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絢爛!思いの丈!

夜更け土産

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 磨瑠香の饒舌イジリに耐える運転出来ない運転席に座る照臣をはたの目で見ながら、宇留はスマホでパパッと手早くSNSアプリに、とあるダイレクトメッセージを打ち込み送信した。
 呆れた事にスマホに文字入力する指のタイプ速度まで加速出来た。
 倉岸エブブゲガに言われた宝甲人間こはくにんげんという新たなレッテルに対して、覚悟は決めたものの自分は本当に人間を辞めてしまったのか?と問うた所で、返ってきた答えは何時いつ何処どこかで獲得した達観によるであろう、今更しょうがない困らんでしょ?という、やけに軽い解答だった。

 〔しかし〕漫才のように照臣とツーカーを打ち合う磨瑠香のテンションは高い。
 ほぼ一年に渡るモヤモヤが解消された反動だろうか?それともヒメナのリモネン酔いが移ってしまったのだろうか?本当はこの二人相性が良くて···というのも何かが極めて違う気がするので宇留はその考えを割愛した。
 どうやらヒメナとだけでなく、折子とその知り合い···?ともしっかり相談が出来たであろう事は、宇留にも容易に想像出来た。
 そして同時に宇留の中には、もしかしてヒメナは磨瑠香に【残り時間の件】を話してしまったのではないだろうか?という予感もあった。

「!」
 SNSのアプリを閉じ、メニュー画面に戻った宇留の鼓動が驚いて跳ねる。
 ヒメナのデフォルメキャラアバターが、SNSのアプリアイコンにしがみついてニコニコしている。
 なにやらヒメナの意識が片手間に宇留のスマホに侵入し、今送信したメッセージを見ていたらしい。
 アバターはグッと親指をかざし、ウインクではにかんだ。

 一身上の都合により微笑ましくも大いに複雑な感情。
 それによって、画面を閉じスマホをポケットに仕舞う動作が遅れる。アバターのヒメナは宇留がソッ閉じする瞬間、「わぁ!」と驚いた顔をしていた。そして磨瑠香がその所作に違和感を持ったとばかりに宇留の方へ体を向ける。

「どうしたの?宇留くん?」
「ん?いやぁ···その」
 SNSに送った文は真剣なもの。
 宇留は磨瑠香が気付くまでの間だけでもと、既に一時的なはぐらかしを準備していた。はぐらかしといってもその内容は、事実確認欲求を伴った正式な疑問だった。
「磨瑠香さん···?あの駄菓子屋おみせやさん、緒向先生ばっちゃんの家に造りが似てたね?この間みんなで撮った写真と比べて見てたんだけど···」
「!!」
 磨瑠香は「はー」と息を飲みながら視線を宙に漂わせ、駄菓子屋の外観を思い出す。
 回想の結果、宇留の言っている事は正しかった。
「ああ~!そーだねー!確かに!言われてみれば!師匠せんせいのウチ、昔駄菓子屋さんだったとは聞いてたけど、でも何でだろぅ?駄菓子屋専門の大工さんがつくったとかかな?」
「フッフッフッフッ····」
 照臣の含み笑いが前の席から流れて来た。
「このI県にはねェ?姿⭐️形⭐️を変えながら人々を誘い込む意思を持った付喪神の屋敷が森に現れるという言いぃ伝えェがぁ!その名もぉ···」

「ん?わー!百鬼夜行!!」
「「え!!」」
 何らかの怪異を紹介しようとしていた照臣を遮り、ヒメナはヘッドライトに照らされた道の先を指差す。

 ォオオォオ······

 道の先には、光の加減で不気味に姿を浮かび上がらせた少年少女の集団が列をなして歩いていた。
「「「わ!、わあああ!···って?」」」
「···アレ?みんなじゃん?」
 驚きかけた三人だったが、磨瑠香がすぐにマユミコ委員長達アンバーニオン軍だと気が付いた。

「照臣くん!停めて!合流しよう!」
「山石くんが笑われるのに百円···!」
「はぁ?もー!···徐行停車!」

 AIカーのエンジンはルロルロと力みを弱め、少々車を警戒するアンバーニオン軍の横にゆったりと停車した。
「?」
 案の定、窓越しに照臣達を確認した彼らは、一瞬の間を置き大口を開けて笑い出した。














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