神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

あたらしいフォルダ

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 朝の陽光が煌めく大きな帯を波間に敷いている。うねりに沿って揺れる光の帯は、日が照らすあらゆる場所で夏の盛りが踊るのを期待するように、早朝の海上を騒々しく彩っていた。

 その上を超高速で飛び抜けて行く大小二機の琥珀の戦闘機。
 ギノダラス飛行形態とガルンファイター。
「む···?」
 ギノダラスを駆るエシュタガの視界に入った小さい人影。
 近付くにつれ大きく、はっきりと正体が判別出来たその巨体にエシュタガは目を細めた。

 腕を組んで宙に浮かんでいた琥珀の闘神、ゼレクトロンが、ゆっくりと二機の方へと振り返る。
 すぐさま一つになる為の詠唱を終え、ガルンファイターとギノダラスは琥珀の魔神、ガルンシュタエン ティアザに迅速な合体変形を披露した。
 彼等はゼレクトロンのわずか数十メートル直前で余裕を持って急停止し、宙に浮かぶ二体は向かい合う。

ZERECTRONゼレクトロン···戻って来たのか?」
 そう呟くエシュタガの手首に巻かれたブレスレット、ヨギセの琥珀アンバーの内部に、瞳を閉じたガルンがフッと幻影のように現れ、すぐに開かれた視線はエシュタガと同じ方向を向く。

〔···よぉ!、なんでか知らんけどこっから先、どーしてもアレに近付けねぇんだよなぁ?···もしかしてあんたも様子を見に来たのか?〕

 ゼレクトロンから現在の操珀パイロットである藍罠 ヨキトの声が響く。
 彼の右手に装着されている籠手にしつらえられた琥珀、ナキルの琥珀アンバーの内部では、小人の美少年の姿に変化した藍罠の相棒、マーベラス強山こと椎山 伊佐久が眠そうに眼を擦りながら欠伸あくびを噛み殺していた。
 そして藍罠の言うアレとは、ゼレクトロンが親指でクイッと指し示す遠く背後、島のシルエットのようなゴライゴの影が水平線上にポツンと蜃気楼のように浮かび上がっていた。
 ゴライゴのシルエットは本当の島であるかのように微動だにしない。夜が開けたというのに一切の日光を反射せず、曇りの日の遠くの山のような若干薄い小豆あずき色のベールに包まれ、穏やかな沈黙を保っている。

 ゼレクトロンが再びゴライゴのシルエットの方へ向き直ると同時に、ガルンシュタエン ティアザはゼレクトロンから半歩程下がった左横まで進み、適度な距離を取って並ぶ。
 その場の全員が、ゴライゴの元に宇留達が居るという確信を持ってその沈黙を噛み締めていた。そして宇留達と共にあるアンバーニオンに反応し、二体の宝甲の一部が虫の悲鳴のように軋むかすかな音を奏でる。それが空耳では無いという事に彼等が気付くのは、僅か数秒後であった。







 アンバニティの怒涛のラッシュは、相変わらずアサルトブラッシュを用いた防御行動に徹するアンバーニオンを押し弾きながら、ゴライゴ·コロシアムの中を縦横無尽に駆け巡っていた。
 アンバーニオンの攻撃は、ここまで一度もアンバニティのボディへのヒットを許さず、全てアンバニティが持つアサルトブラッシュに阻まれている。
 アンバーニオンの攻撃を弾き、叩き落とし、受け止め、鍔迫り合う。そして忘れた頃に琥珀の剣の切っ先がカウンターで伸びて来る。アサルトブラッシュへのダメージ対策と同時に、機体のあちこちを両断された瞬間に癒着修復したのも一度や二度では無い。宇留の手首に蓄積した疲労もピークに迫り、出来るものなら取り外してしまいたい程気分の悪い苦痛が重く間接にへばり付く。
 そして宇留に課された制限時間数秒程の宿題。人間の経験値が記憶出来る範囲いっぱいになった時どうするのか?というマネージャーからの意味不明な問いの答え、もしくは考え。

 ーーーーーー!

 だがその時、アンバニティは連続瞬間移動を繰り返しアンバーニオンの四肢を一気に両断した。

「!!!!!ーーーーー」

 宇留は強く、更に強く修復を宝甲に願う。切断された四肢はすぐに引き合い磁石のように接合されたが、後になって修復のタイミングが一瞬遅れた事に宇留は恐怖した。さすがにエネルギーを大量に喰ったのか、アンバーニオンの胸の中でヒモロギング ドライブがギャオゥ!と唸りとも悲鳴ともつかない轟音を上げる。その雄叫びは何故か、普段よりも宇留の耳に残るものだった。そのせいか油断が無いよう意識をしっかりと保ち、ダメージを受けた事を悔やまないようにしていた宇留は、もう一撃降って来たアサルトブラッシュをアサルトブラッシュで受け止める事に成功した。だがアンバニティはアサルトブラッシュをもう一段階押し込み、攻撃を受け止めたままのアンバーニオンの膝を地面にズシッと付かせる。

「······!」
「············」

 アサルトブラッシュ同士が擦れ会うキーンという音だけがモノクロの周囲に響く。

「···シンプルに···ゲームだったら、新しいセーブスロット···」
 宇留が先に口を開いた。

「······」
「他にも普通に新しいメモリーカード、新しい増設メモリ···新しいフォルダ···生き物だったら、子供···??」

 未だノーリアクションのマネージャーに考えを述べる宇留だったが、何故か自分の口を突いて出た言葉とは思えない程、自身の台詞セリフに責任感が溢れない。まるで他人の台詞を代弁しているかのような浮わつく気分的な掻痒感そうようかんに、宇留は腹筋から力が抜けて行く感覚を味わった。

 経験値···子供···思い出······?

 宇留がアンバーニオンに関する記憶を検索すると、やけにはっきりとした記憶の羅列が意識に浮かぶ。目でリストを確認するまでもなく、直感でこれとしっかり分かる以前···【普通の人間】だった頃以上の取捨選択感が知識の泉に強く浮かぶ。

 それはアンバーニオン、ヒメナ、ムスアウと夢の中で出会った時の記憶。

「すまないな?本当なら何も無い方がよかったんだけど···お前は俺を引き継がず、普通の人間として生きて行く事だって出来たんだ。」

 声の主、ムスアウが自分の手を優しく握っている。

「···やっぱり縁だけは、どうしようもないか···」

 同時に宇留は幼い頃に父親ハルナと手をつないで歩いた夕焼けの河川敷を思い出していた。

「本当に、いいんだな?」
「うん!」
「ヒメナを守ってくれ!」

「「そうだ!当然だよ!!」」
 宇留は夢の記憶の自分と共に声に出して叫んでいた。

「ムスアウ!」

 宇留の呼び声に、マネージャーと太陽の樹の枝先に立つムスアウが真剣な表情だけを返す。
 そしてアンバニティはアンバーニオンの目を覗き込んだまま、マネージャームスアウの声で伝えた。


「宇留、お前のマスタープログラムたましいの正体は、ムスアウ ヒラメキガサキおれたちの新しいフォルダ。アンバーニオンに宿る新たなる魂、ウリュー ノ マイツカイガムスだ」
 
 
 



 魂の父、ムスアウの真実を知った宇留。そして彼はまだヒメナに訪れたカウントダウンを知らない。
 











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