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絢爛!思いの丈!
試し練る
しおりを挟む拝啓 ゴモリナツユキさま
医療用宝甲を体内にお持ちとの事で、このような連絡手段での通達をお許し下さい。
私は先代のアンバーニオン操珀者、あなたのご盟友であり、我らが英雄 ムスアウ ヒラメキガサキ のデータをベースに創造された琥珀巨神運用システムの一部であり、暫定的にマネージャーと呼称されている存在です。
かつて、アンバーニオンの力を持ってしても生命維持に深刻な障害を負ってしまっていた彼は現在、当方太陽の樹そのものと同化状態にあり、時折感情を発露させる以外は半機能停止状態にあります。
先程申し上げました通り、彼の経験値や記憶は私自身にコピーもしくはアーカイブされ、私はそのデータに基づき琥珀巨神運用の為の一躍をここ約百年程の間担って参りました。
このムスアウそのもの声色にあなたがお気を害す事なく、懐古の念と共に彼を思って頂けたのなら、これ幸いと存じます。
つきましては現在ご活躍のアンバーニオン操珀者の件。
ウル スマイことイノセントネーム、ウリュー ノ マイツカイガムスの義量を、我々はアンバーニオン正当継承に足りうる仁物として高く評価しております。
近日実施予定の実義試験、固定調整、そして予定では来年における最終更新に至るまで、彼にとってはつらい季節になるとは存じますが、何卒彼を皆様方のお力添えをもってお支え頂ければ、我々にとってこれ以上願ってもない事と考えております。
なぜなら彼等は···
I県 軸泉市。護森邸。
二階の広い屋上に沿って、廊下に備え付けてある横に長い一枚窓から太陽光が差し込み、Yシャツにグレーのスラックス姿の老紳士、護森 夏雪を照らした。
スフィが預かり、さらに共上から託されたマネージャーのメッセージが込められた琥珀の便り。
何度目かのメッセージを意識で聞き終え護森が掌を開くと、ボンヤリと黄金色に光っていた彼の掌の輝きも治まる。しかし朝の輝きに包まれている彼の表情は決して晴れやかではなかった。
「ムスアウ兄ぃ···ヒメちゃん···誠魂名···マイツカイガムス···彼等がその名を把握しているという事は······宇留くん···!」
護森は真剣な表情で太陽を見つめながら、窓際に設けられた木目のロングカウンターテーブルの上に置かれたコーヒーカップを持って、控えめにグッと太陽に向かって掲げた。
護森がそのコーヒーを一口啜り終える頃、彼のスマホに部下であるパン屋ケ丘 わんちィから、準緊急コール用の着信があった。
「···おはよう、どうしたの?」
〔社長!おはようございます!お早い時間に申し訳ありません〕
「大丈夫だよ?丁度神棚のお神酒の蓋開けておいてほしいかな?って思ってた所だった」
〔うお!なんか、あったんですかぁ!って!ああ!本題ですけど···急ぎというかなんとぃうか···?〕
「?」
わんちィは少し間を開けて話し出した。
〔アンバーニオン購入したいケースのオキャクサマで九州のヒト、いらっしゃったじゃないですか?〕
「···?、ああ!今年十件目の方ね?覚えてるよ」
〔もちろん“丁重に„お断りしていた筈なんですけど、どうやらアンバーニオンへのこだわりの元は孫娘さんだったとカミングアウトして頂けまして···〕
「うん」
〔その孫娘さんが週末から様子がおかしくなって、現在行方不明になっているそうでして、そちらに接触などしていませんか?とのお問い合わせがありました〕
「なるほど!それで···ファンの子なのかな···?ふむ···」
〔クレカの履歴からO府行きの夜行列車に乗った事までは確認出来たそうなんですけどそこから先は···〕
「···わかった。お子さんの案件なら早めに動くかな?こっちは直接代表に連絡する。所長には君から用件だけ伝えておいてくれないかな?」
同時刻、護ノ森諸店オフィス。
「了解です!お神酒も開けておきます!はい!失礼します!」
···そう言って護森との通話を終えたわんちィだったが、心なしか護森の口調には元気が無いようにわんちィは感じた。
「···」
彼女以外誰も居ないオフィス。わんちィはゆっくりと上半身の体重を椅子の背もたれにギコギコと預けながら、仰け反って天井のボードに目を泳がせ、朝の気合いを入れ直そうとしていた。
その頃、ゴライゴ·コロシアム。
アンバニティは腰の両サイドに備わったスタビライザーからロングブラシ型の武器を引き抜いて一度アンバーニオンを睨み、そして背後を振り向いた。
その視線の先には動かないNOI Z。
「!」
宇留の脳裏に嫌な予感が雪崩れ込む。アンバニティの放つ殺気に気付くのが遅れた宇留は、アンバーニオンを至急前進させようとした。
ピタ···
「!!!、!」
その時だった。
いつの間にかアンバーニオンの背後に浮かんでいたアンバニティが、ブラシの毛材部分をアンバーニオンの肩アーマー背部に優しく押し付けていた。
「く、!ぅっ!む!!!」
思わず変な声で驚く宇留。
アンバーニオンを睨むその顔には、気のせいか影が深く落ちている錯覚を促す気迫が満ちている。
あまりの怖じ気に振り返りながらアンバニティと向き合ったアンバーニオン。相手が本気であれば致命傷だったであろう状況に宇留は震えた。
だが···
パァン!
「!!」
つい今までアンバニティがブラシで触れていた部分の宝甲が弾けて抉れた。
衝撃によって前のめりに一歩踏み出したアンバーニオンは、ふと思う所があってなんとか踏み留まる。
ックッ!
「!」
案の定、アンバーニオンの目の前一メートルの所にブラシ型武器の先端が突き付けられた。
宇留はこれ以上アンバーニオンを無闇に動かせないまま、アンバニティを操っているであろうマネージャーに問う。
〔ま、マネージャー?どうしてこんな?〕
〔···例えば、信じてたヤツが急に敵になったり···もう戦えないのに次の敵が来たり···〕
ボッ!ボッッ!
「!?」
先程のアンバーニオンの傷口が原因不明の二次爆発を起こそうとしていた。
〔迷ってないで修復を宝甲に願おうか?宇留?〕
「?!」
宇留はこんな状況になって初めて、ヒメナがアンバーニオンの事細かい運用管理を担当していた事を自覚した。
彼女もゴライゴやNOI Zと同じく、活動停止状態にあるのだ。
宇留がアンバーニオンに修復を願うと肩の疼きのようなものは霧散し、傷痕こそ残ったものの爆発するような異様な感覚は小さくなっていった。
それを確認しながらアンバニティは二振りのブラシを構え直して宇留に告げる。
〔···宇留!いきなりだが義能卒検だ!気合い入れろよ?〕
〔ええっ?!!〕
〔この世にはいきなり始まらないってルールは無い!残念だが、お前が強くなるんなら私はいくらでも恨まれてやる!〕
「!ーー」
アンバニティは腰を落とし、番のブラシ型武器、アサルトブラッシュを両腕で構えた。
掲げたその両腕は、威嚇し吠える猛獣の顋を思わせる。
正直、マネージャーの本気に宇留は怯んだ。
いきなり襲い掛かってきたアンバニティ、NOI Zとの勝負を邪魔された苛立ち、そして動かないヒメナと、ヒメナの力無しで動いているアンバーニオンへの戸惑い。
宇留は自身の心根が、急激に冷え込んでいくのを感じていた。
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