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INTER MISSION
番外編 軸泉のヒゲキ
しおりを挟む話は宇留達が帰路につく前に遡る。
林間学校を終え、空港行きのバスに続々と乗り込む衣懐学園二年生の生徒達。
その合間を縫い、見送りに出ている護ノ森リゾート社長、護森 夏雪の元に、須舞 宇留は駆け寄って声を掛けていた。
「護森さん!本当にありがとうございました。楽しかったし凄かったし、色々あったけど来てよかったです!」
「なんのなんの!お役に立ててよかった!気を付けてお帰りなさい···と、言いたい所なんだがねぇ?」
「?」
護森は少し擦れ違うように宇留の右側に寄る。宇留もコソコソ話だという事を察して右の聞き耳を立てた。
「···君達のバス、途中でサービスエリアに停まるから、すまないけど、そこでアンバーニオンを喚んで一度軸泉に戻って来て欲しいんだ···関係各方面に話はついてるから···」
「?···は、はい···」
宇留は平静を装い、キョトンとした表情で返事を返す。そして今度は護森の隣に立つパニぃに顔を向ける。
「パニぃさん、わんちィさんは···?」
「あ~、疲れて果てて寝てるよ?今回は中々ハードだったからねぃ、ところで···」
パニぃは少し擦れ違うように宇留の右側に寄る。宇留もコソコソ話だという事を察して右の聞き耳を立てた。そんな二人に護森はニコニコ笑顔を向けたままだ。
「···壊れた琥珀号の修理費、お給料から引いとくから···」
「う!うぇぇ!、い、いひ~~~ん!」
そんなウソ泣きする宇留の横を、「お!感動のお別れ!」とクラスメート達が茶化しながら擦れ違って行った。
それは、いざ宇留がバスに乗り込もうと、乗降口のステップに足を掛けた時だった。
「あ、あのぅ、ちょっといいですか?」
「?」
酒焼けした声で運転席から宇留に声を掛けたのは、本日二年B組号を担当するバスの運転手だった。
若干厳つい印象が僅かな若さを引き留めているような、所謂イケオジと呼ばれる部類の中年男性。彼は宇留の顔立ちを沿うように眺めながら、質問を投げ掛ける。
「えっと、ひょっとして、お父さんって須舞 春名さん?」
「そ、そうです···けど?」
宇留は運転手のネームプレートを見た。そこには 義 亜 と書かれている。
「あ!もしかして、ふ、風喜さんの?!」
「あ!はい、風喜の父です。ゆくちゃんが···お姉さんにはいつも息子がお世話になってオリマスぅ···」
ここで聞き耳を立てていた五雄の表情がサーッと青ざめ、顔のパーツが某フリーイラストのように簡略化された。それを見た夢令は「ヒィ!」と驚いて固まる。
「あ!すいません、皆さんの前でこんな話を、個人情報とかいけないですもんね?」
「いえ!僕の方は全然!こちらこそ姉がお世話になってます!」
宇留は恐縮しながら未来の親戚に頭を下げる。
ここ軸泉は父、春名の地元である。宇留は世の中の狭さを痛感しながら、意外な出会いに心踊らせた。
だがその一方、五雄の顔は段々と白くなっていく。
「はは···お父さんとは昔からのトモダ···」
「?」
義亜運転手は宇留の父、春名を友達と言おうとしてそれを躊躇う。宇留は少し心当たりに思いを巡らせ、逆に義亜運転手に質問してみた。
「あのぅ?最大最強のライバルが軸泉に居るって父さんが言ってたんですけど、ひょっとして···?」
「え!さ!最大!最強?、ぁーいやぁ、た、多分、それ自分の事かなぁ?まぁ、お子さんにこんな事言うのはなんだけどですけど、もー若い頃はアイツたぁ顔を合わせればケンカばっかりでね?いっつも勝負がつかなくてもーなんとも···でも、ゆくちゃんはスゴくいいコでぇ!もう息子のヨメさんになってもらうにはもったいない位デキたコでもう!、君もなんか、奥さんに顔が似てくれて良かった良かった!うん!はははははは!」
「あー···ははは···」
宇留は適当に相槌を打ちながら、ケンカばかりだった割にはヤケに嬉しそうに思い出を語る父のライバルを知って察した。柚雲と風喜の交際を知った春名の狼狽ぶりの原因はコレだったのだ。そしてそこで、聞き耳を立てていたマユミコ委員長がポンと手を叩き、合点を表明する。
「な!なるほど!つまり須舞ファミリーのお父さんとそのライバルだった運転手さんの息子さん、ライバル同士の息子と娘が結婚するって訳ね!?」
次の瞬間、女子からは歓声、男子からは悲鳴が響いた。
「ひゃあ!萌え───────!」
「うゲェ─────────!」
「づ─────────ン!」
ズヒュゥゥゥゥ···ウム!
だが五雄だけは胸を鷲掴み、苦悶の声を上げて仰け反り、服ごとパキペキと石化し、電源は落ち、そして沈黙した。
「ああっ!五雄ォ!委員長!なんて事を言うだァー!」
「「はっっっ!」」
五雄に同情し、涙を流す夢令。アンバーニオン軍女子は、揃って口に手を当てながら察した。
宇留の幼少からの親友である五雄は、勿論宇留の姉である柚雲とも知り合いだったのであろう。
そして五雄は柚雲に恋心を抱いていたにも関わらず、こんな形で彼女の結婚を知ってしまった。
五雄の青春の一ページ、特別林間学校は失恋のペンキに塗り潰されてしまったのだ。
「んなぁ二やってだの!早ぐ行グどぉ!!」
「あ!ごめんごめん!喋り過ぎだ!」
いつの間にか宇留の背後から運転手を睨んでいたベテランバスガイドさんが、謝る義亜運転手に出発を急かす。
少々出発が遅れたが、無事?衣懐学園御一行様は空港に向けて出発した。
手を振って見送るスタッフの影で端末を操作していたパニぃは、最後のバスを見送って静かになった駐車場で、護森に報告する。
「···社長、VIP来訪まで一時間、湾内対策配置完了、代々殿がヘリで出発、こちらに向かっています。七分前に局長と長官が合流、最中央指揮所で対談モニターの最終打ち合わせを開始しています。ついでにわんちィも出発しました!」
「ふぅ···間に合ったね?あとはアンバーニオンと···大丈夫かな?頼一郎もご指名って?」
護森は少し見上げる程高く昇った太陽を見つめた。
今朝の軸泉は海風が止んでいる。
今日は少しだけ暑く、忙しい日になりそうである。
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