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絢爛!思いの丈!

パーセプションの瞬き

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 太陽の樹。



 漆黒の幹、枝、葉が常に光を吸収してエネルギーに変えている影響か、意外にも樹の周囲はそれほど眩しくはなく、目を凝らせば星も見える程だった。
 
 そして太陽の樹も普通の樹木のように、葉の無い枝も複数存在する。

 その剣のように尖った巨大な枯れ枝の先端に向かって歩くムスアウことマネージャーは、枯れ枝の中頃に座って遠くに輝く青い星を見つめる人影に気付いて足を止めた。

「···やっと見つけたぜ、ここだったか?」

 マネージャーはその人影に、かつてコピーした人格ムスアウの口調を使って話しかける。

 その人影。
 もう一人のムスアウは、マネージャーの声に反応する事も無いまま、ただひたすら黙っていた。

 二人のムスアウ。
 マネージャーはため息をつきながら、もう一人のムスアウの背後まで歩み寄る。
「遅れ気味だ。ちょいとブーストかけてこようとオモうんだけど?いいかな?」
「······」
 もう一人のムスアウの頭はカクン項垂うなだれた。それが肯定を意味するのか、ただ呆れたものなのか?。理解に困ったマネージャーは会話に皮肉めいた口調を織り混ぜる。
「こーーのもなんだが、焦っているのは俺だけか?ダイジョブだって、手加減くらいしてやるよ?」
 そう言って振り返り歩きだすマネージャーをもう一人のムスアウの声が止めた。

「勝手に決めんなって···」

「···」
 今度はマネージャーが黙ってそれを背中で聞いた。

「信じたらワリィのかよ?」

 その言葉に顔をひきつらせたマネージャーがついに振り返る。
「かー!ノロケちゃってこの色男!本当は「信じる!」とか言っトキながら心配で夜も眠れねー癖に!···ああ、ここ太陽そのものか?夜ねーや、失敬失敬!···ともかく!アンバニティ示現じげんの準備はしてるんだからな!?」
 そう言い残してズカズカと戻って行くマネージャーにもう一人のムスアウが叫ぶ。

「容量持ってった方がいいぞ?」

「うるせえ!」

「な!、オメーもうるせえ!」


 二人のムスアウが騒ぐ以外、今日も太陽の樹は静かなものだった。

 そしてもう一人のムスアウが見つめる青い星。影になっている地球の裏では······











 高波がうねり、嵐吹き荒れる暗い洋上。
 きりもみ状態で深海から急浮上してきた鬼磯目が海上へ飛び上がる。

 船体表面は仄かに宝甲の輝きを湛え、その力は機体にかかる負荷の殆どを相殺していた。
 逃避作戦における軽量化の為、搭載している武装は魚雷が僅かに二発のみ。だがマーティアは確信していた。

 追っ手のガーファル達がコティアーシュマーティアのかつての仲間達だと知った以上、晶叉は魚雷の使用を許可したりはしないだろう。何故か、何故かそう強く伝わる。
 マーティアは思い出していた。
 晶叉に興味を持った理由。どうしてこんな軍人っぽくない人がトップの方に居るんだろう?という疑問。そしてどうして戦う人間がこうも優しいのだろうとも···
「!」
 だがマーティアは任務に集中するため、再び水に飛び込む衝撃を合図に雑念をカットする事にした。
 水中もまた、ガーファル達の嵐なのだろうから···

 もう決して孤立無援ではない。あなたと一緒なら···

 ザシュン!···ズヒュルル···ルルルリュ!

 様々なバックアップがカットされた状態での入水角度の計算。データを観測しきれない宝甲の能力を信頼し、ほぼ山勘での安全な飛び込みに成功した鬼磯目は、機動用船胴を全速にし海水を貫いて加速する。
 その轟音をソナー代わりに利用した特殊な探知機にガーファルの群れの影が浮かぶ。
「マーティア!二時方向、奴らが少なくてがら空きだが···まさか···」
 ·ご明察です!そちらに誘っていますね?
「やっぱりか!味な事ぉ?」
「···」
 ゴライゴの戦略指導を評価した晶叉の表情に戦士の片鱗が一度浮かぶ。
 普段からそっちの表情でいて下さいよ?と思ったマーティアの心は、逆ギャップ萌えに包まれた。

 ズオオッ!

「!ーーーー」
 後方に居る筈のゴライゴの巨大な手が鬼磯目の前方に迫る。マーティアには暗い海の中が見えていると言っても、まるで死角が無い程の明るさでも無い。だが、マーティアはその手の主を見抜いていた。

 ·オミとーしぃーーーーーー!!てやーーーーー!!

 キャキィーーーーン!

 鬼磯目は琥珀のオーラを纏わせた船体で巨大な掌に向かって正面から突撃する。

 鬼磯目に突き破られた巨大な掌の正体はゴライゴの腕をモチーフに集合擬態したガーファルの群れ。だが、いとも簡単に突き抜けた厚さの無い掌にマーティアは焦る。
 ·ぬ!薄い!テコトは!
 掌を突き抜けた先で再び迫り来るもうひとつの腕。鬼磯目の背後で一撃目の腕を担当した全ガーファル達が彼女の方へ向き直る。

 ·く!

「「「「ヴォフォオオオーーーー!ジュウショウキョウハゲキィ」」」」」

 技の名前を叫ぶ怪獣ガーファル軍団。
 鬼磯目を挟み込もうと迫る両腕に目配せしたマーティアは、船首の捕獲爪グラップルクローを船尾に噛ませ、鬼磯目の船体は円を描いた。

 ·うりゃぁーーーー!!

 鬼磯目はそのままネズミ花火のように琥珀色の火花を散らして高速回転し、火花に当たった指担当のガーファル達をベチベチと弾き飛ばす。

 ガフォガグァラゥァーー!なんの!これしき!

 だが指担当の性懲りも無いガーファル達は再び指の形へと再結合し、上昇して逃れようと回転する鬼磯目に手を伸ばす。


 ·くぅ!ふーーー!!!

 下方からの殺気。
 ゴライゴが鬼磯目目掛けて急上昇して来た。そして上方からも、ミサイルのように弧を描いて急降下して来るガーファル達。

 鬼磯目に伸びる四本の腕、そして無数のガーファル達の爆撃。

「カエシテ、モラウゾ、アノコヲ」

 アキサ!!!!!

 迫る万事休す。
 マーティアは鬼磯目の直操を緊急脱出させようとした。しかし晶叉は緊急脱出用レバーをセーフティカバーごと押さえ、レバーが勝手に起きないようにしている。

「アキサ!!」
「変な事考えるなよ?一緒だ、最後まで!」

 琥珀のオーラと共に鬼磯目の船体に浮かぶ赤熱化した目。
 その目は周りの海水を常に沸騰させていたが、一度のまばたきの後、そこからゴボンと一際大きな水泡が現れて浮かぶ。
 その泡は鬼磯目のオーラに照らされ、まるで磨いた琥珀のように美しかった。
「!」
 その琥珀の泡を見て一瞬動きを止めるゴライゴ。そしてガーファル達の統率も何故か乱れる。それでも鬼磯目をゴライゴとガーファル達が掴もうとした瞬間。
 横から飛んで来た閃光に鬼磯目はいとも簡単に奪われて行った。

「!!!~」
 閃光を目で追うゴライゴ。そして全てのガーファル達は明後日の方向を目指し泳ぎ始めた。
「ウグォ?」
 戸惑うゴライゴは、遠ざかる閃光の方へと再び顔を向けた。


 鬼磯目の艦首を両サイドから挟み込み、超高速で海中を駆け抜けて行くアンバーニオンとNOI Z。

〔コティアーシュ!〕
〔コティアーシュ姉ちゃん!〕

 ·アンバーニオン!、と···まさか!ゲルナイド?!!

「アンバーニオン!?、ゲル···ナイド?」
 晶叉の中でくすぶっていた名前がようやく芽を出した。


 NOI Zが一度看取ったガーファルからもたらされた攻撃フェロモンアタックマーカーのカプセル。
 それを潰した二体のクラゲ型ビット達は、迫るガーファルの群れの雰囲気を感じて海の中を逃げ去る。



「······」
 ゴライゴは泳ぎ去ったガーファル達を呼び戻す事も無く、海中に現れた琥珀色の流星を睨み続けていた。


 
 
 



 





 
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