドココ!ガラゴロラロ···!ドドド!ゴゴ······!
アンバーニオンも怪獣達も、どんどんと発掘スペースの隅に追いやられて行く程の凄まじい連続落石。
振動が治まりようやく静かになり始めた頃、宇留は発掘スペースの天井で作業する怪獣の姿に気付いた。
排気口付近で団扇のような尾を高速振動させ、砂塵を排気口に吸い込ませるカモノハシのような怪獣の姿が多数。その怪獣のおかげなのか、埃で白んでいた現場はゆっくりと視界を取り戻して行く。
「みんな!無事か?!」
あちこちでは、班長獣による生存確認が始まっている。
「あ!!」
アンバーニオンの視界補正の影響で、宇留が真っ先に異変に気付いた。
今この発掘スペースから見える掘削面が全て、琥珀の壁に変わっている。
「う、うわぁ···」
宇留が驚いていると、アンバーニオンの肩に手を乗せる怪獣が居た。
「あんたスゲーな!今からの削り落とし分、もう終わっちゃったよ!」
「やるな君!」「おおお!」
「さすが!」
そのまま数体の怪獣に囲まれるアンバーニオン。しかし訝しげな声が班長獣から届いた。
「ケズリオトシ進んだのはいいが···こんなに一気に崩れたんじゃ、片付け大変だぞ?処理班との兼ね合いもあるしな···」
「あ···」
その心配のせいで再び静まり返った現場。
だがアンバーニオン、宇留はバシッと両手を合わせ、怪獣達に向かって宣言した。
「お、俺も!アンバーニオンも、手伝います!」
「「「「は?」」」」
アンバーニオンは本来、別の役割があるのだろうと怪獣達は思っていた。しかし、宇留の宣言に声を揃えてキョトンとする怪獣達だった。
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