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絢爛!思いの丈!

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 アスファルトが日中に蓄えた膨大な太陽熱が熱帯夜の一躍をにない、日没に伴い解放されつつあった熱の放出がようやく収まるかと思われた早朝、降り注ぐ朝の日差しは容赦なくその敷き詰められた黒い道に侵食と反射を再開した。


「ふぅ!」

 T都内にある人気ローカルスーパーマーケット。
 スーパー マイスの社長にして宇留の実父ちち、須舞 春名ハルナは、誰も居ない早朝の駐車場に通勤車くるまを停めて缶のブラックコーヒーを一口飲んでため息をついた。
 本日は年に一度ゲリラ開催しているいきなり38円祭りの日。
 気合いを入れたい所であったが、息子の宇留は昨晩帰宅せず。
 こんな事は彼がアンバーニオンに乗るようになってから度々あったのだが、アンバーニオンへを信頼する事と宇留かれを心配しない振りのバランスを取るのが最近どうも億劫になっていた。
 寝床に関しては宇留曰く、太陽系一の品質を誇る樹液ジェルマットが装備済で寝心地最高と絶賛していたので心配はしていなかった。だが宇留の健康より気になっていたのは、最近彼から感じる妙なおいてけぼり感だった。
 親視点に立って初めて、成程娘の柚雲ゆくもの時とは毛色が違うかと粗方予想はしていたものの、自分の少々荒れ気味だった思春期の因果を汲んでもいいと覚悟していた矢先の特殊な状況シチュエーション
 アンバーニオン、そして彼女ヒメナと出会った宇留の早成感は春名の予想を遥かに超えていた。
 このまま自分達両親を振り切って何処かへと消えてしまいそうな気配すら漂う不安を、只の強がり合いにかまけて無視してはいなかったか···?

 そんな事を考えていると、集配センターからやって来た早朝納入便の4tトラックが視界に入った。
 ドライバーに挨拶でもしようと缶コーヒーを飲み干し車のエンジンを切る。
 外に出るとジトッとぬるい夏の朝気が気だるさに拍車をかけた。
「!」
 後部座席からフロント用サンシェードを取り出そうとドアを開けた春名は、かつて姉弟ののチャイルドシートが装着されていたシートから目が離せなくなっていた。
 その時、春名の脳裏を駆け抜けた勘のようなもの。

「宇留···?」

 春名は後部座席に突っ込んでいた頭を出して空を見上げ、既に太陽光とすずめが乱舞する早朝の夏空を不安げに見つめていた。








 互いの腕や肩口を押さえ込み、組み合っていたアンバーニオンとNOI Z。
 
 だがアンバーニオンはいきなりバックステップで飛び退き、剣の形に変化し落ちて来た琥珀柱の剣をキャッチして身を翻しながら着地する。
 それに合わせてクラゲ型ビットを連結させ、黒い剣を形成しNOI Zが構えたのを合図に、再びアンバーニオンはNOI Zに向かって猛烈な勢いで突撃した。

 ガギュィッッ···!!

 鍔迫つばぜり合いの衝撃波はドーム状に大気を震わせ、二体の姿を歪める。
 NOI Zは押し込まれてしまうのを承知の上で、片足を上げて地面を蹴り膝を突き上げる。膝は琥珀柱の剣を握るアンバーニオンの手にヒットし、剣は腕ごと上に浮き上がった。その隙を予見していたNOI Zは一度剣を振りかぶり、がら空きになったアンバーニオンの胴体へと峰打ちを当て込みに行く。
 だがアンバーニオンの琥珀柱の剣の剣先が縮むと同時に、グリップ下部、反対側から伸びて地面に刺さった琥珀の剣がその一撃を食い止めた。
「!?」
 琥珀柱の剣はそのままロープのようにしなり、シュルリとNOI Zの剣に巻き付く。
 一瞬の強引な締め付けの後、琥珀の鞭によってNOI Zの手から引き離される黒い剣。現が気が付くと、アンバーニオンは再び距離を取るようにバックステップで飛び退いていた。だが現は冷静さを崩さずに黒い剣をクラゲ型ビットに分解させ再びNOI Zの手中に集合させ武器を再構築する。
 NOI Zの両手に今度は黒い短剣が一振づつ組み上がり、NOI Zは獣のように前傾姿勢になるまでかがんで腰を溜め一気に足の瞬発力バネを解き放つと、逆手に持った短剣をガチガチと杖代わりに地面に突き立てながら虫のような動きでアンバーニオンとの間合いを詰めて来た。

「!ーーーーー、ヒメナ!ヌンチャクって知ってる?」
「おまかせ!」
 アンバーニオンは両肩の装飾と両手首に備わったブーメランを強制排除とりはずし、NOI Zに向かって一歩踏み出した。

 ガキャン!

 グラフ曲線のように上昇して伸びてきたNOI Zの一撃を琥珀のヌンチャクが弾く。
 ヌンチャクを一度振り回し、片一方を脇に挟んで見栄を切るアンバーニオン。
 それを待ち、再び前傾姿勢でフラりと前へと倒れ込みながら追撃を仕掛けようとするNOI Z。

 カギン!ガキャン!キキキン!ガキョン!ガガガガ!キキキキキキン!

 NOI Zの怒涛のラッシュを、的確に打ち落とし続ける琥珀のヌンチャクを持ったアンバーニオン。
 しかしNOI Zの前傾姿勢に由来する圧力とスピードは、徐々ににアンバーニオンの背中をゴライゴ·コロシアムの壁へと向かわせつつあった。

「ふ!」
 凛々しい表情のヒメナがより一層集中力を研ぎ澄ませる。

 ある一撃の最中、琥珀のヌンチャクのチェーンがNOI Zの右手首に絡んだ。
「!、く!」

 そのままヌンチャクの両端を外側へ引き絞るアンバーニオン。NOI Zの右手がら短剣がポロリと落ちる。
 そして次に伸びて来た左手の突き。
「おりゃあーー!」
 宇留の気合いと共に左手の短剣の切先に向かってアンバーニオンの頭部が伸びる。

 ガキュィ!

 アンバーニオンの頭角に絡んだ短剣も、NOI Zの左手から引き剥がされるように奪われた。
 そしてアンバーニオンは何をするでもなくNOI Zの眼前に右掌をパッと掲げた。

「!!??」

 驚いてその行動が一瞬理解出来なかった現だったが、すぐに対応に入る為のヒントはすぐに見当がついた。
 アンバーニオンを追い詰めている時、少しも周囲に見掛けなかった装飾の宝甲。

 琥珀の装飾と琥珀のブーメランがプロペラのように合体した別動攻撃飛翔体ドローンが回転しながらNOI Zの背後に迫る。

「ぬぅっ!」

 ズダァァァンンン!!

「!?」「なっ!?」
 驚く宇留とヒメナ。
 別動攻撃飛翔体は巨大な黒いハンマーに押し潰され、NOI Zの寸前すぐ背後で地面に叩き付けられていた。

 自らゴライゴ·コロシアムの壁の近くまで後退し、様子をみる宇留達アンバーニオン。
 パラパラとゴライゴの外骨格表層の砕けた小破片を落としながら浮き上がるハンマーの口の下には、動きが止まった別動攻撃飛翔体が埋まっていた。

「やるな?アンバーニオン···!」

 ガッ!!
 NOI Zはアンバーニオンに顔を向けたまま、ノールックで黒いハンマーの柄を掴んだ。





「ほう······」
 NOI Zとアンバーニオンの能力に感心していたゴライゴ·リパレギレムは、なんとはなしにふと上を向いた。
「ム!?」

 視線の先の超高空に、朝になっても消えないオレンジ色の星が一つ。

 あからさまに異形感を伴ってそこにある星は、ゴライゴ·リパレギレムの超視力によって大気圏内に存在するものであるとの理解が及んだ。

「な!なんじゃアイツは!一体いつから!?」

 星はオレンジ色の輝きを減衰させ、その中から現れた謎の琥珀の巨神は、まるでアンバーニオンとNOI Zの戦いを監視しているように見えた。













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