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絢爛!思いの丈!
ひとっとび
しおりを挟む「···了解です。···あの?機長、アンバーニオンと並びまであとギブアンドテイク三分です。その際になりますが、生徒さんの機体片側殺到に念の為ご注意願いますね?···その後、不思議な事がある···かもしれませんが、そちらの方はアンノウン扱い同様他言無用で···」
「···か、かしこまりました」
インカムを軽く耳に押し当てながら早口で捲し立てるサングラスの女性から指示を聞いた機長は、副機長と共に接近に向けた状況の再チェックを開始する。
A県、三螺旋空港行きチャーター機。
コックピットのサブシートに座る等和田 圭子は少し前のめりに浮かせていた背中をシートに戻し、機長と副機長の様子を眺めながら一度リラックスした。
衣懐学園中等部二年生。特別林間学校当日の旅客機内。
関東から東北への比較的短いフライトではあったが、生徒達は大いにはしゃぐでも無く、各々が思い思いに大空の旅を楽しんでいた。
「さっき雲の向こうに戦闘機飛んでた!警戒中なのかな?やっぱり情勢ヤバいのかな?」
「また?やっぱり多いよね?」
「もうI県の上だって!早!」
「つーかさ!林間学校で飛行機ってヤバくね?修学旅行レベルじゃん、俺ら思ったよりお坊ちゃんお嬢様だったのかな?」
「修学旅行は海外よォ!国内なんてねぇ?···」
「······」
そしてとある席には五雄と巨大宇留が座っている。五雄は無言で座る巨大宇留をチラチラと気にしながらついに気になっている事を告げた。
「···あのさ?やっぱ宇留今日デカくね?」
「え?そ、そかな?キアツのせいじゃナィかな?」
「···」
少し困った顔でとぼけた巨大宇留は会話をそれだけに留め、再び仏頂面で前に向き直った。
照臣はもう気が付いているようで、ノリ了解の笑顔をアイコンタクトで巨大宇留に送っている。
「だ れ ? !」
その一方で驚愕の表情を浮かべて巨大宇留を疑う磨瑠香やイサヤ、他の生徒もいたが、夢令をはじめ全く巨大宇留の正体に気付かないクラスメートも居た為、アンバーニオン軍の間には微妙な緊張感が漂っていた。
「あ!アンバーニオンだ!」
「「え!」」
窓の外を見ていたマユミコ委員長は、旅客機に追い付いてきた琥珀の巨神、アンバーニオンを目撃して壱早く声を上げた。生徒達の殆どが反応し、案の定客席の右側に殺到しようとするも、教師陣の「座ってなさい」の軽めの注意を真に受けた生徒の大半がその指示に従う。
「あ···!」
窓際の磨瑠香の視界にも、飛行するアンバーニオンが飛び込んで来た。
全身の琥珀宝甲が太陽光を鮮やかに乱反射し、そして時に透過して、遮る物の無い高空に現れた非日常は、磨瑠香をはじめとした乗客の美観を沸々と満たしていく。
!、そういう事ね?
その時、現在のアンバーニオンパイロットについて納得した磨瑠香は、腕を組んで寝たフリをしている巨大宇留を見て一人納得していた。
アンバーニオン軍の面々も、「アレ?」と数人がアンバーニオンと巨大宇留を疑いの目で交互に見比べていたが、どうやら決定的な確信には至っていないようだ。
「あァ!」
アンバーニオンは並んだ旅客機の方を向き、右手の人差し指と中指をこめかみからピンと弾いて挨拶を贈る。それに反応した一人の女子生徒が声を上げた。
「わー!キザなの!」「乗ってる人?宇宙人?カッコつけだ!」
そんなクラスメートのコメントに「ぷフフ!」と思わず吹き出す磨瑠香。
ヒメナはその時のアンバーニオンの視界をスクショして保存。旅客機の窓の向こうであどけなく笑う磨瑠香を拡大して高画質化したのち切り出し、その写真を宇留のスマホに転送した。
スマホの通知に気付いた宇留は、画面に表示されたタイムラインのサムネイルを見て驚く。
「···すごい!こんな事も出来るの?」
「うん、あまり使ってない機能だったけど···使える内に使っておかないと。後でちゃんとマルカに送っておいてね?」
「!」
そんなヒメナの言葉に宇留が申し訳なさそうにしていると、ヒメナは急かすように宇留を言葉で突ついてきた。
「ほら!もうすぐ着くよ?ヴァエトが待ってる!」
短期自動操縦帰還シークエンスモードになったアンバーニオンは、クッと体を翻し、やや加速しつつ降下していく。そして切れ切れになった雲の隙間に潜り、やがて流珠倉洞上空で誰にも見えなくなった。
「あー!もう飛んでったの!」
「えぇ!もぉーーー!?」
「写真取れなかった!こんな時に限ってカメラ変だし!」
「へぇ···あれ?」
アンバーニオン騒動でざわめく機内。五雄は巨大宇留が席に居ない事に気付いた。
「トイレかな?···せっかく」
その時、ざわめきに搔き消されそうな音量で機内にアナウンスが響いた。
ポーン!〔ご案内致します。お騒がせ致しました。現在の飛行物体とのニアミスにおきまして、運航には全く支障はございませんのでご安心下さい。続きまして、窓際の皆様、下に見えますのが、I県で最も高い山、上居脇山、上居脇山でございます。当機はこれより徐々に高度を下げまして、目的地、三螺旋空港に到着の予定です···〕
パシュ!
巨大宇留がボタンでトイレの自動扉を開くと、そこにはもう既に微笑んだ宇留が立っていた。
「席、Dの○○でカワリナシ」
「はい!ありがとうございました!」
「おぅ!」
笑顔で軽いハイタッチを交わし、自動扉の敷居の上で入れ替わる宇留とヴァエト。
この時、通路の監視カメラには小型の黒いクラゲ型ビットが張り付き、交代の記録を一時的に妨害していたのを二人は知る由もない。他の生徒達もアンバーニオン騒動に夢中で、彼らの存在に興味は向いていなかった。
「じゃ、頑張れよ?」
「!」
宇留が振り返ると同時に自動扉が閉まったが、その向こうにはもう既にヴァエトの姿は無い。
もうすぐ到着という事もあり、教師陣はアンバーニオン騒動で興奮する生徒全員をなだめに掛かっていた。
そんな中、わざとらしくハンカチで手を拭くフリをしながら席にやって来た宇留に最初に気付いたのは五雄だった。
「あ!宇留!なにしてたんだよ!アンバーニオンが···あれ?」
「え!?」
頭の天辺から爪先まで視線を上下させる五雄に戸惑う宇留。今まで外を見ていた磨瑠香やマユミコ委員長もそんな宇留に注目する。
「宇留、今度は縮んだ?」
「え?あ?いや?···き、きっと高度が···下がったカラダヨ······はは、ははは···」
林間学校の目的地であるI県軸泉市は県北沿岸に位置しており、県庁所在地よりも隣県であるA県の方が近い。
ましてやA県の県境沿岸付近に空港があるとなれば、航空機での軸泉市へのアプローチはI県の花滝空港よりも必然的にアクセスが容易である。
その為、今回はそのA県三螺旋空港兼航空国防隊重翼隊基地が選ばれた。
だが空港に到着した宇留達二年B組には更なる問題が起こっていた。
「「えーーーーいち時間んん?」」
他のクラスのバス移動を担当するベテランそうなバスガイドが、アルキ先生とマユミコ委員長を前に説明を続ける。
「B組さんのバスがネコ侵入騒ぎで発車が遅れておりまして、点検はもう終わってこちらに今向かっておりますのでぇ、一時間···いや!四十分程お待ち頂けないでしょうかぁ?」
「「ネ、ネコ侵入···?」」
何故か宇留と磨瑠香の意識に妙な予感が過る。
プァン!!
えええええーーーーー?
B組の嘆きを残し、他のクラスのメンバーを乗せたバスはクラクションを鳴らして先に出発してしまった。
「さあ!どうやって時間を潰そうか!」
アルキ先生はわざとらしく周囲を見渡している。
「先生が予算立て替えてもらえます?」
マユミコ委員長はねっとりとした笑顔で、滑走路の向こう側に見えるアミューズメント施設のような建物、国防隊航空第一資料館を指差した。
「はぅあぐ!さあ!どうやって時間ツブソーカー!」
頭をブンブン回して困るアルキ先生を、数人の生徒がフォローする。
「でもマユちゃん、あそこ平日なのに車多くてなんか混んでそーだよ?一時間じゃ終わんなくない?」
「俺はロビーで時間潰そうかな?」
「微妙に疲れたしー!先生も給料日前だし!」
「なんで知ってるんだ···?」
全員がダルそうにしていると、珍しく宇留が率先して声を上げた。
「···じゃあ!みんなでそこの第二資料館行かない?俺一回行った事があるんだけど···!」
「え···?」
アンバーニオン軍を中心に、全員が宇留の提案に耳を傾ける。しかし宇留の口から語られたのは、かつて第二資料館で学んだ事や今日まで勉強した航空知識のひけらかしのようなものだった。マニアな一部の同級生が「ほう!」と興味を示したものの、大半の生徒は宇留の枯れ趣味に少しゲンナリとしてしまった。
「お、俺はいいかな?また今度?」
「ムズカシーよ?須舞くん」
「え?!あ!そうか···ごめんね?なんか?」
「私も···見飽きてる方面?かも?」
夢令と薪梨と磨瑠香にやんわりと断られた宇留はシュンと下を向いた。服の中のヒメナもヤッチマッタと両手で顔を覆う。
「お~~~い!ん!」
「!」
その時、第二資料館の方から職員らしき女性が叫びながら走って来るのが見えた。
「皆さ~ん!お時間あるなら見学していきませんかぁーー!ん!」
航空国防隊の一般職員の制服を着た音出 深侑里は、パンフレットの束を頭上に掲げ、笑顔を振り撒き、夢や希望を弾ませながら宇留達の元に駆け寄って来た。
「ヌヲヲヲヲッッ!行くぞォ!みんなァ!」
「「「「「オウ!!」」」」」
「見学だぁああ!」
何故かほぼ全ての2ーB男子の心が、夢令の号令だけで一つになった。
「バッッッカじゃないの?なんで美人さんが登場したらココロカワルのよ!」
「違うぞ火加んん!俺達は遊びに来たんじゃあないッッ!勉強···そう!勉強、社会勉強しに来たんだッ!行くぞ!トノハル!勉強ダアアアアアァ!」
「おう!夢令!あ~!パンフゥ下さい!」
「は~い!無料チケットもありますからねーん!」
結局、呆れる宇留と照臣くらいをその場に残し、男子連中は音出からパンフレットをありがたそうに受け取ると、一人、また一人と第二資料館に吸い込まれていく。
「ちょっと男子ィ!」
「全く!アイツらあれでも世界で最も草食と呼ばれた二十一世紀中学生の末裔か!?」
そう呟きながら、アルキ先生もじわりじわりと笑顔の音出が居る方向ににじり寄って行き「アチョ!?センセセンセ!」とマユミコ委員長を筆頭とした女子達に阻まれている。
「なんだよもー!お色気禁止じゃなかったのかよ!」
「俺も···さっきも言ったけどこの間行ったばかりだから···」
「宇留も行ってたのかい!」
「イヤ!マジメなトコだから!」
照臣と宇留がツッコミを入れ合っていると、丁度パンフレットを全て配り終えた音出が磨瑠香を見付けて目を見開いた。
「わーーーー!!磨瑠香ちゃんだーーー!!」
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