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絢爛!思いの丈!

プロジェクト·JIKUIZUMI ②

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「失礼します」
「失礼します」

「?「?」」
 宇留と磨瑠香が職員室に入ると、教師達と当番で来室している数人の生徒も含め、テレビのニュース速報に注目していた。

 南極近海海底で未曾有の海底大地震。今後の情報に充分注意。

 そのニュースはすぐに内容が変更になり、日本の太平洋沿岸部では数日間の海面変動の可能性、今後の情報にご注意下さい。と変わった。

 (ヒメナ?)
「······」
 ザワつく職員室で、宇留は想文でニュース速報の内容をヒメナに転送した。ヒメナはしばらく考えていたが、やがて想文が返って来た。
 (コティアーシュ···?)
 (!!、え?まさか!!
 (あのコが言っていた“墓所„と何か関係があるのかもね?)
 (地震が起きるって、一体何する気なんだろう?)
 (まぁ、楽しみに待ってましょう)
 宇留はそのニュースに注目してみた。確かに炭酸の泡が体の表面を駆け抜けて行くような、台風一過の夜のワクワクのような、奇妙な雰囲気を感じる。実際、宇留の体内の宝甲は、世界に解き放たれたこの気配に反応していた。

「あ!みんなにも話すけど、二人共今日は湾岸には行かないように!」
「!」
 想文チャットから我に返った宇留と、隣に立つ磨瑠香に気付いた担任のアルキ先生が、机の上のプリント束をポンポンと叩く。その大量のプリント束と運搬用のレジカゴを見た磨瑠香はウゲェと迷惑そうな顔をする。
「紙ぃ?これ、このしおりまさかみんなで閉じるんですか?端末に一斉送信でヨクナイですか?」
「いやいや!これが味なんだな?学年委員長と学年事務長がこのノリで行こうって盛り上がっちゃったらしいよ?じゃコレヨロシク!」
「え~?」
「?!」
 宇留はプリントに印刷された林間学校の会場を見て驚いた。

 軸泉ゴノモリリゾート旧館 古代の森

「軸泉?!」
 アルキ先生はニヤリとした笑顔を宇留に向ける。宇留もどこかぎこちない笑顔をアルキ先生に返す。磨瑠香はそのやりとりを見て少々ドン引きしながら訊ねた。
「せ、先生?軸泉って、い···I県の?」
「まぁ、また教室あっちでも言いますけどね?ほら!例年の向珠町の施設がこないだの怪獣事件の影響でまだ再開のメドが立ってなくてね?丁度お話も来てたし今年は趣向を変えて、ちょっと遠出してみようって事になったンだよね?」
「ちょっとって···ちょっとした修学旅行レベルの移動距離ですよ?」
「まーまー須舞くん、そゆことは後で、ホラ、一時間目ハジマッチャウよ?」
 アルキ先生はそう二人を急かすと、グイグイと両手で重い物を持ち上げる仕草をした。

 護森さんの所か?

 宇留は期待半分、また虎ブルの不安半分であった。

 



「ねぇ?やっぱり須舞の雰囲気変わったと思わね?」
 夢令が五雄に質問すると、明らかに狼狽え動揺し、同じ事を考えていたであろう五雄は何故か分かりやすく否定する。ここにも宇留の変化を鋭敏に感じとっていた友人がまた二人······
「え?えぇ~?そ、そうかなぁ?」
 丁度その時、一時間目のチャイムが鳴り始めた。だがアルキ先生も宇留達もまだ教室に現れなかったので、夢令達や他の生徒は自分の席に戻り際、まだ無駄話を止めなかった。

 キーンコーンカーンコー···♪
「ねぇ?七継ツギ?須舞、ひょっとしてス···」
 その時チャイムのリズムがいきなり変化し、プロレスラーの乱闘BGMのようなリズムに変化すると、五雄を始めとしたアンバーニオン軍の男子達が唐突に夢令を全力で追いかけ回し始めた。

 カーンカーンカ!カーンカーンカン!カーンカーンカ!カーンカーンカ!···

「ちょっ!なんで!まだ言いきってないでショ!」
「ゥォラアアア!」「シャアアアッッ!」「クォラーーー!」

「ちょっと男子ィ!···須舞くんのヒョットシテ酢って何?!」
 マユミコ委員長はおもむろにアンバーニオン軍男子に注意する。意外にもこの時のちょっと男子ィは、マユミコ委員長がトライしてみようと思って長らく憧れていた、初ちょっと男子ィであった。

「「「なんでもないって意味で酢!」」」

 追いかけっこをしていたアンバーニオン軍男子は急停止し、完全に口調を揃えて言い放った。何かを察したとある女子が「キモっ!」と騒ぐと同時に教室の前扉が開き、アルキ先生と宇留達がプリント束や資料を運んで来た。


 二時間目前

 林間学校の話題はほぼ全ての生徒達のテンションを上げ、教室内での会話の音量は高めだった。宇留と磨瑠香は資料の片付けに戻り教室に居ない。だがここに【×それをイイ事に】、先程の疑問をまだ引き摺る少年が一人···

 キーンコーンカーンコー···♪

「ぅーん!やっぱりさ?男子三日会わざれば刮目して見よって言うじゃん?まぁ、もちろん女子も三日、イヤ!一分会わなくても刮目して見···」
 その時チャイムのリズムがいきなり変化し、プロレスラーの乱闘BGMのようなリズムに変化すると、マユミコ委員会を始めとしたアンバーニオン軍の女子達が唐突に夢令を全力で追いかけ回し始めた。

 カーンカーンカ!カーンカーンカン!カーンカーンカ!カーンカーンカ!···

「ちょっ!なんで!俺なんにも悪い事言ってなあいでショ!」
「ゥォラアアアー!」「シャアアアッッ!」「クォラーーー!」
「ヨッシャーーー!」


 三時間目前。


 キーンコーンカーンコー···♪
 デデデデ···カーンカーンカ!カーンカーンカン!カーンカーンカ!カーンカーンカ!···♪

「もぉやっぱり!!!俺今何も言ってないよね!?」
 脱兎の如く机から立ち上がり、驚愕の表情を浮かべながら逃げる夢令を、今度はアンバーニオン軍全員が笑顔で追い掛けて教室をグルグル回った。何故か事情を知らないハズの宇留と磨瑠香も参加している。これには教室中が笑いに包まれる。


 放送室。
 そんな2-B教室のウェブカメラを確認していた放送部員の眼鏡を掛けた生徒は、ニヤリと口角を歪めた。


「んん!!!」
 逃げ回っていた夢令は、窓際で校庭の異変に気付き立ち止まる。
「うわわ!!」
 急停止した夢令に驚いたアンバーニオン軍の面々は、それぞれ急停止や前の生徒の背中に手を突く、誰かの机を掴んで止まるなどした。磨瑠香はどさくさに紛れ、宇留の背中にギュッと抱き付いて停まる。
「!!!!」
「む?!」
 宇留の心臓がドキリとしたのを見逃さなかったヒメナは、思わず訝しげな声を上げ、そのヒメナの声に気付いたイサヤはキョロキョロと辺りを見回す。

「あれ、他校の生徒じゃね?」
 誰からともなく校庭の異変の元について声が上がる。
「ここいらじゃ見ない制服だよ?」
 遠くからでも目立つ真緑を基調としたカラーリングの制服を着た少女は堂々と校庭の外周を進み、植樹会で植えたばかりの桜の苗木の側にしゃがみ込んだ。少女はただじっと、その桜の苗木を観察しているように見える。
「?」
 クラスメート達がザワつく中、宇留は特に嫌悪感などは感じずその少女に注目出来た。
「あ!先生行った!」
「!」
 全員が注目する先を変える。体育と生徒指導を担当する男性と女性の教師が二人、そして警備員が一人、校庭の外周を回り込んで少女に近寄る。その時警備員は何かにつまずいたのか、ステーン!と見事に転び、隣のクラスから爆笑が響く。
 近寄る先生達に気付いた少女は、ピンポイントで二年B組を一瞥して逃げ始めた。
「!?」
 何故か宇留はその少女と目が合った気がした。
 やがて少女は走り出し、高台にある学園の下に向かって丘を駆け下りて見えなくなった。


「はーい!侵入した子は大丈夫でーす!着席して下さーい!授業始めますよー!」
 いつの間にか教室を訪れていた三時間目の授業を担当する教師が、全員を着席するよう促す。


「······」
 席に着いた宇留は何か少女に引っ掛かるものを感じて、しばらく苗木付近を時折見つめつつ、次の授業の準備を始めた。










 
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