神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

待ち合わせ

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 空が白み始めた洋上で、浮上してきた輝きが海面を隆起させた。


 現れたのはゴライゴとその掌の上に立つアンバーニオンとNOI Z。
 そしてたった今、アンバーニオンとの合体、もとい思重合想シンクロスコラボイドを解除したばかりの鬼磯目は、海面から艦首を突き出して鎌首をもたげ、さながら巣穴から顔を出したチンアナゴのようにゴライゴの方を向いている。

 だが晶叉だけは、未だにアンバーニオンの操玉コックピットの中に居た。
 晶叉がその状況にやや当惑していると、操玉コックピットにゴライゴの声とおぼしき重低音ボイスが外から響く。
 

「···もし、コティアーシュよ?想文が不自由であらば日本語はどうじゃ?コチトラ、宇留の思考言語のおかげですぐに昔のカンが戻ってな?」

 ·うわーー!ありがとうございます!スッゴい助かります!ところで、ゴライゴ様?···

「んん?」

 ·打って出るのであれば!私もお手伝い致します!···墓所に···私をもう一度墓所へと向かわせては頂けませんか?

「!、マーティア?」

「んん!なッッッ!ま、まさかオヌシ!」

「!?」
 ゴライゴの目が大きく見開かれる。
 宇留と現は、何事かと交互に二体の方を振り向き、晶叉は更に困った顔になった。

 ·他の諸先輩方もきっと御納得なさいます!この機会を逃す事になれば!そちらの方がきっと皆さん残念に思われる事でしょうから!···

「ンヌムゥ!さ、さすが!一時でもあヤつらとあっちで茶飲み友達同士だったコの言う事ァ説得力が違うわい!」


 ·あの···アキサ!?



「!、ど、どうしたマーティア!?今の話は一体?」


 ·もし、よろしければ、···休暇を···休暇を頂けませんか?


「休暇!?」

 ·私を、これからも皆さんの仲間だと思ってくださるのなら···是非!目的地までバッテリーを最大セーブしても片道分ですけど···きっと今より強くなって、“おみやげ„も付けて必ず!絶対に、絶対に意地でも帰って来ますから···!

「···!」
 晶叉の心が震えた。鬼磯目マーティアの口調から伝わって来るのは、強い覚悟、そしてワクワク感のようなもの。
 遠足の前夜に、期待で眠れなかった子供の頃に感じたあの感覚。
 今の晶叉にとってもう彼女は、ただの潜水艦でもAIでも無い。かけがえの無い仲間、そしてその仲間が望む自発的な願望。
 その願いを自身の一存のみで許してしまえば国防隊の隊員としては失格なのだろう。しかしその希望に答えるのが正しいと、理屈だけではない本質が晶叉の口をいて出た。

「···絶対だな?」

 ·はい!

「わかった!キミには、随分苦労をかけてしまった。君の年休が検討されていなかった事もあるし···だから俺が持つ全ての力とその話をダシにゴネにゴネて、誰がなんと言おうとゴネ抜いておく!こっちの事は心配するな?気を付けて行って来るように!」

 ·!···は!、はい!!ありがとうございます!!

「いや、こちらこそありがとう···こ、コ、コティ··アーシュ!」



 !ーーーー、目、目が無くて泣くのがつらいんです!で、でも、心配してくれて···本当の名前で呼んでくれて···嬉しくて、泣けて嬉しい、嬉しい···



「ほぉ···!」
「コティアーシュ姉ちゃん···」
「え?コティアーシュ行っちゃうの?大丈夫?」

 アンバーニオンとNOI Zは、感心するゴライゴの中指を中心に、それぞれ指の間の隙間から身を乗り出して鬼磯目の方を向く。

「ゲルナイド!宇留よ!コティアーシュならもう大丈夫じゃ!これから面白い事になるぞぃ!」

「えええ?」

「コティアーシュ!」
 ヒメナが叫ぶと同時に、アンバーニオンの左肩アーマーから琥珀柱が一本根元からパキンと外れて浮かび上がり、そのまま縦回転で弧を描き鬼磯目の方へと飛んだ。

 ·うわっとー!
 カキン!

 その琥珀柱は捕獲爪グラップルクローにキャッチされると同時に布のようにフワリとほどけ、鬼磯目の船体前方を覆って見えなくなった。
 琥珀柱はどうやら全体的に薄く引き延ばされ、鬼磯目の装甲表面をコーティングしたようだ。

 ·わーー!ヒメチャン!これは!?

〔餞別よ!琥珀の泉基地にはまだストックがあるから心配ないわ!頼りにして?〕

 ·アンバーニオン!ヒメチャン!ありがとう!これで百人力です!

「よかったのーコティアーシュ!ではガーファル達を何名か付き添わせよう。ワシも後からゆくから頼んだぞぃ?」

 ·はいっ!!···

 鬼磯目はゴライゴの掌の上のアンバーニオンを通して晶叉を見た。
「······」
 その瞳の無い眼差しに、何故か晶叉はいつかの初デートで待ち合わせをした当時を思い出していた。
 かつての恋人が自分を見付けて微笑んでくれたあの感覚。
 激務が原因で、あまり良くない別れ方をした事までは今は思い出さない事にして、ソッと回想を閉じる。

 その晶叉の視線の向こう。
 鬼磯目は意を決したように海中へと潜った。




「イイ子じゃろう?ともかくもう一度話す事が出来てよかったわい」

「!」
 いつ積もる会話はなしを振られるか?
 ゴライゴの話の滑り出しが自分に向くのを若干警戒して身構えていた晶叉だったが、ゴライゴの口調はあくまで穏やかだった。
「···」
 気を使ったヒメナが、晶叉の声をアンバーニオンの口部スピーカーに乗せる。

〔···ゴラ···イゴ···殿どの?我々人間は、彼女に···!〕

「まぁまぁ···!ワシなんかが言うのもなんじゃが過ぎた事よ。意識いのちあっての物種じゃわ!さっきも言うたがその辺はまた機会を改めて···いつか何処かにこのデカイ顔でも出すとするわい。···それに礼を言わねばならんのはこっちじゃ!きっと孤独なあの子の心が今まで持ちこたえたのはお主···アキサ殿のようなおとこがソバにおってくれたからこそに違いないわぃ!···ありがとうの?···」

〔ゴライゴ殿···!〕

 ゴライゴの度量の広さに感嘆した晶叉は、思わず拳を握ってあからさまな嬉しさに耐える。
 怪獣の大丈夫はわからんとあえて冗談を添えながら、晶叉の心中の詫びはゴライゴの詫びと同じ深さまで限りなく潜るように願い、晶叉はその場で腰を深く折る。

 その時全員が見守る先。

 目立ち始めた水平線の上で、鬼磯目が海上に飛び上がった。

 




 

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