神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

プロジェクト·JIKUIZUMI ①

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「各人んん、状況を報告せよォ!」

 衣懐学園中等部、二年B組。

 朝礼前、教室の後窓際に集い、適当に椅子を向かい合わせて話し合いをしているのは、我らがアンバーニオンサークルの少年少女達。
 マユミコ委員長がホームルームにおいて独断的な席替えを強引に主張した結果、教室の後窓際にアンバーニオン軍の生徒達が結集する事になった。
 マユミコ委員長は、誰のモノマネかわからない低音ボイスでメンバーに問い掛けると、次々と成果を発表する答えが粛々と返ってきた。口調は怖いが、皆それが会議のツカミ用の冗談だと分かっているので、変に気に病む生徒はいない。
「···はい!ちょっと寂しい復興クラファン個人スレ拡散したらすげーズバリって、50万円投げます!ってお方を引っ張って感謝されました!」と、夢令。
「「おおおお!」」
 全員が感嘆の声を上げると、次は既に目が潤んでいるトノハルの番。
「みんなァ!聞いてくれ!リクが実って今度ショノノノモん【推し】がアンバーニオン応援で琥珀コーデしてくれる事にぬァったんだよ!」
 若干私情も見え隠れするが、全員マァイイカ?と乾いた拍手を叩く。

 ···パチパチパチパチ!

「マヤヤンにも宣伝手伝ってもらったーの、たこ焼き鉄板で作る!頑張れアンバーニオン!グミ入りコハクンボールゼリーのレシピ!1000ビュー達成です!」と、続けてラーヤが発表し、味を想像して黙る男子達を捨て置き、主に女子達が笑顔で声を上げた。


「ィエーーー!」
 

 アンバーニオン軍が教室でそんな報告会をしている時、今日の日直である宇留と磨瑠香は一時間目のホームルーム用資料と配布物を運ぶ為、職員室に呼び出されて廊下を“三人„で歩いていた。

 もうじき夏休み前の特別林間学校である。今日は二年生の全クラスが朝イチからその話し合いの予定だった。
 だが、今の磨瑠香が朝から気になっていたのは、隣を歩く宇留とヒメナの雰囲気が明らかに数日前と異なっている事だった。考えるだけでは説明のつかない勘のような何か。男子三日合わざればナンチャラ···という言葉や、なにやら身勝手に勘繰ろうとする自分を忌避する感情が無駄に混ざって少々うねる。しかし自分や友人の成長に心が置いてけぼりにされている事に気が付く訳でもなく、神経が大人になり急ぐ事に深刻になりすぎる訳でもなく、今日も始まった少しだけ不思議な新しい一日を気楽に過ごす事を信条として、磨瑠香は肩の力を抜いた。
 そんな彼女は今日、長袖の夏服を着ている。宇留は特に気にはならなかったが、少し会話がよそよそしい雰囲気になって途切れた合間を埋める為に、磨瑠香にその事を訊ねてみた。
「···磨瑠香さん今日長袖なんだね?」
「う!···うん、ちょっとね?」
 磨瑠香は控え目に両腕を広げ、うつむき加減に自身の制服の袖を交互に見渡した。
「マルカ?ケガしてる?」
「え!?」
 突如宇留の胸元、制服の内側からヒメナの声がした。
「ば、バレたか!」
「え!?···大丈夫?」
「う!うん!アリガト宇留くん···ちょっと腕を擦りむいただけ···」
 心配する宇留の視線の先で、磨瑠香は制服の袖の上から肘の下にかけて数回、腕をさすった。
「何かあった?」
 ヒメナの問い掛けに、それはコッチノ台詞です。と思いながら磨瑠香は答える。
「昨日、元同級生のいじめッコに偶然久しぶりに会ったらね?···なんかワるいっぽくなってて、因縁付けられて···」
「うん「うん!」」
 理由を言い淀む磨瑠香だったが、宇留とヒメナがタイミング良く打つ相槌を聞いて僅かにピリッとした磨瑠香は、それを土台に本腰を入れて説明を続ける。
「あ!これナイショね?空手で戦う訳にはいかないから、スルーしようと色々もみくちゃったんだけど···」
「?」
「なんか気付いたら無意識に投げ技決めちゃってたみたいでね?」
「うん···」
 磨瑠香は、肯定でも否定でもない宇留の静かな口調がやけに嬉しかった。
「!、で、覚エテ郎!のお決まりの台詞で逃げてくそのコにハ?となってたら止めようとしてくれてたコ達に、ダメージを最小限に留めるすごいキレイな背負い投げだったよ!って褒められて!」
「マルカは柔道とかも習ってるの?」
「ヒメナさんヒメナさん!それが習ってないんだなぁこれが。偶然も偶然?こりゃ師匠せんせーの修行の賜物だね?せ、正当防衛正当防衛!なんちゃって?」
 磨瑠香は笑顔を宇留に向け、舌先をペロリと出して見せた。
「!」
「···それでねぇ?その止めようとしてくれてた他の学校の美少女四人組がね?ナントカカントカァ!で一緒に戦いましょうとか言ってきて、怖くて怖くて、お礼だけ言って逃げて来ちゃったんだけど···」
「あ···あはは、そ、そ、そうなの?···」
 何故か宇留は大量の脂汗を流している。

「こっちも、修行で大変だったよ」
「シュギョーー?!···」
 宇留は胸を張るように軽く伸びをしながら、アンバニティマネージャーとの試験の事を語った。その時すれ違った一年生の二人組が、磨瑠香の大きな声の返答に驚いて上半身をビクッと仰け反らせる。宇留と磨瑠香は恥ずかしそうに肩をすくめて下級生の横を通り過ぎる。
 一方磨瑠香は、意外と簡単に二人の雰囲気が違う原因が聞けそうで拍子抜けした。
 もしかしたら学校にも怪人メアリーさんとミミアリーさんがいるかもしれない。という文言で始まった宇留の盛りに盛りつつ簡素に纏められた修行中の例え話は磨瑠香にとっては面白可笑おもしろおかししく、呆れるヒメナのツッコミと相まって職員室までの道のりは楽しいものとなった。

 特別林間学校。
 思春期の彼らはこのイベントを通してクラスメートである事、友人である事を越えられたら?、という願いを持つ生徒達は多数居た。そして磨瑠香もその一人であった。
 
 当然、宇留とヒメナも思っていた。

 近い内に、磨瑠香へヒメナの未来を知らせねばと···


 
 
 



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