神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

響く宴

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 コティアーシュマーティアを見送った宇留達が完全な夜明けをゴライゴの掌の上で待っていると、NOI Zのクラゲ型ビットがアンバーニオンの胸にある操玉コックピットの前にいくつか集結し、まるでUFOのようなシンプルなデザインの飛行物体が完成した。
 宇留が現に、これは何かと尋ねようとした先手を打って、NOI Zは解説を始める。

〔アキサ殿、コティアーシュ姉ちゃんに頼まれました。ご希望の場所までこれで送迎しおくりますので、ご帰投の程よろしくお願い致します〕

「こ、これは···!」
 操玉のディスプレイには、公園の遊具のような黒いUFOが頼り無さげに浮かんでいるのが映っている。そのUFOを見た晶叉は正直困惑する一方、推進機関も無く宙に浮かぶ飛行物体の未知のテクノロジーを前に、乗り心地に関して俄然興味が湧いたのもまた事実だった。

「スマンなアキサ殿、オヌシの船に戻られるといい。バグってたワシがかつて何を指示したか分からんが、ガーファル達は空気を読んで貴艦の足止めのみに留めておるようじゃて!」


「!、だいしろが、無事!?···では···?」
「あ!···はい!外に出ますか?」
 晶叉に目配せされた宇留が返事をすると、ヒメナは宇留と晶叉を外に転送するシークエンス開始をアンバーニオンのシステムへ通知した。
 光に包まれ、アンバーニオンの操玉そうぎょくを支える胸部宝甲の上に現れた三人を突風が出迎える。
 更に操玉に近寄って来た黒いUFOの中心には、一人分の座席が設けられているのが見えた。
 耳の側を風がボボボと通り抜ける中、晶叉は宇留に握手をする為の手をスッと差し出す。

「いろいろとありがとう!戦う者の端くれとして、君たちの勝負を最後まで見届けれないのが残念だが、俺はここで···!また会おう!須舞くん!」
「はい!、こちらこそ!」

 固い握手を交わす宇留と晶叉。

 最後にチラッとヒメナに視線を合わせた晶叉は、UFOの縁を掴み突風を利用して身軽にシートの上に飛び乗る。
 それと同時に、幾何学模様のようなややドーム状のシャッターが天面を閉じ晶叉を内部に押し込めると、UFOは迅速に上昇して空かさず何処かへと飛んで行った。


「······?」
 黒いUFOが飛び去った方を見上げていた宇留は、視線を感じてNOI Zの方へ視線をずらす。
 横に並んで立つNOI Zの胸元。三日月型の疑似黒宝甲の辺りに人影が立っている。
 朝の薄明かりで良く見えないが、強風で髪が全て後ろへと流れている現がそこに立ち、微笑みを向けているようだ。
「ひん!」
 宇留も負けじと歯を見せてはにかむ。
 ヒメナも戯れに宇留と同じ表情ではにかみ、琥珀の中で表情をシンクロしてみせた。

「······?」

 そんな三人がパフォーマンスに夢中になっている間。
 ゴライゴは、怪訝な表情で天空を見つめていた。









 だいしろの後部甲板では、隊員達の歓声と獣の応援歌が入り交じり、ドンチャン騒ぎの様相を呈していた。
 胡桃下とガーファル隊長の間には、一体どこから持って来たのかと疑われる程の大量の日本酒の一升瓶や紙パック等のゴミが散乱している。

 紙コップをグイッとあおる胡桃下と、口先に摘まんだ一升瓶を天空に掲げてキュッと飲み干すガーファル隊長。
「うおおお!艦長ォ!」
「ヴォォォ!」
 紙コップの中身を飲み干した胡桃下は紙コップをクシャッと握り潰し、顎を引いてグググと何かを堪えていたが、やがて抑圧されていたそれはすぐに解放された。
「クッ!ァーーーーーー!」
「うおおーーーー!」
 真っ赤な顔の胡桃下を称える隊員達の歓声が上がる。
 一方、ガーファル隊長は一升瓶を咥えたままフラリと横にズダンと倒れ、甲板が大いに震えた。その時、ガーファル隊長の口から外れて飛んだ一升瓶は近くの設備に当たって砕け、それを冷静に見ていた副長のこめかみがピクピクと脈動した。

「勝ったーーーーー!」
 胡座あぐらをかいた胡桃下が自身の太ももをパシンと叩き、更に隊員達はワーワーと騒ぎながら胡桃下の周りに集まる。ガーファル達は倒れた隊長の介抱をするように数匹が集い、悔しそうに重深隊のメンバーを見ていた。
「ぅおおおー!やったぜ艦長!」
「グググクク···」
 ところが、ガーファル達と同じく悔しげにワナワナとしていた副長の怒りが、ついに爆発した。
「だああッ!お前らーー!一体どこにこんな大量に隠していたーー!末期酒ってレベルじゃないぞ!けしからんっ!綱紀粛正こうきしゅくせェモンだーー!」
 バーベキューコンロ松明の薄明かりの中、怒りで胡桃下と同じ位顔が赤くなっている副長。
 それに恐れをなし、動きを止めた隊員達が肩をすくめたり苦笑いで視線を反らしていると、ガーファルの一体が野太くよく聞き取れにくくも流暢りゅうちょうな日本語で余計な事を言う。

「オッサン!コマケーコトイウナヤ!」

「な!、なん!だトォォ!!」
「あ!副長!フクチョフクチョ!!危ない危ない!!」
 ガーファル隊長の部下の一言で更に激昂した副長は、半袖の片方をまくり上げながらガーファル部下へとにじり寄ろうとした所を隊員達に止められる。
「「ブホホホホホファ!」」
 離せ離せとキレ散らかす副長と押し問答する隊員達を、ガーファル達が笑ってからかう。
「ぷゥえ~あーー!!」
 副長の心労もいざ知らず。胡桃下はその場にドッと大の字に寝転がった。
 ここに来てようやく気を効かせた隊員が飲料水を取りに戻り、副長の怒りの矛先は胡桃下に向かう。
「艦長!だいたいですねー!結果オーライだかなんだか知らないですけどねー!···」
「んぬぁ?副長フグヂョオ!お星さまとユーフォーが見えるヨンォ!」
「だー!モー!酔っ払い!!もう!」
「じゃなくて···本当に、俺らけに見える幻覚か?オムカエデゴンスか?黒いファンシーなユーフォーに環巣ら乗ってルヨ~?」
「え?環巣?チーフが?」
 副長と執間、そして隊員達は一斉に胡桃下が見上げる空を見た。

 そこには黒い円形の、確かにUFOのように見える物体の上から下を覗き見る晶叉の顔がゆっくり降りて来ていた。
「うわ!」
 するとUFOは半分に割れて何処かへ飛び去り、割った卵の中身のように落ちて来た晶叉は足を揃え、両手を横に付き出した十字架ポーズで着地の瞬間屈伸して衝撃を逃がす。
「···!」
 そしてスッと美しく立ち上がり、立てた手首の指先はピッと上を向いてしなった。

「た、只今戻りました!···ウ···ウルトラッ!シー!」
「「?」」

 ズドォッ!!

 そこに居る全員が一瞬の間を置き、取り敢えずガーファル達も含めて大昔のギャグマンガのように一斉にズッこけた。だいしろの後部甲板に、夜明け前の冷たい風が吹く。
 晶叉は恥ずかしそうに後頭部に手を伸ばし、倒れている全員全頭を笑顔で見渡した。

「く!この時代にこんなん!···こりゃちょっとヒドイですよチーフ!」
 執間がグググと上体を肘で支えながら起き上がろうとしている。

「ふぅ···」
 色っぽい声でため息をつきながら、ガーファル隊長が頭を上げた。
「ぬ!」
 負けじと胡桃下も上体を起こす。
「···分かりましたわゴライゴ様、すぐに合流します···」
 しゃなりと身を起こしたガーファル隊長から、女性の声で日本語が響く。
「じょ、女性の声だ」
「あんた、おんなだったのか!?」
 立ち上がりながら驚く隊員達や執間を無視して、ガーファル隊長は胡桃下に告げる。
「撤退するわ、電気とお酒ごちそうさま、艦長さん?···楽しかった!次はこちらからお誘いするから、今度はみんなで飲み直しましょうね?···!、行くわよアンタラァーー!」

 ヴぉォオオオオオっ!

 いきなりキャラが淑女から姉御風に変貌したガーファル隊長の言葉を合図に、だいしろの上を這い回っていたガーファル達が咆哮こえを上げ次々と海へ飛び込む。
 重深隊のメンバーは、呆気に取られた表情で彼らを見送るしかなかった。
 


「の、飲み直すって、どうやって?」

 めちゃめちゃになった後部甲板で誰かが呟いた事で、重深隊のメンバー全員が我に返る。
「か、環巣?···鬼···磯目は?」
 晶叉に質問する副長からは、既に怒りの毒気は抜けている。
「えーーっと、ですね···?」

 パッ!

 どこから話そうか迷っていた晶叉の横顔を、水平線から顔を出した太陽の一閃がパッとオレンジ色に照らした。








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