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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!
誇り張る
しおりを挟む護ノ森リゾート、古代の森の入口前を走る県道。
その道を車で内陸部側に少し走ると、軸泉市で一番大きなダムが山合に見えてくる。
このダムは日本全国の中でも数える程しか無い、海が見えるダムである。
ダム堤体上の通路である天端付近は、大勢の人でごった返していた。
ダムの管理棟のスタッフや、今日見学に訪れていた人々、そして怪獣襲来対応の為あえてダムまで避難して来た市民達。
勿論、軸泉湾が望めるそのダムからでも、港湾までやって来たゴライゴの巨大な姿がやや霞んで見える。
そのギャラリーの中に紛れている旅姿の少年、倉岸 騰ことエブブゲガは、姿を隠す事無く島のような大きさのゴライゴを遠くに見つめていた。
(発掘?アンバーニオンの力で?)
宇留が想文をゴライゴに飛ばすと、ほぼ直接会話するタイミングで返想が戻ってくる。
この想文のやり取りはロルトノクの琥珀を以前よりは介していない。不本意ながら、宇留にはそれが直感的に理解出来た。
(そうじゃ!場所詳細は再度通達する、頼まれてくれんか?)
(そんな!他ならぬゴライゴの頼みだもん!ぜひぃ!)
(ぐぉお!そうか!恩に着る!···琥珀の姫、そして宇留よぉ!本当にすまんな?本来であればワシらやゲルナイドだけでと思っとったのじゃが、···ど~うしても琥珀の巨神の力が要るようなのでな?まぁ、上手くゆけば面白いモンが見れるぞい?)
「(へぇ~!)」
アンバーニオンの操玉の外に立つ宇留は、発声と想文を同時にゴライゴに返した。
「···という訳じゃアキサ殿!すまんがこう見えてワシャ忙しくてな?直ぐ次の予定があるんじゃ?いつかまた話し合いの時間が取れる日を待っとるぞ?あと丁重にお預かりしとるあの潜水艦、“オニイソメ„じゃが、ウチの技師の手で【しっかりチューンアップ】して【土産も付けて】お返しするつもりじゃ!ぜひ!クルミの艦長に宜しくお伝え下され!」
「···ゴライゴ殿、ありがとうございます!本日はお忙しい中、誠にありがとうございました!」
「···ぅむ!」
頭を深々と下げ、暫く腰を折り続ける晶叉を優しく見下ろしたゴライゴは、その場で恐ろしくスローに身を翻し始める。その時ゴライゴは一瞬ダムの方へ目配せした。
「!」
倉岸は遠くからでもその眼差しに気付いた。
確実に自分を認識している、隙の無いゴライゴの視線。
「ふっ···ゴライゴ翁、俺みたいなのがここに居るのを分かっていやがる···」
そんな倉岸の独り言は、ゴライゴが軸泉市に背を向けて沖合いに戻って行く光景を目の当たりにした市民の騒動によって、いとも簡単に掻き消された。
(さて!我々も帰ろうか?須舞くん!!)
(え!えええ!?か、環巣さん??!)
宇留は、唐突に着想した晶叉からの想文に驚いた。
(レク帰りなんだってね?お疲れ様、疲れたでしょう?いやぁ、この間はありがとう。じつはダレカサンが多目に琥珀宝甲?を仕込んでくれたようでね?なるほど!こうやるのか?生体メール通信!)
(やー!驚いたなぁ?けどなんで···?)
(最終局面省の共上さんに会ったよ。須舞くんによろしくだってさ!)
(は、ははぁ···成る程···)
宇留はコティアーシュと共上が、晶叉に何かしたな?と勘繰りながら苦笑いを浮かべた。
するとアンバーニオンの足下近くに駐機していた輸送ヘリのローターブレードが回転を始めると同時に、晶叉が輸送ヘリに向かって歩き出した。
離陸の邪魔になりそうと、宇留は気を使いアンバーニオンを少し後退りさせた。どうやら多少動かす程度なら、絶対に操玉内部に居る必要は無さそうだ。
それにしてもアンバーニオンの足首は、相変わらず子気味良い音を立てて歩行の衝撃を吸収する。
さて話し合い?は終わった。さすがに操玉へと戻ろうとした宇留は、頼一郎の居る方を見た。
アンバーニオンに向かって、頼一郎は大きく手を振っていた。
宇留の正体バレ防止の都合上、琥珀のヘルメットを外せないのが癪だったが、宇留も負けじと大きく手を振り返す。
また来るからね?じいちゃん。
宇留はその思いが伝わっている事を信じながら、アンバーニオンの操玉にヌルリと飲み込まれていった。
「さて、これからどうしよう?ヒメナ?」
宇留はT都への帰路に関して、あえてヒメナと意見の擦り合わせをしようとした。宇留は先程からのヒメナの無口ぶりが気になっていたからである。
「···旅客機の出発にアワセ、鍋子の泉付近までイドウ、来たトキ同様、アンバーニオンを帰還させツツ、密かに代理人と入れ替わル。それはワタシと同じ意見のハズ、···うる···?」
「!!!」
恐ろしい程の違和感。
ヒメナの言葉の節々に垣間見える、無機的な感触。宇留は思わず、言葉に力を入れてヒメナを呼んでしまう。
「ヒメナ!?」
「え!どうしたの!ウリュ?!」
今度はいつものヒメナの口調だった。
先程の反応、本人には自覚が無かったのだろうか?それとも宇留本人が思ったより疲れていてそう聞こえのか、はたまた、偶然そんな言い回しになってしまっただけなのか?
宇留の脳裏には、まるで忘れるなと言わんばかりにヒメナの残り時間問題が表面化した。
全てはヒメナに動揺させない為、宇留は現実逃避をするかのように冷静を装う。
「···いや、ごめん、なんか俺達疲れてるのかな?···それでさ?、太陽光浴びながらゆっくり帰る?それとも早く帰って高い所で日向ぼっこしながらみんなの事待ってる?ヒメナはどっちがいいかなぁ?と思って」
「?ーん、ぬみゅー?」
宇留の心配を他所に、ヒメナは顎に指先を添え、深々と悩み出した。
アンバーニオンの目の前には輸送ヘリが浮かび上がり、窓越しのその内部では、晶叉が笑顔で敬礼をこちらに向けている。
「おし!ゆっくり、かなぁ?」
「お!、おっけー」
顔のパーツがじんわり中央に寄る程悩んだヒメナだったが、結論は早くも出た。
アンバーニオンは斥力的な波動を地面に乗せ、機体を浮かび上がらせる。
護ノ森諸店の人々や頼一郎、市民やギャラリー達が手を振って見送る中、アンバーニオンは、手を翳すようでも敬礼でもない曖昧なジェスチャーでそれらに答えながら、軸泉湾から離れて行くゴライゴの背をしばらく視界に捉えつつ、南方向へと飛び去って行った。
「···」「···」
護森と頼一郎がしみじみとアンバーニオンを見送っていると、いきなり大きな手がそれぞれの肩にボン!と乗った。
二人の背後に突然現れた巨大な老紳士。
身長は二メートル以上、短髪に整えられた頭髪と多目の髭はややグレーめのシルバー。服装はメタリックホワイトのジャケットに白いワイシャツ、明るい金色のネクタイでビシッと決めている。
「んじゃ、まず!洞窟の壁画とやらを見せて貰いに行こうかの?」
頼一郎がその威容に驚いているのが可笑しかったのか、巨大老紳士はギヒヒと白い歯を見せて笑う。
「ふぅ、やれやれ、去り際に挨拶してくれないと思ったらそういう事ですか?」
「え!!じゃ、まさか!」
護森が半ば呆れたように巨大老紳士を見上げる。そして頼一郎はその正体を察し、巨大老紳士と軸泉を去って行くゴライゴの背を代わる代わる見比べた。
「はぁ~!!あんたゴラさんかぁ~!すごいねぇ!人間にも化けれるたぁ!恐れいった!恐れいった!」
頼一郎はゴライゴ人型中枢活動体の背中をポンポンと叩く。
それを合図に、三人は護ノ森諸店の移動車両に向かって歩き出す。
「本当は宇留達やアキサ殿も一緒にと思ったが、ああも忙しいのではな?頼一郎!この出会いを祝して壁画を見たアトァ、ワシの奢りで一席設けようぞ!何せワシらもこんなに多忙なんじゃからな!ワッハッハ!!」
「本当はそっちの方がメインのクセに!」
「フハハ!夏雪!昼から営業してる店はどこか有るか?!」
「この間皇帝のアバターが呑んでた回転寿司···とか?」
「···マヂで?」
「あぁ!今夜は緒向ちゃんも来るってよ!お説教あるって!」
「ひぇ!マヂ?!···マヂでぇ···?トホホぉじゃ···」
“協定„に保護されたゴライゴ怪獣体が沖合いの海霧の中に導かれ霞んで消える頃。
街へと戻り始めた軸泉市民に紛れた三匹の老紳士達は、まだ若い琥珀の戦士達を支える決意も新たに、やがて来るであろう大いなる争乱に向けて気合いを入れ直していた。
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