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絢爛!思いの丈!
イートイン
しおりを挟むその日の惣菜コーナーに並んでいる商品を一種類につき一つずつ、宇留は慣れた手付きでパスパスとレジカゴに放り込んでいく。
ゼレクトロンことヴァエト少年は、後光すら射して見えるかのような宇留のそんな景気の良さに、心底打ちひしがれていた······。
セルフレジにて、手早く惣菜パックのバーコードをスキャンしていく宇留。そんな二代目?を、隣のレーンで業務に従事するレジ担当のお姉様方が微笑ましく見守る。
ヴァエトは宇留の手際の良さに感心しながらも、宇留が決済用に開いたスマホの画面をふと見てしまい、驚きの表情を浮かべた。
「うお!持ってんな!?中学生の小遣いジャねぞ?」
「え!?わかるんスか?!さすが···」
宇留は少しスマホの画面を伏せながら、恥ずかしそうに目を見開いてヴァエトを見た。
「ぇあ!イヤ!そんなつもりは!けど画面見たらナンカわかっちゃうからかな?オレ!」
「そ、そーなんスか?」
(ウリュ!今更だけど私もわかるよ?)
「ヒ、ヒメナもっスか···?」
支払いを終えた宇留は、まるで当然のようにレジカゴに商品とレジ袋を放り込み、三人でイートインコーナーに向かう。
「それじゃりがたく···」
イートインの椅子に、宇留とテーブルを挟んで座ったヴァエトは、瞼を閉じてしっかりと手を合わせ、いただきますの黙礼をする。
惣菜の温度を気にした宇留が電子レンジの在り所を伝えようとしていると、ヴァエトの方が先に口を開いた。
「で?···お願いって?」
「ぁあ!、ぇとですね···」
ヴァエトは手に取ったお好み焼き棒の串を持ち、決して焼き立てとは程遠い生地を凝視しながら言った。すると宇留が応えあぐねていた次の瞬間、生地からホワッと焼きたてであるかのように湯気が上がる。
「うぉっ!すげーー!」
「ふふーん!」
ドヤ顔のヴァエトが披露した加熱能力に驚き、質問にも応えず関心しているばかりの宇留に焦ったヒメナは、ゼレクトロンの近況から話に切り込んでみる事にした。
「ねぇ?ゼレ···ヴァエト?本体は今ドコに?」
「アイワ···いや、操珀くんの職場のデカイ裏山ん中で寝てる。この体はモスコシこっちに用がってな?···タキマスぁむ!」
そう告げてお好み焼き棒を頬張るヴァエト。頬骨が幸福で膨らんだタイミングを見て、宇留はやっと頼み事を切り出そうとする。その間にヒメナは、彼の職場のデカイ裏山=国防隊I県駐屯地のすぐ側にある上居脇山かな?とアタリをつけた。
「···それでですねゼレ先輩、お願いっていうのは、今度学校で林間学校があるんですけど···」
運んできた惣菜のパックをテーブルに並べながらヴァエトに事情を告げていく宇留。
宇留の父、春名がオーナー店長を務めるこのスーパー、マイスには珍しい販売コーナーがあった。
駐車場側窓際にあるサービスカウンターを中心に、両脇にはスーパーにしては珍しい商品ばかりを扱うブースが幾つか出店している。
その中でも、護森の経営する護ノ森諸店とも取引のあるマイスでは、そこで取り扱っている小物類も入荷販売していた。
サービスカウンターのショーケースの中には大小様々な琥珀【I県産】の細工アクセサリーが並べられ、カウンターの前を行き来する奥様方の視線を奪っていた。中でも一際大きく、値段も張る琥珀と木製根付けのペンダントの脇には手書きのポップ広告が立ててある。
恋愛成就!?大人気!次回入荷未定!残り二点!これで娘に彼氏が出来ました「のかもしれません!(泣)」 店長
そんな琥珀細工をショーケース越しに眺めている制服姿の少女が居た。
サービスカウンターの前にしゃがみ込み、ケースの中の琥珀細工と遠くのイートインに居る宇留達を交互に見ている。
サービスカウンターに詰めている礼装の女性従業員も、その怪しい少女に訝しげな視線を時々送っていた。
そんな事をまるで気にもしていない少女は、以前宇留達の学校に不法侵入した他校の生徒であった。
「宇留来てるって···?」
息子が来店していると、惣菜コーナーの従業員である混岡さんに捲し立てられた店長の春名は、何故か気配を消しながら、物陰からイートインコーナーに近寄った。すると宇留ともう一人、話し相手であるヴァエトの声も聞こえてきた。春名は聞き耳を立てつつ彼らに声を掛けるタイミングを見計らう。
「まいどありがとうございま~す···」
「···!じゃあアンバーニオンを林間ガッコの間I県の琥珀の泉に持ってキたいから、ォレが飛行機ん中で須舞の影武者になれゃイんだな?」
「ィシマスッッッ!」
「!」
明らかに問題のある会話をしている中学生二人。一瞬春名の目頭が青くなったが、次の宇留の一言で多少気が和らいだ。だがスーパーのイートインで少年達が話す内容では無いのは確かだった。
「アンバーニオンの守秘義務に関してですね?こういう時の超法規的な融通は聞いてくれるように、国防隊さんとかからあらかじめ許可は頂いてるんですよ」
春名は宇留の言葉の端々に息子の成長を実感するも、会話が物騒過ぎて出て行くに行けない状況に陥った。
「おいおい···俺がもしヤバい奴だったらどうすんだよ?!」
するとヴァエトは笑顔で頷きながら宇留に返答する。
「いぃよ!たくさんの一食の礼!顔はともかく、体の変身はムズいけどいぃか?」
「っわあ!ありがとうございます!全然オッケーです!」
宇留は笑顔で喜んだ後、額をテーブルギリギリまで下げて座ったまま礼をする。
「ォレも一回飛行機に乗ってみたかったし、楽にI県戻れるしドスコイドスコイだな!」
「ドッコイドッコイ、もしくはウィンウィンね?」
ヒメナがヴァエトへ突っ込む声は、微かに春名にも届いた。春名の片膝がカクンと落ち、それを見た客が驚きながら春名の背後を通り過ぎる。
「ンで、須舞さぁ、風ん噂で聞いたんだけど」
「えっ?」
「お前、ムスアウなんだってな?」
「!ーーー」
ムスアウと言った少年の言葉を聞いた春名は、不思議な感覚に包まれた。
嫌な感じでは無い。一瞬体が浮くような、どこか懐かしい感覚。
宇留は少し呆気にとられていたが、開いた唇を一度閉じると、ヴァエトに対して返答を始めた。
「ぅーーん、そうらしいというか、そうですというか···でも実感はそれほどでも···けど···俺は俺だったし···」
「!···」
宇留がなんの話をしているのかわからない。春名は心の中を吹き抜けていく優しい風の正体を掴めずにいた。
「ゼレ先輩···セーブデータ引き継ぎって···息子ですか?弟でしょうか?」
ヴァエトは宇留の質問に上を向いてしばらく悩んでいたが、視線をストンと宇留の前に落とすと、眉をひそめて返答する。
「須舞にわからんきゃオレにもわからん!ま、知る事あせらんでもいんじゃね?」
「あせ···!!······うわぁ!そっくり!!」
「?」
場違いな宇留の返答に驚いた春名は、物陰から思わず身を乗り出してしまった。
春名の気配を感じたヴァエトは、それまで背を向けていた背後を振り返る。
「うわ!」
イートインに向かい合って座っていたのは大きい宇留と小さい宇留。息子である小さい方と一緒に居たのは、宇留と瓜二つの大柄な少年だった。
「と、父さん!」
その時混乱する春名に続けて容赦無く、店内放送で呼び出しが畳み掛ける。
〔ポーーッ!店長、店長、至急、事務室まで、お越し、下さい〕
「うじゃわじゃ!宇留!これは一体!」
「えっと!その!」
「んあ??」
「わーーーー!」
彼らの混乱をニンマリとした表情で見ていた少女は、立ち上がりサービスカウンターの受付に詰め寄る。
「すいませーん、コレ下さーい」
「!」
驚く礼装の女性従業員。
カードを手先でヒラヒラさせながら少女が指定していた商品は、
例の恋愛成就の琥珀だった。
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