60 / 201
絢爛!思いの丈!
ホームルーム
しおりを挟む薄曇りの空を朝日がゆっくりと照らし始め、桃色に染まった凪の洋上をふと一時、安堵感のある光景がフワリと包む。
そんな精神的オアシスのポイントには、鬼磯目、だいしろ、国防隊の補給艦の姿があった。
あーあ、許されるなら私も歌ってみたかったな?もしヒトの歌を覚えられたら···以前みたいにアキサ喜んでくれるかな?
だいしろと共に海上で補給を受けていた鬼磯目は、次の移動任務の為の最終チェックを行っていた。
重深隊はここ最近、日本列島の周辺海域を周回するように移動に次ぐ移動を重ねている。
マーティアには事情の説明こそ無かったが、この任務が明らかに何者かから逃げ回っている、としか思えない節が彼女にはあった。
いろんなトコ行けて楽しいけど···こんなままじゃ···
鬼磯目は、手持ち無沙汰を散らすように潜望鏡をカシャカシャと伸縮させながら、あらゆる方向を見渡した。
「解体?!」
だいしろ内の第四通信ブースで、コードを繋げたスマホで通話する環巣 晶叉は小声で叫んだ。
〔それも視野に入っているという話だ。このまま逃げ続けて無駄にコストを裂くのはどう考えても割に合わない〕
通話の相手である晶叉の兄、束瀬はまるで他人事のような口調で語り晶叉を苛立たせた。
「しかしそれでは!」
〔俺も不本意さ、一応頭を痛めて造った子だ。だが、今まで手加減で済んでいた相手の予想外の憤りが、上陸事例本土決戦にまで発展する可能性になるというのらば、流石の俺にも原因となった鬼磯目をこのままにしておく責任の取り様が無いのもまた事実だ〕
「原因って···ハァ···兄さん···もしも···もし仮に解体して生体フレームを拾った場所に返したとして!彼らの敵対心が収まらなかったら?なにより機体から引き剥がされる事になるマーティアは!?」
〔···この間の極秘会議、いっその事彼女も含めて全部装備ひっくるめで差し出してやれという意見持ちが一人居てな?〕
ダン!
晶叉はデスクを叩いて八つ当たりをした。
その音は微かにだいしろの鬼磯目管制ルームにも届いた。
他のクルー同様、疲れた表情でモニターを見つめていた隊員の執間は、自分の時計と管制ルームの時計を交互に確認しながら鬼磯目との通信を開き、マーティアに指示を出す。
「···嬢ちゃん出発。時間だ!」
〔了解!、あれ?トリマさんですか?アキ···チーフは?〕
「艦長もカエさんも今立て込んでる。通達だけなら今は俺でも問題ねぇよ?」
〔そう···ですか···〕
「んで!みんな疲れてて気合いが足らねんだよな?いっそ嬢ちゃんが気合い一発ビシッと号令頼むぜ!」
〔ぅえー!わ!分かりました!···ヨーーーシ!ヤロウドモ!よく聞けぇぃ!···〕
動き出すだいしろと鬼磯目。
しかめっ面の晶叉が管制ルームの前に戻って来ると、扉の向こうからワハハと笑いが聞こえて来た。
「?」
〔···続きまして!私がオススメの暇潰しコンテンツをご紹介ィ~!···まず始めは!真獣のサンサーストン!アクアマリンメモリー!南部台場検証ー!···夏だ!海だ!あのシルヒトゾシルロボットアニメ!真獣のサンサーストンの個性的な美麗ヒロイン達がコノ夏!······〕
「おおおお!」
男性クルー達の目が輝き、中にはグッとガッツポーズする者も居た。
〔···ゴッッッつい耐圧潜水服に身を包み!海底散歩をしながら失われた砲台跡の秘密に迫るよ!う~ん!海洋ロマン!〕
「あぁ~···」
男性クルー達の期待も束の間、メインモニターの隅に表示された広告欄バナーのような帯に映った激シブ動画を見たクルー達はすっかり落胆した。
疲れた顔にモニターの照り返しで顔面蒼白になるクルー達に対し、マーティアは低い声で脅すように更なる追い討ちをかける。
「水着なんてナマッチョロイもんは無ぇ!海底をナメるな!あ!巷で噂の潜水艦女子とのコラボもあるよ?」
動画には斜めローアングルで海中を猛進する鬼磯目のような潜水艦のCGが効果音付きで写し出される。
「「ハァ~ぁ···!」」
「···」
クルー達の気持ちが一つになったため息を聞いた晶叉の表情は、彼本人も気付かない内に笑顔になっていた。
「全く···キミには敵わないなぁ?」
晶叉は一言呟くと、パスを扉脇のセンサーにかざして管制ルームに入って行った。
T都、馬瀬間区の朝。
衣懐学園の駐車場に停まった一台の高級車から、お嬢様風の美少女が降り立った。
短めの髪を後ろで無理矢理まとめ、見た目はほぼオールバックになるように厳しく梳き撫でられている。
お嬢様は校舎内を真っ直ぐ二年B組まで歩むと前の扉を開けた。
「!」
デジタル黒板の前で、日直の欄に名前をタッチペンで書き込んでいた男子生徒、九尾炭 夢令がお嬢様に驚いてその手を止めた。
そして途端にキラキラ笑顔が表情に纏わり付いたかと思うと、お嬢様に向かって下手に格好を付けた歯の浮くようなセリフがスラスラと出てきた。
「へィベィベァ!キミ転校生?朝活はまだだから先生とまた出直してキナ?そして席はボクの隣だょ?ビュリフォガァル?!」
「······クオスミクン···あたしだよ!谷泉!」
「い!い!!委員長ォ!???」
「「「わーーー!」」」
ドン!
「うわ!」
女子の殆どと、磨瑠香を含め宇留の元に集まっていた生徒達が、お嬢様···もといマユミコ委員長の近くにスライド移動した。
殺到する女子達の突進力に撥ね飛ばされた夢令は、黒板に頬をしたたかにぶつける。
「うぬぅ!」
人間違いの恥で真っ赤になった夢令の顔には、何故か普通のチョークの粉が付いている。
囲まれていた宇留は息苦しかったのか、プハーと一呼吸してからマユミコ委員長の方に注目した。
誘拐未遂にあっていた。と早朝の職員室で担任のアルキ先生に聞いていた宇留も思わず立ちあがり、生徒団子の隙間からマユミコ委員長を探す。
「落ち着いて!大丈夫だから!」
マユミコ委員長は全方位から迫る質問や心配の言葉を、一人づつ的確に捌いてシンプルに返していた。そして折を見て、磨瑠香に顔を近付けてそっと耳打ちした。
「!」
しまったという表情を宇留に向ける磨瑠香と、その後ろでアルカイックスマイルを浮かべるマユミコ委員長。
ギクリとする宇留。
以下の皆さんは放課後残って下さい。
その日の内に、教室の連絡用黒板には宇留や磨瑠香をはじめ十数名の生徒の名が連なり、臨時学級会が催される事になった。
つい数時間前まで、重深隊が補給を行っていた海上はゲリラ豪雨に包まれ白く曇り、無数の雨の波紋が波の上に模様をばら蒔いていた。
そこへ海中から盛り上がった超巨大な波。
準帝ゴライゴが小島のような大きさの顔を出した。
薄暗いせいか目元は陰り、ただ黙って視線の先を見つめている。しかし不気味な程普段の彼のような心の躍動感が無い。
ゴゴゴゴゴゴッッッッ······
ゴライゴの目の上の外骨格の表面を滑った豪雨が、滝のように何本もの白糸を編み視界を遮る。
ゴライゴは一声唸り、再び顔を海下に沈めていった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~
阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
神樹のアンバーニオン
芋多可 石行
SF
不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。
彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···
今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)
あおっち
SF
港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。その第1次上陸先が苫小牧市だった。
これは、現実なのだ!
その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。
それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。
同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。
台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。
新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。
目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。
昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。
そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。
SF大河小説の前章譚、第4部作。
是非ご覧ください。
※加筆や修正が予告なしにあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる