神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

文字の大きさ
上 下
132 / 201
絢爛!思いの丈!

まどろみ、夏温み

しおりを挟む
「ふぁあ~」と可愛らしいあくびをするアイリスを見てヨハクは、もうそんな時間かとスマホを見ると時刻は21時を回っていた。寝るには少々早い気がするが、アイリスは目をしぱしぱさせている。

 こんな早い時間に眠くなるなんてアイリスの姿にあった年相応な感じにヨハクはなんだか、安心感を覚えた。

「ヨハク、そこに座りなさい」

 長いまつ毛が伏せられ、黄色の虹彩は半分以上隠れている。一見不機嫌そうにも思えるが、単に眠いのだろう。ヨハクは素直にアイリスに指示されたように座った。

 すると、

「えっ、ああアイリス?!」
「何よ、静かにしなさい」

 アイリスは、なんとヨハクの体をベット代わりに使う気のようだ。膝の上に座り、体を預けてきた。太ももにアイリスの冷たい体温と女の子特有の柔らかさにを感じ、眼下にはアイリスの鮮やかな藍紫色の長髪からメッシュのように入った金髪の前髪が映り、そこからふわりとシナモンを思わせるさわやかな甘い香りが立ち込めていた。

その柔らかそうな髪に顔を埋めて鼻腔から肺いっぱいににおいを嗅ぎたい衝動に駆られ、思わず顔を背けた。

 これは色々とまずいな、とヨハクが思ったとき、あの~という声にびくりと背を震わせ、振り返ると、
「ふぁっ?! あっ、すみません。驚かせてしまいましたか」
「いや、こちらこそ」

 目の前には小豆が立っていた。今は蛇を出していないようで普通の、いやかなり可愛い女子中学生のように思えた。

「アイリスちゃんはおねむですか?」
「うん、そうみたい」
「でしたら、私が使っていたステージのほうをよかったら、使ってください」
「ステージ?」

 小豆に指さされた方向に目を向けると半開きにカーテンが空いており、毛布などが置いてあるのが伺えた。
「ありがとう、でもそうすると小倉さんが」

「小豆、でいいですよ。ヨハク先輩」とパタパタと手を振りつつ、それにとつづけた。
「なにせ私の能力はアイリスちゃんの調子次第なところもありますから、しっかり休んでもらわないと」

 うーん、そうか。でも、後輩の女子中学生を雑魚寝させるのも、とヨハクがいつもの優柔不断さを発揮していると、アイリスが身じろぎし、半目を開けた。

「うるさい」と不機嫌そうに一言放った。

「ご、ごめんなさい。でもここよりあっちのほうがいいですよ。毛布もありますし」

 アイリスは指さされたほうを一瞥すると、別にここでいいわと言いまた目を閉じた。

「それとヨハク」
「何かな、アイリス」
「なんかお尻に硬いのが当たって痛いんだけど」とアイリスが何気なくつぶやいた。
 瞬間、世界が凍り付いたのをヨハクは感じた。
「えっと、」
「ヨハクせんぱぁい!」

 ヨハクの言葉を遮るように小豆が可愛らしく声をかけてきた。
 ヨハクが恐る恐るそちらを見ると、顔はにっこりと笑っているが、目は蛇の瞳孔のように見開かれ完全に笑っていない。

「アイリスちゃんとステージで寝ようと思います。いいですよね?」

 LEDの光にキラキラと光る銀髪の毛先が今にも黄金の蛇となってこちらに噛みついてきそうなオーラを漂わせ有無を言わせないオーラにヨハクが頷こうとしたとき、

「どうしたの?」
「あ、朝霞さん?!」
「何か揉めているみたいだけど、何かあったの?」

 そう心配そうに小首をかしげられ、ヨハクはなんてタイミングで朝霞さんが!と心臓が跳ね上がる。いつもならなんと可愛らしいのかと顔を赤めるところだが、、今は朝霞さんに誤解されないようにと精一杯だった。

「はい、今はヨハク先輩と」
「いや、別に! なんでも、ないよ?」

 ヨハクは小豆を遮るように声をあげた。
 それに小豆は見開かれた瞳孔のままに、訝しめに半目でこちらを見て、小百合はそう……と思案気に唇に手を当てた。

「何かあったら、言ってね。立花君、私は小豆ちゃんや立花君みたいに特別な力はないから、何も出来ないから」
「そんなことないよ」

 朝霞さんは、そこに居てくれるだけでいいから、と心の中でつづけた。

「本当にそうだよ。だから言ってね、私に出来ることだったらなんでもするから」

 そう小百合に微笑みかけられて、ヨハクの脳は完全に沸騰した。
 だめだ、だめだよ、朝霞さん。なんでもするなんて、ヨハクが池に餌を投げられた鯉のように口をパクパクとさせていると。

「何かトラブル?」


 笹が会話に入ってきた。

「いえ、そういうわけでは明日の作戦では役に立てないので何かできたらと思って」
「まぁそんな気にすることないよ。って僕が言うことじゃないか、ねぇ立花君」
「えっあ、はい」
「確かに比重や危険なことはあるよ。でもみんなそれぞれ役割があって協力していかないといけないんだ、自分が役に立ってないなんて思わなくていいよ。明日は僕も行くからね。朝霞さんたちのバックアップには期待しているよ」

 そう小百合に微笑みかける笹を見て、ヨハクは感心し、そして少し不快に思った。
 自分がしどろもどろもになっているところを流暢に場を進めていくのが単純にすごいと思い、せっかく朝霞さんと話せているのに会話を取られたみたいな不快感がない交ぜいになった。

「はぁい、笹先輩。バックアップゥ~は怜奈にお任せくださいね!」

いつの間にか笹の背中からひょっこり顔を出すように現れた怜奈が右手を額に当て敬礼している。

「はっはは、期待している灰原さんも」
「もぅ、怜奈でいいですよ。笹先輩」

 笹の腕を取り、ばっちりとウィンクをしている怜奈。

「明日の打ち合わせはこの辺で、ではアイリスちゃんを連れていきますね」

 怜奈と笹のやりとりに付き合う気はないのか小豆がそういってきた。いままでのやりとりで毒気が抜かれたのか開いた瞳孔は閉じているが、目は相変わらず笑っていない。

「連れていくって?」
「はい、アイリスちゃんにちゃんと休んでもらおうとステージで寝てもらおうと」
「それはいいかもね、小豆ちゃんには僕の毛布を渡すよ」
「じゃあ、先輩には、れ・い・な・の、渡すね」
「いや僕はなくてもいいよ。夏だし」
「えっー、お腹冷やしちゃいますよ!」
「そうですね、私は怜奈と一緒に寝ますので。怜奈のは笹さんが使ってください」
「うっ!、まぁそういうことで」
「うるさぁい!」

 アイリスの一喝で熱を帯びた空気が水をかけられたようにぴっしゃりと収まった。

「妖精たる私の眠りを妨げるなんていい度胸ね。美しいといっても所詮野花ね、私がキッチリと教育しないといけないようね!」

 アイリスは、お尻のあたり先ほど硬くて痛いと言っていた部分に手を突っ込むとヨハクがホルスターに入れていた357マグナムを引っ張り出そうとしていた。

 それを見て、小豆はじめ小百合たちは蜘蛛の子を散らすように去っていたのだった。

「ふんっ」と可愛らしくアイリスは鼻を鳴らして再び寝入ったのだった。

 それを見てヨハクも動く機を逃してしまい、仕方なく眠ることにしたのだが、目を閉じてみると神経が過敏になっているのか視線を感じた。

 目を開け、視線を感じたほうを見るとステージのカーテンが若干空いており、じっと見開かれた琥珀色の瞳と目があった。

 ちょっとしたホラーだ。ヨハクは薄気味悪い思いを感じながら、手を後ろに回して何もしないよとアピールしてから眠ったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

神樹のアンバーニオン

芋多可 石行
SF
 不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。  彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···  今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)

あおっち
SF
 港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。その第1次上陸先が苫小牧市だった。  これは、現実なのだ!  その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。  それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。  同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。  台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。  新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。  目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。  昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。  そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。  SF大河小説の前章譚、第4部作。  是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

処理中です...