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絢爛!思いの丈!
限り無く
しおりを挟むアルオスゴロノ帝国の尖兵、ベデヘム3中枢活動体は、再び探索開始地点に戻って来た。
「またか···」
作戦はまだ日の高い内から始まっていたのだが既に日は暮れ、目印にした不法投棄警告看板は幾度となく繰り返し彼を迎えていた。
ここ軸泉市の特定地域はアルオスゴロノ帝国の者にとって敵地。そしてこの古代の森公園周辺は一般人には手頃な遊歩道なのだが、何らかの悪意ある者には迷いの森と化す一面もあった。
アンバーニオンを始めとする琥珀の巨神の玉座を護る土地神の力は、その公園を含む周辺地域にまで及んでいる。この現象は帝国側の経験則に則り、あらかじめ想定されていた事ではあったのだが、彼の本来の身体である巨大な怪獣の姿でここへやって来たとしても結果は変わらず···という予測パターンにも、不本意ながら納得するしか無かった。
「···与えられた直近のデータよりもこの地域一帯の侵攻者撹乱現象が強化されている···やはり“彼ら„がこの近辺に居るのは間違い無いようだな···」
アンバーニオンのパイロットである須舞 宇留が学業イベントで市内入りしている事も今は把握している。勿論アンバーニオン関連の攻略も重要な事ではあったが、ベデヘム3の今回の目的は別にあった。
年齢学歴経験に沿わない高度な技術が用いいられた装置を駆使し、多数の帝国造反者と同じ要領で暗躍する謎の一般人少年、倉岸 騰の捕獲。
倉岸は通っている筈の学園イベントに何故か自力で、しかも密かに合流しようとする奇妙な行動を取っていた。今回のベデヘム3の軸泉市来訪は、そんな奇妙な北行を敢行した倉岸を追って来た結果に過ぎなかった。そして倉岸には帝国の転生戦士である疑いが、それも帝国にとっての最重要人物、エブブゲガ博士の転生体である容疑がかけられている。
「···成る程、クイスラン様の言う通り、俺では守護域への侵入という幸運までは期待出来ないか?···では目標は何故、守護域とは言えないまでも、我々と違って撹乱現象の薄い場所まで入れた?目標の目的がかつての同級生達にあるのは間違い無さそうではあるが···まさか彼の目的は···!······ぬ?!」
その時ベデヘム3は、目線の上の藪から上半身を覗かせ、こちらを見下ろす白い服の女性に気が付いた。
「?···あの時の!」
辺りは暗く、ベデヘム3の視力でもその女性は良く見えなかった。しかし彼とその女性とはかつて、巻沢市良夢村のコミュニティ施設において扉越しに出会っている。
「···」
不満そうに女性を睨み、ベデヘム3は今来た道を引き返す。そして道端にある立ち入り禁止警告のあるフェンスを余裕でその向こうに飛び越えると、これ見よがしにガサガサと草地を掻き分け斜面を登って行った。
「アイツぁ···!ちょっと行ってこようか?」
「うぅん?まだ大丈夫···」
首を横に振った白い服の土地神である丘越 折子は、まだ人間の女性の姿のままで側に仕えるアッカさんを留まらせた。
クルルと唸り怒気に逸るアッカさんは、バスガイド姿から公私を兼ねているような私服に着替え、ランと目を見開き、若干伸びた犬歯は食い縛った下唇に食い込んでいる。
「だが···!」
「でも分かるでしょ?以前よりもだいぶ弱ってるわね?巨獣体も近くに連れて来ていないし···働き盛りに見えても大分耐用年数を越えてるわ、かわいそうに···」
「ふにゅ!全くセツコさんわ!」
アッカさんが呆れに身を任せると同時に、癇に障る程全身から溢れていた荒々しい覇気が治まる。
「役者はソロッタってトコですかナ?」
「あら!わかってきたじゃない?あのコ達のフォロー、よろしくね?」
「にゅぎぃ···!」
折子は辟易するアッカさんの気持ちを知ってか知らずか、はにかみながら横に居る相方に笑顔を向ける。暗がりではあったがアッカさんの猫目は、いつになくハッキリとそのイタズラっぽい笑顔を捉えていたのだった。
俺はまた夢をみている。
アンバーニオンの夢を見ている。
受け継がなければいけない記憶は、
目の前に山積みになった何万冊の分厚い百科事典のように、
俺を途方に暮れさせ、そしておおいに興味も引くもの。
でもこれはその事典にも無い記憶。
何故かそう感じるんだ。
宇宙空間。
無数の半生物半機械の虫のような敵。
その無数の敵と、分かりやすく気色の悪いデザインの敵母艦が数隻、自分を取り囲んでいる。
地球と太陽を背に宇宙空間に浮かぶアンバーニオンは、単騎で敵の大軍団と対峙していた。
宇留の知るアンバーニオンとは少々雰囲気が違う、怒っているのか若干目付きが悪い。
そんな中、敵機の一番槍が突撃するのを合図に、全ての敵機がアンバーニオンに向かって来た。
ガァウォオオオオオオオオッ!!
アンバーニオンが吠える。
口部宝甲はいつにも増して大きく、顎よ外れよと言わんばかりに大きく開かれている。
カキシッッッ!!
アンバーニオンの両肩の琥珀柱。
内側に向かってしなるそれらの両先端が、閃光をイメージさせる軽やかな音と共にかち合い半円を描く。。
その半円の中心部にあるアンバーニオンの顔。顎が目一杯開かれている口部から光と圧力が溢れた。
ギュドンッッッッ!!!
青翠色のビームか粒子砲の類だろうか?
その閃光に飲まれた小型の雑兵達が問答無用で消滅する。
その衝撃は、額に触れた冷たい感覚と共に、宇留に深夜の覚醒をもたらした。
「んぇ?」
額の冷たい感覚の正体。
それがペットボトルの底であった事に気付いた宇留。
壁の下部に等間隔で設置されている常夜灯に浮かび上がった特徴的な影を見た宇留は、それが親友の五雄である事にすぐ気が付いた。
「ぅなされてったヨホ···」
かすれた寝惚け声で宇留に囁く五雄。
「んくぁ!ごめん···」
同じくかすれた小声で応える宇留。いつの間にかルームメイト全員は就寝していた。何故か宇留にはベッドに入った瞬間の記憶が無い。宇留が寝惚けたせいだと思っていると、五雄は冷蔵庫から出したばかりであろう、うなされていた宇留の気付けに使用した水のペットボトルを枕元にそっと置く。
「大丈夫ふねへ?」
五雄は暗がりの中で大あくびをしながら、自分のベッドに戻って行った。
「ぁぁぁりがと···」
宇留は五雄に礼を言いながら上半身を起こす。そして暫く両掌でペットボトル表面の冷たさを堪能しつつ、その場で飲むか否か悩む。そして片手が勝手に手探るように、枕元を行き来する。
「···は!」
宇留はつい普段通りのクセでヒメナの所在を確かめようとしてしまった。
自分に対してバツが悪くなった宇留は起き上がると、ペットボトルを持って夜中のテラスへと静かに歩を進めた。
外の空気は程よく湿り気を帯びた適温で、都内のような熱帯夜でも無ければ晩秋の夜の寒空でも無い。
加えて、一ヶ所に同級生ほぼ全員が集まって寝泊まりしているという林間学校特有の不思議な雰囲気が辺り一面に漂っていた。
宇留はペットボトルの水をちびりちびりと飲みながら、もの思いに更ける。
スマホの画面を開くと相変わらず通知の山だったが、予め設定しておいた緊急用アイコン表示のものは無かった。
「!」
かすかに聞こえた。恐らく同級生の女子の声。
女子が使用しているバンガローの並びはここから少し遠くにあるので、雑談が部屋の中から漏れ聞こえたという可能性は少ない。様々な状況が想定されたが、いたいけな思春期の少年の予測に真っ先に登場したのは、あらぬ妄想だった。
「!ーーーー」
熱くなる首筋と、余計な考えを払拭しようとする宇留に再び声が届く。
···
「!!、ま、磨瑠香さん?」
その声が磨瑠香であると認識した宇留。しかし彼の心境に溢れたのは、途方もない違和感だった。
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