神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

文字の大きさ
上 下
146 / 201
発(掘)進(行)!超琥珀神艦!

夢の途中

しおりを挟む

「こんな週の頭からでなくてもよかったのにな?」

 自走靴を履いた宇留は、先行して前を走りながら気を使ってくれるアラワルの後を付いて、くり貫かれた白い岩盤のトンネルを進んでいた。
 自走靴は大きさの割に軽く、バランスの掛け具合で勝手に前後左右に進む事を除けば、宇留が小学生の時に持っていたローラーシューズの感覚に近い。だが宇留は、前のめりに倒れて万が一ロルトノクの琥珀ヒメナを傷付けるのを防ぐ為、若干凹凸のある路面を注視しながら進む。

「···アレだ」
「?!」
 トンネルを抜けた直後、現はフッと立ち止まった。宇留もそれに合わせてすぐさまグッと急停止する。

 トンネルの中からの視界が開け、目が慣れる。
 目前に広がっていたのは眩しく広大な地下空間。
 空間全域は先程眼を覚ましたスペースと同じく、最小限の照明が白い岩盤に乱反射して、予想外の明るさが眼を突く。
 其処で作業を行っていたのは大勢の怪獣達。
 岩石を満載した半重機的なバケットを運搬する巨大怪獣。壁面にしがみつき、振動する爪で岩盤を剥がす中型怪獣の群れ、現場を整えサポート役に徹する小型怪獣など、各所では様々な怪獣が、それぞれの持ち場で多数尽力している。

 そして、怪獣達の次に宇留の目に触れたのはその奥にあるもの、それはあまりにも巨大な琥珀の壁だった。

「「あれは···!!」」

 その琥珀の巨壁を見た宇留とヒメナは、驚きのあまり思わず声がハモってしまう。
「本当は多忙のゴライゴ様が戻られてから正式にお願いする話なんだが、単刀直入に言えば、アレを完全に掘り起こす為に、琥珀の巨神の力を貸して欲しいんだ」
「ア、アンバーニオンの?···アラワルくん!···アンバーニオンの力って事は!やっぱりあれは宝甲だよね?!」
「···全長は、推定約六キロ近く」
「六キロ?!?」
「アレはかつて、陸海空宙万能の艦···だったものらしい」
「フネ···琥珀の神艦フネ···?」
「ヒメナ?あれって?」
「少なくとも、今のボク記憶アーカイブには···」
 ヒメナはこの時、先刻目撃した琥珀の海底宮殿を思い出していた。

 まさかあれがコレの一部?

「···ヒメナも···知らない事···?!」
「本来、このエリア直上の海底は俺達巨獣の墓所として、【宮殿跡】に護られた神聖な場所だった」
「墓所!?ここがコティアーシュの言っていた!?」
「そうだ琥珀の姫ヒメナ、このスペースは本来、巡礼の為の空間だった所を、ごく最近発掘ベースに改造した場所なんだ。それまでアレは、例え埋まっていたとしても御神体として触れる事もまかりならなかった。ちなみにウチの巫獣シャーマンによれば、コティアーシュ姉ちゃんの交渉で、ここに眠る巨獣の魂達は今回の発掘には納得済みらしいと言っていた」
「じゃあアラワルくん!鬼磯目···コティアーシュはあの中に居るの?」
「······コティアーシュ姉ちゃんは今ちょっと取り込んでてね?···それでも、それでもアレの機能の【一部】を活性化させてくれたんだ!」
「···でも、コティアーシュ程の存在でも核心を得られなかった?だからボク達が喚ばれた?」
「···))」

 ヒメナの問いに、現は真剣な表情で、尚且つ心配ありげに黙って頷いた。

「まぁ、さっきも言った通り、作戦会議は後程、今詰所に案内するよ···」

 宇留達の予感が的中したのか、現は話を反らすように振り向いて再び走り出した。
 数匹の怪獣が作業の手を止め、そんな彼らの様子を窺い始める。
 一応、ゴライゴやゲルナイドアラワル等の一部を除き、つい最近まで敵対していた者達の視線は未だにチクチクする。
 宇留達も若干肩を竦め気味に、現を追って詰所のある方向へ走り出した。



 そんな宇留達を遠くから見ていた人間の男性スタッフが居た。その男性スタッフと打ち合わせをしていた怪獣人間達も彼の視線に気付き、会話を一度中断する。
「ふむ···来てくれたか···予定は繰り上がるかな?」
 そう呟いたのは国防隊から極秘出向していた晶叉の兄、環巣 束瀬。

 彼は爽やかに刈り上げた後頭部を自らサラサラと撫でながら、走って行く宇留達を目で追っていた。




 詰所は意外にも、人間が使っている仮設の二階建てプレハブハウスと同等の物のようだ。
 だがかなりの数である。ちょっとした町のような雰囲気。
 人工太陽代わりなのだろうか?。肌に丁度良く熱を感じる程の照明が土留めに接続されたはりから等間隔に幾つか吊るされている。
「ん···!くっ···ぅ···!」
 ヒメナが気持ち良さそうに背伸びをしている所を見ると、宇留の予想は当たりらしい。

「こっちだ」
 現が自走靴のまま入ったプレハブハウスから顔を出して宇留達を中へと促す。
 風除室のような玄関で手摺に掴まりながら自走靴を脱ぎ、小型のエアブロワで簡易的な防塵を行う。
 それから部屋に入ると、現は内側の玄関扉から見えるデスクの椅子に座った。
「···あれ?これって!」
 宇留は現の机の上に、丁寧に積み重ねられたテキスト集やノートを見つけた。それらには全て見覚えがあった。宇留が今夏取り組む事になっている。いわゆる夏休みの宿題である。
 意外な場所での意外な再会に、宇留は思わず早足でデスクに歩み寄った。
「終わった?」
「!」
 そこには、ニヤケ顔の現が待っていた。現はそのまま宇留の顔を見上げながら、テキスト集の表紙をポフポフと叩く。
 一瞬躊躇う宇留だったが、ここは我慢して正直に答える。
「ま、まだ半···半分??かなぁ?」
「俺は終わった!」
「ぬっ!むう···!!」
 宇留の口角が競争心に歪む。だがそれを押し退けたのは新たなる興味だった。
「って、え!?アラワルくんも宿題貰ったの?って事は、学園に戻って来るの?!」
「ああ、本当は宿題要らなかったけどな!···この仕事がもし終わったら、そのつもりだ。後見人もある人が名乗り出てくれたし······そして須舞 宇留!お前には夢があるか!?」
「夢ぇ?!」
「俺は近々なんかの社長になって!ヌシサマのお社の社寺再建リフォーム筆頭寄進者になる!お前はどうだ!」
「ゲルナイド···素晴らしい!ウリュはどうなの?」
 二人の質問に、宇留は鳩が豆鉄砲を食らったような顔でポカーンとしていた。それから視線が上を向き、考えが脳内を巡る。
「将来の夢?···うーん、そう言えば俺もそんな事考える年頃かぁ?」
「「なっ!考えてないの?」か?」
 今度はヒメナと現がハモる。

「そんな事言われても、俺は生まれる前からアンバーニオン乗りだったからなぁ···」

「!」「!」
 宇留は何気無く、本当の事を呟いただけだった。
 しかし今更ながら、現とヒメナの中に郷愁の念が溢れる。
 かつて、NOI Zという名の兵器AIだった現は自我を持つ以前、宇留に生まれ変わる前のアンバーニオンの操珀パイロットであるムスアウと相対していたという、百年の仲である事を意識した。

 その気持ちはどこまでも澄んだ青空を見ているような高揚感へと、現の心を導いていた。





 そして宇留の方と言えば、流れに任せて口にこそ出さなかったが、実は今ある自身の夢に対してこう思っていた。



 ヒメナが居なくなるのはいやだなぁ···と。
 
 
 
 
 
 一方その頃。
 世界各地では、アルオスゴロノ帝国の不穏な動きが活発化していた。
 多発的な進攻と同時に出現したバドキャプタンタイプが、日本に向けて一斉に移動を開始したのである。







 
 
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

神樹のアンバーニオン

芋多可 石行
SF
 不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。  彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···  今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『星屑の狭間で』(対話・交流・対戦編)

トーマス・ライカー
SF
 国際総合商社サラリーマンのアドル・エルクは、ゲーム大会『サバイバル・スペースバトルシップ』の一部として、ネット配信メディア・カンパニー『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』に於ける、軽巡宙艦艦長役としての出演者募集に応募して、凄まじい倍率を突破して当選した。  艦長役としての出演者男女20名のひとりとして選ばれた彼はそれ以降、様々な艦長と出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦う事にもなっていく。  本作では、アドル・エルク氏を含む様々な艦長がどのように出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦い合いもしながら、その関係と関係性がどのように変遷していくのかを追って描く、スピンオフ・オムニバス・シリーズです。  『特別解説…1…』  この物語は三人称一元視点で綴られます。一元視点は主人公アドル・エルクのものであるが、主人公のいない場面に於いては、それぞれの場面に登場する人物の視点に遷移します。 まず主人公アドル・エルクは一般人のサラリーマンであるが、本人も自覚しない優れた先見性・強い洞察力・強い先読みの力・素晴らしい集中力・暖かい包容力を持ち、それによって確信した事案に於ける行動は早く・速く、的確で適切です。本人にも聴こえているあだ名は『先読みのアドル・エルク』  追記  以下に列挙しますものらの基本原則動作原理に付きましては『ゲーム内一般技術基本原則動作原理設定』と言う事で、ブラックボックスとさせて頂きます。 ご了承下さい。 インパルス・パワードライブ パッシブセンサー アクティブセンサー 光学迷彩 アンチ・センサージェル ミラージュ・コロイド ディフレクター・シールド フォース・フィールド では、これより物語が始まります。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...