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絢爛!思いの丈!
勝 負 あ り
しおりを挟むヌグォォオオオオアアアッッ!
その怒りの雄叫びには、彼の肩書き通りの重低音が掛かっていた。
宝甲の鎧を纏った護森に対し、ベデヘム3が再び突撃する。
護森の猛攻に屈し、思わず突出させてしまった触腕をも背後になびかせ、ベデヘム3は自身への怒りと焦りすらその攻撃に織り混ぜる。
「······」
だがその気迫にも全く臆する事なく、仁王立ちになった護森はチラッと左方向へ視線を向けると、こともあろうに突撃してくるベデヘム3にすんでの所でいきなり背を向けた。
「ぬ!!!」
バキュッッ〆
「!」
ベデヘム3は勢いのまま、護森の背中に覆い被さるように上半身の体重でのし掛かる。
当の護森は、かくも冷静にそれを受け止めつつ首を左方向へ傾けていた。
必然的に空いたスペースに頭部を落とし込む事となり、並びゆくベデヘム3と護森の顔。驚愕に歪む表情のベデヘム3が、傾きのせいでこちらを見下す形となっている護森の表情を確認した瞬間。琥珀の裏拳がベデヘム3の鼻っ柱を叩く。
「ヌグァ!」
そのまま裏拳は鞭のように素早くしなって回転し、衝撃に突き飛ばされようとしていた顔面をすぐに掴む。
鞭のような音がしたのは、護森の琥珀の手が顔面を掴んだ音だったのだ。
ベデヘム3がそれを理解する頃、彼の体は捻り込みながら護森の頭上を舞い、道路上に背中から叩き付けられていた。そしてブレていた焦点が真っ先に捉えた光景。護森は片足を上げ、ベデヘム3の頭部目掛けて蹴り下ろそうとしていた。
下から見上げた護森は琥珀の鎧で体躯が膨張して見え、一番遠く、高い位置にある表情には、心なしか鬼のような怒気が一瞬にして宿っていた。
「ぅぬぁ!」
ヴェコッッ!!
ベデヘム3は背中の触腕を用いて、まるで這うようにその一撃から逃れた。
先程まで自分の頭部があった場所のアスファルトが、閃光と共に砕けるのを見つめながらゴロゴロと転がって距離を取り、体勢を立て直すと共に立て膝で踞って護森を睨み直した。
「···ぐ···ぉのれェ、ぇ···!」
ベデヘム3は親指で滲む鼻血を拭う。その容貌は怒りに比例して歪み、僅かに彼の怪獣体を思わせる。
「お返しは···いらなかったかな?」
地面から足を引き抜きベデヘム3を不敵に睨み直す護森の表情には、既に涼しさが戻っていた。
「あ!あれは···!」
先程ベデヘム3を有効射程距離へと誘った護森の動き。宇留には既知感があった。そして今、宇留が抱くこの高揚感。記憶こそ無くても、護森はこの魂のかつての親友だったのだと、宇留の心臓は強く胸を叩く。
ウォオオオオオオオオオ!!!
もはや人型の面影も無い凶暴な声で吠えたベデヘム3は、両拳を地面に打ち付けた。
その瞬間で両腕は末端に向かうに従ってやや巨大化しており、その拳は何度も何度もアスファルトを打ち付ける。
「···!」
臨戦態勢を整える護森がベデヘム3の背後、バトルステージを照らす四駆車の運転手の心配をして、視線を一度運転席に送ったその時。
強い光の向こう。
宝甲のレンズで調光された先に見える運転席に座っていたのは、護森直属のエージェント、駅弁ケ駅 パニぃだった。
だがその慈愛に満ちた眼差しは普段の彼女のものではなかった。
「!」
ハッとした表情で全てを悟り、そのままニコッと頷く護森。
ベデヘム3はそれが合図だと錯覚したのか、ほぼ四足歩行で暴進した。
グォォォォオオオオッッッ!
ヅバガガガンンッッ···!!
閃光と衝撃と轟音が田舎夜道に響く。
その光はストロボのように周囲の山々を照らし上げる。
宇留達が気付くよりも早く、前に踏み込んでいた護森の拳とベデヘム3の拳がカチ合っていた。
まるで振り回すような速さのベデヘム3のパンチに、護森は正確に拳を当てて弾いているように見える。
ヌォゴワアアアアア!!!
ベデヘム3がどんなに気合いを込めても護森のペースは一切崩れないかと思われた。
だが護森の纏う琥珀の鎧が、節々から蒸発を始めた。だが拳速は未だ落ちず、ベデヘム3の拳も正確に打ち返している。
それは護森の琥珀の鎧が、技のエネルギーに変換されている事を意味していた。
「ふァァッッ!!」
ズドドンッッ!!
「ヌオッグッ!」
打撃のリズムに違うビートが一音混ざる。護森はこの凄まじい跳ね返し合いの刹那、一度だけベデヘム3のボディにそのパンチをヒットさせた。
先程のようにオレンジ色の光が体の節々から漏れる。
だがその一撃の対価なのか、背中にある肩甲骨のような琥珀の鎧が片方、大きく砕け散った。
「「マ!ゲンンンンン!!」」
「!?」
もはや仰け反る事を神に誓って拒んだベデヘム3の両拳が、少しの余裕すら無く再び迫る。
シュッッッッッッッッ!
「ふっ!」
即座に足を引いて腰を落とす護森。
その両腕はまるで、既に消えているように見えた。その瞬間。
スパァァァァァンン!!
ベデヘム3の両腕は、激しく打ち返されていた。
同時に護森の鎧も全て砕け散っている。
「ふぅ!」
護森は全ての気を抜いて、その場に立ち尽くす。だがベデヘム3はもう一撃を加えようと右腕を振りかぶっている。
「ああっ!」
「······」
絶望する倉岸と余裕の宇留。
その答えはすぐに出た。
ドドォッッッ!!
···勝負あり。ベデヘム3は拳を付き出したまま、護森が立つ横に前のめりに倒れた。
「ッシャッ!」
太陽の表面。
相変わらず太陽の樹の枯れ枝の先に座るムスアウ·アーカイブは、右手でガッツポーズを掲げた。
何かイイコトでもあったのか?
ムスアウ···
「?」
ムスアウ·アーカイブの頭上、太陽の樹のはるか上、やたら存在感のあるモヤのようなものの辺りから、野太い声が響いた。
「なんだ!ダンナか?」
太陽の樹を見下ろしているその存在。
超々巨大かつ半透明なその線虫のような生物は、太陽が放つエネルギーを少しも気にする事なく上空にいた。
太陽の樹を見下ろす頭部先端の直径は約一万キロメートルに迫り、長さに至っては数十万キロメートル以上であろう。そんな超巨大宇宙生物がムスアウ·アーカイブに向かって、親しげに話し掛けていた。
贔屓の野球チームでも勝ったか?
「まぁねダンナ!私だってたマにゃそんな日もあるよ!」
そうか···。じゃあわかってると思うが、今年もプラズマ少しツマんでってもいいか?
ピン!
「!」
まるで路上ライブの投げ銭のように、ムスアウ·アーカイブの掌に何か金属製のものが落ちてきた。
それは土産物屋によく置いてあるような、指先サイズの剣のミニチュアだった。
ムスアウ·アーカイブはそれを掌でくるみ、平静を装いながら世間話を続ける。
「···いいんじゃない?まぁ、私に断り入れる事じゃないんだけどね?まぁごゆっくり!」
それだけ告げたムスアウ·アーカイブは再び地球方面に向き直る。
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「これは?」
愛···だな?
「ふふっ、愛、ねぇ···」
ムスアウ·アーカイブはそう呟きながら、座ったままで枯れ枝の中に剣のミニチュアを埋めていった。
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