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絢爛!思いの丈!
想 帝 王
しおりを挟むエンダヴィスをモニターしていたクイスランは、薄暗闇と静寂が支配する遠隔制御室で頭を振った。
遠心力に従い、イタチのような頭部からヘッドセットがスポッと外れ、カシャリと音を立てて床に落ちる。
そのまま制御室の出口に向かって、クイスランのテチテチとした弱々しい足音だけが辺りに響いた。
制御室から出たクイスランは、隣の部屋にあるタッチパネルデスクの上に飛び乗る。
ボッと青く光るモニターには、制御室から転送中の画像ファイルが徐々に解像度を上げながら浮かび上がっていく最中だった。
「陛下···」
クイスランが皇帝へと語りかけると、間も置かず返答があった。モニターの隅に、金色のアルオスゴロノ帝国マークがスピーカーアイコンと共に現れる。
〔どうだった?〕
「もう既に転送済みです」
エグジガンが眺めているであろうモニターと同期しているクイスランが操るタッチパネルのモニターには、ゴライゴの記憶に基づいた存在、 白い怪獣 の記憶再現画像が生成を完了していた。
装置機能の粋を持ってしてもピンボケになってしまってはいるが、大まかな特徴は充分に認識出来る完成度。
「ゴライゴ様の···限りなく初期段階の記憶でございました。相当な体感時間でしたわ?」
〔苦労をかけたな?···遠きは壁···か、壁無き世界で見られたくなくば、距離を取ればよいのは至極当然。されどお前にかかれば···〕
「お褒めに預かり光栄ですわ···」
エグジガンはモニターに映る白い怪獣を見て感慨に耽っているのだろう。しばらく言葉が止まる。
〔···やはりこの···ナインアース宙域のこの地球にも存在したのだ。思いの丈をもって願い叶えし者···想帝王の門が···俺もいつか至ろうぞ···その想域へ···〕
「······」
エグジガンとクイスランが見つめる白い怪獣の横顔は、どことなくアンバーニオンを想起させる程、良く似ていた。
すっかり静かになった暗い海中で、ゴライゴ、アンバーニオン マーティアラとNOI Zは向かい合っていた。
ヒメナはアンバーニオンを通して、晶叉や想文能力の不安定なマーティアの為に、ゴライゴの想文を翻訳する。
「全くすまんのぉ?ワシとした事が···」
「ゴライゴ様!」
〔ゴライゴ様ー···よかった!本当に!〕
アンバーニオンの操玉に、ゴライゴの流暢な日本語が響く。
マーティア、そしてNOI Zからも、喜びの感情がグッと押し寄せて来るのを宇留は感じた。
「身内にしてやられ、お主等を襲うとるとは、ワシ一生の不覚。こんなに耄碌したんでは隠居せにゃならんかもなぁ?···」
〔ああっ!ゴライゴ様!あんな所に綺麗な美獣が!〕
「ヌオッ!」
NOI Zが叫び、ゴライゴの大岩のような顔がグリングリンと周囲を迅速に見渡す。
「なんじゃー?誰もおらんぞゲルナイドー!」
「もう大丈夫のご様子で?準帝ゴライゴ」
「ぬっ!!」
アンバーニオン マーティアラの口元からヒメナの声が響く。
ゴライゴは恥ずかしそうに顎を引いた。
「ゲルナイド···お主も中々やるようになったの?」
「ありがとうございます···ゴライゴ様はまだまだ現役ですよ!」
「えへへー!ゴライゴ様!、今の!いつか奥様にご報告させて頂きますね?!」
「コ!コティアーシュぅ!それだけは勘弁してくれぇ!」
アンバーニオン マーティアラから響いたマーティアの声に怯んだゴライゴは、やや首を竦めて懇願する。
「やれやれ···遠慮を知らんコ達じゃわ!先が思いやられるわぃ!」
「···準帝ゴライゴ!どうしてこんな事に···」
ヒメナの声に、急にピシリとした態度へと再び戻って来たゴライゴは、さほど考えるまでもなく答えた。
「···なんか、勘違いがあるようじゃが···?」
「勘···違い?」
晶叉が息を飲む。
「ワシは一応コティアーシュの遺骸をどうやって鋼の身体に埋め込んだのか興味があっての?···開発した当人に話だけ聞いてみたかったんじゃ!···勿論!怒りが無かったと言えばウソにはなるが···ワシはコティアーシュを合成した者達をどうするこうする罰するなんぞ場合によらなければチーとも考えておらなんだが、何処かで尾ヒレも胸ビレも腹ビレも付いてしまったようでの?中々すれ違いがあったようなのじゃ!」
「そん、な!」
「超昔、かつて巨獣は人間の兵器の材料にされていた神代があっての、コティアーシュの件は幾世か振りの···おおおっと!これは以上はバビエル協定に抵触するわい!この話はまた今度な?」
「?」「?」「ばび?···」
「···だが不覚にも、ワシはほんの小さく燻っていたその怒りを帝国に利用されてしまったのかもしれんのう···危うく、ワシの手で大切なコティアーシュに二度目の死を与えてしまう所じゃった······みんなすまぬ!何度でも礼と詫びを言うぞぃ!」
「おっちゃん···」
ゴライゴはアンバーニオン マーティアラとNOI Zを見つめた。
恐るべき巨体に似合わぬ象の長老のような優しい眼差しに、琥珀の神魚の輝きが照り返る。
〔しかし···何故帝国はゴライゴ様にこんな無礼を?あんな事をするのはクイスラン!あのひとしか···〕
「ゲルナイド···クイスランだけが悪ろうという事ぁない!全てエグジガンの采配であり、全部ワシのせいなんじゃよ?そしてお主にも関わりがある話じゃ!」
〔え?〕
「ゲルナイド、ワシがお主のその黒い琥珀の身体の正体を調べ上げ、回収をある業者に依頼したんじゃ!皇帝に黙ってな?」
〔!〕
「更に言えば十三年前、お主の心魂が宿ったチップなりアセンブラなんちゃらなりの混ざりものを回収したのも黙っておった!···ローケン博士の協力の元で、ワシの血肉を用いてお主専用の巨獣体を創り、さっきも話した神世の生技巧電結合技術をもってして巨獣体と繋がって新たに生まれたのがゲルナイド、お主じゃよ」
〔そ!、そんな···!〕
「!···ゲルナイド···!」
NOI Zのコックピットで呆然とするゲルナイド。
僅かにあった予感と、ゴライゴが語る真実が一致する。
そうして自身の新たな出自は受け入れられそうな一方。NOI Zとしての再生が帝国側に対して秘匿されていたという事実。
俺をあんなに調整しておいて、あのクイスランが俺の正体に気付かないハズがない···
まだまだ確信は無かったが、現の胸には、クイスランに対する大きな疑惑が溢れていた。
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