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絢爛!思いの丈!
時の空、その間に
しおりを挟むNOI Zが振り回している巨大なハンマーは、振りかぶる際に大きな隙があると見せかけつつ急加速をしたり、急停止から任意方向へ向かって追随運動を披露した上で尚且つ重圧の込もった打撃を繰り出してくるなど、宇留の想う、“恐らくこう来る„の予想範囲を大きく逸脱する動きをみせた。
その上巨大なハンマーの迫力に比べ、華奢なNOI Zがそれを取り扱っているというスタイルについても充分に心理的な迷彩効果を発揮している。
だが、アンバーニオンもそれらの攻撃に負けじと、怯む事無く全て躱しながら動く。
「!」
一瞬ハンマーを引いたNOI Zの虚を突いて踏み込んだアンバーニオンは、NOI Zが掴むハンマーのグリップに肉薄する。
二体の顔が至近距離で向かい合った。
リーチの内側に深く潜り込まれてしまったたNOI Zは、ハンマーを扱いあぐねる。
その僅かなもたつきの合間に、アンバーニオンは軟化させた琥珀のヌンチャクを練り飴のように引き延ばし、まるで加工機械のような俊敏なタスクでNOI Zの手首をグルグルと巻いて縛った。
一方NOI Zも次の策を講じる為か、ハンマーを再びクラゲ型ビットに分解し、手中から解き放って後方へ飛び退こうとする。
意外にもアンバーニオンは琥珀の練り飴をホールドはせずに呆気なく手離した。適度な間合いを取ったNOI Zの両手は既に溶け合い塊になった宝甲によって手枷のように拘束されているが、アンバーニオンが追撃する事なく周囲を見渡していたのには理由があった。
無数のクラゲ型ビットが、アンバーニオンを狙う蜂のように周囲に群がって浮いている。
恐らく、次にアンバーニオンが少しでも動いた時が合図となってクラゲ型ビットは攻撃を開始するのだろう。
宇留はそんな予感を胸に抱いたままでNOI Zを見つめていると、急にヒメナが口を開いた。
〔クラゲさん?私達がこれ一個一個にタッチ出来たら、それは止まってね?〕
〔な!?〕
それぞれ、アンバーニオンとNOI Zからヒメナと統合AIの会話が響く。
〔敵のルールで勝ったらすごいよ?〕
〔ほぅ!一興でございますねぇ、琥珀姫殿?〕
「お!おい!···ぅぬぅ!」
NOI Zのコックピット内部。互いのナビゲーター同士の勝手な決定に、現は困った顔をした。
すうっ!と現が息を吸い込むと同時にクラゲ型ビットが数基、アンバーニオンに突撃する。
「!!」
幾つかがボディにヒットし、幾つかは叩き落とす。
ダメージを負ったが、攻撃パターンはシンプルに突撃だった。
素直に
向かって来た
順番に
対応。
宇留のアイディアと判断は戦略プログラムとなってアンバーニオンに流れ込む。
その要望はシステムによって人間の反応速度を超えたバックアップ機能を出力し、動作に反映された。
バックアップ機能はヒメナ、ロルトノクの琥珀ともリンクし、急激なフェイント、キャンセル、カウンターへの対策すら構築している。
クラゲ型ビットが繰り出す打撃の群れ。
その第一波をそこそこ凌いだアンバーニオンは、ほんの僅かな第二波へのインターバルを足場に対応力を強化させた。
タ!ダ!タダタン!タ♪タダタン♪
第二波のクラゲ型ビットの猛攻を、リズムゲームでも遊ぶかのようにタッチで叩き落としていくアンバーニオン。
第一波の時との動きの違いは明らかで、タッチされたクラゲ型ビット達は次々に「ビ!」というヒットコールを残してアンバーニオンの足元に転がり積み上がっていく。
「くッッ!」
現は集中力を増して第三波の攻撃力を増そうと企む。
だがその時、ゴライゴ·コロシアムの上空を何かがシュララと飛び抜けた。同時にパラパラと狐雨が降る。
「あれは!?」
現はそれが、先程ハンマーで叩き潰した琥珀の別動攻撃飛翔体だと判断した。いつの間にか自己修復を終え、海水を掬い上げて戻って来たらしい。
次のアンバーニオンの一手は、現がよく知るあの技···
〔······!!、ぬっッッ!おおおおお!〕
NOI Zは第三波でアンバーニオンを牽制しつつ、琥珀の手枷を無理矢理外そうと両腕に力を込める。
頭部の角の合間に時折静電気のような紫電がスパークし、琥珀の手枷とNOI Zの腕の隙間が軋む。腕のクラゲ型ビットを分解する事も考えた現だったが、彼はあえて力ずくを選んで凄む事を決めた。
「ゲルナイド!まさか!琥珀柱にアクセスしようと?」
「ええ!?」
驚くヒメナと宇留。その証拠に琥珀の手枷は形が一瞬歪んだり、表面にトゲが立ったりと劇的な反応を帯びている。
「戻れっ!」
アンバーニオンが手を翳すと、NOI Zの腕を縛る琥珀の手枷はあっさりと外れ、アンバーニオンに向かって飛ぶ。
「!ー」
だが外れた琥珀の手枷こと琥珀柱は、宇留達にも思いもよらない急加速でアンバーニオンに迫り、宇留はやむを得ず回避を選択した。
アンバーニオンの脇を抜け、ゴライゴ·コロシアムの壁にぶつかって止まった琥珀柱は、透明なオレンジ色のスライムのようにじたばたと踠き、まるで生きているかのようにその場で暴れていた。
「アラワルくんすごいな!琥珀柱はもう少しNOI Zの思考を抜かないと回収出来ないかもね?···」
「うん···そうね?」
感心する宇留とヒメナがアンバーニオンの視線をNOI Zに向けると、上空を旋回していた別動攻撃飛翔体の中心が、たった一基のクラゲ型ビットの垂直急降下に撃ち抜かれた。
その攻撃によって別動攻撃飛翔体が引き寄せていた海水が保持力を失い一気に弾けた。
「!」「!」
豪雨のようになって上空から迫る大量の海水を、アンバーニオンとNOI Zがほぼ同時に見上げる。そして両者共に右腕を天に伸ばすタイミングも一緒だった。
二体が展開する収束誘導フィールドに導かれ、掲げた腕の上に現れた円形の水刃には、互いの宝甲の欠片が多量に溶け込んでいる。それは互いの技に使用する為の海水に、丁度半分づつの分配をもたらした。
涙光の閃き。
頭上で回転する水の丸ノコギリを支えるように、二体は腰を落として構え向かい合う。
「うぬっ!」
ゴライゴ·リパレギレムが期待に身を乗り出すと同時に、宇留と現は叫んだ。
「ウキロゥ オン ヒキエラム!」
「ウキロー オン ヒキエラム!」
「「ウ!·ゴーータ!!」」
シュ!キュリィィイィンッッ!!
技と技がぶつかり合い、衝突音と眩い閃光がゴライゴ·コロシアムに満ちる。
「?、!」
宇留は焦った。
まるで世界がフリーズしてしまったかのように、純白の世界と耳鳴りだけが彼を支配している。
いつまでも晴れないと思われた光の世界で、その異変は起こった。
「?、ヒ、ヒメ···!?ヒメナ!」
ロルトノクの琥珀の内部でヒメナは色を失い、その動きは止まっている。
NOI Zとゴライゴ·リパレギレムも同じく、トーンダウンし動きを止めてそこに居るだけであった。
宇留とアンバーニオンだけが色彩を保ち、その場に立ち尽くして動いている。
「な!なにが?これ!?」
宇留が慌てていると、頭上から聞き覚えのある青年の声が響いた。
「例えば···」
「!」
「···例えばアンバーニオンの武器。それは太陽の樹に保存された植物達の恐怖の記憶。彼らが内包する自然現象、気象、生存競争相手、人間、動物、毒、刃物、チェーンソーや草刈り機、重機等の機械の記憶、そして時折起きる奇妙な現象などをモチーフに紡がれたものだ···」
「!?」
アンバーニオンと動かないNOI Zの間に入るように、宇留の知らない琥珀の巨神がゆっくりと降りて来た。
そして相変わらずNOI Zとゴライゴ、ヒメナに動く気配は無い。
琥珀の巨神は小柄で妖精を思わせる脆そうな工芸品のようでありながら、実力者特有の覇気が全身に満ち、宇留を怯ませるのに充分なオーラを纏っている。そして腰部の両サイドには、ブラシのような巨大な武器を二つ携えていた。
「よぅ!宇留!」
「ム、ムスアウ先輩??!」
モノクロになった世界で、二体の琥珀の巨神、アンバーニオンとアンバニティだけがオレンジ色に輝いていた。
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