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絢爛!思いの丈!
輪り廻り
しおりを挟むこちらは用事を済ませました故。
私が赴くまで場を暖めておいて頂きますよう、宜しくお願い申し上げます。
推論、今宵はもしや、お仕込み遊ばせられたのでございましょうか?
全ては快決の為に、ご必要なればこそ。
そうでしたらお心遣いに感謝。
失念、こちら未だ鈍足ではありますが、走馬灯が強く発露津々云々。少々想文が我が親友の喉元に熱く···この体ではウリュとの先約難しく、意気乱る所あり。
そんな時こそ誠に旧友の素晴らしき、掛け替え無きへの着地、あらためてのぞむものなり···。
お待ち申し上げております。
※
配膳ロボットは、磨瑠香達が腰掛けている駄菓子屋前のベンチ脇にトコトコとタイヤを鳴らして近付き、その場に黙って、ただ黙って停止してその場に落ち着いた。
さくらが言う事が本当ならば、彼女が声を掛けたこの配膳ロボットの中に、磨瑠香と共に居た魂、エスイという存在が宿っているのだろう。
「···ここに···居るんだね?」
磨瑠香は睨むような切ない眼差しで、配膳ロボットの横顔をやや前のめりで覗き込む。
「私のこの気持ちは···宇留くんへのこの気持ちは、あなたさんの影響だったの?」
〔!〕
配膳ロボットの首のモーターが一瞬、キシュ!と動揺のような加速音を立てて磨瑠香の方を向いた。そしてすぐにさくらが窘めに入る。
「だから違うよ?···磨瑠香の本気に、たまたまあなたを知ったこのコが同調したの!」
「え···?」
全員が配膳ロボットに注目する。横を向いていた顔は、気まずそうに前に向き直ろうとしていた。すると首のモーター部が停止するか否かのタイミングで、配膳ロボットのスピーカーから声が聞こえた。先程のロボット備え付けのボイスパターンではない、電話口のようなリアルな女性の声。
〔···ごめんなさい···磨瑠香には···私みたいに···諦めてほしくなかった···から···〕
「エスイ···ちゃん···!」
ヒメナの中に溢れた過去の悲劇の記憶。琥珀の中でヒメナの表情が氷る。
かつてエシュタガと身体を共有していたエスイが、アンバーニオンを護る為に、エシュタガもろともその命を投げ出した過去···。
「······」
そして配膳ロボットが少々言いづらそうに言葉を選んでいると、磨瑠香が配膳ロボットの肩(?)部分を掴んだ。その励ましが合図だったかのように、エスイは電子音声の声で続けた。
〔···ムスアウとヒメナの絆には···誰も敵わない···私の思いは届かない···悔しいし、苦しいし、スッキリしなかった。···でも、二人が大事だった。···護りたかった。でも護った後でも納得出来ない自分が居た。···嫌になった。自分はこんなにも嫌なヤツだってマトモに思う身体も無いのも嫌だった···だから、いっそ、全部壊したくて、ドコにも逝かないで!······〕
「···でも!、エスイちゃんはあの時、ウリュも護ってくれた」
〔!〕「!」「!」
氷結島事件。かつてのアンバーニオンとガルンシュタエンの決戦。
最期の時、アンバーニオンの操玉に乗り込んでコンバットナイフを振りかざしたエシュタガはその刹那、宇留と共に同じ夢を見た。
霧想に包まれた少女の幻想。
ヒメナはエスイと縁のあったエシュタガの涙と共に、ナイフの切っ先という名の決意がブレるのを思い出していた。
「···やっぱりあの時、エシュタガはギリギリまで迷ってた!彼の気持ちを変えてくれたのは、エスイちゃん!あなただったのね?」
〔ヒ···ヒメナ···!、で、でもエシュタガの迷いも私のせいで···そしてそのせいで···!あなた達まで···!〕
「エ···シュ···さんが···?ヒメナちゃん!」
磨瑠香がロルトノクの琥珀に片手で触れる。表面は体温のように温かい。
「それでも、それでもあなたのお陰!ありがとうっ!···でね?エスイちゃん!お陰様は、あなたも含めて私達には沢山居るの。ここにいるマルカやさくらも、みんなも···想って、支えて、護ってくれる。その心を無駄にしない為に、だから私達もみんなを護って戦いたい···だから、聞いて!マルカ!エスイちゃん!!」
「!」〔!〕
ヒメナの真剣な声が二人を射貫いた。涙で潤んだ心根がピシッと整う。
ヒメナは言葉を束ねる集中力の為なのか、瞼を閉じて語り始めた。
「責任よね?···」
「せき···にん···?」
〔···〕
「ムスアウやウリュが私を好きっぽいのも、私がウリュを好きっぽいのも、責任の現れなんだと思う。···それが···それがずっと私が悩んできた事の答えなのかも?って思ってる。···ムスアウの私に対する負い目のような責任がウリュにも受け継がれてるし、アンバーニオンの力で不思議な琥珀にして貰った私もそれは同じ。ムスアウの独断だって言うヒトも居るけど、ウリュには、そんなの受け継いでほしくない。ウリュには···いつかこの責任に気付いて、絶対結ばれない琥珀の私じゃない···普通の恋をしてほしい······だからお願い、···磨瑠香!···ウリュの···恋人になっ······?」
「!ーもー!オバーチャンみたいな事言っちゃダメ!じゃあ!なんで泣いてるの?」
「!」
磨瑠香はいつの間にかロルトノクの琥珀を顔前に掲げ、ヒメナの顔を凝視していた。ヒメナの瞳の周囲には、光る涙の粒が散っている。
「私は···ヒメナちゃんの好きがどんなキッカケの形だって、ヒメナちゃんの気持ちがどうでもいいなんて···思ってないよ?···ヒメナちゃんにちゃんと教えてもらってちゃんと気が付いた!【私達】は二人に憧れてたんだ!超かっこエモいいじゃん!琥珀の守護神を操縦する永遠の恋人たちなんて!そんな二人が、ウソまでついてお互いの気持ちを勝手に諦めたらダメだよ!···だから決めた!私達も諦めない!負けないから!だからヒメナちゃんも負けないで!?···ヒメナちゃんの卒業式まで勝負だ!···もしその後で宇留くんが誰かをヒメナちゃんの代わりにする程度の私が嫌いになるような男の子なら今度こそ···私達がブッ飛ばしちゃる!···いいよねエスイちゃん!?何かあったらあのスゴい柔道でそれまで協力してよね?!」
〔ま、磨瑠香?!〕
「!、マルカ···············!」
「おぉー!元気になったねぇ~!」
磨瑠香は、目から大粒の涙が溢れるにも関わらず微笑みながら堂々と宣言した。ヒメナをはじめ、その場の全員からも笑みが溢れる。
「ほうれ?はわららいおほいらは、はへぅほこらいわ?」
「「「「!!」」」」
駄菓子屋の奥にもう一人、客が居たようだ。
出入口付近に姿を現した白いワンピースの黒髪ロング美人。
慈神バジークアライズこと丘越 折子は、三色アイスを一つ口に咥え、残りの人数分のアイスを両手で摘み、そのビニール包装をパリパリ鳴らしながら彼女達を笑顔で見守っていた。
「!!お姉さん!!···ぅ···ぅわああああああ!わああぁ······!!」
磨瑠香は立ち上がり、折子の懐に飛び込んだ。アイスを持つ両手だけはそれに驚いていたが、折子は笑顔を決して崩さず。ただ思いのままに泣き続ける友人の情動を少しの間、安らかに受け止めていた。
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