神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

涼し夜曲

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 宇留達が泊まっているバンガロー9号棟、うぐいす

 宇留達のチームであるウグイス班は他の生徒達の例に漏れず、就寝前の自由時間を思い思いに過ごしている。
 開催予定のクラフトワーク体験の為、配られたプリントにデザイン案を書き込む男子生徒や、塾の課題に取り組む宝来くん。ベッドに横たわり、スマホ片手にうとうとしている生徒や、休憩室サロントークから戻って来ない宿里。そして···

「なぁ、やっぱりパリパリ薄切りカボチャ素焼きと素揚げパプリカのトッピングは外せないかなぁ?」
 テーブルでうぐいす班カレーのレシピをチェックしていた夢令は、同じテーブルの反対側でスマホカメラの写真を眺めている五雄に訊ねた。
「······肉大好きなキミが···もしかして試食で女子ウケ狙いですか?僕は一年の時のバーベキュー食い尽くしのウラミを忘れませんよ?」
 据わった目の五雄はいつになく尖った口調で応えるも、その鋭さは彼が披露した其処には無いメガネを、まるで其処にあるかのように指で押し上げる仕草マネ。「エアメガネクイっ!」で台無しだった。

「!、そ、ソソソ!そんなんじゃねぇって!」
「本当は?」「ぅぐぅ···」
「でもパプリィカとか洒落たのあるかな?」
「あるんじゃない?ここは先生が言うにはそんじょそこらの宿泊研修の施設とは次元が違うって言ってた」
「後は宇留の言っていた簡単スペシャルブレンドルーが勝利の鍵だぜ!後は宇留の姉ちゃんが密かに届けてくれるその大いなる力を受け取れるか否か···」

「「フッフッふ···」」
 
 誰彼構わず、しょうもない会話が飛び交う9号棟。その会話の合間に夢令はスマホをチェックする。
「?、須舞から返事来ねーな?まさかデートか?」
 夢令のその言葉に、全員が口元に片手を当てて恥ずかしがる。

 ガラッ!

「ぅお!」
 夢令が大袈裟に驚く。唐突に宇留が大窓の網戸を開け、テラスから部屋の中に戻って来た。宇留は虫が室内に入らないよう、振り返ってピシャリと迅速に網戸を閉めた。
「び、びっくりしたーー!」
「?、あ、ごめん」

「あれ?さっきテラス見たのに須舞居なかったよね?地面まで段差結構あるのに音もしなかったし···」

 夢令の疑問が小声過ぎて聞こえなかったのか、入ってきた大窓を見た宇留は、そのまま全員に向かって質問をした。
「窓はどうする?閉めよっか?」
「いや···!ねぇ?みんな」
 五雄が同意を纏める為に部屋の全員を見渡す。
「このままー」
「うん、本当に気温天然エアコン、さすが北国」
「暑いっちゃ暑いけどこれはこれで悪くないかな?」
「うん、先生に言われた通り、クーラーは寝る時でいいよ?」

「はーい」
 一通り聞き終えた宇留は、勉強を続けている宝来くんを見て、あっ!と何かを思い出した顔をした。
「そうだ!なんか食堂でお勉強夜食を用意してるってよ?」
「え!ウソ!」
 何故か夢令の目が輝く。
「俺も見た事無いんだけど、揚げバムベ?三十食限定だって」

 ドタドタドタドタ!

「あーあ!ちょ、ちょっと!」
 宇留が言い終わるや否や、何故か全員が9号棟を出て食堂兼サロンへと走り出した。
 図らずも食べ盛り達を玄関まで見送る形となった宇留は、ゆーーっくりと上を向く。
「!!!」
 玄関の天井に不自然に設置された監視カメラのような黒いドーム状の物体が、宇留の視線にビクッと反応する。アンバーニオンの宝甲の力を習熟しつつある宇留には、その正体などはどうやらお見通しのようだ。
「なーんだ!来てたんだー!」
 宇留は満面の笑みで黒い監視カメラに手招きする。
 監視カメラは少々逡巡していたが、やがて諦めたように宇留の懐にボスッと落ちて来ると、そのまま宇留のポケットに仕舞い込まれてしまった。





 その頃I県、徳盛市の外れの某所。
 とある施設。

 山石 照臣は、博士っぽい胡散臭そうな老人に付き添い、研究室のような部屋に入った。
「しかしおみぃ!林間学校抜け出してホントに大丈夫だったか?」
 照臣に声を掛けた博士っぽい老人は、ステンレス台の上のものを片付けながら照臣から巾着袋を受け取り、中に入っていたアルミホイルでグルグル巻きにされた物体をゴロンと台の上に転がした。
「大丈夫!I県こっちに親戚居るコ達が何人か抜けてるからオレもモレナク···」
「しょかしょか!」
 博士っぽい老人は口角だけで笑いながらアルミホイルを物体から剥がしていく。
「!」
 アルミホイルの中から現れたのは以前、照臣が都内で追っていた不審人物が証拠隠滅の為に放棄し自爆させた小型機械、その残骸だった。
「こりゃあ···」
 博士っぽい老人は、しばらく角度を変えながら所々焦げた機械を見ていた。
「こりゃあ、やっぱり、おみぃさんの言う通り存在感系迷彩っぽいだな?だが的確だが雑な造りだなぁ?まるでプロの突貫工事みたいだ?」
「突貫工事でそんなトンデモ機械が作れるんですか?」
「おぉ···要所要所の難知識と激レア素材さえあれば工業高校生でも作れるらしいぞい?」
「へぇぇ···」
 博士っぽい老人は相変わらず物体を眺め回し、穴の空いた部分から落ちて来た黒い塵を手で払ったりなどしている。
「ヴわぁっは!ゲホ!、ああ、じゃあ受け取りました。詳しいといってもなんてことァ無い結果は後で、今から自動操縦の車で軸泉まで送迎さおくらせよう」
「どーもです!先生!」
「おみぃ、少し気にせぇよ?もし林間学校までこいつらが付きまとっていたと、したら?」
「はーい!チュぅス!」
 照臣は指先で帽子の鍔をクイッと上げて笑顔で会釈し、この施設のガレージに急いだ。
 






「そっちはどう?」

 忙しくて片手間なんだ。常に対応は出来ない。しかし約束を果たす為、様子だけ見ておきたいと思ったからな?

「ハイハイ!そういう事にしておきます···あ!委員長だ!」

 !!!

 分かりやすくポケットの中で監視カメラの【鼓動】が跳ねた。

 宇留はルームメイト達を追って食堂への通路を小走りで進んでいた。
 雨避け屋根のあるコンクリート敷きの屋外通路だったが虫も少なく、通路周辺の庭園を照らす照明は湿度を含んだ夏の夜霞にボヤけ、少し大人っぽい雰囲気を滲ませている。

 そんな通路の角を曲がって来たマユミコ委員長が宇留とすれ違う。
「あーっと!須舞くん!お部屋のナンバーキー!言わなくていいから頭で思い出して復習!」
 マユミコ委員長は小さいレジ袋に入った何かを片手に持っていた。恐らく噂の揚げバムベを無事ゲットし、部屋に戻ってみんなで勉強しながら食べるのであろう。宇留は言われた通り、バンガローの入口オートロック解除のナンバーを思い返すフリをする。
 上を向き、右手の人差し指を前後に四回振る宇留に少しウケてしまったマユミコ委員長がニコッと微笑む。
「オッケー大丈夫ね?おやすみ!」「っはい!···あ!」
 何気ない会話でその場は治まる筈だった。宇留は片手をポケットに突っ込み、先程の黒い監視カメラを取り出そうとした。
「あ!ちょっと待って委員長!あれ?!この!」
「!!!、!!」
 宇留の意図を察した監視カメラはポケットの内側に張り付き、無言の抵抗を試みる。
「ちょ!!恥ずかしがるなっ!張り付くなって!」
「??」
 マユミコ委員長は、不思議そうに宇留のポケットから手が抜けないパフォーマンスを見ている。しかし諦めたのか、監視カメラはスポッと宇留の手の引き抜きに応じた。
 宇留はニコニコしながら手に持った黒い物体を眺めている。
「ふーー、ハイ委員長、お守り!」
「?」
 宇留の手の中には、黒い光沢を持ったデフォルメ体型クラゲのオブジェ、疑似黒宝甲ジェッティオンビットが収まっていた。
「!ーーわ!わーー!」
 マユミコ委員長はクラゲ型ビットを受け取りながら全てを察した。表面には疑似黒宝甲ジェッティオンの主、アラワルの感情を露骨に表現したキャラクター風の目が、恥ずかしそうにマユミコ委員長を見つめている。
「連れて来てくれたんだ!ありがとう須舞くん!···エヘヘ···かわいい!」
 マユミコ委員長はクラゲ型ビットを抱き寄せ、頭を撫でる。そしてキャラクター風の目が露骨に照れて散眼する。だが甘い時間はすぐに通り過ぎた。
「じゃあ、準備サボった分、私達のお部屋のドアに張り付いてお守り、門番お願いね?キミィィィ!言っておくけど!女子のお部屋だから中には入れないよ?」
「!!!」
 クラゲ型ビットの目が驚愕に見開かれた。そして宇留を続けて睨む。
「カツカレーさまでしたーー!おやすみ~!」
 現の視線に気が付いた宇留は、そそくさと其処から走り去っていった。


············くっ!須舞 宇留!お前というヤツは!!」


「はーい!私達も一緒に行こうねぇ?」
 マユミコ委員長はクラゲ型ビットのスベスベした頭を撫でながら自分達のバンガローへと戻って行った。
 頭を撫でられた感触に陥った現は、そのまま玄関の外側に飾られるまで、黙っている事しか出来なかったという······








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