神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

波の下の逃避行 ②

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       -₁₂₃²₁₂³

 ·········º



 ·!

 バックアップ中
 マニュアライズ中

 ·思考を復元
 機関系統 システムをチェックして下さい。
 □シッカリセイヤ
 ·通常制御再開 マニュアライズ中
 駆動系統 システムをチェックして下さい。
 □TANOMUZE?
 ·通常制御再開 バックアップ中
 センサー系統 
 □
 ······


 ? 直操システム緊急作動中。

 


「······起きた?」

 ·!ーーーーーー

 コティアーシュマーティアは目を覚ました。

 取り急ぎ全システムの総チェックもそこそこに、マーティアの意識はコーションマークのその先にある最も興味深い気配へと走る。

 無人制御式の潜水艦である鬼磯目の緊急コックピットとも言える直接操作室。通称、直操内の狭いシート。
 そこに座る人物をモニターのカメラ越しに認識したマーティアは、一応I.Dと声紋、顔の認証を済ませ、その人物が環巣 晶叉だと確認する。

 ·アキサ!!

「?、大丈夫か?」

 小声になっているせいで優しい口調になっている晶叉の声。
 ねぎらいの言葉を聞き、マーティアはようやく状況の把握を開始した。だがそれも片手間半分。意識の大半が晶叉との会話の方を向いてしまう。

 ·ワタシィ···?、あ!イエ!チェック中!チェック中ぅ···!
「焦るな焦るな、ゆっくりでいいぞ?直進ぐらいなら俺とノーマルシステムだけでもなんとか行けるし」
 ·わー!、でも嬉しいです!来てくれて!なんかお熱出して寝込んでた時にお粥作りに来てくれた彼氏シチュがソ!想起される事態でアリマス!
「う~ん?···まだ熱があるようだな?冷却ひやせてる?」
 ·ハ!ご、ごめンなさい、です!
 謝るマーティアだったが、直操内のとあるパラメーターが振り切れている。マーティアはマニュアル通り警告を出した。
 ·アルコールを検知。アキサ、まさか···
「これな?」
 晶叉はシート脇のフリーラックから熨斗紙のしがみの付いた一合瓶を取り出しマーティアに見せた。
 ·御神酒おみき
「勿論飲んでないぞ?!お前が目を覚まさないから神棚から持ってきて、ダメ元でピピッとその辺に散らして清めてみたんだ!そしたら効いたみたいだぜ?」
 ·ほ、ホントですか~?
「ああ、元々これは鬼磯目の船女神カミサマであるお前の酒だからな?」
 ·てへへ···カミサマってそんな···大袈裟な···
「ゲフン!しかしだなマーティアくん!追って来てるヤツのどんな攻撃か知らんが、AIが気落けおとされてどうすんだよー?」
 晶叉は冗談っぽく笑顔でマーティアを叱った。
 ·メ!メンボク次第もゴザイマセンッ!
「はは、いいよいいよ、でも焼けてなくて···本当に、よかった···」
 ·アキサ······!

 ···? ノーマルシステム?

 マーティアの心に幾度目かの未知の煌めきが踊ったのも束の間。会話ログのとある言葉が妙に引っ掛かる。晶叉の語った現状の意味。万全を取り戻しつつあるまだボンヤリとした危機管理予測に、ドッと悪い予感が押し寄せて来る。

 ·アキサ?ノーマルシステムって···?

「マーティア、落ち着いて聞いてくれ?···だいしろとの連絡が取れなくなった」
 ·ええ!?
「だいしろとおにかますのシステム、本土のサーバーはおろか、衛星との直接リンクチョクリンまでも切り替え前に突然ダウンした。良くない状況だな?」
 ·孤立···無援···ですか?!
 マーティアの口調には噛み潰すようでいて、尚且なおかつ凛とした張りが戻る。裏付けを取ると、確かに晶叉の言う通りだった。
 だが、無援という自分で導き出した言葉にマーティアが違和感を感じていると、煙たそうな表情の晶叉が口を開いた。

俺達· ·が今出来る事は、行ける所まで進む事だけだ。マーティア、すまないな?怖い思いをさせて。ウチの部隊が怪獣達にとって戦い以上に無礼な事をしたばっかりに···」
 · ······
 会話に少し間が空いた。

「··お前に怪獣の生体部品が使われている事が、彼らにとって癪に触ったんだろうな?俺の束瀬兄バカセが、スマン!」

 ·アキサ······

 マーティアの口調から可憐さが消え、何か意を決したようにフラットになった。

 ·アキサ···私は、そこから来ました。

「?!、な?!」

 ·私の自我は、その生体部品の生前の意識に由来します。

「そ!そんな事が!マーティア!、では、俺達は、それじゃ··」
 晶叉は考えを巡らせるように少しの間黙った。
「では···俺達はキミの死後の安寧まで掘り起こして奪っていたというのか?!···苦しめて···いたっていうのか?」

「···アキサ、あのね?」

「!」
 マイクからではないマーティアの言葉が直操に響く。サラサラとガラスの砂が波に洗われるような、静かで美しいエフェクトの付いた声だった。

「以前の私が死んだのは人間のせいではありませんし、死んだらもう考える事が出来る脳は無いので良かったとも悪かったとも、それすら判断出来ないんです。こうして記憶を持って生まれ変わって初めてイイナヤダナって思える。それは確かに普通の事じゃないからどちらにしろ大変な事なんですけど···」
「······」
 マーティアの声が一瞬泣いたように上ずる。晶叉は返す言葉が見つからず、ただ呆然としていた。
でも· ·、私は皆さんのお陰でもう一度泳ぐ事が出来ました。アキサもみんなも優しくて嬉しい!つらい代わりに私は楽しいんですよ?今!」
「マーティア···」
「アキサ、宝石の王子様のお話。隊のおしゃれな図書室の託児こどもコーナーにある本、ご存知ですか?」
「ああ、知ってる。昔読んだ」
「自分達が持ってるもの全てを分け与えてしまった彼らは、誰もが不幸なエンディングを迎えると思っていた。···でも誰かが彼らを見ていてくれたんです。誰かが彼らの心を照らしに来てくれた!最後に一つ、守り切った大切な宝石だけが···全て失っても失くす事の出来ない宝石キズナだけが、手元に残ったんですよ!凄くないですか?!」
「マーティア···!」
「それがあれば充分です!たとえ壊されたって、バラバラにされたって···いっぱい持って威張ってるヒトがなんだってんですか!そんなものヘッタクレだとかなんだとか隊の規律で決まってたよーななかったよーな?ダレカが言ってたよーななかったよーな?···エヘヘ···」

「···マーティア···そうか···ありがとうな?本当の事言ってくれて···」

 晶叉はディスプレイの縁を撫でる。
 するとそれに答えるように、晶叉の体の後ろから誰かの腕が巻き付いた。
「!」
 その両腕は目に見えなかった。
 しかし人肌の温もりを持った透明な腕が、確かに晶叉の胴体を後ろから抱き締めている。
 程良い力加減で晶叉を挟むその腕からは、親愛の情が充分に伝わった。

「···もう、怖くないです。アキサが一緒だから。私の琥珀の力が、アキサを慣性から、水圧から、炎から、恐怖から、護ります!」

「マーティア···!」

 晶叉がマーティアの見えない手にゆっくりと触れようとしたその瞬間、見えない手はパン!と晶叉の掌に勢い良くタッチした。

「「!」」

 それだけ、たったそれだけで二人の心は戦場へと舞い戻る。

「えへへ、よーし!飛ばしますよ!」
「ああ!行こう!」

 鬼磯目は遅れを取り戻すべく、次の補給ポイントを目指した。

 



「しかし静かだな?」
「はい!恐らく···」
「?」
「恐らく、引き···の段階です!」
「引き?」
「あの方が良く使われる手段です。波のように満ち引きを繰り返し、敵を翻弄する。ゴライゴ様の···」
「ゴラ···イゴ?」




 その頃、鬼磯目が航行する数キロ後方。
 十メートル前後の体長を持つヒルのような生物。ガーファルの群れが鬼磯目を追っていた。
 やがてガーファル達の群れは示し合わせたかのように左右に別れ 道 を空ける。

 その中心を通って。

 巨獣の王、ゴライゴが悠々と速度を上げてガーファル達を追い抜いて行った。











 

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