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絢爛!思いの丈!

定 時 連 絡

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 宇留のスマホに届いた差出人不明の一通のメール。

 メールには、宇留達が宿泊しているバンガローの並びの端を更に進んだ歩道の脇にある公衆トイレ、その裏にある扉を開けて進めと表示されていた。
 バンガローにはそれぞれトイレが備え付けなので、わざわざその公衆トイレを使おうとここまでやって来る生徒の姿は無い。
 バンガローをこっそり抜け出した宇留が公衆トイレ裏の扉を開けると、そこには下へ続く階段があった。オートロックの音を背に、必要最低限の照明で照らされた狭い階段を下りて行くと、すぐに明るく広い踊り場に辿り着く。どうやらここから先は中々に広大な地下施設があるような。そんな雰囲気が漂っている。
 恐る恐る先に進もうとした宇留を、スマホの着信音が呼び止めた。宇留が幼少期に大ヒットしたガムのCMで使用された楽曲。宇留はそれだけで、通話相手が誰か察する。
「共上さん!」
 そして宇留は、踊り場の監視カメラが自分を見ている事にも同時に気が付いた。

『わざわざごめんね?今、大丈夫?』
「はい」
 宇留は監視カメラに向かって軽く手を振った。
『そりゃ結構!定時連絡なんだけど、なんか変わった事あった?』
「うーーん···こっちは今の所、特に···」
 共上は、宇留が少し長く考えていた様子をみて、何かしら引っ掛かる事があるな?と予想したが、あえてそれを汲む事まではしなかった。宇留の事は護森達のチームでもある程度把握しているだろうし、何よりゴノモリリゾート旧館付近は、軸泉市の中にでも土地神の守護が比較的強く作用している場所なのであろうと思ったからだ。
『···旧館そこは護られてる。よっぽどの事が無い限り、君もお友達も大丈夫だと思うよ?』
「はい!ありがとうございます···あの、そっちは···何かありましたか?」
『うーん、戦闘二件と、作者が無数のダニ軍団の襲撃を受けて参った影響で今週はボリューム不足って所かな?こっちはおニーサン達に任せて!楽しんどいで!君もこの時期の草むらには気をつけるんだぜ?』
「はい、なんかすいません···」
『いいっていいって!これでも最近奴ら、大人しい方なんだなぁ?』
「そう···ですか···嵐の前の、静けさ?でしょうか?」
『ぅワオ!怖い事言うね!···んじゃ!大丈夫ならいいんだ!まだ後始末がまだあるからこの辺で!また何かあったら連絡よろしくねーー!お休みーー!』
「はい!ありがとうございました」

 ······

 

 
 
 共上は、星空の砂浜で携帯電話の通話ボタンをオフにした。すると、さざ波の音を遮るように、背後に膝立ちで待機しているロウズレオウからスフィの声が響く。

〔大人しいってよく言ウワ!〕

 共上達の居る無人島。今は暗くて良く見えないが、島中には五十機以上の量産型エガスデライガの残骸が横たわっている。
「ごめんねスフィさん。さすがに疲れたよねぇ?でも出来れば、さすが察する王子様の夏休みまでは潰したくなくてさ?"ーー!あ!!」

 背伸びした共上は、波打ち際の遠くから音もなく上陸しようと歩み寄って来るガルンシュタエン ティアザのシルエットに気付いた。頭角が夕暮れ直後の星空に揺れ、何故か巨体が掻き回す波も穏やかで静かだった。
「あの巨体でよくもまああんなに静かに···おーい!お疲れー!」

〔ゴライゴ様直伝!波を起こさないコツがある!〕

 ガルンシュタエン ティアザからガルンの声が響く。
「あーー!そーですかー!なんとも無いーー?」
 共上は両手を口に当ててガルンシュタエン ティアザに向かって叫ぶ。すると今度は、パイロットであるエシュタガの声で反応があった。

〔共上さん···さっきの巨獣ベデヘム部隊の中に···〕

「ん?」

〔意識を切り替える個体が一体居た···恐らく奴···奴だ···!〕

「?、奴!?」







 監視カメラがキシュ!と音を立てて角度が定位置に戻る。撮影中の赤ランプが消灯し、どうやらこの監視カメラは撮影を停止しているらしい。

「?」
 宇留はスマホの通話アプリを閉じながらその過程を眺めていたが、地下施設の奥が気になって下に向かう事にした。もう一フロア踊り場から下ると、すぐ目の前に丁字路が現れた。
 その突き当たりまで進んだ宇留の視界の両端には、無限に続くのではないか?という程の明るく長い廊下が続いている。
 宇留がその静かな圧迫感にボーッとしていると、いきなりスマホにメッセージが届く。

 ピヒン!「!!」

 今どこ?

 送り主は夢礼だった。ルームメイトのみんなが、宇留が抜け出した事に気付いたようだ。


 宇留は少々名残り惜しかったが、そそくさと階段方面に戻り始めた。そして後になって、明るかった無限廊下に照明らしきものがなかったと気が付く事になる。そして次の瞬間。宇留は何故か、抜け出したバンガローのテラスにいきなり立っていたのであった。












 



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