神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

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「···な!、バカな!?あのベデヘム3号の!、中枢活動体とはいえ、それを生身で···!」


 倉岸エブブゲガの喉からきつく絞り出された心情。
 その言葉に対して勝ち誇るように、宇留の感嘆が続いた。
「す!すごいや!護森さん!」
 一歩前に出た宇留の神経に、ザワーッ···と吹き駆ける風のざわめきのような雰囲気が通り抜ける。そしてすぐに護森の声が頭の中から聞こえた。

 宇留くん?

「え!護森さん?こ、これ?想文?!」

 うん。こっちの宝甲はまだ一応活性化しているからね?宇留くんの宝甲適応度レベルも上がってる今だからこそ出来る事かもね?
 ···それよりも今は、その彼を連れて一度あっちに戻ってもらおうかな?お迎えも来たようだよ?

「迎え?」
 やや遠くに居る護森のシルエットは、宇留達の方を向いている。すると、宇留と倉岸の背後を、別の車のヘッドライトがパッと照らした。
 すぐに停車したその車のドアがガパリと開き、誰かが降りて来て宇留に声を掛けた。
「宇留くん!」
「照臣くん?!」
 ヘッドライトの灯りに目が慣れる。車から降りて、開いたドア越しに宇留達を見ていたのは、宇留のクラスメート、山石 照臣だった。
 だが宇留は何故かそこで爆笑した。

「わははははははは!」
「ぇな!ナンで笑うの?!」
「だ、だってwww!運転席から中学生が降りてくるんだもん!ウヒヒヒ!」
「も!もー!ヒトのコト言えないクセに!。こ、これは完全自動運転だから大丈夫だよ!(まぁマニュアル運転も出来るけど)···てか元気そうだな?···!、コラソコ!おメェも笑ってんじゃないよ!」
「!」
 照臣のツッコミに、笑いを堪える表情になっていた倉岸がそっぽを向く。
 だがその隙を突かれ、倉岸は宇留と照臣の羽交い締めに合い、なす術もなく車内に押し込まれる。
「うわ!ちょっと待て!おい!」
「うららー!神妙にせい!」
「ウルセェ!逃げるんノ!」

 ンヌギャギャギャギャギャッ···!!

 中学生三人を乗せた車はその場でアクセルターンを決め反転し、けたたましいスキール音と共に陸橋の下にスモークが充満した。
 その間、車内から伸びた宇留の腕の先には、護森に対して彼が捧げたサムズアップがグッドし続けていた。
 スモーク越しに赤いテールランプを見送る護森の顔に満面の笑みが浮かぶ。

 しかしその時、護森の膝が勝手にガクリと崩れた。

「!」

 ガッ!
 そんな護森に肩を貸して支えたのは、いつの間にか運転席から飛び出して来ていたパニぃだった。

「···」

 ···パニぃの様子はいつもと違った。ツインテールをほどき、伏せた目は羽毛のように切れ長で妙に大人っぽかった。
 パニぃは護森の肩を支え、ゆっくりその場に座らせると、護森の襟を軽く正し、肩をポンと叩いて微笑んだ。
 護森はそんなパニぃに、真顔で驚くような表情を向けている。

「···まさか、貴女あなたにお力添え頂くとは···!」

 今パニぃの中に宿る存在に対し、護森は恐縮した。
「···というか護森くん?、あれは琥珀の鎧じゃなくて、ギプス的なものなんですけど?」
「!」
 護森の表情が、イタズラがバレた子供のようにウギィと引き吊る。
「使い過ぎ!今の護森くんはちゃんと残機を気にしないと!」
「面目次第も御在ません!」
「フフ···でもまぁ、これ以上あまり仲良くすると、春葉はるはちゃんに悪いからなぁ···」
 パニぃは支えていた護森の肩を離す。
「彼女はそんな事、ちっとも思いませんとも!」
「あら?わからないわよ?」
「いえ!私達があなたのお気遣いにどれほど感謝しているか!」
「にぃ!······」

 パニぃの中に居る存在は、護森に一度はにかんで見せると、倒れているベデヘム3を二~三秒見つめた。すると···

「グハ!」
 ベデヘム3の体が一度の咳と共に大きく波打ち、意識が戻る。
 そのまま立ち上がろうと試みたベデヘム3であったがそれは叶わず。その事実を誤魔化すように、その巨躯はうつ伏せから仰向けにドサリと裏返っただけだった。
 ただ空の星々を見上げるその表情からは既に怪物の激しい憤怒は消え失せ、肉体年齢に相応の落ち着いた表情が戻っている。だがその落ち込みに沈む表情には、老年の哀愁がひたすら溢れていた。

「······」
「マイドアリぃ!」
「?」

 パニぃの一言に、ベデヘム3は視線だけを送る。その間を埋める為、護森が一言付け添える。
「お疲れ!こっちの話こっちの話!」
「ど、どういう意味だ?」
「言葉通りだよってば!」
「······」

 短い沈黙を先にほぐしたのは、ベデヘム3の深いため息から始まる独白だった。

「~······部下達には、かたくなを強いておきながら此の体たらく、俺も最早···最早耐用年数限度に片足を掛けているらしい。今この時分も、敵なぞ相手に愚痴語りを止められん···」
「···うん···」
「···我ら眷属の質は年々下がるばかり、体系も合理に溺れ···あの誇り高かった我らの軍団は縋る栄光すら失ってしまった···」
「···フム、そうですか?」

 緊張を解いた護森は両足をハの字に放り出し、答えながら地面に座った。すると周囲の峠道から微かなエンジン音が響いてきた。ここに向かって来る重苦しいエンジン音の合唱、相当な数の車列のようだ。

「言われるまでもないんだろうけど、何処もそんなものだよ?ちょいとは、肩を柔らかくしないとね?」
 護森は少々微笑みながら、肩の間接をグリングリンと回した。
「フッ···」
 その言葉に対して、瞳を閉じたベデヘム3から笑みが漏れる。そしてようやく上体を起こすと、振り向かずに応える。
「何故、笑い合える?」
 胸に手を当て、劇的な自身の回復速度を認識したベデヘム3は、護森とパニぃの中の存在に仕掛けられていた能力の性能を認識した。
 護森の攻撃にはダメージと共に、相手の回復を促すエネルギーも注がれていた。そして今、パニぃの中に居る存在、土地神バジーク アライズこと、丘越 折子がその力を整えていた。

「······」
「···身を斬られるような情けの申し訳無さが、いつか安らかな思い出に変わるまで、一度ケンカ交えたしたのなら、もうトモダチよ?それが、慈龍わたしたちの約束」

 立ち上がり語る折子パニぃに、ベデヘム3はゆっくりと振り向いて真剣な表情を向けた。

「···完敗。このような場合つまりは、満足、納得と言えばいいのか···?」

 林道沿いの森の隙間から、多数のヘッドライトの光がチラつく頃、ベデヘム3はたどたどしく立ち上がり二人を見下ろした。だがその威容に覇気は皆無だった。そして同じく立ち上がった護森に、胸を張って大きな声で心情を告げる。

「楽しかったぞ?巨獣オレ足蹴あしげから這い上がって来たおとこよ!アンバーニオンは良い王達を持った!···撤退する!···また会おう!次は負けんぞ!」

 それだけを伝えたベデヘム3は、道路沿いの暗い藪の中に飛び込んだ。存外に短い藪漕ぎの音を残し、彼の気配はこの近辺から遠ざかっていった。


「···だから、トモダチなんだってば」
 パタリ!
「おっと!」

 ベデヘム3が去った方向を向き、少しボヤいた護森の腕の中にパニぃが倒れ込んできた。今度は護森が気を失ったパニぃの肩を支える。

「オツカレさま!」

 多数の軍用車両が二人の周囲へ駆け付ける中、護森はまるで娘の寝顔を慈しむように、パニぃに満足気な笑顔を捧げた。
 











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