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絢爛!思いの丈!
駄菓子屋前
しおりを挟む···いつか、何処か。
あれは磨瑠香が藍罠兄と一緒に蛍を見に行った夜。
蟲灯りがキレイであればある程、本当は家族みんなで見たかったという思いが溢れ、どうしても寂しくなって泣き出した夜。
せっかく乱舞してくれた蛍達に名残惜しい別れを告げ、帰る事にしたあの夜。
その日の夜と同じく、一匹の蛍が磨瑠香の前を導くようにゆっくり飛んでいた。
取り敢えず、宇留の向かった先に進もうと決めた磨瑠香とヒメナ。だがそんな時でも磨瑠香の眉間は幾度かツンと軋み、涙の波が涙腺に打ち寄せる。
だめだなぁ?これじゃまだまだ子供だ···
そんな自己評価さえ落涙のトリガーになりかける。
すると磨瑠香の胸元にあるペンダント、ロルトノクの琥珀の中でヒメナが「はっ!」とワクワク気味に息を飲んだ。
「?」
それをきっかけに磨瑠香も道の先の様子を窺った。いかにもな峠道の途中。何かの店の灯りが、煌々とアスファルトの上に伸びている。
それは駄菓子屋だった。どうしてこんな峠道中頃に?という違和感は、もしここに誰かが居れば万人が抱く印象だろう。
駄菓子屋の灯りに導かれたのか、磨瑠香達の前を飛んでいた蛍はスーッと加速して店の前にある木製ベンチの角に止まる。そして、ここだよ?と言わんばかりに発光器官を明滅させ、二人を導いた。
「マルカ!座ろ座ろ?」
「!、ぅ······ん」
ヒメナに誘われた磨瑠香は、濡れた目元を手で拭うと、とぼとぼと不思議な駄菓子屋の前まで進んだ。
「すいませーん!、少しここで休んでもいいですかー?!」
磨瑠香が店の前に停めてあったレンタサイクルを躱して入り口に近付くと、ヒメナが大声で店の奥に声を掛ける。店内は単品の個数こそ少ないが、豊富な種類の駄菓子が高めの棚に個別に詰め込まれ、まるでカラーブロックを散らかしたような華やかな雰囲気だった。そしてレンタサイクルの運転手だろうか?数多くの駄菓子を吟味しているであろう先客の頭頂部が、棚の向こうでユラユラと振れている。
程なくして「あぁ~イイですヨ?」と店主らしき女性の声。だがその声は、まるで小学生くらいの女の子が酒焼け声をした老婆の演技をしているような、独特な雰囲気の声だった。しかし、今それは特に気になる事でも無く、そして気も滅入っていたので、磨瑠香は素直にこの奇妙な駄菓子屋の違和感を受け入れる事にした。
「······」
「······」
何処から、何から話そうか?
磨瑠香とヒメナは、心の内側で会話のカードを対話の机に並べようとして同時にやめた。
口論するのではない。駆け引きもしない。ただこれから歩んで行く場所にに筋道を創る為に。友人同士として素直な本音だけあればいい。
「!?」
すると小型の配膳ロボットがウーと駆動音を鳴らしながら走って来た。
〔イラッシャイマセ、ゴジユウニオトリクダサイ〕
配膳ロボットの懐にはクーラーケースが収まっていて、中には個包装の一口アイスがたくさん詰まっていた。
「わぁ、ありがとう!」
特に味の種類を選ばず、磨瑠香はそれを一つ手に取る。ヒメナが居る琥珀の中にも一口アイスのイメージコピーが出現した。
一口アイスのビニール包装を開封し、二人同時に口に放り込む。
オレンジソースにコーティングされたしつこ過ぎない酸味とバニラビーンズの存在感。磨瑠香はその優しい甘さのお陰で、少し落ち着く事が出来た。
「···ヒメナちゃん···」
「ん···?」
「ヨキトから聞いたんだけどね?しぃさん、居るでしょ?なんかあった事、知ってる?」
「うん···少し、」
「今あちこちで増えてモンダイになってるテーコクの異記憶患者。···ここだけの話でしぃさんもそうだったんだって。それでね?おニィは今はもう大丈夫って言ってたんだよね?何がどう大丈夫なのかちょっと分からないけど···それで···」
そこで磨瑠香は一度下唇を噛んで、苦々しく続きを告げ出した。
「さっきの変な私、ひょ、ひょっとしたら、ち、私も···?」
「マル···カ!!」
「それはちょっと違うと思うよ?」
「え!?」
その声に磨瑠香が振り返ると、先程まで頭頂部のエンジェルリングだけを棚の向こうから覗かせていたであろう先客がそこに立っていた。
「あなたは昼間の!」
驚くヒメナの声を押し分けるようにして、更に前に出た緑色のスカートの不審者他校生徒。倉岸にさくらと名乗った少女は磨瑠香の隣にドカリと座った。
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