85 / 201
絢爛!思いの丈!
景の色
しおりを挟む時間と空間が一極集中して砕けたかのような激しい衝撃が目前で弾け、途端に宇留の意識がクリアになった。だがそれを可能にしていたのは絶望的な光景だった。
アンバニティのアサルトブラッシュによる一撃を背に受け、アンバーニオンに凭れ掛かるNOI Z。だが支えようと伸ばしたアンバーニオンの腕を、NOI Zは逆に掴んで自らを支えた。
「あ!ああぁ!!···」
〔···!···須舞···宇留ッ!〕
ーーージャジャラゴロロロッッ!
「!!!」
顎を引き視線を伏せたNOI Zから響く、現が宇留の名を呼ぶ声。
そして袈裟斬りにされた傷を中心にNOI Zの背中が細やかに泡立ち、大小様々な大きさの球体に分離して解けると、NOI Zの機体はアンバーニオンの懐の中で上半身と下半身にボロッと別れてしまった。
「!!ーー」
相手の牙は油断の合間を呆気なく通り抜けて予告もなく友を貫く。
動く事さえ出来なかった自分への失望で、宇留はどうにかなってしまいそうだった。
だがNOI Zはそんな状態にも関わらず、顔を上げて遠慮無く視線をアンバーニオンの目に突き入れてくる。
「あ···!」
NOI Zの目は死んでいない。未だに闘志を秘め、先程までアンバーニオンと戦っていたままの輝きに満ち溢れている。その視線に宇留は不思議と、雨上がりの空に青空の切れ端を見付けた時のような、慎ましくも壮大な爽快感を感じた。
〔す···ま···い、宇留!!···あの時ムスアウは最後に···すまねぇな、と言ってくれたんだ!〕
〔!、ア、アラワルくん?〕
〔俺は、確かにムスアウの限界の一部を、最後の力を奪ったかもしれない!···だけど彼は!そんな俺も···案じてくれた漢だ!···お前のようにな?···彼は!こんなヘリクツヤローとは違う!···何が試験だ!··こんな奴の納得の為にお前達が苦しむ義務も、理由も、決まりも責任も意味も何も無いんだ!〕
〔?、いつから目が覚めていたか知らないが、宇留のこれからの為、憎まれっ子になる責任は持ったと言ったぞ?···それにこの試験、私の一存は、太陽の樹やムスアウの品位を悪意を持って貶す意図は全く無い···〕
そう言って立ち尽くすアンバニティが見下ろす先で、NOI Zの体の節々は砂時計の絞り口を通り抜ける砂のようにザラザラと黒い粒が地面に向かって崩れていく。
〔···お前も、俺も、ムスアウも、誰が誰だっていいんだ!···迷わず!イイ方を選べ!〕
「!!」
〔お前は!、巨獣達の心を照らしてくれたヤツだ!···だから···!お前も···信じろ!···お前の大切な···もの···〕
NOI Zの上半身は現の声を残し、無数の黒いビー玉に分解されて崩壊した。アンバーニオンの手の中をジャラジャラと滑り転がっていく大小様々な疑似黒宝甲の塊。
NOI Zは最後まで目の輝きを失わず、その輝きは涙を湛える宇留の目に焼けとなって白く残る程だった。そしてその時現が囁いた言葉は、全て宇留の心に届いた。
スマイ ウル。みんなのあの笑顔を思い出せ。
ガゴォウッッッッ!ンンンンン!
胸の中で龍神が吠える。
アンバーニオンは掌に残った黒い琥珀をグッと握り締めた。
少年の脳裏に灯った大切な人々の笑顔の記憶は、輝きとなって炎風のように白く逆巻き、心に巨大な火を灯す。
目に光が戻り、全身の宝甲が琥珀色の光沢を取り戻し、
アンバーニオンは立ち上がった。
「······」
〔ーーーーーー!〕
バシッ!
アンバニティはいきなり目の前に飛んで来たアサルトブラッシュを手で受け止めた。
それはアンバーニオンに渡していた筈のアサルトブラッシュの片割れだった。
マネージャーが見ていた所、確かにアンバーニオンは借りていたアサルトブラッシュを投げ返している。だが腕の動きが速すぎる。アンバーニオンの中で何か変化があったようだが、マネージャーはそれを確認出来ないと知ると、ニヤリと微笑みながら宇留の様子を窺う。
〔ようやく火が点いたな?、これは?使わないのか?〕
「マネージャーのモニタリングを遮断···」
〔ふふ、宇留!ようやく気付いたか?、別にそれは強制じゃあない。そして私は、それでも構わない〕
そう凄むマネージャーの視線の先。アンバーニオンの鳩尾には、アサルトブラッシュとすれ違いに既に投擲されていた琥珀の剣が深々と突き刺さっていた。
!、ガッ!ガウォォオオオオオオ!
苦しそうに吠えるアンバーニオンの咆哮に答えるように、琥珀の剣はズグズグとアンバーニオンの機体表面に吸収され、右肩アーマーの上に琥珀柱が軽めのアーチを描いて再構成されていく。
〔その元AIらしからぬお友達、紛い物の安否なら気にしなくていい。ご存知、宝甲停止信号を打ち込んだだけだ。後々機能は回復するだろう。で?······再 開···って事でいいかな?宇留?〕
アンバニティは再びアサルトブラッシュ二刀流の構えをとる。
「······」
アンバーニオンもそれに答え、背中から溢れんばかりのオーラを吹き上げながら腰を落として構えた。
その一瞬、宇留の意識は見覚えのある場所に居た。
宇留が普段、夢現の片手間にイメージトレーニングをしているリアルな仮想精神世界。
今となってはそれが夢などではなく。宝甲が持つ能力が為せる正式なシュミレーター機能であったと改めて理解出来る。
そして目の前にはいつものスパーリング相手だった等身大のアンバーニオンが両膝立ちで自身の腕を抱き、うつむいて動かない姿でそこに居た。
だがその体の色は透明なオレンジ色のみであり、装飾等も溶け合ってさながら一体成形されたアンバーニオンのシルエットのみを再現したオブジェに見えた。
その琥珀のオブジェの胴体の中で同じポーズをとっている人影。もう一人の宇留がそこに立っている。
「······」
宇留がアンバーニオンのオブジェに触れると、それを形作っていた琥珀は線維状にほぐれて零れ、鏡面の大地に結び映って消えていく。そしてそこにはもう一人の宇留が残された。そのもう一人の宇留は大事そうにモノクロになったロルトノクの琥珀を両手で抱き締めている。宇留はその手に触れ、琥珀の中で瞳を閉じている灰色のヒメナを見つめた。目元や頬を伝う涙が光って見える。
「ヒメナ······」
宇留はこの涙が流れきってしまったら何かが終わる予感がした。今度はうつむいているもう一人の自分の顔を見る。
瞳を閉じて、泣いているようだったが、まるでゲームやアニメの演出のように影がかかり、表情は良く見えなかった。
「ごめん!、この涙がこれ以上零れなかったら、なんかイイ感じだよな?」
宇留はガバッともう一人の自分の肩に手を回して抱き締める。
「安心した。俺も宇留も自分に居た。意外と信じきれてなくてごめん!」
!!
宇留の世界の光が増し、周囲の景色が鮮やかに白く輝いた。
「思重合想! 俺 !」
キェギン!
「!」
次の瞬間、アンバニティを護るように現れた真鍮色のリングの縁に、アンバーニオンは貫手を突き立てていた。
そのアンバーニオンの姿。全身の琥珀宝甲が眩い光を放ち、赤い瞳だけがリングの向こうのアンバニティの目を見ている。
〔二つの太陽?、太陽航路?いや!これは!?〕
そう言い残し、アンバニティは背後に出現したもうひとつのリングに吸い込まれて消えた。
〔見える!これがアンバニティのスピードの正体!〕
輝くアンバーニオンから直接、宇留の声が響く。
ガシャギッッッ!
〔!!〕
〔見えたらどうだって?〕
アンバーニオンの背後に出現した二つのリング。一方のリングから現れたアンバニティは通り抜けざまにアンバーニオンの背中から琥珀柱の無い肩アーマーにかけて、アサルトブラッシュの一撃を跳ね上げる。そしてもう一方のリングに飛び込み、アンバーニオンの間合いから一瞬にして離脱して消え、今度はアンバーニオンの後方、様子を見れる距離に地面から飛び上がるように出現した。その際にも真鍮色のリングが僅かな時間ではあるが地面に横たわっていた。
〔ぬ!〕
今の一撃に対しアンバーニオンが開始した宝甲の再構成。それを支えるように、無数の黒い霧が集い、傷口を宝甲と共に埋めていく。
そして修復箇所と同時に、鬼磯目に持たせた事で失われていた琥珀柱の代わりと言わんばかりに、左肩アーマーに黒い琥珀柱が急激に形成されていった。
〔こ···、これは!?早い、奴はもう機能を回復しつつあるのか?〕
驚きを口にするマネージャー。
その現象はNOI Zを構成する疑似黒宝甲がもう既に停止信号を克服し始めている事を示唆していた。
振り返りアンバニティを見つめるアンバーニオン。その両肩には輝きの白と真摯な黒。陰陽の琥珀柱が聳え立っている。傷口を塞いだ黒い鎧は、まるでアンバーニオンに肩を貸して支えているようなイメージをマネージャーに与えた。
〔アラワルくん···ありがとう!〕
アンバーニオンは形成装着された疑似黒宝甲を見つめ、謝意を示し尽くす。
〔アルオスゴロノのシステムを無警戒に取り込むとは···愚かな!〕
マネージャーの口調に焦りとも怒りとも取れない感情が滲む。
ムホホ、大袈裟じゃのう?トモダチん家でゲームをするのがそんなにいかん事かぃの?了見の狭いこっちゃ!
〔!〕
マネージャーは、モノクロ色になってフリーズしている筈のゴライゴ·リパレギレムからの唐突な想文に驚いた。
〔ゴライゴ殿、あなたの仕業か?〕
ワシャちょい手伝っただけだもんね?あの子はもうそろそろ一人前じゃ!そりゃそうとほれ!宇留が来るぞ?
〔!!〕
マネージャーが気が付くと、アンバーニオンはアンバニティに向かって歩き出していた。堂々と胸を張り、迷いの無さは体幹のブレをも消し去っている。
〔マネージャー!〕
〔?〕
〔俺達は紛い物じゃない!それはマネージャー!あなたもだ!〕
〔!ーー〕
マネージャーは少々驚いていたが、口元をニヤリと歪めると、輝くアンバーニオンを真似るようにアンバニティの歩を進めた。
引き寄せまで押して100···引いてあと99······
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~
阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
神樹のアンバーニオン
芋多可 石行
SF
不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。
彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···
今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)
あおっち
SF
港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。その第1次上陸先が苫小牧市だった。
これは、現実なのだ!
その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。
それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。
同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。
台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。
新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。
目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。
昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。
そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。
SF大河小説の前章譚、第4部作。
是非ご覧ください。
※加筆や修正が予告なしにあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる