70 / 201
絢爛!思いの丈!
パーセプションの瞬き
しおりを挟む太陽の樹。
漆黒の幹、枝、葉が常に光を吸収してエネルギーに変えている影響か、意外にも樹の周囲はそれほど眩しくはなく、目を凝らせば星も見える程だった。
そして太陽の樹も普通の樹木のように、葉の無い枝も複数存在する。
その剣のように尖った巨大な枯れ枝の先端に向かって歩くムスアウことマネージャーは、枯れ枝の中頃に座って遠くに輝く青い星を見つめる人影に気付いて足を止めた。
「···やっと見つけたぜ、ここだったか?」
マネージャーはその人影に、かつてコピーした人格の口調を使って話しかける。
その人影。
もう一人のムスアウは、マネージャーの声に反応する事も無いまま、ただひたすら黙っていた。
二人のムスアウ。
マネージャーはため息をつきながら、もう一人のムスアウの背後まで歩み寄る。
「遅れ気味だ。ちょいとブーストかけてこようとオモうんだけど?いいかな?」
「······」
もう一人のムスアウの頭はカクン項垂れた。それが肯定を意味するのか、ただ呆れたものなのか?。理解に困ったマネージャーは会話に皮肉めいた口調を織り混ぜる。
「こー言ーのもなんだが、焦っているのは俺だけか?ダイジョブだって、手加減くらいしてやるよ?」
そう言って振り返り歩きだすマネージャーをもう一人のムスアウの声が止めた。
「勝手に決めんなって···」
「···」
今度はマネージャーが黙ってそれを背中で聞いた。
「信じたらワリィのかよ?」
その言葉に顔をひきつらせたマネージャーがついに振り返る。
「かー!ノロケちゃってこの色男!本当は「信じる!」とか言っトキながら心配で夜も眠れねー癖に!···ああ、ここ太陽そのものか?夜ねーや、失敬失敬!···ともかく!アンバニティ示現の準備はしてるんだからな!?」
そう言い残してズカズカと戻って行くマネージャーにもう一人のムスアウが叫ぶ。
「容量持ってった方がいいぞ?」
「うるせえ!」
「な!、オメーもうるせえ!」
二人のムスアウが騒ぐ以外、今日も太陽の樹は静かなものだった。
そしてもう一人のムスアウが見つめる青い星。影になっている地球の裏では······
高波がうねり、嵐吹き荒れる暗い洋上。
きりもみ状態で深海から急浮上してきた鬼磯目が海上へ飛び上がる。
船体表面は仄かに宝甲の輝きを湛え、その力は機体にかかる負荷の殆どを相殺していた。
逃避作戦における軽量化の為、搭載している武装は魚雷が僅かに二発のみ。だがマーティアは確信していた。
追っ手のガーファル達がコティアーシュのかつての仲間達だと知った以上、晶叉は魚雷の使用を許可したりはしないだろう。何故か、何故かそう強く伝わる。
マーティアは思い出していた。
晶叉に興味を持った理由。どうしてこんな軍人っぽくない人がトップの方に居るんだろう?という疑問。そしてどうして戦う人間がこうも優しいのだろうとも···
「!」
だがマーティアは任務に集中するため、再び水に飛び込む衝撃を合図に雑念をカットする事にした。
水中もまた、ガーファル達の嵐なのだろうから···
もう決して孤立無援ではない。あなたと一緒なら···
ザシュン!···ズヒュルル···ルルルリュ!
様々なバックアップがカットされた状態での入水角度の計算。データを観測しきれない宝甲の能力を信頼し、ほぼ山勘での安全な飛び込みに成功した鬼磯目は、機動用船胴を全速にし海水を貫いて加速する。
その轟音をソナー代わりに利用した特殊な探知機にガーファルの群れの影が浮かぶ。
「マーティア!二時方向、奴らが少なくてがら空きだが···まさか···」
·ご明察です!そちらに誘っていますね?
「やっぱりか!味な事ぉ?」
「···」
ゴライゴの戦略指導を評価した晶叉の表情に戦士の片鱗が一度浮かぶ。
普段からそっちの表情でいて下さいよ?と思ったマーティアの心は、逆ギャップ萌えに包まれた。
ズオオッ!
「!ーーーー」
後方に居る筈のゴライゴの巨大な手が鬼磯目の前方に迫る。マーティアには暗い海の中が見えていると言っても、まるで死角が無い程の明るさでも無い。だが、マーティアはその手の主を見抜いていた。
·オミとーしぃーーーーーー!!てやーーーーー!!
キャキィーーーーン!
鬼磯目は琥珀のオーラを纏わせた船体で巨大な掌に向かって正面から突撃する。
鬼磯目に突き破られた巨大な掌の正体はゴライゴの腕をモチーフに集合擬態したガーファルの群れ。だが、いとも簡単に突き抜けた厚さの無い掌にマーティアは焦る。
·ぬ!薄い!テコトは!
掌を突き抜けた先で再び迫り来るもうひとつの腕。鬼磯目の背後で一撃目の腕を担当した全ガーファル達が彼女の方へ向き直る。
·く!
「「「「ヴォフォオオオーーーー!」」」」」
技の名前を叫ぶ怪獣軍団。
鬼磯目を挟み込もうと迫る両腕に目配せしたマーティアは、船首の捕獲爪を船尾に噛ませ、鬼磯目の船体は円を描いた。
·うりゃぁーーーー!!
鬼磯目はそのままネズミ花火のように琥珀色の火花を散らして高速回転し、火花に当たった指担当のガーファル達をベチベチと弾き飛ばす。
ガフォガグァラゥァーー!
だが指担当の性懲りも無いガーファル達は再び指の形へと再結合し、上昇して逃れようと回転する鬼磯目に手を伸ばす。
·くぅ!ふーーー!!!
下方からの殺気。
ゴライゴが鬼磯目目掛けて急上昇して来た。そして上方からも、ミサイルのように弧を描いて急降下して来るガーファル達。
鬼磯目に伸びる四本の腕、そして無数のガーファル達の爆撃。
「カエシテ、モラウゾ、アノコヲ」
アキサ!!!!!
迫る万事休す。
マーティアは鬼磯目の直操を緊急脱出させようとした。しかし晶叉は緊急脱出用レバーをセーフティカバーごと押さえ、レバーが勝手に起きないようにしている。
「アキサ!!」
「変な事考えるなよ?一緒だ、最後まで!」
琥珀のオーラと共に鬼磯目の船体に浮かぶ赤熱化した目。
その目は周りの海水を常に沸騰させていたが、一度の瞬きの後、そこからゴボンと一際大きな水泡が現れて浮かぶ。
その泡は鬼磯目のオーラに照らされ、まるで磨いた琥珀のように美しかった。
「!」
その琥珀の泡を見て一瞬動きを止めるゴライゴ。そしてガーファル達の統率も何故か乱れる。それでも鬼磯目をゴライゴとガーファル達が掴もうとした瞬間。
横から飛んで来た閃光に鬼磯目はいとも簡単に奪われて行った。
「!!!~」
閃光を目で追うゴライゴ。そして全てのガーファル達は明後日の方向を目指し泳ぎ始めた。
「ウグォ?」
戸惑うゴライゴは、遠ざかる閃光の方へと再び顔を向けた。
鬼磯目の艦首を両サイドから挟み込み、超高速で海中を駆け抜けて行くアンバーニオンとNOI Z。
〔コティアーシュ!〕
〔コティアーシュ姉ちゃん!〕
·アンバーニオン!、と···まさか!ゲルナイド?!!
「アンバーニオン!?、ゲル···ナイド?」
晶叉の中で燻っていた名前がようやく芽を出した。
NOI Zが一度看取ったガーファルからもたらされた攻撃フェロモンのカプセル。
それを潰した二体のクラゲ型ビット達は、迫るガーファルの群れの雰囲気を感じて海の中を逃げ去る。
「······」
ゴライゴは泳ぎ去ったガーファル達を呼び戻す事も無く、海中に現れた琥珀色の流星を睨み続けていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~
阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
神樹のアンバーニオン
芋多可 石行
SF
不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。
彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···
今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
『星屑の狭間で』(対話・交流・対戦編)
トーマス・ライカー
SF
国際総合商社サラリーマンのアドル・エルクは、ゲーム大会『サバイバル・スペースバトルシップ』の一部として、ネット配信メディア・カンパニー『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』に於ける、軽巡宙艦艦長役としての出演者募集に応募して、凄まじい倍率を突破して当選した。
艦長役としての出演者男女20名のひとりとして選ばれた彼はそれ以降、様々な艦長と出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦う事にもなっていく。
本作では、アドル・エルク氏を含む様々な艦長がどのように出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦い合いもしながら、その関係と関係性がどのように変遷していくのかを追って描く、スピンオフ・オムニバス・シリーズです。
『特別解説…1…』
この物語は三人称一元視点で綴られます。一元視点は主人公アドル・エルクのものであるが、主人公のいない場面に於いては、それぞれの場面に登場する人物の視点に遷移します。
まず主人公アドル・エルクは一般人のサラリーマンであるが、本人も自覚しない優れた先見性・強い洞察力・強い先読みの力・素晴らしい集中力・暖かい包容力を持ち、それによって確信した事案に於ける行動は早く・速く、的確で適切です。本人にも聴こえているあだ名は『先読みのアドル・エルク』
追記
以下に列挙しますものらの基本原則動作原理に付きましては『ゲーム内一般技術基本原則動作原理設定』と言う事で、ブラックボックスとさせて頂きます。
ご了承下さい。
インパルス・パワードライブ
パッシブセンサー
アクティブセンサー
光学迷彩
アンチ・センサージェル
ミラージュ・コロイド
ディフレクター・シールド
フォース・フィールド
では、これより物語が始まります。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる