神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

アーカイブ·コピー·ネクスト

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 予感に確信が追い付く時。
 答えを追いかけていた頃の楽しさは終わりを告げ、その喪失感を埋める為に自分という存在は次の喜びを探求する。

 誰かが自分の真実を紐解く時。
 かつて暴く立場でやっぱりね?と誇っていた正解の快楽は、謎が解き明かされた者の立場になってみて初めて、中々に非礼な行いだったと悔いる感傷が自身を責め立てる。



俺の魂オレが···先輩ムスアウのコピー?!」

 マネージャーの言葉の内約を自分に理解させる為に、思考内で何度も告白を反芻はんすうさせる宇留。必然的にアサルトブラッシュを受け止めているアンバーニオンの腕力も緩むが、アンバニティも腕の圧力を僅かに控えめにしたただけで、攻撃の手を止める事は無かった。

「前にも同じような事を言ったが、コピーはオレだ。宇留オマエは彼の“次„だ」

 マネージャーの何気無い追伸によって、宇留の心を守っていたミステリーの屋根は完全に取り払われた。
 その屋根の上に生まれた時から降り注いでいたであろう、今まで予感でしか無かった熱い真実の雨が、次々と心を貫いていく。

 俺は本当の自分じゃなかった?

 一体どこからが自分の考え?気持ち?おもい?願い?欲望?運命?価値···?
 太陽の樹は、まだムスアウを利用したくて“俺„を導いたの?
 ムスアウじゃない部分の俺の価値って?
 本当の俺って何?今の俺って誰?

 心?、気持ち······?

 俺が、俺が、ヒメナを好きなのは···
 俺が、ヒメナを好きなムスアウだったから????
 守るって?なに?······

 今までの俺のおもいって、本当の俺の気持ちじゃなかったの?
 アンバーニオンと関わって、生まれたすごいおもいは全部、全部······

 家族?

 ···もし、絆まで疑ってしまったら、そして疑った先に疑った通りの答えがあったならば全てが崩れてしまう。
 宇留の体は防衛本能から、それ以上考えないように彼の心情に思考停止を仕向ける。それはまるで樹液のように疑問を包み込み、かさぶたのように固まろうとしていた。しかし一方で、答えを先送りにしたくないという気持ちも同時に存在し、その硬化を遅らせている。
 逃げない···逃げたくない······!
「······」
 だがアンバーニオンからあまりに力が抜けた為、アンバニティはアサルトブラッシュを押し込むのを止めた。
 アンバーニオンもアサルトブラッシュを持った手を下ろし、俯いたまま動かなくなりアンバニティに見下ろされる。

〔もう一度言うぞ?オリジナルは太陽の樹に保存アーカイブされ、オレはコピーされ実用型バックアップの任を負った。そして宇留オマエ継続ネクストを担う者だ!···宇留、例えばこのAIの少年···〕
「!」
 アンバニティはアサルトブラッシュの切っ先を背後の動かないNOI Zに向けながら言い放った。

「このAIがまだ怪獣にされていた頃。お前は積極的に倒しに行こうとした」
「!!ー」
「それはコイツが、ムスアウが最後にどうにかしようと考えていた敵と同じ存在だと直感的に認識していたからだ。お前に受け継がれたムスアウの強い思いの残滓ざんしに···お前は導かれたんだよ」
「!ー」

 ゴガッ!

 ハッと顔を上げたアンバーニオンの顎を、アンバニティは容赦なく蹴り上げた。
 アンバーニオンの上体が翻り、勢い良く仰向けに倒れ、ダメージでチカチカした灰色の空が宇留の視界を出迎える。
「!······」
〔この程度の揺さぶりで隙を作るな!敵は勝つためにもっとエグい事をする事さえあるんだぞ?!〕
 アンバニティは持っていたもう片方の武器、琥珀の剣の先端を操玉コックピットに向ける。宝甲の編成作用によって、剣先はニュッと伸びて操玉寸前まで迫った。モノクロになった操玉内部。もはやメインディスプレイで明滅するアラートの発光すら色の見分けがつかない。宇留は思わずロルトノクの琥珀アンバーに手を伸ばした。しかし···
〔あと宇留、お前のそのフェミっぽいトコな?〕
 僅かに笑みを含んだマネージャーの声。宇留は一瞬、こんな時に何を言われているのか理解出来なかった。そして間も無く、思春期特有の身勝手な結論付けや一方的なレッテル貼りを心底嫌悪する血潮が沸騰する。
「く!···」
 宇留の怒気と共に、少々顎を引いて顔を上げたアンバーニオンの眉間にある赤い宝甲が光る。アンバニティが付き出していた琥珀の剣のコントロールが僅かに戻り、アンバニティの手首を琥珀の剣ごと押し返す。だがマネージャーは何ら臆する事なく話を続ける。

「宇留、ムスアウはな?かつて人間だった頃のヒメナを守れずに失っているんだよ」

「!?」

「ヒメナはもう死んでいる。ムスアウの願いによって琥珀そこに閉じ込められているのは、ヒメナの魂そのものだ···」

「な···!?」
 ようやく片膝を立てたアンバーニオンだったが、宇留が驚いたあまりに動きは再び止まる。
「まさかこういうコだから。って包容力や、まるで知りませんでした。で、これからも済ませられるとは思ってはいないんだろう?···お前はある理由から深層心理的に大切な女性ひとを失うのを恐れている。なぜならムスアウは···後悔と懺悔の想いからアンバーニオンの力でヒメナとの本当の別れからずっと逃げ続けていたからだ!」

「!!···」
 ···迷いと困惑、目的達成への焦り、罪か罰か?それは背負っていたのか、いきなり背負わされたものか?。
 “自分„への厳しさは宇留も認める所ではあったし、マネージャーが自分を煽りその気にさせていた部分も頭では分かっている。
「そんな!···そんな······ヒメナ···が」
 だがどうしても、宇留の心は今すぐ真実を受け止める事が出来なかった。

 キシュゥーーーン···

 宇留の諦めに呼応し始めたヒモロギング ドライヴエンジンが唸りを止め、再び踞るアンバーニオン。全身がやや土気色に変わっていく。
〔油断するなと言った筈だ〕
 だがあくまでマネージャーは試験の目的を修正する気は無いようだ。しかし、こうして助言めいた言葉をかけているだけでも、まだ温情がある方なのだろう。もし敵が本気なら、何かのきっかけすら与えてくれる事すら無いのだから。
 やがてアンバニティはアサルトブラッシュの先端をアンバーニオンの操玉寸前に近付けた。先端にも突き立つ無数の半透明な毛先がブーーンと最大出力で振動を始める。

〔···宇留、動け、動いてくれ!このままではお前きみを不適格と見なさねばならない〕

 時間を稼ぐように、構えを躊躇うかのようにアサルトブラッシュを振り上げるアンバニティ。だが、未だにアンバーニオンは動く事は無い。






〔······残念だ。宇留···〕
 フッとアサルトブラッシュが振り下ろされる。

 ジャシャギーーーン!


「···!!!」
 宇留は我が目を疑った。
 先程までモノクロに雲って動きを止めていたNOI Zが、美しい漆黒の輝きを取り戻して動いていた。
 NOI Zはアンバーニオンを庇い、背中にアサルトブラッシュの渾身の一撃を受け苦悶に仰け反っている。


「あ、···ア!アラワルくんッーー!!」

 そして宇留の胸元で色を失っていたロルトノクの琥珀アンバーの内部。


 瞳を閉じたヒメナの目尻には涙の閃きが輝き、その表面は宇留の顔を照り返していた。














 
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