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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!
夢の途中
しおりを挟む「こんな週の頭からでなくてもよかったのにな?」
自走靴を履いた宇留は、先行して前を走りながら気を使ってくれる現の後を付いて、くり貫かれた白い岩盤のトンネルを進んでいた。
自走靴は大きさの割に軽く、バランスの掛け具合で勝手に前後左右に進む事を除けば、宇留が小学生の時に持っていたローラーシューズの感覚に近い。だが宇留は、前のめりに倒れて万が一ロルトノクの琥珀を傷付けるのを防ぐ為、若干凹凸のある路面を注視しながら進む。
「···アレだ」
「?!」
トンネルを抜けた直後、現はフッと立ち止まった。宇留もそれに合わせてすぐさまグッと急停止する。
トンネルの中からの視界が開け、目が慣れる。
目前に広がっていたのは眩しく広大な地下空間。
空間全域は先程眼を覚ましたスペースと同じく、最小限の照明が白い岩盤に乱反射して、予想外の明るさが眼を突く。
其処で作業を行っていたのは大勢の怪獣達。
岩石を満載した半重機的なバケットを運搬する巨大怪獣。壁面にしがみつき、振動する爪で岩盤を剥がす中型怪獣の群れ、現場を整えサポート役に徹する小型怪獣など、各所では様々な怪獣が、それぞれの持ち場で多数尽力している。
そして、怪獣達の次に宇留の目に触れたのはその奥にあるもの、それはあまりにも巨大な琥珀の壁だった。
「「あれは···!!」」
その琥珀の巨壁を見た宇留とヒメナは、驚きのあまり思わず声がハモってしまう。
「本当は多忙のゴライゴ様が戻られてから正式にお願いする話なんだが、単刀直入に言えば、アレを完全に掘り起こす為に、琥珀の巨神の力を貸して欲しいんだ」
「ア、アンバーニオンの?···アラワルくん!···アンバーニオンの力って事は!やっぱりあれは宝甲だよね?!」
「···全長は、推定約六キロ近く」
「六キロ?!?」
「アレはかつて、陸海空宙万能の艦···だったものらしい」
「フネ···琥珀の神艦···?」
「ヒメナ?あれって?」
「少なくとも、今の私の記憶には···」
ヒメナはこの時、先刻目撃した琥珀の海底宮殿を思い出していた。
まさかあれがコレの一部?
「···ヒメナも···知らない事···?!」
「本来、このエリア直上の海底は俺達巨獣の墓所として、【宮殿跡】に護られた神聖な場所だった」
「墓所!?ここがコティアーシュの言っていた!?」
「そうだ琥珀の姫、このスペースは本来、巡礼の為の空間だった所を、ごく最近発掘ベースに改造した場所なんだ。それまでアレは、例え埋まっていたとしても御神体として触れる事もまかりならなかった。ちなみにウチの巫獣によれば、コティアーシュ姉ちゃんの交渉で、ここに眠る巨獣の魂達は今回の発掘には納得済みらしいと言っていた」
「じゃあアラワルくん!鬼磯目···コティアーシュはあの中に居るの?」
「······コティアーシュ姉ちゃんは今ちょっと取り込んでてね?···それでも、それでもアレの機能の【一部】を活性化させてくれたんだ!」
「···でも、コティアーシュ程の存在でも核心を得られなかった?だから私達が喚ばれた?」
「···))」
ヒメナの問いに、現は真剣な表情で、尚且つ心配ありげに黙って頷いた。
「まぁ、さっきも言った通り、作戦会議は後程、今詰所に案内するよ···」
宇留達の予感が的中したのか、現は話を反らすように振り向いて再び走り出した。
数匹の怪獣が作業の手を止め、そんな彼らの様子を窺い始める。
一応、ゴライゴやゲルナイド等の一部を除き、つい最近まで敵対していた者達の視線は未だにチクチクする。
宇留達も若干肩を竦め気味に、現を追って詰所のある方向へ走り出した。
そんな宇留達を遠くから見ていた人間の男性スタッフが居た。その男性スタッフと打ち合わせをしていた怪獣人間達も彼の視線に気付き、会話を一度中断する。
「ふむ···来てくれたか···予定は繰り上がるかな?」
そう呟いたのは国防隊から極秘出向していた晶叉の兄、環巣 束瀬。
彼は爽やかに刈り上げた後頭部を自らサラサラと撫でながら、走って行く宇留達を目で追っていた。
詰所は意外にも、人間が使っている仮設の二階建てプレハブハウスと同等の物のようだ。
だがかなりの数である。ちょっとした町のような雰囲気。
人工太陽代わりなのだろうか?。肌に丁度良く熱を感じる程の照明が土留めに接続された梁から等間隔に幾つか吊るされている。
「ん···!くっ···ぅ···!」
ヒメナが気持ち良さそうに背伸びをしている所を見ると、宇留の予想は当たりらしい。
「こっちだ」
現が自走靴のまま入ったプレハブハウスから顔を出して宇留達を中へと促す。
風除室のような玄関で手摺に掴まりながら自走靴を脱ぎ、小型のエアブロワで簡易的な防塵を行う。
それから部屋に入ると、現は内側の玄関扉から見えるデスクの椅子に座った。
「···あれ?これって!」
宇留は現の机の上に、丁寧に積み重ねられたテキスト集やノートを見つけた。それらには全て見覚えがあった。宇留が今夏取り組む事になっている。いわゆる夏休みの宿題である。
意外な場所での意外な再会に、宇留は思わず早足でデスクに歩み寄った。
「終わった?」
「!」
そこには、ニヤケ顔の現が待っていた。現はそのまま宇留の顔を見上げながら、テキスト集の表紙をポフポフと叩く。
一瞬躊躇う宇留だったが、ここは我慢して正直に答える。
「ま、まだ半···半分??かなぁ?」
「俺は終わった!」
「ぬっ!むう···!!」
宇留の口角が競争心に歪む。だがそれを押し退けたのは新たなる興味だった。
「って、え!?アラワルくんも宿題貰ったの?って事は、学園に戻って来るの?!」
「ああ、本当は宿題要らなかったけどな!···この仕事がもし終わったら、そのつもりだ。後見人もある人が名乗り出てくれたし······そして須舞 宇留!お前には夢があるか!?」
「夢ぇ?!」
「俺は近々なんかの社長になって!ヌシサマのお社の社寺再建筆頭寄進者になる!お前はどうだ!」
「ゲルナイド···素晴らしい!ウリュはどうなの?」
二人の質問に、宇留は鳩が豆鉄砲を食らったような顔でポカーンとしていた。それから視線が上を向き、考えが脳内を巡る。
「将来の夢?···うーん、そう言えば俺もそんな事考える年頃かぁ?」
「「なっ!考えてないの?」か?」
今度はヒメナと現がハモる。
「そんな事言われても、俺は生まれる前からアンバーニオン乗りだったからなぁ···」
「!」「!」
宇留は何気無く、本当の事を呟いただけだった。
しかし今更ながら、現とヒメナの中に郷愁の念が溢れる。
かつて、NOI Zという名の兵器だった現は自我を持つ以前、宇留に生まれ変わる前のアンバーニオンの操珀であるムスアウと相対していたという、百年の仲である事を意識した。
その気持ちはどこまでも澄んだ青空を見ているような高揚感へと、現の心を導いていた。
そして宇留の方と言えば、流れに任せて口にこそ出さなかったが、実は今ある自身の夢に対してこう思っていた。
ヒメナが居なくなるのはいやだなぁ···と。
一方その頃。
世界各地では、アルオスゴロノ帝国の不穏な動きが活発化していた。
多発的な進攻と同時に出現したバドキャプタンタイプが、日本に向けて一斉に移動を開始したのである。
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