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絢爛!思いの丈!
幻 の 影
しおりを挟む南太平洋、ニュージーランド東方沖付近。
各国が海底大地震の現地調査にこぞって赴く中、それはアルオスゴロノ帝国も例外ではなかったようだ。
甲冑魚のような頭部を持つ半魚人型水中用ロボット、ディープトゥースの群れに囲まれながら静かに中心を進んでいるのは、黒い缶詰かオイルタンクのような形をした物体、バドキャプタン ジニカ。
大規模ドーム球場程の巨体とほぼディテールの無い表面は、荒々しくバタフライ泳法で周囲を泳ぐディープトゥース達とのギャップによって、より不気味な存在感を示している。
既に彼らの進行を報告した某国の超長距離航行探査無人機はこの部隊によって撃墜され、その知らせは巡り巡ってこの近海を縄張りとする琥珀の戦士達にも届いた。
その姿は大きくうねった高波の中から、ミサイルのように飛び出した。
触腕を含まないだけでも本体の全長が二百メートルはあろうかという琥珀の烏賊。
外套膜の先端にある耳鰭にはノコギリ状の突起が連なってそれが振動し、機体に打ち付ける艦首波の衝撃を相殺している。
後部には長い二本の触腕を含め、鋭角的な十基の琥珀柱が推進力を常に放出していた。
そして外套膜の天面、透明なキャノピー部分の内部には、バイクのライディングスタイルのようにシートに跨がる小柄な琥珀の巨人の姿があった。
小柄と言ってもその身長は二十メートル程。そして狂暴な高波の中で、巨大な水中クルーザーを思わせるその琥珀の烏賊、アンバーファントムを自在に操る巨人のテクニックの節々からは、長い間荒波の合間を縫って来たであろう抜群の操艦センスが溢れていた。
アンバーファントムは海上でジャンプと着水を繰り返しながら、遥か数キロ先の敵を目視で確認する。琥珀のアクセサリーを彷彿とさせる高性能な目は、荒れる波間であってもその姿を捉えて離さなかった。
(···アレン、射程に入り次第一斉放射、崩れた所からルイスが斬り込んで道を開く)
アンバーファントムパイロット。
総合管制担当の長男アレックスの想文が弟達に届いた。
「ヨィッショォ!ドシドシ行きますかァ!」
アンバーファントム搭載の琥珀の巨人、ワイアーラのパイロットである末弟のルイスは、ノースリーブのパイロットスーツの袖から覗く逞しい腕をグワングワンと円を描いて回した。
(兄貴、すぐに弾倉を軽くしてやる。もうちょい加速してくれていいんだぜ?)
アンバーファントム、火器管制担当、次男のアレンが想文を長男に返す。
その時アレックスが踏み締めている琥珀の床面。アンバーファントムの制御用琥珀であるその一部に影が踊った。
タコかイカを思わせる軟体類のようだが、“彼女„が泳ぐ液中までは琥珀の厚みがあり姿はよく見えない。だが彼女は、アレックスにしか聞こえない声でなにやらアドバイスをした。
「· ··· ·· 」
「了解···」
アレックスは立体映像マップのエネミーマークを睨み、額に巻いたバンダナを瞼ギリギリまで引き下げ、突撃の験を担ぐ。
三兄弟はそれぞれ一年違いづつで三十代前後に突入にしたばかりだったが、真っ直ぐな眼差しと働き盛りの日焼けした肌にはまだまだ若さが満ちていて、仄かな老いすら感じさせない。
彼らは先祖の盟約に従い、このアンバーファントムと出会って間も無いものの、日々兄弟で鍛錬した漁師のタスクは抜群にこの琥珀の巨神の運用にマッチして今に至る。
アレックスの足下にいた“彼女„の影は、スルリと泳いで何処かへと向かった。
恐らく攻撃を行うアレンを見守りに行ったのだろう。
ゴコンと頭上で音が響き、ワイアーラがスタンバイに入る。なるべく機体を水平に保つべく、比較的波が穏やかな場所を選び進んでいるのが、アレックスが見つめるディスプレイで確認出来た。
アンバーファントムの外套膜に浮き出たコブが浮き上がり、ミサイルラックのような射出口が出現し、飛び出した両目が前を向く。
(アレン!ルイス!仕掛けるぞ!)
「「おう!」」
キュババババ···キュババッッ···!
ごく短い連射音を残してミサイルラックから白い実体弾が放出される。そして間髪入れず、アンバーファントムの両目からレーザーのような閃光が前方に向かって発射された。
「······」
アレックスが確認しているエネミーマークが赤色に変わった。レーザーによって薙ぎ払われたディープトゥース達は爆散しながら波間に消えて行く。
(今だ!行け!ルイス!)
アレックスの号令でワイアーラの頭上のキャノピーがガボッと浮かぶ。その間にも、泳ぐのをやめた数体のディープトゥース達が行動不能に陥り、もがき苦しみ始めた。
ワイアーラはキャノピーを両腕で持ち上げ、アンバーファントムの右舷海上に放り投げた。
(にいさん!操艦を委譲!あとァロシクぅ!)
(おう!)
(おらオラおらオラ···!)
アレンは入れ食いの投網でも眺めるように、動きを止めるディープトゥース達を眺めて一人吠えている。
ワイアーラはアンバーファントムの巨大な専用コックピットから飛び出すと、海の上に逆さまに浮かぶキャノピーの上にジャンプして飛び降りた。
さながらサーフボードの上に立つようにバランスをとったワイアーラはサーフィンというよりスケートボードでも扱うように、海面を片足で蹴って進む。するとひと蹴り毎に加速は凄まじい勢いで増していき、ワイアーラはあっという間にディープトゥース達の懐に潜り込む。
ワイアーラが通り過ぎて行く両サイドでは、続々とディープトゥース達が苦しむように動きを止め始めていた。やがてディープトゥース達の機体を内側から食い破り、先程アンバーファントムから発射された白いミサイル。アニサキスアローが線虫のようにうねりながら飛び出してきた。
その光景に焦った周囲のディープトゥース達は、アンバーファントムに対応する小隊とワイアーラを攻撃するチームとに別れ、ワイアーラの元には必然的かつ迅速にディープトゥース達が集い始める。
(受け取れ!ルイス!)
「!」
アンバーファントムのブースターを構成する琥珀柱の一本が本体から外れて射出され、ワイアーラに向かって飛ぶ。バシッとワイアーラが琥珀柱をキャッチしたその瞬間に琥珀柱は形を変え、その手には琥珀の三股槍が握られていた。
間一髪。
海中から飛び出してワイアーラに群がったディープトゥース達は、ワイアーラが振るう琥珀のトライデントによって猛烈に薙ぎ払われる。
「!!」
その時、何かを察したルイスとワイアーラは、琥珀のトライデントで海上を叩いてキャノピーボードごとその場から飛び退けた。
ドゥシャッ!!
ボグァ!
今の今までワイアーラが居た付近の空間が、海水とディープトゥース達ごと潰された。【圧縮】の中心点に集まったディープトゥースの残骸が破裂するように爆発する。いつの間にか沈みかけのディープトゥースをジャンプ台にして跳ねていたワイアーラを一つ、二つと先程とは別の【圧縮】が追いかけてきた。キッとバドキャプタン ジニカを睨むルイス。
「こりゃ!、奴か?!、仲間をなんだと···!」
その時アンバーファントムは、帝国の部隊を回り込むように高速で進行し、追いかけてきたディープトゥース達を引き寄せていた。
先程までワイアーラがフィットしていた専用コックピットが変形し、銃座に変わった。どうやらこの機構は後付けのものであり、銃座自体は鋼鉄製のようだ。
ギュドッッドッドッドッドッ···!!
連射される機関砲の威力に次々と沈んでゆくディープトゥース達。それだけではなく、機雷としてばら蒔かれたアニサキスアローに内部から啄まれている機体も失速していく。
(アレン!泳膜フィールド収束!突撃する!)
(ァイアィ!ルイスももうチョイしのいどけ!!)
アンバーファントムはやや末広がりになっていた琥珀柱を垂直に整えた。
目に見えて加速したアンバーファントムに触れたディープトゥース達は弾け飛び、白い火花を散らして海上で爆発する。耳鰭のノコギリはボヤけて見える程振動し、相変わらず艦首にぶつかる海水を拒否して震えていた。
ガギン!
琥珀のトライデントがディープトゥースの一体の脳天に突き刺さり、その一体はガクンと動きを止めた。
「!!」
ワイアーラに挑む事に躊躇しているディープトゥース達の中心で、ルイスは奇妙な感覚に陥る。
「なんか?、なんか来たな?」
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