121 / 201
絢爛!思いの丈!
希み求む
しおりを挟む「···な!、バカな!?あのベデヘム3号の!、中枢活動体とはいえ、それを生身で···!」
倉岸の喉からきつく絞り出された心情。
その言葉に対して勝ち誇るように、宇留の感嘆が続いた。
「す!すごいや!護森さん!」
一歩前に出た宇留の神経に、ザワーッ···と吹き駆ける風のざわめきのような雰囲気が通り抜ける。そしてすぐに護森の声が頭の中から聞こえた。
宇留くん?
「え!護森さん?こ、これ?想文?!」
うん。こっちの宝甲はまだ一応活性化しているからね?宇留くんの宝甲適応度も上がってる今だからこそ出来る事かもね?
···それよりも今は、その彼を連れて一度あっちに戻ってもらおうかな?お迎えも来たようだよ?
「迎え?」
やや遠くに居る護森のシルエットは、宇留達の方を向いている。すると、宇留と倉岸の背後を、別の車のヘッドライトがパッと照らした。
すぐに停車したその車のドアがガパリと開き、誰かが降りて来て宇留に声を掛けた。
「宇留くん!」
「照臣くん?!」
ヘッドライトの灯りに目が慣れる。車から降りて、開いたドア越しに宇留達を見ていたのは、宇留のクラスメート、山石 照臣だった。
だが宇留は何故かそこで爆笑した。
「わははははははは!」
「ぇな!ナンで笑うの?!」
「だ、だってwww!運転席から中学生が降りてくるんだもん!ウヒヒヒ!」
「も!もー!ヒトのコト言えないクセに!。こ、車は完全自動運転だから大丈夫だよ!(まぁマニュアル運転も出来るけど)···てか元気そうだな?···!、コラソコ!おメェも笑ってんじゃないよ!」
「!」
照臣のツッコミに、笑いを堪える表情になっていた倉岸がそっぽを向く。
だがその隙を突かれ、倉岸は宇留と照臣の羽交い締めに合い、なす術もなく車内に押し込まれる。
「うわ!ちょっと待て!おい!」
「うららー!神妙にせい!」
「ウルセェ!逃げるんノ!」
ンヌギャギャギャギャギャッ···!!
中学生三人を乗せた車はその場でアクセルターンを決め反転し、けたたましいスキール音と共に陸橋の下にスモークが充満した。
その間、車内から伸びた宇留の腕の先には、護森に対して彼が捧げたサムズアップがグッドし続けていた。
スモーク越しに赤いテールランプを見送る護森の顔に満面の笑みが浮かぶ。
しかしその時、護森の膝が勝手にガクリと崩れた。
「!」
ガッ!
そんな護森に肩を貸して支えたのは、いつの間にか運転席から飛び出して来ていたパニぃだった。
「···」
···パニぃの様子はいつもと違った。ツインテールを解き、伏せた目は羽毛のように切れ長で妙に大人っぽかった。
パニぃは護森の肩を支え、ゆっくりその場に座らせると、護森の襟を軽く正し、肩をポンと叩いて微笑んだ。
護森はそんなパニぃに、真顔で驚くような表情を向けている。
「···まさか、貴女にお力添え頂くとは···!」
今パニぃの中に宿る存在に対し、護森は恐縮した。
「···というか護森くん?、あれは琥珀の鎧じゃなくて、ギプス的なものなんですけど?」
「!」
護森の表情が、イタズラがバレた子供のようにウギィと引き吊る。
「使い過ぎ!今の護森くんはちゃんと残機を気にしないと!」
「面目次第も御在ません!」
「フフ···でもまぁ、これ以上あまり仲良くすると、春葉ちゃんに悪いからなぁ···」
パニぃは支えていた護森の肩を離す。
「彼女はそんな事、ちっとも思いませんとも!」
「あら?わからないわよ?」
「いえ!私達があなたのお気遣いにどれほど感謝しているか!」
「にぃ!······」
パニぃの中に居る存在は、護森に一度はにかんで見せると、倒れているベデヘム3を二~三秒見つめた。すると···
「グハ!」
ベデヘム3の体が一度の咳と共に大きく波打ち、意識が戻る。
そのまま立ち上がろうと試みたベデヘム3であったがそれは叶わず。その事実を誤魔化すように、その巨躯はうつ伏せから仰向けにドサリと裏返っただけだった。
ただ空の星々を見上げるその表情からは既に怪物の激しい憤怒は消え失せ、肉体年齢に相応の落ち着いた表情が戻っている。だがその落ち込みに沈む表情には、老年の哀愁がひたすら溢れていた。
「······」
「マイドアリぃ!」
「?」
パニぃの一言に、ベデヘム3は視線だけを送る。その間を埋める為、護森が一言付け添える。
「お疲れ!こっちの話こっちの話!」
「ど、どういう意味だ?」
「言葉通りだよってば!」
「······」
短い沈黙を先に解したのは、ベデヘム3の深いため息から始まる独白だった。
「~······部下達には、頑なを強いておきながら此の体たらく、俺も最早···最早耐用年数限度に片足を掛けているらしい。今この時分も、敵なぞ相手に愚痴語りを止められん···」
「···うん···」
「···我ら眷属の質は年々下がるばかり、体系も合理に溺れ···あの誇り高かった我らの軍団は縋る栄光すら失ってしまった···」
「···フム、そうですか?」
緊張を解いた護森は両足をハの字に放り出し、答えながら地面に座った。すると周囲の峠道から微かなエンジン音が響いてきた。ここに向かって来る重苦しいエンジン音の合唱、相当な数の車列のようだ。
「言われるまでもないんだろうけど、何処もそんなものだよ?ちょいとは、肩を柔らかくしないとね?」
護森は少々微笑みながら、肩の間接をグリングリンと回した。
「フッ···」
その言葉に対して、瞳を閉じたベデヘム3から笑みが漏れる。そしてようやく上体を起こすと、振り向かずに応える。
「何故、笑い合える?」
胸に手を当て、劇的な自身の回復速度を認識したベデヘム3は、護森とパニぃの中の存在に仕掛けられていた能力の性能を認識した。
護森の攻撃にはダメージと共に、相手の回復を促すエネルギーも注がれていた。そして今、パニぃの中に居る存在、土地神バジーク アライズこと、丘越 折子がその力を整えていた。
「······」
「···身を斬られるような情けの申し訳無さが、いつか安らかな思い出に変わるまで、一度拳を交えたのなら、もうトモダチよ?それが、慈龍の約束」
立ち上がり語る折子に、ベデヘム3はゆっくりと振り向いて真剣な表情を向けた。
「···完敗。このような場合つまりは、満足、納得と言えばいいのか···?」
林道沿いの森の隙間から、多数のヘッドライトの光がチラつく頃、ベデヘム3はたどたどしく立ち上がり二人を見下ろした。だがその威容に覇気は皆無だった。そして同じく立ち上がった護森に、胸を張って大きな声で心情を告げる。
「楽しかったぞ?巨獣の足蹴から這い上がって来た漢よ!アンバーニオンは良い王達を持った!···撤退する!···また会おう!次は負けんぞ!」
それだけを伝えたベデヘム3は、道路沿いの暗い藪の中に飛び込んだ。存外に短い藪漕ぎの音を残し、彼の気配はこの近辺から遠ざかっていった。
「···だから、トモダチなんだってば」
パタリ!
「おっと!」
ベデヘム3が去った方向を向き、少しボヤいた護森の腕の中にパニぃが倒れ込んできた。今度は護森が気を失ったパニぃの肩を支える。
「オツカレさま!」
多数の軍用車両が二人の周囲へ駆け付ける中、護森はまるで娘の寝顔を慈しむように、パニぃに満足気な笑顔を捧げた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~
阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
神樹のアンバーニオン
芋多可 石行
SF
不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。
彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···
今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる