神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

幼馴染現る

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 友が集う、深夜の怪しい駄菓子屋。
 折子が配ったアイスの甘さと冷たさは、チェイサーのようにその場に満ちた熱を癒し、不思議な時間だけがゆったりと流れる。
 

 右から、手に持った三色アイスに笑顔でイタダキマスと敬礼するさくら。

 折子の懐で満足行くまで泣き尽くし、赤い目で三色アイスを頬張る磨瑠香。

 そして磨瑠香の胸元のロルトノクの琥珀アンバー内部ではヒメナが珍しげに手に持った小さい三色アイスを眺め回している。

 その隣に座る折子は、引き続き磨瑠香の頭を撫でながら食べ終えた三色アイスの棒に当たりの焼き印を発見して驚き、ベンチの脇で停止しているエスイが宿った配膳ロボットは、顔のディスプレイの両目がアイスバーのアイコンになっていた。

 
折子アライズお姉さま!ご馳走さまでございました!」
 いつの間にか三色アイスを食べ終えていたさくらは、ベンチに腰掛けたまま重ねた指先を膝の上に乗せ、深々と折子にお辞儀をした。

「ご馳走さまで〔ご馳走さまでし···〕ご馳走さまでした」」

 それに釣られてお礼をハモらせる女子三人。
「お粗末様。で、今日あなたはどうしてここへ?」
 折子が磨瑠香を挟んでさくらに問い掛ける。さくらを覗き込んで傾いた顔の向こうに綺麗な黒髪がパラッと揺れた。
「いやぁ、その節はお力添え頂きありがとうございます。今、この時代の子桜だった私は今この時も学校の校庭に生えておりまして、もし許されるならみんなと一緒に今日の林間学校行きたいなーってのが、み···」
 ここでさくらは一度言葉を区切る。言葉を選んでいたようだが、すぐに続きを話し始めた。
「···ずっと心にあってですねぇ?限定的に丁度前世ぜんかいの記憶が甦ったので行動に移したのであります!」
「限定···的?」
 ヒメナが興味深げにさくらに問う。
前世ぜんかい今生こんかいね?、私の自我は共通でも何故か記憶だけは深層心理に埋もれたままだった!でも縁か何かで何故かこの夏のタイミングで前の記憶が表面化したの!···それでね?多分もう少しでまた元に戻っちゃうかも?」
「そんな···」
 磨瑠香達は息を飲みながら、新たな友人の境遇を噛み締める。

「大丈夫大丈夫!私はどっちぃでも幸せですから!でさーぁ?二人は···」
「?」「?」
 さくらは先程の折子のように首を傾げ、イタズラっぽい表情でヒメナと磨瑠香を見つめた。

「私、宇留ウゥルーにも会いに来たんだよ?」

「「え?」」

「ゼゼンセゼンゼセデ、コワイトリサンカラカバッテクレタワタシノオォジサマ~ン!オホォ!ニンゲン二ナレチャッタァ!ナレチャッタ!ナレチャッタ~···!」
 
「「へ?」」
 さくらはまるで忍法でも詠唱するかのように、棒読みで意味不明な言葉を連結させる。ヒメナと磨瑠香の疑問の声がハモった。

「だー!マドロッコシィのマワリクドイのコッパズカシイの!ムムム!···キミタチ二人の思いが本ッッッ当に責任や憧れ、ダケ?!でイイならぁ?私も参戦しようかなぁ?」

「「えええええ!?」」
 さくらの遠回しな突然の告白。再びハモるヒメナと磨瑠香。折子は目を見開き片手を口元に持ってきて、わざとらしい口調でヒメナ達に語り掛ける。
「あらま!挑戦者あらわる?じゃあ前言撤回しようかしら?これはうかうかしてられないわね?二人とも···」
前言ぜんげんって···さっきはなんて言ってるのか殆ど聞き取れなかったケド···?まぁ···」
「あらごめんなさい、ウフフフ?」
 折子にあしらわれ気味な対応をされて困ったヒメナに押し上げられるように、今度は磨瑠香が質問する。
「さ、さくらちゃんって、えっと、前というか今というか、よくわかんないけど、今このここに居るさくらちゃんは、何処かで宇留くんに会った事あるの?」

「うん!だって今のこの身体に限って言っても、宇留ウゥルーとは幼馴染みだもん!」

 ·· お!オ サ ナ ナ ジ ミ ッッッ···!··

 今度はヒメナと磨瑠香の想文がハモった。
 
「やー!ぇっっとね?宇留ウゥルーのお父さんがね?ウチのおじいさまの一週間弟子でね?まぁおじいさまはウゥルーパパのスーパーおみせのお師匠なんだけど、その時に宇留ウゥルーも一緒に来てたんだよね?その時一緒にたくさん遊んだりして···」
「?!」
 さくらは呟きながら上着のポケットをゴソゴソと探り、明らかに型落ちの古いスマホを取り出し、その画面を開いた。
「ほらみてこれ?」
「「「「?」」」」
 ベンチにいる全員がそのスマホを覗き込む。写真そこには小さい男の子と肩を組み、地べたにじかに座り、カメラ目線で幸せそうに笑う小さい女の子が写っている。
「あらかわいい!」
「うん!···でも···もしかして、この男の子ウリュ?」
〔はぁ···♪〕
「あー!二人ともかわいい···って、でも、なんでこの宇留ちゃんこんな表情なの??」
 磨瑠香が言う通り、写真の中の幼い宇留は、何故かぎこちない表情をしている。
「エヘヘ···それでね···?お別れの日になって宇留ウゥルーったら、将来私をお嫁さんに···」

「「!!」」

 結局宇留の浮かない顔の秘密はスルーされた。だがすぐにさくらから飛び出したパワーワードに反応したヒメナと磨瑠香は、同時にさくらをバッ!と見た。

「将来私をお嫁さんに···するとまでは言ってないけど···!」

「「「「「あらっ!」」」」」
 ベンチに居る全員の右肩、そしてレジカウンターに座る店主のオバチャンの右肩までもが、カクンと同時に傾く···。
 さくらは言い過ぎに少し照れながらも続ける。

「ま、まぁ、エヘヘ、ちっちゃかったからお互いよく覚えてないかもだけど?···でもまぁウゥルーパパヤバいよ?私の捜索願が出てるのに、この私がお店に居るのにも気が付かないでさ。【ゴソゴソ··】おじいさま怒るよ~?ドッペルゲンガー騒ぎでそれどころじゃなかったかも知れないケド···」

 そう言ってさくらは首から下げていた琥珀のペンダントを外した。
 「!」
 ドッペルゲンガー騒ぎと聞いたヒメナの合点が閃く。
「あ!あの時!あなたは、あの時お父様のお店にも居たの?!」

 先日のイートインでのゼレクトロンヴァエトとの偽装工作交渉。その日に起きた二人の宇留ドッペルゲンガー事件をヒメナは思い出した。
 琥珀のペンダントを外したさくらは、唐突にそれを配膳ロボットエスイの首に掛け換えに立つ。

〔エッ!!これ???〕
 驚いた配膳ロボットエスイの表情ディスプレイが胸元に向く。

琥珀ここに居て?ほら、転送開始!」
 さくらが柔らかな表情で配膳ロボットエスイディスプレイかおを覗き込む。
「それなら?調整してあげる!ほら、肩の力抜いて?」
 折子が配膳ロボットの肩に触れた。

〔え!···あ····ぁ···ぇ!〕

 配膳ロボットのスピーカーから、喜ぶような、泣いているような、震えるエスイの声が聞こえた。
「···」
 少しの間、その作業を見守っていたさくらだったが、すぐに腰に両手を当て、磨瑠香とヒメナの方にドヤ顔で向き直った。

「!」「!」
「どう?!火は点火しついた?」
「は!···う!···うん!」「···ええ!」

 あっ!とした表情に変わったヒメナと磨瑠香。

 今度の返事はハモる事は無かった。

 ニコリと歯を見せて微笑んださくらは、磨瑠香に向けて縦にした拳を突き出した。磨瑠香もそれに応えて拳を突き出すと、ヒメナの見えない想いの拳が一番上からテン!と叩き、少女達の拳が一瞬重なった。

「···!」
 それを見守っていた折子の表情が満面の笑みに変わる。
「いいね上等!さて、あとは···」


 キィーッ!

「!」
 折子が何も無い道路の上に意識を向けた瞬間。
 いきなり道路上に車が出現した。
 照臣達が乗る自動運転車AIカーである。
 駄菓子屋前の女子達が注目する車の中では、しばらく乗員がドタバタと暴れていたようだが、一時の静寂の後、意を決したように照臣が降りて来た。


「お、お姉さん達!あ、藍罠さん!」
「や、山石くん!···ふ、ふふふ!」
「な!なんで笑うのー!」

「「「「だって!運転席から中学生が降りて来るんだもん!」」」」

「!ふぁ!」
 磨瑠香達が声を合わせてコメントするので、照臣の両膝からは力が抜け、その場で転びそうになった。だがなんとか持ちこたえた照臣は慌てを装い、磨瑠香に訊ねた。
「そ、そんな事より!た!大変だァ!い、今さっき宇留くんが来なかったかー!」
「へ?···うん、さっき···?」      ウリュは車···
「わかもーん!そいつが···って!あの!ちょっと!」

「!!ー」

 磨瑠香は照臣を無視するようにベンチから立ち上がると、宇留と倉岸の乗る車の後部座席目指して歩き出した。








 



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