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絢爛!思いの丈!
波の下の逃避行 ①
しおりを挟むだいしろの後部甲板では、鬼磯目に晶叉が取り付く為の準備が急ピッチで進められていた。
丸められていたバルーンスロープには圧搾空気がシュババと注入され、勢い良く海面に下りた先端部はだいしろの起こした船首波によって既に波間に踊っている。
ゴムボートには水中用スクーター、ロープ、各種ツールケース類が運び込まれ、バルーンスロープ上の潤滑に使う海水もロープの付いたバケツに入って近くに準備されている。
そこへウェットスーツを着用し、ダイビングヘルメットを持って小走りでやって来た晶叉が現れた時だった。
『環巣!』
艦長の胡桃下の声が監視カメラ脇のスピーカーからノイズ混じりに響く。
晶叉は振り返り、足を揃えて監視カメラの方を向く。
『直接指揮ご苦労、死んだら許さんぞ?』
「!」
晶叉は監視カメラに向かってビシッと敬礼をする。
胡桃下もモニターに向かって素早い答礼をした。スピーカーにフッと衣擦れの音がほんの気持ち程混ざる。
バルーンスロープの平行上に位置する甲板の多目的ポールとゴムボートが係留ロープで結ばれた頃、だいしろと減速中の鬼磯目が横に並んだ。
距離にして約二百メートル前後、海上に浮かんだ鬼磯目は静かに海面を滑っている。
だが今にも、だいしろに追い抜かされそうな速度である事を隊員達は目視で確認した。
『じゃあ頼む!』
「ハイ!チーフ!気を付けて!下ろすぞー!」
「「はい!」」
水中用ヘルメットを被り、救命胴衣を着用した晶叉がグッと身を屈める。
ゴムボートを押さえる者、係留ロープのチェックを終えた者、各補助配置に就いた隊員達は声を掛け合い最終チェックを済ませた。
「行きまーーーす!ゴーッ!」
「!」
バルーンスロープに海水がぶちまけられ、勢い良く波立つ海面まで滑って行く晶叉の乗ったゴムボート。
着水の瞬間、バランスを取った晶叉の身がゴムボート上で跳ねる。
···無事ゴムボートを安定させた晶叉は係留ロープのフックを外した。そしてエンジンを始動させると、スロットルを全開にして鬼磯目に向かって行く。
重深隊の面々は、悲痛な面持ちでその映像を眺めていた。
鬼磯目まで十メートル程にまで接近した晶叉はゴムボートをターンさせ、その遠心力に身を任せたまま水中用スクーターを持って海に飛び込む。
「ボート戻せー!」
「了解ッ!」
後部甲板で双眼鏡を覗いていた隊員がコントローラーを持った隊員に指示を出す。操縦系統が外部に切り替わったゴムボートのエンジンが再始動して向きを変え、だいしろに戻るルートを進み始める。
両手に持った吸盤ツールで鬼磯目の船体表面に取り付いた晶叉は、ツールを用いて器用に船体側面を這い登り、船体の揺れに苦心しながらも艦橋の根元に辿り着いた。
「やった!」
後部甲板で晶叉を見守っていた隊員達が喜んだのも束の間、警報が艦内に響いた。
ビーーーーーーーーー!!
「ああッ!」
ゴムボートを操っていた隊員の目線の先で、海中から現れた黒い影がゴムボートを飲み込んだ。
「撤収ー!」
「しかし!チーフが!!」
「急げッ!中に走れー!」
「!」
艦内に最後に逃げ込んだ隊員は、扉をロックしながら後部甲板にビタンと何かが落ちるような音を聞いた。
続けて振動。ボフボフという荒い息遣いのような音もそれに続く。
数十秒後、状況を把握した隊員達は肝を冷やす事になる。
「縄張りだと···?!」
慌てふためき始めた艦内の喧騒の中、胡桃下はモニターに映った甲板で蠢く巨大ヒルのような生物の群れを睨んでいた。
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