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絢爛!思いの丈!
逆 襲
しおりを挟む「うおー!来たァ!おりゃー!マイクよこすのだーー!」
『後ゥ悔のな···♪!、うわ!』
フォイーーーーーン!♪♪♪···
磨瑠香が照臣からマイクを奪い取り、ハウリングが32号室に響く。
それが合図であるかのように、照臣の歌っていたヒーローソングのメロディを遮り、宇留達の曲のイントロがスピーカーに乱入した。
♪~~~~ヒュババッ!
立ち上がった宇留はマイクの二刀流を振りかざし、座った目で大見得を切ってビタッとポーズを決める。
『へベラい!』
マイクの一方は自分、もう一方は胸元のロルトノクの琥珀に向けられた。
『フィックぃ~~!歌いまゥ!』
いつもとは真逆な印象のヒメナの高いテンション。そしてマイクを握った宇留の両手は共に小指が立っている。
「いよっ!」
「パちパちぃ!」
「オイオイ!百年以上前の歌謡曲かよ!スゲーな!」
全員が拍手を叩きながら応援する。
何故か宇留が酩酊状態に陥るオレンジジュースがサービスのミックスジュースに入っていたのは問題ではあったが、藍罠兄は結構味が気に入ったようで二口目を口に含みながら宇留達の歌い出しを待った。
イントロが落ち着き、さあ歌声が出る···と思われた時、何故か宇留の小話から歌は始まった。
『♪······アんバーゥェお~~ン!』
曲に乗り宇留の情けない声が通る。
『なんだいウリュくん?またゼレクトロンにイジられたのかい?』
「!···ゲッフォッ!」
ダミ声のヒメナに藍罠兄が反応し咳き込み、磨瑠香と照臣は唐突に始まったコントに笑い声を上げた。
「「アハハハハ!」」
「ゲフン!ゲホ!ン!ン!ン!」
『♪~いや!それは無いんだけど?』
『♪~ああ、そーですか』
二人は演技無しの素の会話を一度交わす。そしてすぐにへべれけボイスに戻ると小芝居は続いた。
『♪···ゼレクトロンがウチのスーパーのお惣菜全ヴ買占めちゃったんだよぅ~!父さんは遂にウチににもテンバインが来たって戦々恐々としてるんだよぉ~♪』
『♪···そりゃテンバインじゃナイよぉ!お惣菜のテンバインなんて聞いた事ァ無いヨぉ!きっと、自分で全部タビルんだよ!』
『♪···えぇ?あんなにィ?』
···アイツにそんな好みが?参考にするか?
···ゼレさんなかなかだね?
···アハハ!、ゼレクトロンって誰だろう?
クスクスと笑いながら、全員が思いたい事を思う。
「失礼しまーーす?」
その時部屋のチャイムが鳴り、扉が解放される。先程の男性店員がスナック類を大量に載せた配膳カートを部屋に押し込んで来た。
「ああ!店員さん!さっきの変なサービスですけどね?!」
「え!!ウソ!このヒト!エシュ···さんだッた···よね?」
牛乳瓶の底眼鏡の店員を、一瞬で良夢村で会ったエシュタガだと見抜いた磨瑠香に対し、ほぼ眼鏡だけの変装にも関わらず藍罠兄は全く気が付いていない。
「ウソでしょ?この前合ったばっかりじゃん!」
「へ?だれが?」
歌う、と言うより語っていた宇留も江洲田に気が付く。
『♪···ああ!ナんたわ!、エシュ···え!江洲田 元三郎!』
「いやあ!またお会いしましたねぇ?」
テーブルサイドに片膝を着いた江洲田は、配膳カートから取り出した焼きたてのピザレンジャーLサイズ三つをテーブルに並べる。
ジュゥゥ!と沸騰する焦げ目の付いたチーズはまるでブラックホールのように磨瑠香達三人の視線を吸い込み釘付けにする。それだけでもはや、この店員が誰であろうか?など些細な事柄に落ち込んだ。
注文の品を全てテーブルに並べた江洲田は、優雅に配膳カートを廊下に出し挨拶をして部屋を去る。
「それでは、引き続きごゆっくりお過ごし下さい···」
『♪···もーう!世の中狭いね!?』
『♪···ハイせーのっ!』
『『♪···無限に釘刺す!♪事ばっかりィぃーー!~♪』』
「「フモォォォォ!」」
パチパチ···
ようやく普通のデュエット曲になった歌。しかしギャラリーの口には既にピザが詰まっていて、奇妙な歓声が二人に届く。
磨瑠香はカットしたピザを食べていたが、藍罠兄と照臣に至ってはピザを一枚丸ごと二つに折り畳み、幸せそうにかぶり付いている。そして二人の歌は続きに突入した。
『♪···あの女子高生元気かなぁ?ねぇ?!ウリュ!!ライナチャン!ねぇ!』
『♪···や!ちょ!ヒメナ···』
「!」
磨瑠香は無言でピザ一切れにフォークを突き刺し、マイクのように胸の前に掲げて宇留に近寄った。
『へィ!イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ···♪』
元気に替え歌の続きを歌うヒメナに対し、磨瑠香に圧倒され縮こまる宇留。磨瑠香は無表情でピザマイクを宇留の口元に差し出した。蛇のような視線が宇留の目に突き刺さる。
「ライナチャンって誰?」
『♪···え!えーと···ですねえ···』
その光景を見た藍罠兄と照臣は、二つ折りピザを持ったまま肩を寄せ合いガクガクブルブルと震えている。
『んぉ?♪』
ヒメナがピザマイクを持った磨瑠香の手首に巻かれたブレスレットに気が付いた。
『おー!奇遇だにゃ!今度はオマエもウタエ!···♪』
「あれ!いつの間に!」
「うおお!まさかキミは!」
驚く磨瑠香と宇留。そのブレスレットはガルンシュタエンの琥珀であり、内部にガルンを宿したヨギセの琥珀のブレスレットだった。
くぅ···こんな事してぇ···ウラムよぉ?エシュタガぁ·····!
本当に困った顔をしたガルンと、不敵な笑みを向けるヒメナが琥珀越しに見つめ合う。
「あれ!カワイー!このコもヒメナちゃんの知り合い!?イイねぇ!盛り上がって参りましたぁ!次はあの曲ね?」
『がむぉ!』
磨瑠香はピザマイクを宇留の口に押し込み、宇留から奪ったマイクでディスプレイに表示された次の曲を指し示す。
並んで立った宇留と磨瑠香が、それぞれに身に付けた琥珀のアクセサリーにマイクを向ける姿は正直シュールなものだった。
しかし歌が始まる直前、僅かに声の音程を整えただけのヒメナとガルンは、まるで長い時間練習でもしていたかのようにいきなり見事なデュオを披露してみせた。
若干エコーがかっているものの二人共に綺麗な声、全体を通して歌のレベルは高い。宇留、磨瑠香、藍罠兄、照臣も間奏に入るまで聞き入っている事しか出来なかった。
「···ほああ!スゴーい!」
『♪···ぅぬう···』
磨瑠香に褒められ、何故かガルンは悔しそうな表情をした。
笑顔で拍手し終えた照臣は、フッと素早くポケットから出したスマホの画面を見た。
「!」
表情が一瞬シリアスになるのを、ガルンは見逃さなかった。
この少年、中々やるな?
ガルンはそう思いながらも、喉に手を当て呼吸を整えた。
「なんかなぁ?スゲーなぁこんなの···!」
藍罠兄が琥珀の小人達の歌に感心していると、テーブルの上に置いてある選曲用端末の画面が切り替わるのが見えた。
「?」
画面には金髪美少女のアバターキャラがニコッと微笑み、口に両手を当てて何かを叫んだ。
· !
「?」
アバターキャラは片手を耳に当てて横目でこっちをみている。
アバターキャラはそれを何度か繰り返し、藍罠兄の注意を引いた。
〔·あいわなさーん!〕
今度こそ聞こえた。明らかに藍罠兄を呼ぶ声。
「ウッソ!リアルタイムッ?」
藍罠兄は端末を手に取る。照臣もなんだなんだと端末を覗き込む。
「エッ?????と?もしもし?」
〔·よかった繋がった!藍罠さんお休みの所失礼します〕
「は、はあ···えと?キミは···?」
〔·今、藍罠さんのお近くで発生している周波数に感応した巨大生物がそちらに向かって移動を開始しました。お心当たりの音の遮断は可能ですか?〕
「ええええ!マジすか?上陸案件!?」
『♪···ふゃーい!わかったよー!止めるよー!』
『♪···あ!』
♪···
ヒメナも聞いていたのか、何故か曲が強制終了する。
「中々ウマイなあ?良い時間だったぜぃ!ガッハッハッは!」
クッ!、琥珀の姫の方がアンバーニオン ソイガターよりもよっぽど虎じゃないか!
ガルンは琥珀の中で頬の汗を手で拭う。
〔· ······あ!戻り始めた!よかったー!ご協力ありがとうございます!では忙しいのでこれで失礼します!〕
「あー、ちょ!誰ですか?俺のスケジュール把握してるって事ぁ隊の方面の?···」
選曲用端末は、フッとホーム画面に変わる。
「うぅむ!···どっかで聞いた声なんだよな?誰だっけ?」
藍罠兄は首を傾げながら端末をテーブルの上に戻した。
「!!」
···と同時に藍罠はポケットから震えるスマホを取り出して画面を見る。
···ビッッシィィ!
音が出たのではないかと思う程その場で座ったまま畏まる藍罠兄を、磨瑠香は不思議そうに見ていた。
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