76 / 202
絢爛!思いの丈!
待ち合わせ
しおりを挟む空が白み始めた洋上で、浮上してきた輝きが海面を隆起させた。
現れたのはゴライゴとその掌の上に立つアンバーニオンとNOI Z。
そしてたった今、アンバーニオンとの合体、もとい思重合想を解除したばかりの鬼磯目は、海面から艦首を突き出して鎌首をもたげ、さながら巣穴から顔を出したチンアナゴのようにゴライゴの方を向いている。
だが晶叉だけは、未だにアンバーニオンの操玉の中に居た。
晶叉がその状況にやや当惑していると、操玉にゴライゴの声と思しき重低音ボイスが外から響く。
「···もし、コティアーシュよ?想文が不自由であらば日本語はどうじゃ?コチトラ、宇留の思考言語のおかげですぐに昔のカンが戻ってな?」
·うわーー!ありがとうございます!スッゴい助かります!ところで、ゴライゴ様?···
「んん?」
·打って出るのであれば!私もお手伝い致します!···墓所に···私をもう一度墓所へと向かわせては頂けませんか?
「!、マーティア?」
「んん!なッッッ!ま、まさかオヌシ!」
「!?」
ゴライゴの目が大きく見開かれる。
宇留と現は、何事かと交互に二体の方を振り向き、晶叉は更に困った顔になった。
·他の諸先輩方もきっと御納得なさいます!この機会を逃す事になれば!そちらの方がきっと皆さん残念に思われる事でしょうから!···
「ンヌムゥ!さ、さすが!一時でもあヤつらとあっちで茶飲み友達同士だったコの言う事ァ説得力が違うわい!」
·あの···アキサ!?
「!、ど、どうしたマーティア!?今の話は一体?」
·もし、よろしければ、···休暇を···休暇を頂けませんか?
「休暇!?」
·私を、これからも皆さんの仲間だと思ってくださるのなら···是非!目的地までバッテリーを最大セーブしても片道分ですけど···きっと今より強くなって、“おみやげ„も付けて必ず!絶対に、絶対に意地でも帰って来ますから···!
「···!」
晶叉の心が震えた。鬼磯目の口調から伝わって来るのは、強い覚悟、そしてワクワク感のようなもの。
遠足の前夜に、期待で眠れなかった子供の頃に感じたあの感覚。
今の晶叉にとってもう彼女は、ただの潜水艦でもAIでも無い。かけがえの無い仲間、そしてその仲間が望む自発的な願望。
その願いを自身の一存のみで許してしまえば国防隊の隊員としては失格なのだろう。しかしその希望に答えるのが正しいと、理屈だけではない本質が晶叉の口を衝いて出た。
「···絶対だな?」
·はい!
「わかった!キミには、随分苦労をかけてしまった。君の年休が検討されていなかった事もあるし···だから俺が持つ全ての力とその話をダシにゴネにゴネて、誰がなんと言おうとゴネ抜いておく!こっちの事は心配するな?気を付けて行って来るように!」
·!···は!、はい!!ありがとうございます!!
「いや、こちらこそありがとう···こ、コ、コティ··アーシュ!」
!ーーーー、目、目が無くて泣くのがつらいんです!で、でも、心配してくれて···本当の名前で呼んでくれて···嬉しくて、泣けて嬉しい、嬉しい···
「ほぉ···!」
「コティアーシュ姉ちゃん···」
「え?コティアーシュ行っちゃうの?大丈夫?」
アンバーニオンとNOI Zは、感心するゴライゴの中指を中心に、それぞれ指の間の隙間から身を乗り出して鬼磯目の方を向く。
「ゲルナイド!宇留よ!コティアーシュならもう大丈夫じゃ!これから面白い事になるぞぃ!」
「えええ?」
「コティアーシュ!」
ヒメナが叫ぶと同時に、アンバーニオンの左肩アーマーから琥珀柱が一本根元からパキンと外れて浮かび上がり、そのまま縦回転で弧を描き鬼磯目の方へと飛んだ。
·うわっとー!
カキン!
その琥珀柱は捕獲爪にキャッチされると同時に布のようにフワリとほどけ、鬼磯目の船体前方を覆って見えなくなった。
琥珀柱はどうやら全体的に薄く引き延ばされ、鬼磯目の装甲表面をコーティングしたようだ。
·わーー!ヒメチャン!これは!?
〔餞別よ!琥珀の泉にはまだストックがあるから心配ないわ!頼りにして?〕
·アンバーニオン!ヒメチャン!ありがとう!これで百人力です!
「よかったのーコティアーシュ!ではガーファル達を何名か付き添わせよう。ワシも後からゆくから頼んだぞぃ?」
·はいっ!!···
鬼磯目はゴライゴの掌の上のアンバーニオンを通して晶叉を見た。
「······」
その瞳の無い眼差しに、何故か晶叉はいつかの初デートで待ち合わせをした当時を思い出していた。
かつての恋人が自分を見付けて微笑んでくれたあの感覚。
激務が原因で、あまり良くない別れ方をした事までは今は思い出さない事にして、ソッと回想を閉じる。
その晶叉の視線の向こう。
鬼磯目は意を決したように海中へと潜った。
「イイ子じゃろう?ともかくもう一度話す事が出来てよかったわい」
「!」
いつ積もる会話を振られるか?
ゴライゴの話の滑り出しが自分に向くのを若干警戒して身構えていた晶叉だったが、ゴライゴの口調はあくまで穏やかだった。
「···」
気を使ったヒメナが、晶叉の声をアンバーニオンの口部に乗せる。
〔···ゴラ···イゴ···殿?我々人間は、彼女に···!〕
「まぁまぁ···!ワシなんかが言うのもなんじゃが過ぎた事よ。意識あっての物種じゃわ!さっきも言うたがその辺はまた機会を改めて···いつか何処かにこのデカイ顔でも出すとするわい。···それに礼を言わねばならんのはこっちじゃ!きっと孤独なあの子の心が今まで持ちこたえたのはお主···アキサ殿のような漢がソバにおってくれたからこそに違いないわぃ!···ありがとうの?···」
〔ゴライゴ殿···!〕
ゴライゴの度量の広さに感嘆した晶叉は、思わず拳を握ってあからさまな嬉しさに耐える。
怪獣の大丈夫はわからんとあえて冗談を添えながら、晶叉の心中の詫びはゴライゴの詫びと同じ深さまで限りなく潜るように願い、晶叉はその場で腰を深く折る。
その時全員が見守る先。
目立ち始めた水平線の上で、鬼磯目が海上に飛び上がった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神樹のアンバーニオン
芋多可 石行
SF
不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。
彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···
今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。
神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!
芋多可 石行
SF
琥珀の巨神、アンバーニオンと琥珀の小人、ヒメナと出会った主人公、須舞 宇留は、北東北での戦いを経て故郷の母校へと堂々復帰した。しかしそこで待っていたのは謎の転校生、月井度 現、そして現れる偽りの琥珀の魔神にして最凶の敵、ガルンシュタエンだった。
一方、重深隊の特殊潜水艦、鬼磯目の秘密に人々の心が揺れる中、迫り来る皇帝復活の時。そんな中、アンバーニオンに再び新たな力が宿る······
神樹のアンバーニオン 2
逆襲!神霧のガルンシュタエン
今、少年の非日常が琥珀色に輝き始める······


海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる