140 / 201
発(掘)進(行)!超琥珀神艦!
フラット
しおりを挟む地球のどこか。
現在、軸泉市に赴いているゴライゴの主導の下、巨大な怪獣達が総力を挙げて何かを掘り進めている広大な地下空洞。
その作業エリアの一部。
皺だらけの白い半透明チューブが、飴色の“壁„に開いた孔に向かって伸びていた。
チューブ内部の直径は約三メートル程。
作業エリア全体において作業の中心となっているのは怪獣達だったが、ここを含め人間サイズ用の仮設通路も幾つか周辺には見受けられる。
そのチューブが延々と引き込まれた孔の中を遥か奥まで進むと、ようやく一定の広さを持った部屋に辿り着く。その部屋の壁の表面は、全てチューブと同素材と思われる白い養生シートで覆われていた。
更に透明な蛇腹状のカーテンや、大きな巻貝の貝殻を外装に使用したようなエアカーテン装置などもあり、その部屋はさながら防疫ルーム的な役割があるようだ。
そして“壁„の内部は、総じて明るい琥珀色の輝きで満ちている。
その防疫ルームの片隅、古代の古文書のような書類が幾つも張られたパーティションの前には武装した人間の女性が二名、近衛兵のように警護に当たっていた。
【武装した人間の女性】というのはその外見だけである。
両者とも小粒の琥珀ペンダントを首から下げ、頭部以外は有機的で外骨格風の厳めしいバトルスーツを纏い、携行している銃も甲殻類の殻で覆われた奇妙な外装が施されていた。
容貌は外国人モデルのように美しいが、一方の瞳孔は有蹄類の特徴がある横長の瞳で、もう一方に至っては眼球全てがラメ入りの金色。両者とも明らかに本物の人間ではなかった。
「失礼しまーす···」
更にパーティションを躱し、別の女性二人がその警備区画の中から退出して来た。この女性達も近衛兵達と同じく、小粒の琥珀ペンダントを身に付けている。
二人共に黒いノースリーブシャツに作業ズボン、そして片腕にカットガーゼを指で押し当てていた。どうも注射的な処置を受けたばかりのようだ。
「ありがとう···」
近衛兵の優しげな礼を背中で聞き、去って行く女性達。二人は並んで歩きながら、ヒュルヒュルヒュル!と倍速再生のような声でまじめそうな雰囲気の雑談を始めた。この二人もまた、普通の人間では無い様子だった。
パーティションの奥には様々な機器と共に、巨大な密閉水槽が鎮座してあった。水槽からあちこちに延びる多数のパイプは濁った琥珀のような質感であり、水槽共々元からこの“部屋„の設備であったようだ。その内部は激しく流動する濃厚な水蒸気で満たされ、中は見えない。
水槽の前には白衣の女性が二人。
ワインレッド色の髪の女性はパイプ椅子に逆座りでモニターに釘付けになっていて、ボーイッシュなヘアスタイルの女性は作業台の側で医療器機や輸血キットの準備をしていた。
バン!
「!」
水槽の内側から、いきなり何者かがグラス面を一瞬叩いた。その水掻きのある片手は再び水蒸気の奔流に飲まれて見えなくなる。その動きは暴力というよりも何かから逃れるような、やむを得ず手を突くかのような動きであった。
「···やっぱり、遺骸由来の自分の痕跡と私達のカンパだけじゃ···巨獣体の専用変性組織プラントが無いと、かなりしんどいのかも···いくら高性能でも、旧式だし···」
ボーイッシュなヘアスタイルの女性、バコナ·ティフォン中枢活動体が今の衝撃で水槽から剥がれ落ちた書類を一枚拾う。この書類もまた未知の言語で書かれていたが、唯一英語でBCTと読み取れる赤いスタンプが押印されていた。
「水槽のマイクをオンにしてたら、きっと私達の方が先に参るわね?まぁ、悲鳴を聴く趣味なんて無いし、聴くまでも無くこの目に見える数値からも声が聴こえる気がするけど?···自分でアポトーシスコントロールをしながらスピリッツアップロードと同時に神経ゲージリメイク中に兼々イチからデザイナップなんて、まるでこれを使ってたムカシのヒトと同じで何とかの沙汰だわ?さしずめ自分で自分を産むって言ってるあのコの言い分も、言い得て妙って所ね?」
「レミレタ···」
モニターを苦々しく睨み、水槽の内部に居る“友人„に思いを馳せるワインレッド色の髪の女性、レミレタ·ガーファル中枢活動体はグッと拳を握った。
「で?その愛の力ってのは報告書に上げるの」
バコナは手に持った書類をレミレタに手渡しながら訊ねた。
「?、あの人間のセンセーに?って事?」
「彼女のあの船体を造ったそうじゃない?勝手に?興味あるんじゃない?」
「···良くも悪くも情熱は専用ネジ一本からでも感じたけどねぇ?優しい弟くんと違って、あのテのヤツにそれが伝わるかどうか?」
「そんなセンセーの弟くんに早くリアルで会いたくてこんなに頑張ってるんでしょ?彼女?やっぱり愛の力じゃない?···あ!」
いつの間にか、水槽の内側から影のような両手がグラス面にピトリと張り付いていた。
「あぁ!噂をすればナントヤラ?」
良く見ると、指と指の間の水掻きの縁が金色に輝き、水掻きはその光に溶かされているように見える。
「ん?なにこれ?経過観察してって事?」
「早い···!この光、これが宝甲の力!?」
レミレタは立ち上がり、水槽に近付く。レミレタがグラス越しに一度手に触れると、手はまるで恥ずかしがるように水蒸気の中に泳ぎ去り、やがて水槽からは、再び苦悶の気配が漏れ出し始めた。
「···もうすぐだよ、頑張って、頑張ってコティアーシュ···」
その時、キシキシと音を立て、設備が揺れ始める。
その日、人類が宮殿跡と呼び、怪獣達は墓所と呼ぶその採掘現場では、【予備起動】以来数回目となる強力なが脈動が観測された。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~
阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
神樹のアンバーニオン
芋多可 石行
SF
不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。
彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···
今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
『星屑の狭間で』(対話・交流・対戦編)
トーマス・ライカー
SF
国際総合商社サラリーマンのアドル・エルクは、ゲーム大会『サバイバル・スペースバトルシップ』の一部として、ネット配信メディア・カンパニー『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』に於ける、軽巡宙艦艦長役としての出演者募集に応募して、凄まじい倍率を突破して当選した。
艦長役としての出演者男女20名のひとりとして選ばれた彼はそれ以降、様々な艦長と出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦う事にもなっていく。
本作では、アドル・エルク氏を含む様々な艦長がどのように出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦い合いもしながら、その関係と関係性がどのように変遷していくのかを追って描く、スピンオフ・オムニバス・シリーズです。
『特別解説…1…』
この物語は三人称一元視点で綴られます。一元視点は主人公アドル・エルクのものであるが、主人公のいない場面に於いては、それぞれの場面に登場する人物の視点に遷移します。
まず主人公アドル・エルクは一般人のサラリーマンであるが、本人も自覚しない優れた先見性・強い洞察力・強い先読みの力・素晴らしい集中力・暖かい包容力を持ち、それによって確信した事案に於ける行動は早く・速く、的確で適切です。本人にも聴こえているあだ名は『先読みのアドル・エルク』
追記
以下に列挙しますものらの基本原則動作原理に付きましては『ゲーム内一般技術基本原則動作原理設定』と言う事で、ブラックボックスとさせて頂きます。
ご了承下さい。
インパルス・パワードライブ
パッシブセンサー
アクティブセンサー
光学迷彩
アンチ・センサージェル
ミラージュ・コロイド
ディフレクター・シールド
フォース・フィールド
では、これより物語が始まります。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる