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絢爛!思いの丈!
なきにしてあらず
しおりを挟む幾度となく繰り出されるアンバニティの猛攻撃の中。アンバーニオンは遂に二度の連続攻撃を続けて完璧に回避してみせた。
「!」
そして回避スピードの流れに乗ったままアンバニティの頭上にほぼ瞬間移動的な動きで移動し、後頭部をすかさずロックオンする。
ガッ!!
〔!!〕
アンバニティは両方のアサルトブラッシュをシンプルに上へと跳ね上げ、アンバーニオンは宝甲毛材の土台となっているヘッド部分にしたたかに弾かれてその巨体が宙に舞う。そして閃光、からの超高速回避運動によってアンバニティの追撃の予感からの逃避。
アンバーニオンとアンバニティの間に、再び距離が開いた。
『聞いてくれ、須舞 宇留』
「?、うん!」
アンバーニオンを立ち上がらせながら現の言葉に耳を傾けた宇留は、話題の予想が既についていた。
『おかしいぞ?勝利条件はアンバニティ本体へのタッチだが、微細な疑似黒宝甲遊体では機体そのものに接触出来なかった!』
「やっぱり?俺も一度あの武器を使ったから分かるんだけど、手を突っ込んだ時に違和感があった。自重制御サポートはあってもアンバーニオンと違って、握力の雰囲気を武器に感じなかったんだ」
『唯一手応えがあったのはあの武器だけだが、もはや今は停止信号が出っ放しになっていると考えてアプローチはなるべく見送るべきだ。と、なるとやはり···』
「たしかに、マネージャーのは琥珀巨神だとは一言も言ってないしね?アンバーニオンには悪いけど手を消し飛ばしちゃった甲斐はあったかな?···イテテ!ぃたくナッテきたぁ!」
『···ふぅ、琥珀使いが荒いなぁ?』
アンバーニオンの失われた手首部分に疑似黒宝甲が集結し、手首部分が再構成される。指先は尖り、間接部分が鋭角的なデザインの黒い手首。
アンバーニオンはアンバニティへ見せつけるように、顔の前でその新たな拳をギャギリと握る。
『須舞 宇留、追い付いてきてるぞ?さっきもあいつはブラシを上に翻す余裕がなかった可能性がある!』
「うん!、ありがとう!アラワルくん!取り敢えず目標は腰のバインダーあたりにしよう!」
『ああ!』
引き寄せまで押して60···引いてあと59······
ズンッ!
アンバーニオンは両肩の琥珀柱に両手を差し入れ、溶けた飴を絡めとるように腕を回して手首に巻いた。両手にそれぞれ白と黒、巨大な光と闇のボクシンググローブが形成され、ファイティングポーズをとるアンバーニオン。凶悪なデザインに変わった黒い仮面の鋭い視線がアンバニティを睨む。
引き寄せまで押して51···引いてあと46······
〔ふふ···〕
そしてアンバニティも幾度目かの突撃を仕掛けてくる。
攻撃の為の定位置を決めたアンバーニオンは、アンバニティとの間合いに対して余裕を持って足を捌き、サイドステップでアンバニティの左側へ回り込もうとする。そして光と闇のグローブの小指側から、トンファーを思わせる突起が突出した。
アンバニティは容赦なくアサルトブラッシュを振るい、アンバーニオンは琥珀のトンファーでその攻撃を受け止める。
ミュギィィシシ!
砕けた陶器が擦れ合うような高い音。琥珀のトンファーは、アサルトブラッシュを受け止め防いでいた。
『分解周波数はマネできた!これからはカウンターで当ててやる!』
現の声と共にアサルトブラッシュを押し返そうとするアンバーニオンに、アンバニティの膝が迫る。
「うぅ!」
アンバーニオンは再び不具合に見舞われるようによろけ、偶然か否か膝の一撃を回避した。
どっちだ?まぐれか?回避か?
疑うマネージャー。踞るアンバーニオンの視線の脇を通り過ぎていくアンバニティの膝。
引き寄せまで押して40···引いてあと38······
「見えた···」
アンバーニオンがその膝先に闇のグローブを引っ掛けようとしたその時だった。
シュゴッ!!
「!」
アンバニティはいきなり地面に吸い込まれた。
かと思えばアンバーニオンの頭上に現れ、垂直に急上昇していく。
ギシキキ!
「うわ!」
宇留がそれに気付いた時にはもう、アンバーニオンの右足の硬化が始まっていた。右足に無数に刺さったアサルトブラッシュの毛材は深々とアンバーニオンの足の中に潜り込み、足の宝甲を内側に向かって歪に凝集させ固定していく。復旧に入ろうとしている疑似黒宝甲遊体ですら凝集に巻き込まれて潰されるように内部にめり込んでしまう。右足はしばらくの間使い物にならないのは明白だった。
「ぅぬぅ!こっから、どう···!」
引き寄せまで押して33···引いてあと29······
『?』
風を切って上昇するアンバニティの音に現は違和感を覚えた。「軽い?やはり?」現の問いに疑似黒宝甲は、あらゆる解析を開始し、明かされた可能性は即アンバーニオン側とも共有された。
あっちもありきたりの知性じゃない。そこそこの全力で手の内を読もうとしてるだろう。
うん!なら読めなくするまで···。
「···マネージャーーー!」
〔!〕
しばらく瞳を閉じて考えていた宇留はマネージャーを呼ぶ声にムスアウの名を想文として添付した。そしてそれは太陽に居るアーカイブと、自身の魂の本質に呼びかける叫びでもあった。
急上昇していたアンバニティは急速に折り返し、急下降を始めてすぐナインズゲイターのリングに飛び込み見えなくなる。だが宇留は構わず続けた。
「···俺達が三人に別れた意味は?!」
「!」
それはマネージャーにとってほんの些細な違和感だった。見慣れた自分の私物が本当に自分のものなのか一瞬疑うような、ごく些細な違和感。
だが新しく出来た近い未来の目的。今の質問の解答を、これが終わったら宇留に答えてやろう。という目的の方がマネージャーの中で大きく膨れ、違和感は思考のずっと遠くへと遠ざかる。
今それを知らなくても、これから始まる長い泡沫の日々が色々悟らせてくれるさ。
面白きは少しでも多く残しておくべきだ。
引き寄せまで押して23···引いてあと15······
アンバニティはアンバーニオンの正面。ゴライゴ·コロシアムの壁に出現したリングから飛び出して来た。
宇留と現の口元が僅かな笑みに歪む。
引き寄せまで押して10···引いてあと9······
トンファーモードを解除した両拳を前に付き出したアンバーニオンは、迫るアンバニティに向けて琥珀のグローブを同時に発射した。
〔悪あがきを!〕
当然のように左右のアサルトブラッシュで二つのグローブを叩き落としたアンバニティが驚いて振り返る。
右手のアサルトブラッシュに絡み付いた琥珀が全体を覆い、停止信号による分解にギリギリまで抗い砕け散った結果、その衝撃で右手のアサルトブラッシュはアンバニティのコントロールを外れて地面に落ちた。
「ハァアアアアア···!」
オオオオオオオォ!
〔!!〕
マネージャーはアサルトブラッシュの回収を一瞬考えて中止にした。
宇留の呼吸に合わせて唸るアンバーニオン。宇留は何か新たな技を仕掛けてこようとしている。マネージャーは嬉しそうにアンバーニオンを見つめた。
「いいぞ!来い!宇留!」
「勝負!」
引き寄せまで押して5···引いてあと4······
アンバニティは残った左手のアサルトブラッシュを突き入れるようにアンバーニオンに迫る。未だアンバーニオンはその場から飛び立ちもせず、右足は固定され、回避の方向はごく狭い範囲に限られている。アサルトブラッシュの狙いは頭部。再構成に時間はかかるがここまで来たらやるしかない。避けた方向をあえて選び半壊させる。マネージャーは方針を決定した。
「容量持ってった方がいいぞ?」
「!?」
マネージャーは何故かアーカイブの言葉を思い出していた。先程スルーした違和感も、心の視界の端にチラチラと揺れていた。
「まさか?」
マネージャーがそう思ったのも束の間。アンバニティはアサルトブラッシュの渾身の突きをアンバーニオンの頭部目掛けて付き出していた。
「や···!」
引き寄せまで押して2···引いてあと1······
信じる!
宇留の閉じていた目が開く。
アンバーニオンは固定された右足を軸に左足を引き、腰をひねって右手の掌底をただ前に掲げた。
「···緊急停止信号!」
ズヒュ···ゥゥ···
宇留の号令によってアンバーニオンの全機能が停止する。アンバニティが目前に迫っているにも関わらず、アンバーニオンはそのポーズを維持したままその場に立ち竦んだ。
押し引きの極意!緒向流!
究極奥義!
未熟者ッ!ゼロッ!!
〔ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!〕
アンバーニオンの緊急停止に驚いたアンバニティは動揺した。
アンバーニオンが避ける確率が高かった場所に突き立ったアサルトブラッシュはまるで明後日の方向へと逸れ、スピードを殺せなかったアンバニティの腰部は吸い込まれるようにアンバーニオンの掌に接近していく。
〔し、しまっ···!!!〕
ドン!ドンッ!ドゴォッーーー!!
掌と衝突したアンバニティの腹部を原因不明の三重衝撃が襲う。
アンバニティは錐揉み状態で回転しながらゴライゴ·コロシアムの壁に突っ込んでいった。
ビュキン!!
アンバーニオンの瞳に光が戻る。
ヴハァアアアア···
口部宝甲の隙間から蒸気を吹き出しながら、アンバーニオンはアンバニティの衝突が引き起こした土煙をずっと眺めていた。
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