神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

文字の大きさ
上 下
81 / 201
絢爛!思いの丈!

試し練る

しおりを挟む


 拝啓 ゴモリナツユキさま

 医療用宝甲を体内にお持ちとの事で、このような連絡手段での通達をお許し下さい。

 私は先代のアンバーニオン操珀者、あなたのご盟友であり、我らが英雄 ムスアウ ヒラメキガサキ のデータをベースに創造された琥珀巨神運用システムの一部であり、暫定的にマネージャーと呼称されている存在です。

 かつて、アンバーニオンの力を持ってしても生命維持に深刻な障害を負ってしまっていた彼は現在、当方太陽の樹そのものと同化状態にあり、時折感情を発露させる以外は半機能停止状態にあります。
 先程申し上げました通り、彼の経験値や記憶は私自身にコピーもしくはアーカイブされ、私はそのデータに基づき琥珀巨神運用の為の一躍をここ約百年程の間担って参りました。
 このムスアウそのもの声色にあなたがお気を害す事なく、懐古の念と共に彼を思って頂けたのなら、これ幸いと存じます。

 つきましては現在ご活躍のアンバーニオン操珀者の件。
 ウル スマイことイノセントネーム、ウリュー ノ マイツカイガムスの義量を、我々はアンバーニオン正当継承に足りうる仁物として高く評価しております。
 近日実施予定の実義試験、固定調整、そして予定では来年における最終更新に至るまで、彼にとってはつらい季節になるとは存じますが、何卒彼を皆様方のお力添えをもってお支え頂ければ、我々にとってこれ以上願ってもない事と考えております。

 なぜなら彼等は···








 I県 軸泉市。護森邸。
 
 二階の広い屋上ベランダに沿って、廊下に備え付けてある横に長い一枚窓から太陽光が差し込み、Yシャツにグレーのスラックス姿の老紳士、護森 夏雪を照らした。
 スフィが預かり、さらに共上から託されたマネージャーのメッセージが込められた琥珀の便り。
 何度目かのメッセージを意識で聞き終え護森が掌を開くと、ボンヤリと黄金色に光っていた彼の掌の輝きも治まる。しかし朝の輝きに包まれている彼の表情は決して晴れやかではなかった。

「ムスアウぃ···ヒメちゃん···誠魂名イノセントネーム···マイツカイガムス···彼等がその名を把握しているという事は······宇留くん···!」

 護森は真剣な表情で太陽を見つめながら、窓際に設けられた木目のロングカウンターテーブルの上に置かれたコーヒーカップを持って、控えめにグッと太陽に向かって掲げた。
 護森がそのコーヒーを一口すすり終える頃、彼のスマホに部下であるパン屋ケ丘 わんちィから、準緊急コール用の着信があった。

「···おはよう、どうしたの?」
〔社長!おはようございます!お早い時間に申し訳ありません〕
「大丈夫だよ?丁度神棚のお神酒の蓋開けておいてほしいかな?って思ってた所だった」
〔うお!なんか、あったんですかぁ!って!ああ!本題ですけど···急ぎというかなんとぃうか···?〕
「?」
 わんちィは少し間を開けて話し出した。

〔アンバーニオン購入したいケースのオキャクサマで九州のヒト、いらっしゃったじゃないですか?〕
「···?、ああ!今年十件目の方ね?覚えてるよ」
〔もちろん“丁重に„お断りしていた筈なんですけど、どうやらアンバーニオンへのこだわりの元は孫娘さんだったとカミングアウトして頂けまして···〕
「うん」
〔その孫娘さんが週末から様子がおかしくなって、現在行方不明になっているそうでして、そちらに接触などしていませんか?とのお問い合わせがありました〕
「なるほど!それで···ファンの子なのかな···?ふむ···」
〔クレカの履歴からO府行きの夜行列車に乗った事までは確認出来たそうなんですけどそこから先は···〕
「···わかった。お子さんの案件なら早めに動くかな?こっちは直接代表に連絡する。所長には君から用件だけ伝えておいてくれないかな?」


 同時刻、護ノ森諸店オフィス。

「了解です!お神酒も開けておきます!はい!失礼します!」
 ···そう言って護森との通話を終えたわんちィだったが、心なしか護森の口調には元気が無いようにわんちィは感じた。
「···」
 彼女以外誰も居ないオフィス。わんちィはゆっくりと上半身の体重を椅子の背もたれにギコギコと預けながら、仰け反って天井のボードに目を泳がせ、朝の気合いを入れ直そうとしていた。








 その頃、ゴライゴ·コロシアム。

 アンバニティは腰の両サイドに備わったスタビライザーからロングブラシ型の武器を引き抜いて一度アンバーニオンを睨み、そして背後を振り向いた。

 その視線の先には動かないNOI Z。

「!」
 宇留の脳裏に嫌な予感が雪崩れ込む。アンバニティの放つ殺気に気付くのが遅れた宇留は、アンバーニオンを至急前進させようとした。

 ピタ···

「!!!、!」
 その時だった。
 いつの間にかアンバーニオンの背後に浮かんでいたアンバニティが、ブラシの毛材部分をアンバーニオンの肩アーマー背部に優しく押し付けていた。
「く、!ぅっ!む!!!」
 思わず変な声で驚く宇留。
 アンバーニオンを睨むその顔には、気のせいか影が深く落ちている錯覚を促す気迫が満ちている。
 あまりの怖じ気に振り返りながらアンバニティと向き合ったアンバーニオン。相手が本気であれば致命傷だったであろう状況に宇留は震えた。
 だが···



 パァン!

「!!」
 つい今までアンバニティがブラシで触れていた部分の宝甲が弾けてえぐれた。
 衝撃によって前のめりに一歩踏み出したアンバーニオンは、ふと思う所があってなんとか踏み留まる。

 ックッ!

「!」
 案の定、アンバーニオンの目の前一メートルの所にブラシ型武器の先端が突き付けられた。
 宇留はこれ以上アンバーニオンを無闇に動かせないまま、アンバニティを操っているであろうマネージャーに問う。
〔ま、マネージャー?どうしてこんな?〕

〔···例えば、信じてたヤツが急に敵になったり···もう戦えないのに次の敵が来たり···〕

 ボッ!ボッッ!
「!?」
 先程のアンバーニオンの傷口が原因不明の二次爆発を起こそうとしていた。

〔迷ってないで修復を宝甲に願おうか?宇留?〕

「?!」
 宇留はこんな状況になって初めて、ヒメナがアンバーニオンの事細かい運用管理バックアップを担当していた事を自覚した。
 彼女もゴライゴやNOI Zと同じく、活動停止状態にあるのだ。
 宇留がアンバーニオンに修復を願うと肩の疼きのようなものは霧散し、傷痕こそ残ったものの爆発するような異様な感覚は小さくなっていった。
 それを確認しながらアンバニティは二振りのブラシを構え直して宇留に告げる。

〔···宇留!いきなりだが義能卒検だ!気合い入れろよ?〕
〔ええっ?!!〕
〔この世にはいきなり始まらないってルールは無い!残念だが、お前が強くなるんならおれはいくらでも恨まれてやる!〕

「!ーー」
 
 アンバニティは腰を落とし、つがいのブラシ型武器、アサルトブラッシュを両腕で構えた。
 掲げたその両腕は、威嚇し吠える猛獣のあぎとを思わせる。
 正直、マネージャーの本気に宇留は怯んだ。

 いきなり襲い掛かってきたアンバニティ、NOI Zとの勝負を邪魔された苛立ち、そして動かないヒメナと、ヒメナの力無しで動いているアンバーニオンへの戸惑い。


 宇留は自身の心根が、急激に冷え込んでいくのを感じていた。




















 








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

神樹のアンバーニオン

芋多可 石行
SF
 不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。  彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···  今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...