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絢爛!思いの丈!

UNBERN-ITY

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 宇留達、アンバーニオン軍の面々は、ゴライゴの広いてのひらの上で小休憩をしていた······つもりだった。

「もう三時過ぎか···」
「え!あ!」

 アンバーニオンの操玉コックピットに浮かぶ晶叉が腕時計を見て呟く。
 宇留はここに来てようやくスマホを教室に忘れた事に気付くと同時に、いきなり日付を大きく跨いでいた事に驚いた。

「驚いたか?ウルよ!眠くもないし疲れも無いじゃろ?」

「え?おっちゃん、俺達になんかしたの?」

「ワシんに湧いとるエネルギー、アーシアンライトのお裾分けじゃ!」

 ゴライゴの掌は仄かに青く光り、その上のアンバーニオン マーティアラとNOI Zのシルエットをボンヤリと浮かび上がらせている。

「うわ!すごい!なんかスッキリ!」

「···?」

 ゴライゴはアンバーニオンに微かな違和感を感じたが、あえて思いとどまり宇留との会話を続ける。
「······まぁ慣れんと感覚が途切れたり、気がポヤッとするのも無理は無い!回復にはなったじゃろう?···その代わりとは言ってはなんだが、提案があってな?」

「?、提案?」
 腕をワキワキと回したり首を捻って奇妙な回復の余韻に浸っていた宇留は、若干怪訝な表情を片方の目尻に湛えた。

「この先ワシも忙しくなりそうじゃ、時間が自由に取れる内に頼みがあってのぉ?······ウル!そしてゲルナイドよ!。こんな時になんだが、もし良ければ明朝にでもお主らの力量を測らせてくれんか?」

「えええ?」

「心配せんでええ!スパーリング程度· ·でいいんじゃ!琥珀の姫ヒメナもどうじゃろか?こやつらがどれ程成長したのか楽しみでしょうがないんじゃよ!」


「······」
 ヒメナは顎に手を当てて考え込む。すると先に再戦を了承したのはゲルナイドアラワルだった。

〔願ってもない!〕

 NOI Zは期待するようにアンバーニオン マーティアラの方へ顔を向けた。

「ウリュはどうする?あの時の続き?消化不良だったでしょぅ?」

「!」
 ヒメナは胸のロルトノクの琥珀アンバーの中でグッと上を向き仰け反るように宇留を見上げ尋ねた。その顔はイタズラっぽく微笑んでいる。
 宇留の心臓が一度跳ねる。それはヒメナのあどけない表情にときめいたものだったのか、NOI Zとの闘いへの高揚感だったのか、宇留は混乱した。
 だがここで躊躇っては男がすたるとも考える。

「うん!···わかった。いいよ!」

 アンバーニオン マーティアラもNOI Zの方を向く。NOI Zの中でそれを見たゲルナイドアラワルはニッと笑った。

 


〔ゴライゴ様!忙しくなりそうって!ひょっとして、巨獣族いちぞくはやはり帝国に反旗を翻すのですか?〕

「!」「!」

 すると今度は、マーティアがアンバーニオンの口から声を出して単刀直入に聞く。そこで驚いたゴライゴとNOI Zは思わずビクッと体を震わせた。マーティアの口調は何故か楽しそうである。

「!ーーー、シーーー!声がデカイわいコティアーシュ!コショコショ···」
 ゴライゴは歯をイッと食い縛り、目だけで左右を見渡す。

「ど、どういう?何故そんな事を聞く?コティアーシュ?」

〔いえ!そうですか!そうなんですね?コニョコニョ···〕

「ん?、まーえぃわい!そうと決まれば、そろそろご来光を拝みに、浮かぶとシヨかの?···」





 マーティア?
 
 晶叉には何故か、アンバーニオンを通してマーティアが考え事をしている事が伝わった。
 内容までは朧気おぼろげで分からないが、かつて鬼磯目を指揮し始めた当初のようなAIに対する得体の知れなさは全く無く、肯定的な感覚と共に何か、秋の気配に似た切なさや不安のようなものが優しく思考に纏わり付く。
 晶叉は思重合想シンクロスコラボイドにおける、圧倒的な心のスクラム感を体感していた。







 その頃、太陽周辺。

 宇宙空間に浮かぶ、長く巨大な琥珀の筒の先端は、遠く地球の方を向いていた。
 筒の前には星のように輝く光点が一つ煌めいている。

 その光点の中に立つマネージャームスアウは、閉じていた瞳を開け、行き先に真剣な表情を向けて一言呟いた。

「アンバニティ!、向かう!」

 マネージャーの一言に合わせ、琥珀の筒の中に何らかの圧力が満ちる。

 圧力は筒の先端から溢れ、光点を猛スピードで前方へ押し出した。










 明朝午前8時42分にT都中央駅着予定の豪華寝台列車【あたらよ】は、夜のとばりが降りた地方の線路の上を一路、T都を目指し北上していた。

 ほぼ騒音の聞こえないその客車内にあるビジネスクラスの一室。
 乗客の少女は眠れなかったのか、窓のカーテンを開けて再びベッドに腰掛けた。
 街路灯や設備ランプしか見えない黒い車窓。カーテンを開けた少女はその手間を後悔し、ため息をついてカーテンに再び手を掛ける。
 すると一瞬、パッと空が凄まじく輝き、遠くの山のシルエットが際立って見えた。

「!!」
 隕石?流れ星?雷?

 少女はガラスギリギリまで顔を近付け空の様子を窺うも、もう既に何も見えない。
 やはり何かあったのか、列車はブレーキをかけて減速しているようだ。
 丑三つ時も過ぎた深夜に起こった非日常。背筋がなにやら沸き立ち、眠気が完全に吹き飛ぶ。

「ふふ!なんとかしてよ?ウゥルー?今帰るからね?」

 微笑んだ少女は吐息で曇ったガラスをパジャマの萌え袖で拭き取り、今度こそカーテンを閉めた。















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