神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

送る音、去る声、対する面

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 な!なんで磨瑠香の事をすっかり忘れてたんだろう!それに誰も!アンバーニオン軍の専用チャットルビホットラインを使おうとしなかったし!

 マユミコ委員長を始め、アンバーニオン軍の生徒達全員が、AIカーから笑顔で降りて来る磨瑠香達を見て唖然とし、似たような事を思った。

 お、俺が状況をスルー?···これが軸泉の土地神、バジークアライズのハック能力!名刺代わりと受け取っておこうか···!

 マユミコ委員長の服に取り付いている黒いクラゲ型ビット、ゲルナイドは、静かに戦慄と尊敬を折子バジークアライズに示した。

「ドコ行ってたんだよ?宇留!」
 マユミコ委員長達が磨瑠香の周りに集まる集うのと同じく、五雄を始めとした男子連中が宇留の元に殺到する。
 宇留が、しまった、何も言い訳を考えてなかった!という表情になったのを見逃さなかった照臣は、すかさず彼らの心配に横槍を入れた。
「ほ!ほら!変質者!大変質者退治だよ!ホラーゲームみたいな展開になっちゃったみたいでさ!俺が実家から帰る途中で通りすがらなかったら二人共どうなってたか!」
「ウソ!?マジで!?」
「それに!アンバーニオンの仲間のベテラン戦士!コハクガイが助けてくれたんだぜ!」
「コ!コハクガイ!?」
「そ、そう!あ、愛と正義の為に戦う琥珀ロボット軍団の長官みたいなヒトなんだ!そのヒトにかかれば大変質者なんてイチコロさァ!」
「ス!スゲー!コハクガイ!俺達としては、いつか一度お目にかからないとな!」
 興奮する夢令達の後ろで、バスガイドのアッカさんがクックと笑いを堪える。宇留はそこで初めて、アッカさんがここに居る事に気が付く。そしてそのままアッカさんは、宇留に向けて立てた指二本をピッとこめかみに当てて弾くのだった。

「でも、無事でよかった···」
 ホッと胸を撫で下ろすマユミコ委員長。だがメンバーの中でただ一人、イサヤだけが、磨瑠香が首から下げた二つの琥珀のペンダントの内一つを凝視している···。

「···」
「······」
 磨瑠香は、あっ!と驚いた。
 ヒメナが入った琥珀のペンダント。ロルトノクの琥珀アンバーは、街灯に照らされ透明なまま。
 イサヤとヒメナは、おもいっきり目と目が合っていた。
「あ!ヒメナちゃ···あっ!」
 焦りから思わずヒメナの名を口にする磨瑠香。イサヤも驚きながら視線を上げ、口元を押さえて驚く磨瑠香を見ながら、記憶を脳内検索する。

「···ヒメナちゃん?ヒメナちゃん···く、空気乃さ···ん?あの、教師候補生特別生の、空気乃くうきの姫菜ひめなさん??」

 イサヤは再び視線をペンダントに下ろし、ヒメナと視線を合わせた。

「「ええええ!!」」

 磨瑠香に殺到するアンバーニオン軍の生徒達。どさくさ紛れなのか必然的に男子連中が磨瑠香の胸元に迫る勢いを察し、女子達はノールックかつ不自然にならないようにそれらをソフトブロックする。
 その結果、磨瑠香の前には女子前衛、男子後衛の二重円陣が整う形となった。
 ヒメナは、少し下がった所で冷静に見守る宇留同様特に戸惑う事もなく、柔らかい笑みを浮かべ全員を見渡す。

「みんなこんばんわ!また会ったね?」

「えー!えええ!」
 再会。全員が、以前等身大で会った時とは大きく異なるヒメナの現在ほんとうの姿に戸惑い、そして驚いている。
「く、空気乃さん?本当に?」「こ、琥珀って事は···?」
「ひ、ヒメナちゃん···?」

「うん!マルカ!大丈夫、これでいいよ。···みんな、いつもアンバーニオンを応援してくれてありがとう!ボクのオーナーで、アンバーニオンのパイロットもみんなによろしくって言ってたよ!」

「!!」
 宇留はオーナーという言葉を否定したかったが、ここはヒメナの考えを尊重し、なるべくポーカーフェイスであるよう努める。その間にも皆の緊張は解れ、対面の空気が柔らかくなっていくのが分かる。ヒメナの声を拡声する為に振動エフェクトしているロルトノクの琥珀アンバーの表面には事実、ヒーリング効果のようなものがあるようだ。

「そ!そういう事だったのか!」「本当に妖精さんみたい!可愛いかも!」「“あの時„もキミが俺達守ってくれてたのか?」「スゲーって!スゲー!」「マジか!」「はー!」
「ぁぁ···やっぱりずっと···」
 イサヤに至っては、ハラハラと落ちる涙を手で拭いながらずっとペンダントの中のヒメナを見つめている。ヒメナも満面の笑顔で全員のリアクションに応えていた。

「委員長!」
「え?!」
 いきなり宇留が声を上げたので、マユミコ委員長は全員と共に視線を宇留に送る。

「倉岸も近くに来てた」
「え!」
 宇留の言葉に、アンバーニオン軍のメンバー全員がやや引き吊った表情になる。マユミコ委員長が磨瑠香を見ると、磨瑠香は凛々しい表情でただ黙って頷く。その表情はどこか大人びていて、マユミコ委員長は少し焦る。
「じゃあ、俺達が見た変質者とあの娘、須舞達を襲った大変質者、それと須舞達は倉岸にも会ったって事?」
 宿里が少し左肩をズイと付き出しながら宇留に尋ねた。
「うん、そ、そっちも誰か居たんだ···」
 あの娘と聞いた宇留の脳裏に、何故かさくらの姿がフラッシュバックする。
「そーだよ須舞くん!スタッフのオネーサンがツルツルトーモロコシ泥棒追っかけてった!」
「ぁ!ぅ!ん···」
 ラーヤ。が指で目尻を吊り上げるので、宇留にはそのスタッフが誰だか分かった。

「···倉岸の事は、もう大丈夫、帰ったら、帰ったら次の報告会でちゃんと言うから。今は明日の林間学校を成功させる事を考えよう!五雄も燃えてるトコだし!」

「え!ええ!ま、まいったなぁ?」
 宇留の推薦で、いきなり注目を集めてしまった五雄が照れる。
「あ!そーだった!みんな起きなくて!先生も古代の森の職員さんもみんな起きないんだよ!これは再びナンチャラ現象がドーノコーノ······」
 最が力説する間に、マユミコ委員長が前屈みでヒメナの入った琥珀を見つめる。
 
「···うーん、くぅ···イヤ!ヒメナさん??でも?どうして私達、どうしてか分からないけど磨瑠香の事だけつい今まで忘れてて···須舞くんだけ探してたんたんだよね?どうしてだろう···?」
「んー?それはね?!」

「?」
 アッカさんが一歩前に出て優しい大声を出す。そして一通り全員に視線を向けると両手をスッと重ねる。

「だって、これは夢だもん···!」

 パンッッ!!

 一度の柏手かしわで
 それだけで、その場に居たアンバーニオン軍のメンバーがバタバタと倒れ気を失う。宇留、磨瑠香、照臣、クラゲ型ビットの現達ですらも気を失い、その場に倒れた。








 意識が遠退く瞬間、イサヤは考えていた。

 そうだ、この音聴いた気がする。
 ヒメナさんからずっと聞こえていた雰囲気メロディ
 
 おじいちゃんやおばあちゃんが居なくなっちゃう時のアノ雰囲気メロディだ·····。











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