神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!

ショト ショツ ショツォ

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 は と う を こ え て
 つ め た さ の さ き
 こ ぼ れ お ち た
 い つ か の な み だ

 ゆ る ぎ な い も の
 お も い あ う こ と
 き ず な に こ め
 あ す を ね が っ て い る

 あ あ  き み が く れ た
 こ の う ん め い
 よ ろ こ び   い つ も
 ち か ら に か え て

 あ あ   こ は く の 
 よ う に 
 あ い   て ら す よ 

 そ れ は や さ し い

 き み の こ え

 ひ び い て く





 歌が聞こえる。
 これはきっと愛だなぁ?


 操玉コックピットは止めどなく太陽光ひかりに満ちていた。

 青い空と煌めく海、白い雲 ゆったりと曲線を描く水平線。

 空を飛び、ゆっくりと南下するアンバーニオンを操る宇留は、それらの光景を一人占めにしている。

 その宇留の胸元のペンダント。ロルトノクの琥珀アンバー内部のヒメナは、何処かから聴こえてくるような気がする歌を心で感じながら、深いまどろみの中にあった。

 宝甲こはく越しに操玉コックピットへ差し込む強い日差しはヒメナのエネルギーに変わり彼女を癒していた。その夏の光は決して宇留達に灼熱を届ける事は無く、操玉コックピットは常に適温に保たれている。だが、その室温でも解消出来ない底冷えのような【これから】への不安は、少しずつだが確実に宇留の情熱を奪っていた。
 

 操玉コックピット内に浮かぶレーダーのような青い立体映像は、中央の自機マークの遠く後方に緑色の光点で味方機を示している。
 アンバーニオンは予定通り、自機の移送を兼ね、林間学校帰りの衣懐学園二年生達を乗せた旅客機を警護して飛んでいた。

 些細な切なさを忘れたくて、宇留は一瞬気を抜く。
 ネガティブ思考を噛み殺し、そして目視による警戒を再開する。
 視界カメラ認識レーダー感覚センサーに異常は無い。だがほんの少しの違和感。
 空気の匂いが変わった?アンバーニオンは少しだけ左側を見る。



「!」
 何かが居た。
 アンバーニオンの琥珀柱の根元。
 左肩アーマーの縁にまるで腰掛けるように座っていたのは、エビの頭だけのようなやや丸い生物。

「ウリュ!」「!」
 ヒメナが即座に目を覚まし警告する。
「あと一体か二体、周囲まわりを飛んでる」
「···!」
 二人が話している間、肩アーマーに座る生物は何もしなかった。ヒメナの言う通り、視界の端に時折何かの影がちらつく。
 アンバーニオンの全ての警戒を掻い潜り、発見されても尚余裕の振る舞い。
 少なくとも、ゴライゴの傘下グループに属する怪獣達とは休戦中であり、無所属群フリーの怪獣であればゴライゴ曰く、無闇矢鱈に人間に関わる事はしない。
 ではこの生物が怪獣であるなら、残された選択肢は相当な実力者の怪獣か、もしくはアルオスゴロノ帝国専属の怪獣、ベデヘムタイプ系という事になる。だがこの比較的小さな怪獣は、宇留の知るベデヘム達とはどうも毛色が異なっていた。
 
「やぁ、アンバーニオン」

「!?」
 その声に宇留は、アンバーニオンを空中で急停止させた。
 エビ頭はそれを見越していたのか、急停止の慣性力を利用して前方へとつんのめる。そしてクルリと体の向きを変えてアンバーニオンと向き合うと、残りの二体がエビ頭の左右に飛来して、エビ頭が三体並んだ。
 中央のエビ頭の黒い両目部分が跳ね上がるように動く。だがその両目部分では無くその根元、殻の隙間がパカリと開き、恐らく本当の眼がアンバーニオンを見据える。
「ふむ、こいつらの名前は、コレからショト」

 右「ショツ」

 左「ショツォ」

「?」
 三体のエビ頭達はそれぞれ自己紹介したように思えた。先程と同じく、マスコット的な外観には似つかわしくない成人男性の流暢な日本語。
 しかし妙なのは、三体とも同じ声、喋り方のトーンも同じ、個性が無いと言えばそれまでだが、まるで同一人物が続けて喋っているイメージの自己紹介を、それぞれのエビ頭が述べた。という印象。

〔えーと?ショツット?ショツショ?え?ショつる?え?えと?〕

 敵の名前を復唱しようにも舌が回らない宇留。
 だがその隙を狙い、三体のエビ頭は超高速でアンバーニオンに突撃して来る。その咄嗟の動きには、何か苛立ちのような気配が混ざっていた。
「うおおいっ!危な!」
「く!本人達も、発音に難儀してる名前みたいね?」
 宇留とヒメナは軽口を叩きながら、アンバーニオンに全ての突撃を余裕で回避させていく。
 しかしそのショト達も、いつまでも当たらない攻撃を仕掛けているばかりではない。彼らは互いの体をぶつけ合い始めた。その度に発生する閃光と轟音。飛行スピードはシンプルに増速の一途を辿り、衝突する座標も手数を追うごとに、アンバーニオンのすぐ側まで至っていく。



「···救道の護スクァドゥ オン イロマムッ!!パートツー!」


 ショツが右側から。
 ショツォが左側から。
 アンバーニオンの頭部を挟み撃ちにしようと迫ったその時、アンバーニオンの両肩の琥珀柱は溶け落ちて滴り、両腕をコーティングして迅速に再凝固した。
「!」「!?」
 アンバーニオンは両腕に形成した琥珀の増加装甲を纏った腕で、両側から迫り来るショツとショツォに前腕部を当て弾き飛ばす。
「!」
 そして直上から急降下して来たショトを見上げ、それを一睨ひとにらみだけでビタリと急停止させた。
 だがそれも束の間、片側から再び並んで飛んで来たショツとショツォに押し出されるようにして、三体は再び宇留達の視界から消える。
 気配を辿った先はアンバーニオンの後方、クラスメート達が乗る旅客機が飛んでいる方向だった。

〔はっ!!、バインダーウィングッ!〕

 踵を返したアンバーニオンの背部に、一瞬にして生える琥珀の翼。
 だが宇留の不安とは逆に、三匹のエビ頭達はアンバーニオンと再び擦れ違い、向きを変えて飛んで行く。
「な!?」
 ショツ、ショツォ、そしてショトがアンバーニオンの横を通り過ぎる。
 その時ショトだけが、あの本当の眼でニヤニヤと嫌な笑みを宇留達に向けていた。
「!······」
 エビ頭達は編隊を組んでそのまま海上まで降下すると、まるで水切り石のように海面を跳ねて逃げて行く。

「な、何なんだ?あいつら一体?」

 宇留達が呆気に取られていると、操玉コックピット内に通信こえが響く。

〔なんともないか?アンバーニオン!〕

「!、え、エシュタガ?、ガルンシュタエン?!」

 アンバーニオンより数キロ後方、ガルンシュタエン ティアザが飛んでいた。

〔なんともないなら、そのまま我々で三角形トライアングルのフォーメーションを保って、···ゲフン···キミのトモダチが乗ってる飛行機を守って飛ぶぞ?アンバーニオン!〕

「あっ!ゼレクトロンッ!」

 ガルンシュタエン ティアザの反対側には琥珀の闘神、ゼレクトロンが飛んでいる。

〔あの、ゼレクトロンが···イッタイ、イッタイダレガノッテルンダ?〕

「フ···帰るまでが遠足なのだよ?須舞 宇留くん?」

「オ!俺ノナマエヲ!?」

「フフ···」「ッ!」「ぅふふ···」ニヤ···

 宇留のわざとらしいスットボケに、エシュタガ、ヒメナ、琥珀の中の椎山、ゼレクトロンヴァエトが口角を緩める。

 なけなしのイケボで謎のゼレクトロンパイロットを演じるのは、ただ一人宇留に正体がバレていないと思い込んでいる青年、藍罠 ヨキトその人だった。
 












 
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