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絢爛!思いの丈!

畏まり怖る

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 元々、太陽まで向かえる程のエネルギーは持ち合わせていなかった。
 完成したばかりの機体群じぶん
 突貫でプログラムされたミッション。
 自立システムとしては経験値不足。
 ミス修正の隙間から偶然生まれた自我は究極的に小さく、幼く、開発者達はそれを発見する余裕すら無い程だった。

 そんなインプットに加え、開発者は口頭でも作戦内容をこのおれ、NOI Zに伝えた。

「いいか?我々の敵、アンバーニオンには奴らの本拠点である太陽の樹にお前を向かわせるとホラを吹いてやる。お前は宇宙に飛んで奴に追い着かれ次第、総体の九割以上をもってして奴と共に自爆。脱出したマスタープログラム搭載個体、つまりオマエはいつか必ず回収してやる」

 開発者。エブブゲガ博士はそう言ってNOI Zコアおれが浮かぶナノマシン液槽を覗き込む。
 エブブゲガ博士は全身に奇妙な付箋ふせんを多数張り付けていた。レシートのような横書きの文字が印字されたモノクロの付箋。その顔の隙間からは病んだ眼が覗いている。液槽ケース越しだったが、何故か花のような香りが彼から漂った。
「みんな後を頼むぜぇ?」
 エブブゲガ博士はおれと開発者達に伝え終えると、フラフラと力無くその部屋を出て行く。開発者達はチラッとエブブゲガ博士を見るだけだった。

 今にして思えば博士の付けていた付箋は呪符のようにも思える。

 扉が開いた瞬間。
 その向こうに見えたのは、同じく巨大なナノマシン液槽に浸かり漂う白い鬼のような巨人。
 今のアルオスゴロノ帝国の奴らが皇帝と呼ぶ魔獣の姿だった。
 
 扉が閉まる瞬間、唯一作業の手を止めてエブブゲガ博士の様子を伺っていた女性スタッフが居た。
 女性スタッフは扉が閉じた後もしばらくエブブゲガ博士が去った方向を見ていたが、ゆっくりとおれの方に視線を向けてニヤリと微笑む。
「!」

 きっとそうだ。この女性ヒトは······多分!






〔最後の敵と言っても、あの時の俺なんか全然相手にならなかったよ〕

 風の音が響く夕方の空に浮かぶ陰陽二体の琥珀の巨人。

 NOI Zは自分の肩を掴んでいるアンバーニオンの腕に、そっと手を添える。
「あ!ごめん!」
 冷静な現の対応にバツの悪さを感じた宇留は、思わずアンバーニオンの手を離した。
 
〔むぅ···須舞 宇留、琥珀の姫、俺の正体は、アルオスゴロノ帝国がアンバーニオンをコピーして作り上げた模造品、疑似黒宝甲ジェッティオン型戦闘群機NOI Z。その制御プログラムだったんだ。···俺はずっと忘れていた···俺は巨獣の一族ではなかったんだ〕

〔そんな、アラワルくん···!〕
「······」





〔最後の敵なんて言ったけど、生まれたばかりで付け焼き刃程度の状態ザコだった俺は、あの時の鬼神のようなテンションのアンバーニオンの敵にすらならなかったよ···〕

〔ゲルナイド···!、最後、ムスアウ···当時のアンバーニオンは···?〕
 アンバーニオンからヒメナの声が響く。
 
〔当然だけど俺が撃破された後の情報は無い。アンバーニオンがそのあと、···どうなったかまでは···!···〕
 NOI Zはもう一言、何かを言いかけて言葉を飲み込んだ。
「そう···なのね?」
 ヒメナは瞳を閉じて考えを纏める。

〔アラワルくん、その体というか機体は、帝国のものなんだよね?〕
 宇留は口調に嫌悪感が浮かばないように質問する。

〔ああ、だが俺は一度皇帝達に巨獣の体を殺されている。帝国にはもう戻れない···それで一度こっそり、ゴライゴ様に俺の事を聞いてみようと思ったんだ。AIだった俺が何故記憶を失い巨獣になっていたのか?どうしてこの機体からだが戻って来たのか···〕

ゴライゴおっちゃんかぁ!二~三回しか会ってないけど元気かな?〕

〔二~三回?〕

「うん!他の怪獣と戦った時にね!書いてないけど」
「あとウリュは魅力的な敵の武将と何人か戦った事あるよね?書いてないけど!」
「あとガルンシュタエンvs美人敵幹部ロボの空中スナイパー対決どうなったかなぁ~?書いてないけど!、うわっ!何これ!」
 アンバーニオンの操玉コックピット内部。宇留の背後には謎の巨大なイメージイラストが浮かんでいた。
 体だけ筋骨隆々な宇留が、同じく筋骨隆々な男前外国人の大男と殴り合っている。
「いや!さすがに!敵の武将とこんなバトルはなかったよ?!」
「あ、ご、ごめんあそばせ!」
 ヒメナは恥ずかしそうにうつむいた。

           マッチョずきなのかな?

「なんか言った?」
「イエ!」

 宇留とヒメナは唐突に詳細不明なボケをかまし始める。何故かNOI Zの頬の辺りの宝甲に汗が滲む。

〔な!何を言ってるんだ!そんな話多分無かっただろう!···つ、続けるぞ?いいな?〕
〔「「ハイ!すいませんでした!」」〕

 NOI Zはまるでため息をつくように肩を揺らし、気を取り直す。

〔···そのゴライゴ様の様子がおかしいんだ···!〕
〔ええっ!!〕
〔ゴライゴ様はコティアーシュねぇ···んんッ!人間達の部隊が使っている、多節潜水艦を狙っている〕
鬼磯目コティアーシュを?!どうして?〕
〔やはり彼女を知っているようだな!宝甲の力を共有しているようだったが?〕
〔「訳あって、ね?」〕
〔俺もコティアーシュも、かつて巨獣時代にゴライゴ様に師事した間柄だ。だがどうしてかコティアーシュの意識が宿ったその潜水艦を襲おうとしている。他の仲間や番頭であるローケンさんの言葉すら聞き入れない程怒っているらしいんだ。理由はわからない!そこでだ···〕
ゴライゴおっちゃんを止める為に手を貸して欲しいって事ね?〕
 宇留が現の言葉を遮る。
〔!、そうなんだ!コティアーシュはオマエの宝甲の力を持っている。可能であれば、コティアーシュに力を貸して欲しいんだ···〕
 深々とアンバーニオンに頭を下げようとするNOI Z。しかしアンバーニオンは先程とは反対側の肩を掴みNOI Zの礼を止める。
〔いいよ!じゃ早く行こう!何回かしか会って無いけど、あのおっちゃんがそんなに思慮深く無いなんて何か···何かあったんだよ!〕
〔すまない、俺は人間の味方にもなれないが、俺を俺として今日まで支えてくれた想いを持った存在ヒト達が困っていたら、助けになりたいんだ!須舞 宇留!〕
〔うん!でもいいんだよ?遠慮しないでコティアーシュ姉ちゃんって付けても!〕
「!」
〔姉弟子さんなんでしょコティアーシュ?···俺にも姉ちゃんがいてね?今度いつか俺、姉ちゃん達にオジちゃんにしてもらう事になったんだ!···俺もアラワルくんも、今頑張っていつかいっぱい笑おうよ!ね?〕
「ーー!」
〔···そうだな!〕
〔じゃあ早速、案内して?〕
〔ああ!〕

 アンバーニオンを先導して移動を開始するNOI Z。
 だがヒメナは琥珀の中で宇留に見えないように目を伏せている。

 未来···?

 その眼差しには、喜びと切なさが入り混じっていた。








「駄目ですチーフ!鬼磯目!推進力低下!」
「バッテリーやらなんやらはマンタン近いハズなんですけど!」
「マズイな、これでは追い付かれるぞ?」

「う!!」
 空調機能は良好、船内温度、湿度も作戦続行に問題無いレベル。
 しかし旗艦、だいしろに乗る重深隊の面々は、幾度か振りの寒気を総員一斉に感じた。
「またか?!」
「何ですかこれ?!」

「殺気···!」

 晶叉の言い放った言葉に、隊員達が凍り付く。だが晶叉は鬼磯目との相互専用通信を開き、コティアーシュマーティアに語り掛ける。
「マーティア!出力がダウンしてるぞ!大丈夫か」

 ·        コワイ···コワイ!

「!」
 通信先からは蚊の泣くような声が微かに響く。
「マーティア!」
 執間が目を細め、口を真一文字に結ぶ。

 ·            シンライ、してるヒトに、こんなコワイオモイを、むけ···


「···駄目だな?」
 晶叉はインカムのマイクを手で握って呟いた。そしてしばらく考えて執間に言い放った。
「トリさん!俺ちょっと鬼磯目に行ってくる」
「そ、そんな!危険です!こんな時に!行ってどうなるっテんですか!」
「頭でも撫でてやるさ」
「えぇ?」
「ストレスは物理だ。このままだと焼き切れるぞ。こんな時に貸してやらんで何が人の手かって事さ?」
「···ふぅ~む!」
 執間は露骨にため息をつきながら笑顔になった。
「そういうロマンチストなトコ、我々はお兄さんよりは買ってますって!チーフ?」
「トリさ~ん。よりはってなんだよ?」

 アッハッハッハ···

 鬼磯目管制ルームに笑いが広がる。
「マーティア!待ってろ、今行く!」

 ·    ハ? ハ !


 晶叉は正直、鬼磯目の不調の原因を掴みあぐねていた。

 しかし彼はもう、鬼磯目の元へと兎に角たどり着く事しか頭に無かった。








 
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