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絢爛!思いの丈!

ネタばらし

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 手応えがあった。

 と言っても、センサー類は全て止まっていたので、あくまで心理的な手応えだった。
 実際にアンバニティは吹き飛び、ゴライゴ·コロシアムの壁に激突し土煙が上がっている。

 後でゴライゴおっちゃんに謝らないと···
 宇留が先程“見た„ものが本当なら、晴れつつある土煙の中にあるもの。
 それは···

 立ち竦む黒い鎧のアンバーニオン、モード-ジェット·ジャック·ジョイント。
 固着させられていた片方の足は回復速度が急上昇し、モノクロだった内外の景色はそれと比例するように色を取り戻していく。しかしヒメナを内包する琥珀。ロルトノクの琥珀アンバーだけがモノクロ世界の中心のように、中々元持つ色を呼び集めない。
 宇留はその事に焦りつつも、アンバニティを警戒した。


「!」
 土煙が晴れた場所にあったもの。
 それは双振りのアサルトブラッシュを収納し、アンバニティのスピードと飛行軌道を支えていたバインダーだけだった。それだけが脱ぎ捨てられたフルハーネスのようにそこに落ちている。

「···成る程、アンバーニオンに逆算させたか···」


〔!〕
 身長二メートル程の人影が、呟きながらバインダー付近から現れた姿を見て現が反応する。

『あれがあいつの正体!、あの巨体は立体映像か何かだったのか?』

 土煙から歩み出て来たのは等身大のアンバニティだった。全身に渡り、完全に治しきれないヒビにまみれているのを、宇留はズーム映像で確認した。
「マネー···ジャー···?」
 巨大だったのはアサルトブラッシュとバインダーのみで、それらは元々等身大のアンバニティとユニット構成されていたものであり、アンバニティの機能により、本体を巨体に見せていただけだった。
 相手てきの違和感を分析し、バインダーの付け根付近に当たりを付けた宇留と現の判断は正しかった事になる。
 勝利タッチのイメージからそれに至るまでの手順を逆算し、心理的に相手の行動を誘導する為に一見無意味な鎌掛けや挑発を演じ、感情を押し引きで揺さぶり反応させ、ありとあらゆる方法を用いて目指す状況へと相手の行動をピンポイントで帰結させる。
 宇留、アンバーニオン、疑似黒宝甲ジェッティオンの三すくみによる要望、議論、計算、確率、推奨、決定、承認、行動、結果、課題と成功、次回への要望···のループは的確に目指す状況への歯車を少しずつ噛み合わせ、宇留達は希望する現実を可能な限り自力で導く事で勝利条件を満たした。そして上位機体アンバニティ程の相手に対しそれを可能にしていたのは······

 宇留はその話をマネージャー相手に切り出そうとしたが、先に口火を切ったのはアンバニティマネージャーの方だった。
「···さすがだな?宇留。···例えばさっきのリング達、ナインズゲイターワノカミっていうんだが、厳密に言うと飛び込んだリングの中が繋がった共通の異空間になってるんじゃ無い。むしろノーダメで跳ね返されていてな?その際に一瞬だけ突入する別の異空間が作用して超高速で弾き返されるのがメリットだが、副次的効果によって反射する物体に透明化現象が起きる事で、パカンパカンと跳ね返ってリングのゲート間を行き来しているように見えるだけだ。そしてそれは教練を積めば微調整による任意の撹乱かくらんが可能で···」
 
 コツン!
「あ痛て!」

「?」
 マネージャーは痛みが無かったにも関わらず、反射的に痛むと口にしてしまった。その原因。アンバニティは、頭頂部に落ちて弾んだビー玉大の何かを目の前でパシッと掴んで指先に添えて、それが何か確かめた。
「?!」
 ジャララララ···!!!
 ビー玉が疑似黒宝甲の一部だと悟りながら上を向いたアンバニティに落ちてきた大量の黒いビー玉。
 黒いビー玉は虚空から現れてはアンバニティの頭上で大小様々な大きさに結集し、まるでダンプカーからぶち撒けられた採石のようにジャラジャラとアンバニティを押し潰していく。
「!、おわああああああ!!」
 疑似黒宝甲の山から顔を出しただけのアンバニティから、マネージャーの悲鳴が響いた。

『ウルサイヨ』
〔だから知ってますって!多分そんなだと思ってました···それよりヒメナに···謝って下さい!!〕

 潰されてゆくアンバニティにズンズンと足音を立てて歩み寄ったアンバーニオンから、現と宇留の声が溢れ出る。
 ロルトノクの琥珀アンバーは既に色を取り戻していたが、表面は曇り、中のヒメナが見えない。
 ただそれだけで、今の宇留の怒りは爆発しそうだった。
 宇留は何度かマネージャーの行動に疑念をいだいていた。ヒメナを守れと言う割に、まるで彼女をシステマチックに、物であるかのように扱うと。
 琥珀の表面が雲っているのは正体がバレたく無いとき、そして一人になりたいか、ならざるを得ない時、そして若干不機嫌、そして恥ずかしい時。
 マネージャーあんたおれたちムスアウの何を学んでいるんだ?
 もう少しでこの言葉が口から出そうになっている。
 ヒメナとは決して長い間でも無い期間ではあるが、息ピッタリに歩んで来れた間柄だと宇留は自負している。
 黒いアンバーニオンはそんな宇留の感情を体現するように、疑似黒宝甲に埋もれたアンバニティマネージャーを見下ろしていた。
〔···アンバニティそっちが初見殺し、っていうならこっちも···〕

「?!」

 パキャンン!

 アンバーニオンは勢い良く黒い鎧を本体から弾き飛ばした。

〔···疑似黒宝甲ジェッティオン!フルビルドアップ!〕
 そのアンバーニオンの斜め後ろで、全身を再構築させていくNOI Z。アンバニティにのし掛かっていた黒い山も次第にその総量を減らしていく。
 モード-ジェット·ジャック·ジョイントを解除したアンバーニオンの全身の宝甲は完全に治癒しているように見えたが、マネージャーをすぐに違和感が襲った。
「?!···な!」

 そのアンバーニオンの姿を理解したマネージャーの視線が驚愕に震える。

 機体の前正中線を軸に、全身の装飾デザインが若干左に寄っている。それが意味する事。マネージャーはすぐに予感を的中させた。
「まさか!機体を修復させながらそんな芸当を!?」

〔ご明察、あんたはアンバーニオンを傷付け過ぎた〕
「!」
 NOI Zは微動だにせずアンバニティに語り掛ける。
疑似黒宝甲おれたちは、ただアンバーニオンの増加装甲になっただけじゃない。須舞 宇留の意図を汲んで、この変化をカモフラージュするのもジェット·ジャック·ジョイントの役割だった。このアンバーニオンの微妙な変化はあんたの形態認識機能に誤差ノイズとなって蓄積し、最後の最後、盛大に的を外したのさ!〕

「く!···」

〔マネージャー、ついでに体術わざの先端だけに本体アンバニティが居たのも途中からわかってた。これはわざとだろうけど···〕
 ようやく膝を立てて立ち上がろうとしていたアンバニティだったが、相次ぐ答え合わせにマネージャーは開いた口が塞がらないかのようにそれ以上足を動かす事は無かった。

 容量持ってった方がいいぞ?

「ぬ!く!」
 更にアーカイブムスアウのかつての言葉がもう一度マネージャーを縛り、アンバニティはぐうの音も無くうつむいた。



「宇留よ!そしてゲルナイド!見事じゃ!良くやったッ!」

「!」「!」
 ゴライゴ·リパレギレムは腕を組み、大きくゆっくりと頷きながら満足げにアンバーニオン達を見下ろしていた。

 いつもは孫をあやすかのようにヘラヘラとしていたゴライゴの口調はいつになく真剣そのもので、初めてゴライゴのその口振りを聞いた宇留は、不思議な達成感に包まれていたのだった。









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