神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

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 ゴノモリリゾート旧館、古代の森に程近い森の中。
 獣道と化した古い遊歩道を進んだ先に、かつて何らかの用途で切り開かれた平坦な土地があった。
 その土地の端と端に張られた二組のテント。日が暮れなずむ時間帯にあってどちらも火を焚いているが、土地を囲む濃い繁みが影となってゴノモリリゾートからはよく見えない。
 一方のテントでは、磨瑠香達に接触した謎の少女がランタンの灯りを便りに夕食を作っている。
 もう一方のテントでは、小鍋の中で沸いているお湯の中、レトルト食品がグラグラと震え煮立っているが、簡易テーブルの側にある折り畳み椅子の上には【誰も居ないように見える】。その無人に見えるテントの主は、後からやって来て、わざわざ自分の拠点の側に陣取った少女をひどく訝しんでいた。
 少女はメスティンで調理した白米を、スプーンを用いて紙皿の上にヴォスンと落とし、一回り大きいもうひとつのメスティンで作ったカレーを少し乗せてスプーンで一口頬張った。
「ファボフス!むっ!ムーーン!」
 謎の少女作のカレーライスは相当旨かったようで、少女は片手を頬に添えて心から微笑んだ。

 な?なんなんだ?

 無人に見えるテントの主。倉岸 トートは、謎の少女を訝しむと共に最大限の警戒心を抱いていた。
 彼は自ら製造した存在感迷彩系装置で自身の存在意義を現実からほぼ完全に遮断し、周囲の生物に対し目視での認識すら不可能にしている筈だった。迷彩装置の弱点として、自ら声を発したり物音を立てたりなど、存在感をアピールすれば装置の効力は低下してしまうが、その配慮すらまるで意味を成さず、謎の少女によるT都からの完全ストーキングをここまで許してしまった。

 ク、グ~~···

 謎の少女への警戒心からか、レトルト食品を鍋から上げあぐねていた倉岸の腹が鳴る。

 チッ、これだから食べ盛りの体は···

「おっ分け!食べりー?」

「なッッ!!!」
 倉岸は声に出して驚いてしまった。
 謎の少女がいきなりカレー入りのメスティンを持ってすぐ側に現れただけでなく、やはり迷彩装置の効力を無視して完全に自分が見えているのが明らかになった。
「そんなにびっくりしなくても、でもやっぱ東北はこの時期でも涼しいね?都会住みや南住みだとより実感するよね?」
 謎の少女は取り分けスプーンを中に突っ込んだままのカレー入りメスティンを簡易テーブルの上に置き、倉岸のトング使って湯煎中のパックご飯を一度引き上げて様子を見た後再び湯の中に沈める。倉岸の焦りは頂点に達し、思わず声が裏返る。

「ッッ!なんだお前は?!何が目的だ!」
「その言葉、そっくりそのまま返す。あなたどうやら、私と違ってこの辺りを守ってるヒトの結界に阻まれてこの先近付けないんでしょう?」
「な!、何故それを!」
「でも時間が無いのは、私と一緒ね?」
「!!!」
 謎の少女は倉岸の視線を更に鋭い視線で押し返す。物理的にではなく、認識の上で“透明„になっている倉岸の顔が強張る。
「私というかこの·、このレトルトカレー好きなんだ。もうこっちの口になっちゃったから私のカレーと交換ね?自慢じゃ無いけど美味しいよ私のカレー。食器はレンタルだから後で返してね?あち!あちち!」
 謎の少女は勝手に倉岸とのカレー交換をとりつけ、トングで倉岸のレトルトカレーを引き上げてフチを持ち、自分のテントに戻っていく。倉岸は何故か動けないでいる。



「さくら···」
「!」
 背中を見せて立ち止まった謎の少女は、またしても唐突に何事か呟いた。完全に気圧された倉岸の肩が僅かに跳ねる。

「今はそんな名前でいい···頑張ろうね?お·互·い」

 おそらく偽名ではあろうが、さくらと名乗った少女は再び歩み出した。

 空は夜に向けてその暗さを増していく。暗い空の青が濃い紫色に変わる頃、ヒグラシ達の本日の合唱は終了に近付いているようだった。







 
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