神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

竜が巻く

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 カタタ···タタ···ゴコココ···コン···

 僅かに鬼磯目の機体が振動し、軋みの音が直操を通り抜ける。
 マーティアは押し黙り、計器モニター類はやけくそに警告を発している。
 巨獣の王ゴライゴは今、鬼磯目の目の前に居るのだろう。

 耳鳴り
 寒気
 圧迫感

 マーティアは【ゴライゴ】に何かコミュニケーションを取っているらしい。この仕事をしていると嫌でも身に付く予感のような感覚。
 電波の雰囲気、とでも言うような気配が全身の神経にフツフツと触れる。
 だが何も通じていないのか、ゴライゴのリアクションは薄い。不気味な静けさが引き続き俺達を支配する。

「ゴライゴさま!」

「!」
 いつしかマーティアは直接水中に言葉を発した。
 やっとリアクションらしい反応があった。
 周囲がザワついた。···ような気がした。
「ゴライゴ様!ぜひともお話したく思っていました!わからないかもしれませんが···私です!コティアーシュです!」

 コティアーシュ···!
 君の生前ほんとうの名前か?

「···コティ···アーシュ···」

「!」
 マーティアを呼ぶゴライゴの声。艦全体がビリビリと震える。思ったよりも老練ベテランな銀幕スターを思わせる声。

「マガイ···モノ!」

「ご、ゴライゴ様?!!」
「!、日本語!?」
 確かにマーティアの中枢システムの発声言語ランゲージは日本語に設定されていたが、それで通じるのか?と思っていた。だがゴライゴはマーティアの日本語に日本語で返して来た。だが会話の雲行きは予想通り怪しい。

 ズ!

 鬼磯目の周囲の海水が前から押された感覚。そして······
「マガイモノメ···アノ子ノ言葉で惑ワスカ!?人間ンン!」

「!!、アキサ掴まってーーー!」
「う!」
 直操のモニター類の画面が一斉にぶれる。
 鬼磯目は攻撃を回避したと少し遅れて理解した。

 ヴォワアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 背後から凄まじい咆哮と殺気。
 鳥肌の波が体を駆け抜け、一瞬全身の薄皮が剥がれたかのような錯覚にさえ陥る。

 だがこの俺とて重深隊の指揮者チーフだ。
 娘のように育てたマーティアの覚悟に答えねばなるまい。

「マーティア!生き延びるぞ!」
「了解ッ!」

 鬼磯目おれたちはバッテリーの続く限り、もがき抜こうと決めた。










 向かって来る敵の順序を近い奴から正確に把握し、正確に叩き落としながら結合型人魚の相手をする。
 君達は二~三度、ガーファルのまとめ団子の中身にされそうになった。
 そうなればどんな結果が待ち受けるかわからない。

 海水ごと噛み潰した樹液の結神アンバータイタン団子は甘いのかい?塩辛いのかい?

 さあ?どうする須舞 宇留?



 ドシ!ダシ!ヴシッ!ダン!
 シュババ!
 ビシッ!

 アンバーニオンは琥珀棍ポールロッドで四体のガーファルに打撃を当てる。そして片手で琥珀棍を振り回し、大見栄を切って動きを止めた。

 ガーファル達の数が一向に減らないのは、一度倒した個体の回復が異常に早いからであった。
精鋭エリート揃いか?キリが無いな?〕
 NOI Zも一度攻撃の手を止め、振り返る事なくやって来て再びアンバーニオンと背中合わせのポジションで体勢を整える。動きを止めている間にも、周囲には今にも襲いかからんと乱暴に泳ぐガーファル達が増えて続けていた。
〔···アンバーニオン。涙光の閃きウキロウ オン ヒキエラムは使えるか?〕
 NOI Zのコックピットで現が顔を押さえながら尋ねた。
〔···なんかごめん···わかってるんだけど、もう· ·生き物斬るのは後味悪くて···〕
〔···気にするな。ついでに俺はもう覚えたぞ?〕
〔そ、そうなの?!〕
〔さっきも言ったが、なんせ俺はモノマネ芸人コピーだからな?〕
〔ええっ···って···ふふふ!···そんな?〕
〔フ···ボケとはこうやるんものなんだろ?それでだな?······〕

       カクカクシカジカ

「う!」
 ヒメナにNOI Zからの想文が届く。
 その想文には、技のリンクプランが示されていた。ヒメナは合点がいったといった口調で宇留にも想文を転想センドする。
「ウリュ!···」
「!······うん!わかったよヒメナ!アラワルくん!」

「おお!」

 身をすくめたアンバーニオンとNOI Zが一気にりきみを解放すると、アンバーニオンは琥珀棍と装飾の一部、膝の三日月型宝甲が弾け飛び何処かへ超高速で泳ぎ去った。
 NOI Zは背中の黒い琥珀柱が無数のクラゲ型ビットに分解し、それらが周囲へと拡散する。

 ズオッッッ!

「!」
 アンバーニオンとNOI Zを中心に海流が変化し始めた。驚き、水流に抗おうとするガーファル達を、益々増大する流れが翻弄していく。
 背中合わせのアンバーニオンとNOI Zが同時に前方へと手を掲げる。すると水流は勢いと水圧を更に増し、渦を巻いてガーファル達を絡め取り始めた。あまりの勢いに結合型人魚もその姿を維持出来ず、バラバラとほぐれていく。
 
 水流のふちはオレンジ色に輝き、その無数の弓なりの輝きは周囲を照らしながら水流にへばり付いたガーファル達のシルエットを浮かび上がらせる。
 柔らかいボールを握り締めるようにグググと指を閉じていくアンバーニオンとNOI Z。
 その中で意を決したように、宇留と現が詠唱する。

涙光のウキロウ オンッ!···」
閃きヒキエラムっ!···」

「「超重螺旋デュオ トルネード!!!」」

 二人の詠唱と共に最高速度に達した海水の竜巻が、雑巾を絞るように縦に細長く凝縮する。
 その水圧に潰されながら互いにぶつかり合うガーファル達。

「「···カイッッッッ!ゴーータァ!」」

 同時にグッと拳を握るアンバーニオンとNOI Z。


 ·················ズッッッ!パァアアアアアン!


 海水の竜巻が勢い良く破裂する。

 海中ではガーファル達が同心円状に竜巻から弾き出され、海上では沸き上がった海水の爆発から気を失ったガーファル達が散り散りに飛び出し、次々に海へと落ちた。

 水の流れが安定し始める頃、アンバーニオンとNOI Zから離れていた装備が戻って来て自動的に元の位置に再装着した。
「······」
 海中では今度こそ本格的に気を失ったガーファル達が沈んで行くのが見える。

 おまえ、ゲル···ナイド···か?
「!」

 NOI Zは唐突に、沈み行くガーファルの一体に声を掛けられた。空かさず手を伸ばしその一体を抱きかかえるNOI Z。

 ふ、ナリこそ違うが、さっきのコブヨーヨーサバキを見ていてピンとキタぜぇ?元気そうじゃねぇか?

〔悪いな?俺達の勝ちだ!ゴライゴ様に何があった?〕

 ···俺達ぁゴライゴ様の仰せのままにするだけだ。だが···中にはオレみたいな跳ねっ返りもいるのさ

「?」
 そのガーファルが頭を振るので、NOI Zは片手を寄せた。
 ガーファルはフッと何か、二つの物をNOI Zの手に吐き出す。
「?」
 アンバーニオンもそれを覗き込む。
 巨体の手には小さ過ぎる二つの物体。ズームと暗視機能を駆使してそれを確認しようとする宇留と現。
「「この本!」」
 宇留、ヒメナ、現の声がハモる。
 
 バジュッ!

 ひとつは極小サイズの豆本だった。
 心当たりのある現はページの隙間から嫌な気が溢れる前に、NOI Zの掌から発した電撃でピンポイント焼却を実行する。

 !、グッ、ぐゥハアッ!

 NOI Zの腕の中で、ガーファルが黒い血を吐いた。
〔しっかりしろ!こんな魔目本ものを持って戦っていたのか!?なんて事を!〕

 ゴライゴ様の···体から持って来た···のさ?

〔なん···だって?〕

 これは暗···殺用のじゃ···ない。明らかにゴライゴ様を惑わせてる···ものだ。ゴライゴ様···ともあろう方が、オレがこっそり持ち出したのにも気がつかないホドになぁ?···ぬ、···ゴ、ゴライゴ様を助けてくれ···グッ!ゲルナイド!う!

〔しっかりしろ!あんたもゴライゴ様の部下なら!最後まで諦めるな!···須舞 宇留!〕
「え!?」
〔彼の汚染部位を切除する!向こうを向いていてくれ!〕
「!」
 手刀を振り上げるNOI Zを見た宇留は思わず目を背けた。

 ガーファルは元気な細胞片さえ残っていれば体がもし千切れても復活する。
 頭では分かっているのだが、宇留にはとても直視出来なかった。
 何事も学べば学ぶ程、簡単に考える事が出来ない現実があるという事。ここは決してゲームのステージなどではない現実の戦場なのだと宇留は再認識する。


 う!うう!

 NOI Zが抱くガーファルの体が炭化するように黒く崩れ始めた。
〔よく教えてくれた!礼を言う!もし再生して俺を覚えてくれていたら、また会おう!〕

 あ、ああ···そ、そっちの···もひとつ···赤黒いカプセルは···オレ達の攻撃フェロモンアタックアラートだ。何かに、使えるかもナぁ?······たのんだ、ぜ? ゲル···ナ···

「あ···!」
 視線をNOI Zに戻した宇留は、NOI Zの腕の中からパラパラと崩れていくガーファルの遺骸を目撃した。

〔···動ける奴!彼の···再生補助を頼む!···〕

 NOI Zの後ろではガーファルの仲間達が言われるまでもなく結集し、切除した半身を守るように優しく群がっている。


 NOI Zは軽く拳を握り締め、怒りの眼差しを遠くへと向けた。






 


 
 

 


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