神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

四 爪

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 磨瑠香を見付けた音出は、満面の笑みを浮かべて彼女に突撃してきた。
 まるで猛禽類の狩りのような、音も無ければ殺気も無い踏み込みに戸惑った磨瑠香は、ほぼ棒立ちで音出の圧力ハグを受け入れた。
 しかし磨瑠香も若輩者を自認しているといえど格闘技経験者である。相手の穏やかなオーラに惚け、初対面の相手に全く受け身を取る事すらままならなかった事実は驚きを抵抗感に変えた。しかし断固拒絶するほどまでの激しさを覚えた訳でも無かったのもまた事実で、磨瑠香は乱暴になりすぎないように気を配りながら、スルスルと音出の懐合間から顔を引き抜いた。

「ぷはっ!」

「「うおーー!」」
 第二資料館に向かった筈の男子達が振り返り、音出を待ちながらその光景に歓喜していた。
「コラーー!見学なら早く見てコンカーーー!」
 怒って声を張り上げるマユミコ委員長の後ろでは、磨瑠香と肩を組んだ音出が相変わらずの笑顔で手を振っている。男子達は「はぁあーーい!」と気色の悪い声で音出に返事を返すと、両拳を腰の脇に添え、整列して資料館のエントランス方面に向かって走って行った。
「···もう全く!すいません!ウチの男子が···」
「いんやいんや!元気があってよろしいですのん?···あ!妹ちゃん!お兄様にはいつもお世話になっております!」
「?!」
 恐縮するマユミコ委員長に続いて、音出は磨瑠香に向き直った。兄であるヨキトの名前が出て初めて、目の前の制服の女性が兄の仕事関係者だと悟る。そして照臣をはじめ、女子の中でも磨瑠香の兄ヨキトを知る生徒は成る程!と、納得したような表情を浮かべていた。

「あぁ!おニィの仕事先のヒト?!えっと?お会いするのはじめてでしたよね?」

 あ!!

 ネームプレートを見せて磨瑠香に自己紹介している音出達から視線をはずした宇留とヒメナは、しまった!と言いたげな表情で虚空に心当たりを散らす。そんな宇留を見ていた照臣は、宇留に再び耳打ちをした。

                    だからさ!お色気禁止じゃなかったのかって!
「あ!そうだよ!もう!ちょ芋多可ポテト!ちょ!執筆止めて!」
「え!?いや?!」
「ちょ!みんなごめん一回!ごめん!いいから止めてって!···」
「うわ!マジだったのかょ!副座長!」

   ·
   ·
   ·

 しばらくお待ち下さい。

   · 
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   ·
 
 ※本文中、普段よりも更にお見苦しい点がございました。
 謹んでお詫び申し上げます。それでは続きをご覧下さい。


「···ハイ本番···ヨーイ!······スタぁ!」


 相変わらず人気ひとけの無い資料館の受付で、チョコンと座っている鈴蘭のスマホに隊内SNSの着信があった。

 おとで : おいさわさーん!今から臨時でお金持ち微少年の団体さんが行くのでよろしくですん。なんでもバスが一時間遅れてるらしくてん。ヌヘヘン···

 タシー : 了解しました。いくらお金持ちの子でもですね?ウチの入場料はリーズナブルなんですよ···
「っと···」
 ···音出さんって端末への書き込みにも、語尾に「ん」を付けるんだな?まぁタシーもヒトの事言えないケドも······っていうか多分バスの遅延も音出さん“達„のイタズラっぽいよね?···えーと、衣懐学園、御一行様、でしたよね?、ポチポチ···宇留くんも、来ますか、っと。

 おとで : 残念!ウリクンはこの間見学したばっかりなので来ません!鈴蘭さんによろしくとオッシャッテオリマシタン!残念!!残念!!

 な!ざ、残念!?!?、ざ、THE!ッッッ!た!た!タシーの推しはルイくんだけですとも!そ!そんな趣味はナッシん!···

「あの~?」
「うえわ!!」
 五雄が鈴蘭に声を掛ける。いつの間にか受付の前には2ーBの男子達が集っていた。換気の為に自動扉を一時解放していた為、考え事をしていた鈴蘭は生徒達が入場した事に気が付かないでしまっていたらしい。
「あ!ハイ!い、いらっしゃいませン···」
 鈴蘭はスマホを裏返して机上に伏せると、大急ぎで受付を開始した。




 同時刻。
 I県簑辺みのへ市。

 I県最北端の新幹線駅に間も無く到着する下り新幹線の車内では、荷物を纏めた降車客がまばらにデッキへと向かいつつあった。
 その中の一人、首から琥珀と根付けのペンダントをぶら下げた制服の少女は、不自然に空いている席を見つけると一瞬立ち止まり嘲笑うような仕草をその席に向ける。

「ん?!にぃぃ···!」
「ビクッ!」

 比較的混雑している自由席、だが誰も居ないように見え、そして何故か誰も座ろうとしない奇妙な席。
 その席で、見えない誰かが驚き肩を震わせる。
 だが少女はその気配の正体を暴く事なく、減速する新幹線の慣性力を楽しみながら踊るように歩き去って行った。
 





 アルオスゴロノ帝国の本拠地、居城エガルカノルの最下層。

 表面にBEDHEMと文字が描かれた巨大なタンクが連なる薄暗く広大な貯蔵庫の更に奥。
 禍々しい気配を放つタンクの上で、滑車とチェーンブロックの中を滑る極太の鎖を操るベデヘム3中枢活動体は、タンクのメンテハッチの下に伸びたフックが持ち上がってくるのを待っていた。
 キャリキャリと鎖が擦れる音だけが響く中、やがて片手で鎖に掴まった青年の姿が現れた。
「···」
  押し黙っている青年の姿が徐々に明らかになってくる。肩から上は普通の人間のような整った姿をしているが、鎖骨から下は怪物のようなヘドロ色の筋張った皮膚に覆われている。背は高く、華奢ではあるが、ひ弱さは微塵も感じさせない気迫が体の節々から溢れていた。
 青年は足の爪先まで引き上げられたタイミングでズトンとタンクの上に降り立った。モンスターのように伸びた足の爪がガツンとタンクの鉄板を叩くようにめり込む。そして怪物の青年は一呼吸置き、ベデヘム3に声を掛けた。
「やぁ!兄者、久方ぶり!」
「···確認する。お前はベデヘムフォー中枢活動体、シヅメか?」
「相変わらずカテぇのな?兄者は、そうですよ?フククク···」

 ゴフォフォフォ···

 青年、ベデヘム4のシヅメと呼ばれた人物が笑うと同時に、タンクの内部からも野太い笑い声が響く。
「兄者、俺を起こしたって事は、エグジガンちちうえは仕掛けるつもりかな?」
「···そうだシヅメ、お前はこれよりクイスラン様の元で最終調整を行ったのち我々ベデヘムの軍団を指揮して前線に出て貰う事になった」
「相変わらず直でのお目通り叶わずか?出生からだいぶ経過してんだろうたつのに対俺の不協和音対策もしてないとは···」
「言葉を慎め」
「ハイハイ、で?兄者はこれから?」
「···“雑用„だ。笑ってくれ」
 ベデヘム3はシヅメにそう告げると、踵を返しタラップの方へと歩き始める。シヅメはベデヘム3を見送りながら、腰に両手を当てて顎を引いて鼻でため息を抜く。
「ふぅ···もしあんたまで使えなくなったら···」
「?」
「イチアニとニアニと同じく笑わないでおいてやるよ?」
 ベデヘム3は振り返らずにその言葉を聞くと、タラップを使わずにその場で跳ね上がり通路へと着地し自身に命じられた任務に向かう。
 シヅメは片手で後頭部を揉みながら、暗がりに“兄„が消えるまでそれを眺めていた。







 ようやく到着した護ノ森リゾート行きのバスに乗り込み始めた2ーBの生徒達。
 だが磨瑠香の心境はザワつきはじめていた。
「まさか···まさかまさか!」
 ヨキトに彼女がいるらしいという点と、今日会った音出という点の間に不確実な線がボヤけながらフラフラしつつある。磨瑠香は若干よろめきながら荷物をトランクルームへと押し込む。
「まさか!おニィにまさか!あんな美人が?まさか···ウソ···ブツブツ···」
「大丈夫?」
「!」
 そんな磨瑠香を心配した宇留が横に立っていた。磨瑠香が宇留の声にハッと気が付くと、他の生徒達は大方乗車を完了していた。バスの入り付近を見ると、マユミコ委員長はバス移動中のレクの簡易最終打ち合わせをアルキ先生と交わしている。
「ンドゥアドゥア!ドゥあい丈夫!大丈夫!」
 慌てた磨瑠香はトランクルームのハッチを閉めようとノブに手を伸ばす。
 すると横からそれを手伝うように、バスガイドの手が伸びてきた。
「手伝ぃますニョ!」
「「ニョ?」」
 磨瑠香と宇留がバスガイドを見る。二人には一瞬、目の前に居る目の大きな美人バスガイドが、猫目のカラーコンタクトを付けているだけのように見えたがそれは違った。
 バスガイドはハッチをバズンと閉め切るとニヤリと微笑み、唐突に宇留の脇腹をくすぐり始める。
「ご乗車ありがとうございましゅにゃしゃしゃしゃああァ!」
「ぅあははは!ま、ましゃかあなたはー!」
「えーー!!」

 じゃれながら笑う宇留と驚く磨瑠香。バスガイドの正体について、二人には心当たりがあった。






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