神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

白い時計

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 護森の活躍により難を逃れた宇留と倉岸エブブゲガは、照臣が乗って来た自動運転車AIカーに揺られ、やけにカーブの多い軸泉市内山中の林道を進んでいた。
 だが······

「んん?、ナビに道無いよ?今ドコ走ってんの?大丈夫コレ?」

 自動運転車の後部座席。
 右から照臣、倉岸、宇留の順番で座っている。
 ロードマップは最新のものに更新したてホヤホヤ。古代の森ゴノモリリゾート行き、と表示されたカーナビのディスプレイが指し示す進行方向現在地の矢印はロードラインを大きく外れ、見知らぬ山中をくねくねと彷徨っているにも関わらず、実際の車窓は安全運転で的確に林道の連続カーブを捌いている。
「なんだろね?どしたんだろね?」
 カーナビを覗き込む照臣が心配からソワソワしだし、それに釣られて宇留もソワソワが始まった。
 座席中央に陣取った倉岸は逃走を諦め、心身の疲労からか項垂うなだれるように前屈みになっていて、まるで警察に連行される容疑者を彷彿とさせる。宇留はそんな倉岸と様子のおかしいカーナビを見比べながら、出来るだけ自然な風を装い倉岸に問い掛けた。

「ねぇ、エブ」
「?···んぁ?」
「モウスグオレモってなに?」
「······」

 その時自動運転車は急カーブに差し掛かり、後部座席に伝わった横Gは三人を左側に片寄らせる。
  キキキキ···
「ぅおぅおうぉうぅ···」
 少し窮屈そうにする倉岸。横Gは回復し、通常運転に戻る。
「···言葉通りだ。この俺の自我が···」
 再び自動運転車が急カーブに差し掛かり、今度は先程とは逆方向へ横Gが襲い来る。
 キューキキ···
「ぅおぅおうぉうぅ···」
「くっ!」
 宇留と照臣に挟まれた倉岸は再びおしくらまんじゅう状態になり、その微妙な苦痛の分だけ二人を睨みながら続ける。
「···この、この俺の自我が消えかけている兆候がある···俺は···」
  キキキュー···
「「ぅおぅおうぉうぅ···」」
 再び左方向への横G。今度は宇留も照臣もわざとらしく声を出したので、計らずも倉岸はツッコまざるを得なかった。
「ちょと待て!さっきからおい···」
 キューキキキ···
「「「ぅおぅおうぉうぅ···」」」
  キキキキキュー···
「っっ!さっきからなんだ!わざと?!がかかッ?」
「そんなワケ無いよっっ!「ぅおぅおうぉうぅ···」」
 キキキキキ···
「えっと?何処まで言ったっけ?自我がどうしたの?」
「ぅぐぬぅぇ···」
 倉岸は目を回しながら口元を押さえ、宇留の質問すら認識出来ていないようだ。丁度林道の九十九折つづらおり区間も終わったようなので、宇留達はしばらく倉岸をそっとしておく事にした。

 その時、最後のカーブの遠心力の影響か、倉岸の履いている黒いジーンズのウォッチポケットから、純白の腕時計がポロッと座席の上に落ちた。
 それは関心吸収機エモチャージャーでも存在感迷彩プレゼンサーカムの類でも無かった。

「···で?宇留くんの方はどしたの?」
「!」
 今度は照臣が唐突な質問を宇留に投げ掛ける。宇留は一度遠い目をした後に一瞬倉岸を睨みつつ、ボソボソとしつつも自信に溢れた声で照臣に解答する。
「詳細は省くけど···う~ん、ネタバレ?かな?」 
「ネタバレ?」
 照臣はクイッと右上に視線を飛ばしつつ、恐らく、と予想した人物の顔を脳裏に思い浮かべる。するとハッ!と目を見開いた宇留は、悶絶している倉岸に、すましたヘビのような表情を向けながら言った。
「あー!そうだエブ!磨瑠香さんのお兄さんにも来て貰おうか!?お前と一緒でネタバレ魔の達人なんだよね?磨瑠香さんになんかあったって言えば、ちょっと近くで働いてるからすぐぶっ飛んで来てくれるよ!?どうかな?!」
「ひ!ヒェエぇ~···」
 車酔いと先輩風にさらされて更に悶絶する倉岸。


 そんな事を繰り返しつつ、三人が乗った自動運転車は謎の林道をひた走って行った···。




 

 
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