神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

文字の大きさ
上 下
74 / 202
絢爛!思いの丈!

想 帝 王

しおりを挟む

 エンダヴィスをモニターしていたクイスランは、薄暗闇と静寂が支配する遠隔制御室で頭を振った。

 遠心力に従い、イタチのような頭部からヘッドセットがスポッと外れ、カシャリと音を立てて床に落ちる。

 そのまま制御室の出口に向かって、クイスランのテチテチとした弱々しい足音だけが辺りに響いた。

 制御室から出たクイスランは、隣の部屋にあるタッチパネルデスクの上に飛び乗る。
 ボッと青く光るモニターには、制御室から転送中の画像ファイルが徐々に解像度を上げながら浮かび上がっていく最中ところだった。

陛下ウィトリル···」

 クイスランが皇帝エグジガンへと語りかけると、間も置かず返答があった。モニターの隅に、金色のアルオスゴロノ帝国マークがスピーカーアイコンと共に現れる。

〔どうだった?〕

「もう既に転送済みです」
 エグジガンが眺めているであろうモニターと同期しているクイスランが操るタッチパネルのモニターには、ゴライゴの記憶に基づいた存在、 白い怪獣 の記憶再現画像が生成を完了していた。
 装置機能のすいを持ってしてもピンボケになってしまってはいるが、大まかな特徴は充分に認識出来る完成度。
「ゴライゴ様の···限りなく初期段階の記憶でございました。相当な体感時間でしたわ?」

〔苦労をかけたな?···遠きは壁···か、壁無き世界で見られたくなくば、距離を取ればよいのは至極当然。されどお前にかかれば···〕

「お褒めに預かり光栄ですわ···」

 エグジガンはモニターに映る白い怪獣を見て感慨にふけっているのだろう。しばらく言葉が止まる。

〔···やはりこの···ナインアース宙域のこの地球ジアースにも存在したのだ。思いの丈をもって願い叶えし者···想帝王の門が···俺もいつか至ろうぞ···その想域ばしょへ···〕

「······」


 エグジガンとクイスランが見つめる白い怪獣の横顔は、どことなくアンバーニオンを想起させる程、良く似ていた。














 すっかり静かになった暗い海中で、ゴライゴ、アンバーニオン マーティアラとNOI Zは向かい合っていた。
 ヒメナはアンバーニオンを通して、晶叉や想文能力の不安定なマーティアの為に、ゴライゴの想文を翻訳する。

「全くすまんのぉ?ワシとした事が···」
「ゴライゴ様!」
〔ゴライゴ様ー···よかった!本当に!〕

 アンバーニオンの操玉コックピットに、ゴライゴの流暢な日本語が響く。
 マーティア、そしてNOI Zからも、喜びの感情がグッと押し寄せて来るのを宇留は感じた。

「身内にしてやられ、お主等を襲うとるとは、ワシ一生の不覚。こんなに耄碌もうろくしたんでは隠居せにゃならんかもなぁ?···」

〔ああっ!ゴライゴ様!あんな所に綺麗な美獣おねいさんが!〕

「ヌオッ!」

 NOI Zが叫び、ゴライゴの大岩のような顔がグリングリンと周囲を迅速に見渡す。
「なんじゃー?誰もおらんぞゲルナイドー!」

「もう大丈夫のご様子で?準帝ゴライゴ」

「ぬっ!!」
 アンバーニオン マーティアラの口元からヒメナの声が響く。
 ゴライゴは恥ずかしそうに顎を引いた。

「ゲルナイド···お主も中々やるようになったの?」
「ありがとうございます···ゴライゴ様はまだまだ現役ですよ!」
「えへへー!ゴライゴ様!、今の!いつか奥様にご報告させて頂きますね?!」

「コ!コティアーシュぅ!それだけは勘弁してくれぇ!」

 アンバーニオン マーティアラから響いたマーティアの声に怯んだゴライゴは、やや首をすくめて懇願する。

「やれやれ···遠慮を知らんコ達じゃわ!先が思いやられるわぃ!」

「···準帝ゴライゴ!どうしてこんな事に···」


 ヒメナの声に、急にピシリとした態度へと再び戻って来たゴライゴは、さほど考えるまでもなく答えた。

「···なんか、勘違いがあるようじゃが···?」

「勘···違い?」
 晶叉が息を飲む。

「ワシは一応コティアーシュマーティアの遺骸をどうやって鋼の身体に埋め込んだのか興味があっての?···開発した当人に話だけ聞いてみたかったんじゃ!···勿論!怒りが無かったと言えばウソにはなるが···ワシはコティアーシュを合成した者達をどうするこうする罰するなんぞ場合によらなければチーとも考えておらなんだが、何処かで尾ヒレも胸ビレも腹ビレも付いてしまったようでの?中々すれ違いがあったようなのじゃ!」

「そん、な!」

超昔おおむかし、かつて巨獣われらは人間の兵器の材料にされていた神代じだいがあっての、コティアーシュの件は幾世か振りの···おおおっと!これは以上はバビエル協定に抵触するわい!この話はまた今度いつかな?」

「?」「?」「ばび?···」

「···だが不覚にも、ワシはほんの小さくくすぶっていたその怒りを帝国に利用されてしまったのかもしれんのう···危うく、ワシの手で大切なコティアーシュに二度目の死を与えてしまう所じゃった······みんなすまぬ!何度でも礼と詫びを言うぞぃ!」

「おっちゃん···」
 ゴライゴはアンバーニオン マーティアラとNOI Zを見つめた。
 恐るべき巨体に似合わぬ象の長老のような優しい眼差しに、琥珀の神魚アンバーニオンの輝きが照り返る。

〔しかし···何故帝国はゴライゴ様にこんな無礼を?あんな事をするのはクイスラン!あのひとしか···〕

「ゲルナイド···クイスランだけがろうという事ぁない!全てエグジガンの采配であり、全部ワシのせいなんじゃよ?そしてお主にも関わりがある話じゃ!」

〔え?〕

「ゲルナイド、ワシがお主のその黒い琥珀の身体の正体を調べ上げ、回収をある業者に依頼したんじゃ!皇帝エグジガンに黙ってな?」

〔!〕
 
「更に言えば十三年前、お主の心魂コアが宿ったチップなりアセンブラなんちゃらなりの混ざりものを回収したのも黙っておった!···ローケン博士の協力の元で、ワシの血肉を用いてお主専用の巨獣体からだを創り、さっきも話した神世たいこ生技巧電結合技術バイオクトロコンポジッティクスをもってして巨獣体と繋がって新たに生まれたのがゲルナイド、お主じゃよ」

〔そ!、そんな···!〕

「!···ゲルナイドアラワルくん···!」


 NOI Zのコックピットで呆然とするゲルナイドアラワル
 僅かにあった予感と、ゴライゴが語る真実が一致する。
 そうして自身の新たな出自は受け入れられそうな一方。NOI Zとしての再生が帝国側に対して秘匿されていたという事実。
 
 俺をあんなに調整しいじくっておいて、あのクイスランが俺の正体に気付かないハズがない···


 まだまだ確信は無かったが、アラワルの胸には、クイスランに対する大きな疑惑が溢れていた。











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神樹のアンバーニオン

芋多可 石行
SF
 不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。  彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···  今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

kabuto

SF
モノづくりが得意な日本の独特な技術で世界の軍事常識を覆し、戦争のない世界を目指す。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...