神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

意思無き使い

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 かけがえのない時間。友と語り合いながら眠りにつく。宝石こはくのペンダントから伝わるヒメナの想文こえも織り交ざった不思議な会話。楽しい!楽シスギル!························





      アゲバムベ······
      コンコン

「はっ!」
 寝落ちから小一時間、空気が変わった。枕の下にスッと表面スベスベの厚紙を差し入れられたような感覚と幻聴のような玄関扉のノック。
 磨瑠香の女の勘がギザギザに逆立つ。目が覚める。コー···というエアコンの静風音は聞こえるのに、耳が詰まったように重い静寂で部屋が満ちている。


      あいわなさん···

「!」
 外からかすかに宇留の声がした。
 起き上がる磨瑠香。ルームメイトは全員寝ていて微動だにしない。
 (マルカ?)
 磨瑠香の脳内に、ヒメナの声で想文が着想ちゃくしんした。磨瑠香も復習したての想文で即答する。
 (今の声!、宇留くん?)
 (え!?マルカには、今の変な声がウリュの声に聞こえたの?)

      アゲバムベ···

 一瞬、ヒメナの回答を皮肉マウントと捉えそうになった磨瑠香だったが、場を白けさせた食べ盛りゾンビ、アゲバムベだれか呻き声ねごとが良い意味で気付けとなって、ソウイウイミジャナイデショ?という反省へと磨瑠香を促した。
 磨瑠香とヒメナは再びエマージェンシーモードに戻る為、想文での会話に少々間を置く。
 (······ええ!?違うの?!)
 (電子音声ぽかったし、それに今、磨瑠香達はお互いに名前で呼び合ってるでしょ?)
 (!、た、確かに)
 磨瑠香は心臓の鼓動が早くなるのを感じたが、それが改めて名前呼びを意識したからなのか、急な異変に戸惑ったからなのか良く分からなかった。

 (ね、念の為、もし本当に宇留くんだったら···ヒメナちゃんが必要になったのかも?)
 (···うん···そうね···)
 取り敢えず、様子を伺おうと思った磨瑠香はベッドから起き上がりテラスへと向かおうとした。やけに弱気なヒメナの口調が少し気になった磨璃香だったが、そんな時、スラッとした小声が耳に滑り込んで来て足が止まる。

「···磨瑠香···いま···?」
「!」
 暗がりの中でマユミコ委員長が起き上がり、少々驚く磨瑠香を見ているようだった。そして部屋中の違和感。空調の為に涼しい部屋で、全員が掛け布団を頭まで被り、寝息すら聞こえないかのように少しも存在感が感じられない。そのせいか、今起きている三人以外の各々のベッドは、まるで無人であるかのような雰囲気だった。
「な、なんか変、まさかまた···」
 磨瑠香は少し声のボリュームを上げてみたが、彼女達以外のルームメイトはほんの僅かな反応も示さない。

 コンコン!

「ぅひ!」
 今度はハッキリと玄関をノックする音が聞こえた。磨瑠香は思わず驚く。そしてその大きなノックの音にも反応するルームメイトも居ない事も、彼女の焦りに拍車をかけた。だがそんな中でもマユミコ委員長はベッドから立ち上がり、磨瑠香の背中をポンポンと優しく叩いて優しく呟く。
「大丈夫···」
「え!え!ちょ!マユミコ!」
 余裕綽々よゆうしゃくしゃくで玄関方面へと歩いていくマユミコ委員長。そして躊躇無く開け放たれた玄関の外には、数人の人影があった。
「あ!大丈夫?!」
「わー!みんな!」
 そこに居たのはアンバーニオン軍女子部のメンバーであるイサヤ、薪梨、真矢実、ラーヤ。。
「なんか変だよ~!アゲバムベーってバカみたいな寝言以外みんな動かないように寝てるし!」、と薪梨。
「先生の部屋トコも応答ナシ!ウチの担任せんせいのトコに行ってみない?」、と真矢実。
「まぁまぁ、一旦落ち着いて?」
 マユミコ委員長が両手を広げて全員を囲うような仕草をする。それに従い自然と円陣を組む女子部。
「なんか変な声みたいの聞こえたよねぇ?なんとかさーんって!」、とイサヤ。
「この部屋変なのね?インターホンの音がピンポンじゃなくてノックの音。また変なのになってるの?」とラーヤ。
「や、やっぱり聞こえたでしょ?!」
 マユミコ委員長はラーヤ。の意見を膨らませないようにやや狼狽え気味に同意を求める。気が付けば、夕暮れ後に中々けたたましかった虫の声も止んでいた。

「···」

 玄関扉に張り付いた黒いクラゲ型ビットこと黒疑似宝甲ゲルナイドの分体は、マユミコ委員長を見守っていた。
 クラゲ型ビットは、バンガローの玄関前で作戦会議をする女子部の面々の全視線が玄関から逸れた瞬間を狙い、スルッと音も無く下に落ちると直ぐにフワッと浮かびマユミコ委員長の背中に張り付き直る。ただ掴まるだけでなく、浮遊力を駆使して自重の気配を消し、マユミコ委員長にバレないようにすがる事にも成功した。

 ···この雰囲気においの電波···何処かで···?




「おーいどしたゲルナイド!」

「!」
 
 もし今の声が日本人の人間の言葉であったなら。この声は若い男の粋なイメージの掛け声だっただろう。

 漆黒の琥珀の巨神。NOI Zノイズは、右首筋付近に手を当てながら立ち竦んでいた。
「あ!えっと···!」

 謎の地下空洞。石英のような純白の岩肌は光源を乱反射し、洞窟とは思えない程に明るい。そしてその光源は、等間隔的に通路沿いを行き来するカエルのような怪獣。その怪獣の発光するドーム状の背中だった。他にも洞窟内では岩肌をガキキキキと音を立てて採掘しスペースを整えるビーバーのような怪獣。二足歩行で自分の体よりも大きな荷物を抱えて運ぶ怪獣。そしてケーブルを引きずったり、休憩スペースの整理整頓をするもの等、多くの怪獣達が働いている。
 NOI Zはそんな怪獣達に紛れ、特殊な機材を運搬している最中に足を止めていた所だった。
 洞窟の奥には琥珀色の壁がそびえ、その壁の下部に開かれたゲート前に盛り土で築かれたスロープの上を通って、そこにも多数の怪獣達が出入りしている。

「どしたどした!彼女と想文でんわかぁ?」
「いいねぇ?若いって···ヨッコイショ!」

 特に列を作るでもないペースで荷物を運ぶ怪獣達に冷やかされながら、NOI Zは少しムッとしながら荷物を担ぎ直した。

 





 場面は軸泉市に戻って。

 倉岸とさくらがベースキャンプを張っている廃多目的広場。

 さくらが周辺から拝借した廃材で急ごしらえした焚き火台の上では、相変わらず炎が燃えていた。
 さくらは寝ぼけ眼でテントから出ると、倉岸のテント前に立って怒ったように話し掛けた。
「···んねぇ?何かしてる?夢見が悪いんだけど?」
 一呼吸程の沈黙の後、テントの中から返答があった。
「んん?何にもしてないよー?「俺は」向こうに入れないんだよねー?お手上げ様でーす。トゥフフ···」
「んむぅ!」
 何かを含ませた倉岸の言い回しに、さくらの頬が膨れた。テントの側には貸していた食器がウェットティッシュで拭き上げられ、レジ袋の上に置いてある。さくらはそれを乱暴に持ち上げると、フン!と息を荒げながら一度テントに戻って行った。


〔んん?何にもしてないよー?「俺は」向こうに入れないんだよねー?お手上げ様でーす。トゥフフフフ···〕

 倉岸のテントの中には、能動性存在感迷彩アクティブプレゼンサーカムと、それと連動するタイプの改造されたICレコーダーが一つ、本人の姿は無かった。


 



 古代の森管理事務所の前で急停車した四駆車。その中からわんちィとパニぃ、そして護森が降り立った。
 生徒達の為、夜勤組は交代で待機している筈だったのだが、全員が机やソファーで気を失ったように眠っている。
「···眠っているだけのようです!」
 手分けをして職員の様子を見る三人。女性職員の顔に耳を当てていたパニぃが立ち上がって報告した。
「やっぱり···」
 真剣な表情で手首の琥珀腕時計を見るわんちィ。時計の文字盤に使われていた琥珀がボンヤリと光っている。

「社長、みんな起こしますか?」
 わんちィが護森の前に一歩出る。
「いや、眠っているだけなら、あえてみんなを怖がらせる事はないよ。むしろここに入って来れたというのなら、何か理由があるはずなんだ」
 護森がそう告げる中、パニぃは監視カメラのチェックに向かう。そして異変はすぐに見つかった。
「社長!わんちィ!」
「!」「!」
 パニぃに呼ばれ、集まる護森とわんちィ。一瞬、暗視タイプの監視カメラモニターに動くものが映った。
「次ココです!」
 パニぃが違うモニターを指差す。宙に浮かぶ小型機械が、ヌルーー···と画面内で移動していた。

「ドローン?」

 ···それにしても何故···

 無条件に装備を整えに向かうわんちィとパニぃを見送りながら、護森は考えていた。


 何故あなたは今回こんな事態ことを許したのですか···?











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