75 / 201
絢爛!思いの丈!
UNBERN-ITY
しおりを挟む宇留達、アンバーニオン軍の面々は、ゴライゴの広い掌の上で小休憩をしていた······つもりだった。
「もう三時過ぎか···」
「え!あ!」
アンバーニオンの操玉に浮かぶ晶叉が腕時計を見て呟く。
宇留はここに来てようやくスマホを教室に忘れた事に気付くと同時に、いきなり日付を大きく跨いでいた事に驚いた。
「驚いたか?ウルよ!眠くもないし疲れも無いじゃろ?」
「え?おっちゃん、俺達になんかしたの?」
「ワシん家に湧いとるエネルギー、アーシアンライトのお裾分けじゃ!」
ゴライゴの掌は仄かに青く光り、その上のアンバーニオン マーティアラとNOI Zのシルエットをボンヤリと浮かび上がらせている。
「うわ!すごい!なんかスッキリ!」
「···?」
ゴライゴはアンバーニオンに微かな違和感を感じたが、あえて思いとどまり宇留との会話を続ける。
「······まぁ慣れんと感覚が途切れたり、気がポヤッとするのも無理は無い!回復にはなったじゃろう?···その代わりとは言ってはなんだが、提案があってな?」
「?、提案?」
腕をワキワキと回したり首を捻って奇妙な回復の余韻に浸っていた宇留は、若干怪訝な表情を片方の目尻に湛えた。
「この先ワシも忙しくなりそうじゃ、時間が自由に取れる内に頼みがあってのぉ?······ウル!そしてゲルナイドよ!。こんな時になんだが、もし良ければ明朝にでもお主らの力量を測らせてくれんか?」
「えええ?」
「心配せんでええ!スパーリング程度でいいんじゃ!琥珀の姫もどうじゃろか?こやつらがどれ程成長したのか楽しみでしょうがないんじゃよ!」
「······」
ヒメナは顎に手を当てて考え込む。すると先に再戦を了承したのはゲルナイドだった。
〔願ってもない!〕
NOI Zは期待するようにアンバーニオン マーティアラの方へ顔を向けた。
「ウリュはどうする?あの時の続き?消化不良だったでしょぅ?」
「!」
ヒメナは胸のロルトノクの琥珀の中でグッと上を向き仰け反るように宇留を見上げ尋ねた。その顔はイタズラっぽく微笑んでいる。
宇留の心臓が一度跳ねる。それはヒメナのあどけない表情にときめいたものだったのか、NOI Zとの闘いへの高揚感だったのか、宇留は混乱した。
だがここで躊躇っては男が廃るとも考える。
「うん!···わかった。いいよ!」
アンバーニオン マーティアラもNOI Zの方を向く。NOI Zの中でそれを見たゲルナイドはニッと笑った。
〔ゴライゴ様!忙しくなりそうって!ひょっとして、巨獣族はやはり帝国に反旗を翻すのですか?〕
「!」「!」
すると今度は、マーティアがアンバーニオンの口から声を出して単刀直入に聞く。そこで驚いたゴライゴとNOI Zは思わずビクッと体を震わせた。マーティアの口調は何故か楽しそうである。
「!ーーー、シーーー!声がデカイわいコティアーシュ!コショコショ···」
ゴライゴは歯をイッと食い縛り、目だけで左右を見渡す。
「ど、どういう?何故そんな事を聞く?コティアーシュ?」
〔いえ!そうですか!そうなんですね?コニョコニョ···〕
「ん?、まーえぃわい!そうと決まれば、そろそろご来光を拝みに、浮かぶとシヨかの?···」
マーティア?
晶叉には何故か、アンバーニオンを通してマーティアが考え事をしている事が伝わった。
内容までは朧気で分からないが、かつて鬼磯目を指揮し始めた当初のようなAIに対する得体の知れなさは全く無く、肯定的な感覚と共に何か、秋の気配に似た切なさや不安のようなものが優しく思考に纏わり付く。
晶叉は思重合想における、圧倒的な心のスクラム感を体感していた。
その頃、太陽周辺。
宇宙空間に浮かぶ、長く巨大な琥珀の筒の先端は、遠く地球の方を向いていた。
筒の前には星のように輝く光点が一つ煌めいている。
その光点の中に立つマネージャーは、閉じていた瞳を開け、行き先に真剣な表情を向けて一言呟いた。
「アンバニティ!、向かう!」
マネージャーの一言に合わせ、琥珀の筒の中に何らかの圧力が満ちる。
圧力は筒の先端から溢れ、光点を猛スピードで前方へ押し出した。
明朝午前8時42分にT都中央駅着予定の豪華寝台列車【あたらよ】は、夜の帳が降りた地方の線路の上を一路、T都を目指し北上していた。
ほぼ騒音の聞こえないその客車内にあるビジネスクラスの一室。
乗客の少女は眠れなかったのか、窓のカーテンを開けて再びベッドに腰掛けた。
街路灯や設備ランプしか見えない黒い車窓。カーテンを開けた少女はその手間を後悔し、ため息をついてカーテンに再び手を掛ける。
すると一瞬、パッと空が凄まじく輝き、遠くの山のシルエットが際立って見えた。
「!!」
隕石?流れ星?雷?
少女はガラスギリギリまで顔を近付け空の様子を窺うも、もう既に何も見えない。
やはり何かあったのか、列車はブレーキをかけて減速しているようだ。
丑三つ時も過ぎた深夜に起こった非日常。背筋がなにやら沸き立ち、眠気が完全に吹き飛ぶ。
「ふふ!なんとかしてよ?ウゥルー?今帰るからね?」
微笑んだ少女は吐息で曇ったガラスをパジャマの萌え袖で拭き取り、今度こそカーテンを閉めた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
神樹のアンバーニオン
芋多可 石行
SF
不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。
彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···
今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
『星屑の狭間で』(対話・交流・対戦編)
トーマス・ライカー
SF
国際総合商社サラリーマンのアドル・エルクは、ゲーム大会『サバイバル・スペースバトルシップ』の一部として、ネット配信メディア・カンパニー『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』に於ける、軽巡宙艦艦長役としての出演者募集に応募して、凄まじい倍率を突破して当選した。
艦長役としての出演者男女20名のひとりとして選ばれた彼はそれ以降、様々な艦長と出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦う事にもなっていく。
本作では、アドル・エルク氏を含む様々な艦長がどのように出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦い合いもしながら、その関係と関係性がどのように変遷していくのかを追って描く、スピンオフ・オムニバス・シリーズです。
『特別解説…1…』
この物語は三人称一元視点で綴られます。一元視点は主人公アドル・エルクのものであるが、主人公のいない場面に於いては、それぞれの場面に登場する人物の視点に遷移します。
まず主人公アドル・エルクは一般人のサラリーマンであるが、本人も自覚しない優れた先見性・強い洞察力・強い先読みの力・素晴らしい集中力・暖かい包容力を持ち、それによって確信した事案に於ける行動は早く・速く、的確で適切です。本人にも聴こえているあだ名は『先読みのアドル・エルク』
追記
以下に列挙しますものらの基本原則動作原理に付きましては『ゲーム内一般技術基本原則動作原理設定』と言う事で、ブラックボックスとさせて頂きます。
ご了承下さい。
インパルス・パワードライブ
パッシブセンサー
アクティブセンサー
光学迷彩
アンチ・センサージェル
ミラージュ・コロイド
ディフレクター・シールド
フォース・フィールド
では、これより物語が始まります。
「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)
あおっち
SF
港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。その第1次上陸先が苫小牧市だった。
これは、現実なのだ!
その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。
それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。
同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。
台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。
新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。
目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。
昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。
そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。
SF大河小説の前章譚、第4部作。
是非ご覧ください。
※加筆や修正が予告なしにあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる