138 / 202
発(掘)進(行)!超琥珀神艦!
対 談
しおりを挟むその映像は各国の中枢に直接送られたものでも、誰でも直ぐに理解出来る情報を伴ったものでもなかった。
暗闇に整列し、天井からの僅かな灯りに頭頂部を照らされる同一種の怪獣の大群。そして、うつむき立ち尽くすその彼らの背後で前衛的なダンスを披露するザリガニのような華奢な怪獣。途中から挿入された野太い声のナレーションは、現代の人類には未知の言語で決意的な何事かを語り、ほぼ効果音のようだったEDMがようやくリズムらしさを刻み始めると、明らかに現代のセンスには当てはまらない見知らぬ街の画像がスライドショーで始まった。
スライドショーがナレーションと共に終わる頃、舞っていた怪獣のダンスも最高潮に達し、ザリガニのような怪獣が目に見えて自己陶酔に陥っているかのように天を仰ぐと、それまで黙っていた怪獣の群れは一斉に上を向く。
怪獣、一部でベデヘムと呼ばれている怪獣達の顔面には機械の顔が埋め込まれていた。
その後、映像には大々的にアルオスゴロノ帝国のロゴマークが一瞬だけ写し出され、三分以上の暗転を経て、謎の意味不明な動画は終了した。
軸泉港。
晶叉が海上のゴライゴに向かって岸壁に歩み寄っていると、やや強い波が一度だけ、ダパン!と打ち寄せ船着き場を叩く。
それはゴライゴが、既に海上で動きを止めていた合図だった。
「どれ、この辺にしとこうかの?」
「お見事!」
その波頭をさらった海風の飛沫に太陽光が差し込み、ゴライゴの妙技を絶賛した晶叉の頬を虹色のミストが撫でる。
政府や国防隊の各所では、晶叉のモニター越しにエリート達がこの会談に聞き入り、ある者は直接軸泉市内で、ある者はマスメディアを通し注目した。
ゴライゴに親しみを覚えた少数の市民は避難を取り止め、彼が良く見える場所まで戻り、地元のマスコミはプロアマ問わず安全距離での取材を開始し始める。港周辺の市内では要人を狙ったと思われる二名程の不審人物が警備中の警察によって拘束され、その側を護ノ森諸店の車列が通り抜けて行く。その車内には護森だけではなく、宇留の祖父である須舞 頼一郎の姿もあった。
「やれやれ、厄介ですねぇ?」
護森は暴れる不審人物と警察の取っ組み合いを車内から流し見しながら呟いた。その様子を見ていた隣に据わる頼一郎が不安げに訊ねる。
「···あの、護森さん?こんな時に紹介したいお友達って、どういう方なんですか?」
「ダイジョブです。須舞さんもきっと気に入りますよ?」
その時パッと建物が車窓から消え、車内からもゴライゴの顔が遠くに見える。
そして丁度その頃、軸泉のアンバーニオンの基地である【泉】から、その主も出撃していた。
「改めましてゴライゴ殿!環巣 晶叉!副長···官?、代理のぉ、臨時特の務のぉ、代行の···?えっと?」
「ほぉ···ふむ···ほむ···うむ···」
凛々しい喋り出しから一転、自身のややこしい肩書きを把握しきれていなかった晶叉は指を折りながら言い淀む。ゴライゴはそれに応え、僅かな頷きをコクンコクンと繰り返した。
「んにゃ!まぁまぁ!なんでもいいわいいいわい!アキサ殿はアキサ殿じゃ!たまには向こうで見とるお偉いさんの会議室も笑わせといて、肩の力抜かんとの?···ふむ、所で晶叉殿も皆も、例の映像を見たか?」
晶叉は困った顔を再び強張らせ、ゴライゴに向き直る。
「昨日いきなり公開されたアルオスゴロノ帝国由来と思われる映像の事ですね?」
「どう思う?」
「···宣戦布告、ですか?」
「ふむ、やはり分かる者にはバレバレじゃな?」
晶叉には予感があった。
今自分をモニターしている人達は、一部を除きドヨめいているだろうという予感。あちらの音声は拾えないが、身に付けた機械がワシャワシャする。そんな感覚。
「有識者···アノ帝国の記憶を持つ異記憶症者でありながら、アノ帝国への帰参を良しとせず、我々に御協力頂いている皆様の意見も参考にしています。しかし我が首脳部はこれまで同様、先攻防衛のスタンスを崩さず、特にコレといった反応を返す予定は今の所ありません」
「ホォ、奴らは何気に古臭い所があるでな?逆に挑発とも取られんリスクを掴むとてか?」
晶叉は集音マイクの先端をわざとガサガサ撫でながら応える。
「まぁなにぶん、昨今のビックリ兵器群を軽々と認可されるような方々ですので?」
「ふはは!成る程!かくもありなんという訳じゃな?···お?来たか?」
「?」
晶叉が振り返ると、港湾道路から逸れた数台の四駆車が岸壁の作業エリアに侵入して来て停車した。そして先に降車したスタッフ達に囲まれるように、護森とパニぃ、頼一部が車から降り立った。
「護森社長、?、あの方は?」
初対面の頼一部を気に掛ける晶叉の足下に、一瞬だけ影が落ちた。ゴライゴを始め、その場の全員と市民達も空を見上げる。柔らかい重低音で港の空気を練り上げながら空から降りて来たのは、琥珀の巨神、アンバーニオンだった。
「アンバーニオン!」
アンバーニオンは晶叉が乗って来たヘリの向こうの広場を選び、砂利や土煙をほぼ巻き上げる事も無く着地した。
!···キョイィィイン!
着地の際に周囲に響いた宝甲製のショックアブソーバーの音は、その場に居た者の粋に良い意味で響いた。
機体に掛かる全ての衝撃を逃がしたアンバーニオンは胸を張って姿勢を正し、ゴライゴを見据える。
「いらっしゃい!おっちゃん!」
そして胸元にある琥珀の操玉から当然のように抜け出て機体外に現れたのは、琥珀のヘルメットを被ったアンバーニオンの操珀、須舞 宇留。
その登場を双眼鏡や望遠レンズで見ていた市民達はドッと色めき立つ。
「ほぉ!良い音じゃ!アンバーニオンよ!。全く、会ぅ度に新品感が増すのぉ?···どれ!では粗方メンバーが揃った所で、手短だが始めようか?ナツ!」
ゴライゴのその言葉にニコニコと微笑みながら晶叉の元へ歩み寄る護森と、恐る恐る付き従う頼一部。簡単に晶叉と挨拶も交わした護森はアンバーニオンと宇留にも視線を泳がせ、世間話は始まった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神樹のアンバーニオン
芋多可 石行
SF
不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。
彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···
今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。
神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!
芋多可 石行
SF
琥珀の巨神、アンバーニオンと琥珀の小人、ヒメナと出会った主人公、須舞 宇留は、北東北での戦いを経て故郷の母校へと堂々復帰した。しかしそこで待っていたのは謎の転校生、月井度 現、そして現れる偽りの琥珀の魔神にして最凶の敵、ガルンシュタエンだった。
一方、重深隊の特殊潜水艦、鬼磯目の秘密に人々の心が揺れる中、迫り来る皇帝復活の時。そんな中、アンバーニオンに再び新たな力が宿る······
神樹のアンバーニオン 2
逆襲!神霧のガルンシュタエン
今、少年の非日常が琥珀色に輝き始める······
琥珀と二人の怪獣王 二大怪獣北海道の激闘
なべのすけ
SF
海底の奥深くに眠っている、巨大怪獣が目覚め、中国海軍の原子力潜水艦を襲撃する大事件が勃発する!
自衛隊が潜水艦を捜索に行くと、巨大怪獣が現れ攻撃を受けて全滅する大事件が起こった!そんな最中に、好みも性格も全く対照的な幼馴染、宝田秀人と五島蘭の二人は学校にあった琥珀を調べていると、光出し、琥珀の中に封印されていた、もう一体の巨大怪獣に変身してしまう。自分達が人間であることを、理解してもらおうとするが、自衛隊から攻撃を受け、更に他の怪獣からも攻撃を受けてしまい、なし崩し的に戦う事になってしまう!
襲い掛かる怪獣の魔の手に、祖国を守ろうとする自衛隊の戦力、三つ巴の戦いが起こる中、蘭と秀人の二人は平和な生活を取り戻し、人間の姿に戻る事が出来るのか?
(注意)
この作品は2021年2月から同年3月31日まで連載した、「琥珀色の怪獣王」のリブートとなっております。
「琥珀色の怪獣王」はリブート版公開に伴い公開を停止しております。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜
紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。
第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる