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絢爛!思いの丈!
海淵に届く
しおりを挟む思い出すのは何時振りだろうか?
まだ体長一メートルにも満たなかった小さいワシは、大陸棚の崖っぷちに追い込まれておった。
ワシを蹴鞠のように足で海水ごと爪弾き、ここまで追い込んだ怪獣達。
七十メートルに迫ろうかという大の怪獣が揃いも揃って···と今だからこそ思えるものの、あの時は充分怖かったよな?ワシ?
でもそんな時、あんたはワシの前に立ちはだかってクレとった。
突端が鋭角的なダイオウグソクムシを思わせるジャバラの外骨格を体に這わせ、長く逞しい手足を持った男前の白い怪獣。
ワシはあんたみたいになりたくてここまで来たのにな?今のワシと言ったらもう···
そう!その顔!モスコシ、モスコシぃィ!見せてくれんか?
「誰じゃオヌシ?」
「!」
思いに耽る幼いゴライゴの背後に、現在のゴライゴの顔が現れて訊ねた。
ビグンン!
いきなり。
ゴライゴの背中にある鱗のような外骨格が一枚、急に跳ね上がる。
外骨格の内側には怪しい水中用巨大ロボットが居た。
アルオスゴロノ帝国 隠密工作用潜機 エンダヴィス 水中用擬態改修型。
ゴライゴに寄生していたエンダヴィスは、覗いていた宿主の記憶から逆流してきた思考に恐れおののき、魔術道具のような装飾のある頭を少々震わせた。
そして自身が統括する無数の寄想の書。
エンダヴィスは残されたそれらの出力を全て上げ、再び擬態と洗脳を再開すべく背負った擬態用カバーの中に自身を伏せて、身を隠そうとした。
だが······
ガッッ!!
「!ーーーーーー」
エンダヴィスの顔面は見えない力に鷲掴みにされた。
その見えない握力に沿って次々と集結していく黒い粒子は、徐々に黒く巨大な腕へと組上がっていく。
〔捕まえたぞ!〕
腕の根元は三日月型の尾鰭となってバタつき、姿を現した黒い腕の戦魚は踠くエンダヴィスをガシガシと揺さぶった。
ヒュラララララララ···!
ゴライゴの首筋にあるエラのような隙間から、不可視の水流カッターが幾重にも重なって放たれた。それは透明な連凧の帯となって、暗い水中に踊った。
アンバーニオン マーティアラは、まるで見えているかのように水刀の密集包陣を掻い潜って優雅に体を翻し、躱された水刃の束はアンバーニオン マーティアラが放つ輝きを照り返しては闇の狭間へ次々に溶けていった。
その間にもゴライゴの眉間には水縹色のエネルギー球が収束し、ゴライゴの顔面を照らした。
ポッ!というシンプルな爆発音を伴い、アンバーニオン マーティアラに向けて放たれるエネルギー球。
エネルギー球は周囲の海水と劇的に反応しながら、軌道の読めないジグザグな動きと振動と加速を伴ってアンバーニオン マーティアラに詰め寄った。
水流カッターを躱しながらエネルギー球を確認したアンバーニオン マーティアラは、前方に体を回転させて尾鰭でエネルギー球を受け止める。
一瞬動きが止まった後、アンバーニオン マーティアラはイルカが尾鰭でボールを打つようにエネルギー球をゴライゴに向けて弾き返す。
シュ!ヴァァァン!
エネルギー球は抉れるように弧を描いて加速し、ゴライゴの背面へと飛んだ。
そこで黒い巨大魚についばまれ、ゴソゴソと動いている鱗の一枚まで、迷わずエネルギー球の光点が伸びていく。
「!!!」
驚くエンダヴィスの背後で、ゴライゴの鱗のフリをしていたカバーが光に包まれ大爆発した。
爆発の中から、下半身をゴライゴの身に埋めたエンダヴィスが姿を現す。
空かさずアンバーニオン マーティアラは、ゴライゴの巨大な顔の横を超高速で通り抜け、着弾地点へと急ぐ。
横目でアンバーニオンの輝きを追うゴライゴの目には、やや正気が戻りつつあるように見てとれた。
向かう先では、爆発と同時に姿を消した戦魚を探してエンダヴィスが周囲を見渡している。
敵に向け更に加速したアンバーニオン マーティアラは、肩アーマーを前傾させ、琥珀の捕獲爪をギャキンと開いた。
「コティアーシュ!環巣さん!挟んでから!すごい電撃を注入します!鬼磯目の牙の、強いイメージ下さい!」
「ああ!了解だ!マーティア!」
ハイ!ウルチャン!アキサ!
攻撃プランを確認する宇留、晶叉、マーティア。そして続けて三人は思考に浮かんだ詠唱を口ずさむ。
「虎魂!」
「龍血!」
雷電轟!
〔うおおおおおおお!〕
ギャキーーーーン!
「!!!」
アンバーニオン マーティアラは、エンダヴィスを背後から腕ごと挟み込んで拘束した。
勢い余ってエンダヴィスの下半身がズルルとゴライゴから抜け出たが、それでもまだ大半の部分が埋もれているようだ。
そして予定通り、エンダヴィスの機体そのものに向けて雷電轟の注入が開始された。
一瞬ビクつき、機体が光り、細かい気泡が関節から涌き出る。
しかしエンダヴィスは動けないまでも、何故か持ちこたえていた。
「ウリュ!この機体、準帝の電力摂取器官を利用して雷電轟を接地して逃がしてる!」
「んーーー!なーらぁ!」
キュィィィーーーー
キュボォッッッーーーーーー!!
アンバーニオン マーティアラは、虎魂龍血雷電轟の注入を停止すると同時に、脚部が変化した水中ブースターを全開にしてエンダヴィスを持ち上げ始めた。
エンダヴィスの胴体が、ズルズルと徐々に引き抜かれてゆく。
「ハイ!セーノぉ!琥珀ちゃんがぁ引っ張ってェ!!」
ゴバ!
宇留が普段は見せない体育会系的かつ勇壮な気合い一発と共に、エンダヴィスの胴体が大きく引き抜ける。続けて晶叉、ヒメナとマーティアもそれに続く。
「ハハ!オッサンもー!引っ張ってぇーー!」
ゴバッ!
「「お姉さんたちもーー引っ張ってーーー!」」
ゴバババッッ!
その時、ゴライゴの背中全体を覆う外骨格の縁から無数のミサイルが飛び立った。
使い捨ての筋肉と骨、高可燃性余剰代謝物質を組み合わせて精製された生き矢。
その先端部には寄想の書が張り付いて、ミサイルの軌道を制御していた。
だが宇留はそれすら意に介さず、エンダヴィスの引き抜きを続ける。
「ここには!おっちゃんを助けたいヒトしか居ないッッ!······おーい!アラワルくーーーーん!!」
宇留が呼ぶアンバーニオン マーティアラの視線の遥か向こう。
疑似黒宝甲をソードモードに結合させたNOI Zが、既にその大剣を振りかぶっていた。
「!ーーーー」
そのまま、アンバーニオン マーティアラの輝き目掛け加速するNOI Z。
ミサイル群が迫る中、マーティアは機体に力を込めて叫ぶ。
〔お兄ちゃんがーーー!とどめぇーー!うおおおっ!〕
ズボォッ!!!
エンダヴィスの長い胴体の先端。
枯草色に光る寄想の書のコントロールコアがついに引き吊り出され、その全体が露になった。
〔でやぁああっっ!〕
ズバッッ!
NOI Zが大剣を振るう。
同時に横方向に両断されるコントロールコア。
そして上半身も、バキバキと琥珀の捕獲爪によって噛み潰される。
ヴォボグァーーーーー!
爆発四散するエンダヴィス。
生き矢は命中する事無くその場で自爆し、その衝撃でゴライゴの体のあちこちに隠されていた寄想の書がパッと振り落とされ消滅していく。
爆発の濁りの中から現れた輝くアンバーニオン マーティアラと、傍らに浮かぶNOI Z。
そこへゴライゴの独り言が響く。
···ふ、ふふふ。ワシとした事が···た、太陽が···太陽がこんな···薄暗い深海まで、わざわざ心を照らしに来てくれおったわ······ッッ!!
「「ゴライゴさまーー!」」
殺気の消えた育ての師の声。
怪獣の姉弟の歓喜の声が、静まり返った海中に木霊した。
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