神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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INTER MISSION

ペナルティ

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 その純白の空間には様々な音だけが響いていた。

 重低音の混ざったフォーーンという風?の音や、何かを叩くデンデンデンデン···といった刹那的なビートを刻む音源が、まるで耳栓越しのハッキリしない騒音のように周囲を駆け巡っている。

 そして其処には、全身が白化したアンバニティことマネージャームスアウが直立不動で微動だにせず佇んでいた。
 彼の前には女性が三人。全員が近未来的な巫女服を思わせるタイトなコスチュームを身に纏っている。
 三人の中央に立つ責任者らしきショートカットの清楚な美人は並びから一歩前に出ると、マネージャーアンバニティが現在拘束· ·されている理由を彼に向かって述べた。

「マネージャープログラム、バビエル協定に基づき、あなたには誠魂名イノセントネームの流出、及び士内違反ハラスメントのペナルティが科されています。よって結果が平行線に並ぶまでの期間、存在意義限界時間の没収を行います」

 責任者の表情には執行役特有の冷たい責任感よりも、むしろ感情的にただ形をつけたいだけの気軽さのようなものが宿っていた。
「覚悟の上です。というか、他人ならともかく“自分„へのハラスメントや改善ナシにどうやって進化していけばいいのか、はなはだ疑問ですがね?マカナナさま?」
「むぬぅ!、相変わらず“おだっでるな„?···」
 マネージャーに名前を呼ばれた責任者マカナナは、呆れたように瞼を閉じて目尻を下げた。
「···マネージャー?制限派のメンバーはこれを理由にガルンシュタエン再建の疑念ウダウダを蒸し返そうという動きを見せています。私としても仕事は少ないにコシタ事は無いのですが?」
「そりゃあスイマセンね?···ムカシ、オレとエシュタガが並んだだけで喜んでた制限派ちゃんコムスメが、立派になったもんだ···」
「何か?」
「イエ!ナニモ!···マカナナさま!お帰りの際にはゼレクトロンのオーバーホールレポート、既に出来てますのでお持ちになられて下さいね?」
「!、わ、分かりました。お、お預かりしましょう···」
 何故かゼレクトロンの名前を聞いて若干モジモジする責任者マカナナ。マネージャーは理由を察してアンバニティの仮面の下で微笑んだ。


 さぁ、いつまでオレ抜きで持つかな?

 マネージャーは多々ある未来予測に想いを馳せ、宇留達がどのような方向に向かうのか期待する事にした。









 一方、I県。

 軸泉市にある全国展開している回転寿司チェーン店。
 
 一呼吸整えた護森 夏雪は、入り口の自動扉から堂々と入店し、店内を見渡した。
 昼前で客足は多目だったが、何故かカウンター席は一番奥の一席しか埋まっていない。
 彼にしては珍しく、怪訝な視線がそのお一人様を射貫く。
 護森はその視線を外さずに、サッと呼び出しチケット発券用のタッチパネルに近寄る。お一人様はそんな護森の挙動に目もくれず、次の注文を吟味していた。
 タッチパネルにはコラボキャンペーン中の劇場用アニメ「トモノートvsタカナシクローズ」の告知用イラストと共に受付ボタンが表示されている。
 護森がカウンター席等のボタンをタッチすると、すぐに座席チケットが発券された。
 2番。お一人様の隣の席。
 そのチケットを睨む護森。またしても彼には珍しく、イライラが込もった歩調で指定の席に進む。
 着席した護森はカウンターテーブルに備え付けのおしぼりを開封し手を拭きながらお一人様の様子を見た。
 一見外回り中の営業サラリーマン風だが、明らかに一般人とはかけ離れた隙の無い鋭い眼差し。護森がまずひとつ、タッチパネルでアジを一皿注文し終えると、コラボキャラクターの一人が「ご注文ありがとうございます!」と客である護森に告げた。

「貧乏舌と笑うかね?」
「!」
 お一人様が唐突に護森に話し掛ける。護森は間髪入れず返答した。
「そんな事は?、逆に回転寿司の何が悪いのか理解しかねる」
「悪いなどとは言っていないさ、今の俺の体は味蕾が無くて味がわからんのでな?こうやってアバター化した一般人を小一時間間借りさせてもらっているのさ。簡単に言えば、ただ食事ごっこをしに来ただけだ」
 険しい眼差しで微笑みながら自分を見つめるお一人様の耳に、護森の視線が集中する。
「だけ、ねぇ···?」
 ペースト状の白い何かがお一人様の耳の穴を塞いでいる。それを確認している間にお一人様にエンガワが一皿、コンベアに乗って届いた。お一人様はそれを受け取りタッチパネルの表示を戻す。
「連絡した時にも薄々感ずいていたが、ムスアウの腰巾着がずいぶんと立派になったな?」
「腰巾着呼ばわりとは心外だね?こちらとしては親友のつもりだったがね?」
 護森の元にアジが一皿届く。その間にお一人様はお猪口を使わず、ぬる燗を徳利で一息に飲み干した。
「ぬっ···」
 護森は少年めいた露骨な対抗心を露にし、調味料を何も付けずにアジを口に放り込み、続けてタッチパネルでヒラメを一皿とシジミ汁を注文する。
「ほう···以前の今際の際、お前の声を聞いた。···どうして···琥珀の姫ナシでアンバーニオンが動いた···のか?とな?」
「!」
 お一人様はエンガワに塩を大量に振り掛け、何の惜しみも無く口に放り込む。
「む!」
 焦る護森はもう一品、慣れた手つきでタッチパネルを操作して何かを注文した。先程の女子高生キャラとは異なり、今度は美少年キャラが護森に注文御礼を述べる。
「それに貴様も、今のアンバーニオンの少年、彼があの場に居た事を覚えているだろう?」
 お一人様がそう言い終える頃、護森の元にヒラメとバニラアイスが到着した。
「地獄耳なんだね?」
 二皿を受け取りながら訊ねる護森。
「まぁな?彼は未来からあの時を見ていただけではない。もう既にあの場に“居た„のではないか?···むっ?!」
 お一人様の視線が泳いだ先、護森はバニラアイスにこれでもかと粉末緑茶あがりをふりかけていた。
「貴様···中々やるな···」
「これで五分放置!」
 焦るお一人様はタッチパネルで鯛を一皿注文する。その間に合わせ、護森も何かを注文する。
 そして護森は感心とも焦燥ともとれる複雑な感情をいだいていた。帝国側も宇留とムスアウの関係性にもう気付き始めている。護森はヒラメを普通に頬張りながら感情を押し殺す。今の上を行く宇留達への配慮を考えれば、アンバーニオンをサポートする組織として考え方を大幅に変えねばなるまい。護森はお一人様から確信的な一言が出ないように祈った。
 その間にお一人様は湯飲みにアサツキが少々乗った鯛を二貫放り込み、出汁醤油と熱いお茶あがり、小分けワサビ少々と甘酢ショウガガリを一切れ投入し、鯛茶漬けを完成させていた。
「ぬ!、邪道ッッ!」
「フフ···人の事は言えんぞ?ラスボス魂···主人公、ブッ苦しめます···」
 お一人様は、訳のわからない台詞と共にデザート用スプーンで鯛茶漬けをチャカチャコとかき混ぜ始めた。
 
 護森が邪道抹茶アイスを、そしてお一人様が鯛茶漬けを食べ進めている頃。
 護森の元へシジミ汁ともう二品が届いた。

 おのれ···途中ミドルデザートとは!許せ

「え?」
 悪びれない護森。先に大器を見せつけようとしたのはそちらだぞとばかりに、当て付けがましく抹茶アイスはガラス小鉢から消滅した。
「ぬぅ···つまりだ。あの少年、スマイウルはムスアウと何かしらの繋がりを持っているのだろう?ん?···ぬっ!?」
「······」
 護森は答えない。そして彼の手元では特盛シャリ十貫に麻婆豆腐がぶちまけられ、麻婆豆腐丼シジミ汁セットが完成していた。
「か、回転寿司···とは···?」
 お一人様は護森に呆れながら、先程まで鯛茶漬けが入っていた湯飲みで白湯を飲んだ。

「ふぅ」
「?」
 お一人様はタッチパネルで会計を済ませると、立ち上がり護森の背後に立った。
「必ずしも···」
「?!」
「必ずしも、琥珀の姫を手に入れるべきではなくなったという事か?」
 そう告げるとお一人様は歩き出そうとした。
「何故?」
「む?」
 護森がお一人様に問い掛ける。立ち止まるお一人様。丁度店内に響いていたアニメ映画の主題歌が中断した。
「···色々な手があったハズだ。琥珀かのじょを手に入れる為に···」
 お一人様はしばらく考え、護森と目を合わせずに語った。
「飽きたのだ」
「?」
「様々な手は出し尽くした。卑怯、暴虐、搦め手、全て出し尽くしそして飽きた。最後に残ったのは正攻法と意地だけだった」
「···!」
「···だが可能な限り容赦はせんぞ?今は···今はこの体が···」
「?」

 そこまで語り、お一人様は回転寿司チェーンを後にした。
 スタッフルームからそそくさと現れた職人姿のわんちィとパニぃが護森の側へ駆け付ける。

「···皇帝···」

 護森達は店の軒先で正気に戻るサラリーマンの姿を、いつまでも不満めいた表情で見つめていた。









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