神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

嬉涙を飾って

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 水の中で光が遊び、馳せる。

 はしゃぐように自身の力を試す琥珀の水神は、水の抵抗など微塵も感じさせない遊泳を魅せ、荒神ゴライゴの視線を奪っていた。


「······」


 ···まるであなたの気持ちの中を縫うように、
 前へ
 前へ
 更に前へ
 もっと前へ
 ず~~~っと前へ
 いくらでも進む。

 あなたの好きに触れたくて、
 呼んで
 歌って
 笑って
 泣いて
 喜ぶ為に
 進む。

 もっと進む





 プォアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーゥ!


「!」「!」「!」

 

 アンバーニオンと鬼磯目の思重合想シンクロスコラボイド
 アンバーニオン マーティアラの怪獣のような胸飾りが、世にも優しい咆哮を奏でた。

 アンバーニオンとひとつになったコティアーシュマーティアの思いの丈を聴いた男達。晶叉、現、ゴライゴの表情は驚嘆のそれに変わる。

 


 アンバーニオンの両肩の琥珀柱は、鬼磯目の捕獲爪グラップルクローを思わせる大牙へと変貌していた。
 推進力を放出するノズルと化した両足からは、三日月型宝甲が下顎のように左右から突き上がり、背中から生えた巨大なつのや頭部をはじめ全身に渡って宝甲の形状が大幅に変化している。
 何よりも目立つのは腰部から伸びる巨大な琥珀の尾だった。その内部には、黒い背骨のように鬼磯目本体が透けて見えており、両腕は縮んだ両足に反比例して胸鰭むなびれの形に巨大化し、それをはためかせ空を飛ぶかのような速度で泳いでいるにも関わらず、一切海水を撹拌させずにあらゆる抵抗を弾いて泳ぐその姿は、まさに光の幻影そのものだった。

 そして全身はもれなく琥珀色に凄絶に輝き、それはあたかも揺らめきながら暗い海中を照らしている月を想起させる。




「!···ほ、本当に···!···こ、コティアーシュ姉ちゃんの···コティアーシュ姉ちゃんの以前ほんとうの声だっっ!···アンバーニオンは!···あんな事が出来るのか?!」

 顎が緩んだ表情の現の目から、大量の涙が溢れる。
 だが現はうつむいて頭を振り涙を振り払い、感傷に浸りたい気持ちを押し殺して再び顔を上げた。
 気が付けばRENOI Zの内一体がゴライゴの一撃をくらい、巨人構築ビルドアップ再結合中とモニターに表示されている。

「油断するな俺!周囲ここはゴライゴ様の射程!みんな· · ·と一緒に!絶対助ける!」

 気合いを入れ直し視界を睨む現の目から、最後の涙がパッと散る。
 しかし先程までのもどかしさから一転、現は不思議な穏やかさに心が包まれていくのを感じていた。




「すごい思い···!土地神クラスの比じゃない!」
 ヒメナはアンバーニオンに満ちるマーティアの思いの強さに驚き、周囲を見渡す。
 アンバーニオンの操玉コックピットの内側壁面には、水影のような白いテクスチャが揺らめき、マーティアの心象風景とも言うべき光景が投影されていた。
 そしてその水影がオレンジ色に輝き、操玉コックピットにマーティアの声が響く。

 ウルチャン!ヒメチャン!この人を、ウチのチーフを頼みます!

「!」
 その声に宇留が振り返ると、操玉コックピットの背部壁面に波紋が広がっていた。そしてそこから、フッと転送された晶叉が飛び出して来て床面に膝を着いた。
「···うぁっ!」
「あ!」
 操玉コックピットに浮かんでいた宇留は床面に足を付け着地して、うずくまる晶叉の肩に手を添える。
「···大丈夫ですか?!」
「あ、ぁあ、君は···?!須舞、宇留くん?···そうか!、ここは!」
 微笑む宇留の方を見た晶叉は、次いで琥珀の中のヒメナとも視線を交わす。そしてここがアンバーニオンの中だと理解もした。

 アキサ!ヒメチャン!ウルチャン!行ッッきまッすよーーー?
「ええ!」
「おー!」
「!」

 宇留と共に立ち上がった晶叉の視界に、アンバーニオン マーティアラの視界がリンクする。その向こうには、海中に沈んだ島のようなゴライゴの巨体が鮮明に浮かんでいた。
 晶叉の意識にアンバーニオン側から紛れ込んで来たゴライゴまでの距離情報は約ニキロメートル。
 部隊からの事前情報で鬼磯目を狙っている怪獣の大きさがキロ単位の体長を誇るボスクラスだという事は事前に把握していたが、これ程離れてもなお、相当な圧迫感と殺気を放つゴライゴに晶叉の心は戦慄しようとした。
 だが、その時···

 プァウォゥ!ロォーーーー~ゥ!

 アンバーニオン マーティアラが再びうたう。

「!!!!ーーーーー」
 気のせいでは無かった。
 オレンジ色に輝いた鬼磯目の直操から転送され、アンバーニオンの操玉コックピットにやって来る間に聴いた気がしていた懐かしい声。
 かつて晶叉が趣味で海中から拾い、心の支えにしていた優しい怪獣の声。
 いつからか途絶え、心に隙間を生んでいたパズルピースの一枚オリジナルにして、ずっと探していた“推し„がすぐ近くにいたばかりか、今は自分と強く心を結んでいる事を、晶叉は強く感じていた。

「君···だったのか···!」
 
 晶叉の涙腺はそのサプライズに耐える事が出来なかった。

 えへへ~!

 アンバーニオン マーティアラの隅々まで拡がった晶叉の情動エモーションは、マーティアの心とまた一段と強く繋がった。そして巨大なゴライゴと比べて小粒のような大きさのアンバーニオン マーティアラであっても、決して劣る事のない強い力を秘めていると晶叉は悟る。


「おっっちゃーーーーん!」

 プォアアアアーーーゥ!

「!!」
 ゴライゴを呼ぶ宇留の叫びに応じ、アンバーニオン マーティアラの怪獣の形をした胸飾りが叫ぶ。
 その音圧は薄い金色のベールとなってゴライゴに正面から迫った。

 ヌグォアアアッッ!

 咆哮こえのベールが、叫び返すゴライゴの体表を包んで駆け抜ける。そして一拍置き、ゴライゴの外骨格のあちこちで小規模な連続爆発が起きた。

 キュボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボォ······!!!!!


 グォアアアアアアアアア!!


 ゴライゴの体表に無数に付着していた寄想の書マメボンが、一斉に消滅した。
 苦悶の声を上げるゴライゴ。どうやら想像よりも強く、ゴライゴの神経系統に強く食い込んでいるらしい。

「く!」
 NOI Zは自身にも迫る咆哮こえのベールに対し身構えた。
 だがベールはNOI Zの機体をなんの障害も無く通り抜けた。
 黒い筈の疑似黒宝甲ジェッティオンが一瞬琥珀色に変化し、エネルギーが全回復する。
「これは!···!」
 
 ガパァン!

 驚くNOI Zを、ゴライゴの張り手が捉えた。
 その一撃でバラバラになったかに見えたNOI Zだったが、現はあえて機体の各部を分離セパレーションさせる事でその攻撃をいなした。そして安全な場所ですぐに再結合リコンビネーションし、人型に戻る。
 先程の咆哮こえのベールの影響か、再結合にかかる時間は練習時シェイクダウンの時よりも大幅に短縮されていた。

 (ゲルナイド···)

「!、ゴライゴ様!」
 優しいゴライゴの声で、現にゴライゴの広域想文が届く。しかし当のゴライゴは再び狂暴な張り手をNOI Z目掛け突き出してくる。
 
 パァン!

「グォォ!」
 その張り手はアンバーニオン マーティアラの体当たりによって阻まれ、ゴライゴは大きく仰け反った。

 (ゲルナイド···すまぬ!ワシを止めてくれ!···自由が···体の自由が効かんのだ···!)

【やはり!ゴライゴ様!お体の方は?】

 (さっきのはヤバいくらい痛かったぞぉ!だがあれで構わん!アンバーニオンとコティアーシュの力で···)

 再びNOI Zに向かって襲いかかるゴライゴの目元周りは、水質の差で歪んでいるようにも見えた。
「!?」
 ゴライゴの一撃をかわしたNOI Z。現は機体の前を通り過ぎる巨体に違和感を見い出す。
「なんか···居たな?」
 現の動体視力は、ゴライゴの外骨格の隙間からこちらを窺う何者かの視線に気付いた。

 ゴライゴ様ーーーーーーーー!

 急停止から反転。再びシパッと体を輝かせたアンバーニオン マーティアラは、ゴライゴに向かって急加速していった。





























 
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