神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

 歌

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 青空の下、不安になる程の速度で雲が千切れながら速く流れている。

 遠く地平線まで続く鏡の大地は、その空と共にテキパキと動く自分達を的確にコピーして写していた。

 宇留とアンバーニオン。

 互いにアンバーニオンの肩アーマーに備え付けられていた二本の琥珀柱が変化した剣を一振ずつ持ち、延々と飽きる事無くチャンバラを繰り返している。
 これは宇留が何度も見るシュミレーションという名の夢。
 動きは最近ようやく互角になったばかり。どちらかが優勢でも劣勢でもない。殺気も感じず、まるでキャッチボールのような感覚だった。
 宇留は記憶から、あるアニメのあるバトルシーンを呼び起こし参考にする。結構キャラクターの細かい一挙一動を覚えているものだと自負していると、アンバーニオンも瞬時にその動きに対応する。

 まぁ当然か?俺が操るアンバーニオンなんだから。

 宇留がそんな事を考えていると、アンバーニオンの目元から水のようなものが散った。

「?」

 雨?
 宇留は空を見上げるも快晴だった。
 
 その世界の太陽。ぶつかり合い光がまたたく琥珀の剣。そして視界いっぱいに広がった煌めくプリズムが眩しくて、宇留は目を覚ました。
 



 

 宇留の部屋のベッド。

                 ギャキーン!「トンコツ大将軍!お待ちどお!」デデデーン♪

 階下からは恐らく両親が視ているであろう朝特撮番組の特殊な効果音に混じって、部屋のエアコンの送風音がうっすらと響いて来る。

 そして曖昧な記憶の片隅。玄関に倒れ込み、ヒメナが母の明日美を呼ぶ大声。そして暗転。

 ···久しぶりに良く眠った気がする。
 宇留がそんな心地の良い倦怠感を堪能している間にも、宝甲の力で強化された体はみるみるうちに本覚醒状態まで引き上がりつつあった。

「······」

 そういえばマネージャームスアウ最近来ないな?

 宇留が視線を枕元に向けると、ロルトノクの琥珀アンバーの中でヒメナがうつ伏せで眠っていた。


 宇留はそのやすらかな寝顔が普通に愛おしくて、手で触れるよりも近くにあったシーツ代わりのシルクのタオルをそっとロルトノクの琥珀アンバーに被せた。

 スマホを開くといつも通り、通知とメールの山だったが、その中に藍罠兄ヨキトと磨瑠香からのメッセージを見付けた。
 
 帰って来ましたか?
 疲れてませんか?
 よかったらアンバーニオン軍非常召集です。
 カラオケに来れますか?

 YES
 YES
 YES

 選択肢に拒否権は無かった。磨瑠香達の冗談に宇留の腹筋が揺れ、ニッコリと表情が崩れる。
 とりあえずヒメナを起こさないように笑った宇留は、真ん中のイエスボタンをタップして詳細を尋ねる文面の作成を開始した。
 





 馬瀬間駅前のとあるカラオケチェーン店。その32号室。

 揃った琥珀王アンバーニオン軍の面子は宇留とヒメナ、藍罠兄妹、そして照臣の五人。

 藍罠兄が有名グループのヒットソングを一人で熱唱している間に、照臣は黙々とピザやポテト、パフェを口に放り込んでいた。
 かと思えば歌い終わった今会のスポンサーである藍罠兄に対し、誰よりも多大な賛辞を贈る照臣。ギリギリまでスナックを口に詰めるだけ詰め、漫画のキャラのように頬を膨らませていた次の瞬間にはそれが消え、曲が終わると同時に全く口ごもる事なく全員の拍手と共に照臣のお世辞が飛んだ。

 パチパチパチパチ···!

「ィェーーイ!お兄さんウマイっすねー!」
「君こそイイ食べっぷりだねー!キョービのワカイモンなのに感心するぜ!」
「特にキミって歌詞に情感込もってましたね?彼女さんの事とか思えばこそなんですかー?!」
「!」
 藍罠兄の表情が興奮のそれから一瞬柔らかくなった。
「ナイナイ!おニィに彼女なんてねぇ?だいたい···」
「すいませーーん!ピザレンジャーのL!あともう三枚お願い致します!あと···!」
 兄を茶化す藍罠妹マルカだったが、藍罠兄は素早く備え付けの受話器とスナックメニュー表を手に取り、照臣の為に追加注文をし始める。
 その一方、磨瑠香は兄のココだけはヘンだヨを宇留や照臣に力説しようとしていた。しかし照臣の予約していた曲が始まって話の腰が折れる。
 照臣はイントロが響く中マイクをクリーナーラックから引き抜き、磨瑠香の話題から逃げるように前に出た。
「あー!ちょ!」
「ハイ」
 宇留は磨瑠香のディスりを塞ぐように磨瑠香の飲み物が入ったグラスを顔の前に差し出し、そのネタに乗った磨瑠香は「オ!オゥオゥ!」と言いながらストローに噛み付いて美味しそうにメロンソーダの入ったグラスを受け取り飲み始める。そして宇留もニコッと笑うと選曲用端末とのにらめっこを再開した。

先輩ウルも、もっと食えるだろ?」
「え?は、はい!」
 黒地に細い金色のラインの入った高そうなジャージに、歩くとペタペタと音がするサンダル。そして首からはドッグタグやら何やらがジャラジャラとぶら下がっている。世間的に見れば公務員っぽい人がそれってどうなの?という私服のチョイス。磨瑠香が時折ジロッと兄を方を睨むのはそれが原因そうではあったが、宇留的には藍罠兄のイメージと合っていて違和感は無かった。

 そして藍罠兄は何故か、先程から宇留を先輩と呼んでいる。宇留は理由を聞いてみようと思った。

「ヒメナ、歌選んでて?」
「うん!」
「プハ!よし!飲んだぞ!あ!ヒメナちゃん手伝うよ!」
「わぁ!ありがとうマルカ!」
 磨瑠香は宇留の隣に座り直し、ヒメナが端末を見やすいように操作を始めた。ヒメナはロルトノクの琥珀アンバーの力で端末の操作はある程度出来たのだが、この時は素直に彼女に甘える事にした。

 照臣の歌う、ちょっぴり説教臭い昔のヒーローソングは更に盛り上がる。

「ヨキトさん、俺の事、先輩って何でですか?」
「ん?それはね~?···あ!イヤ!ネタバレ魔は禁止だ!それは後からのお楽しみ!」
「え~?ハッキリして下さいよ~www」
 宇留のハッキリしろという言葉に反応した磨瑠香は首を傾け、は?という表情を宇留の後頭部にぶつける。
「···だからこうwwwなのwだァ!www♪」
 藍罠兄は笑いを堪え、照臣の歌はイイ所で笑い声になって歌詞の説得力が薄まってしまう。

 その時、ピンポンと部屋のチャイムが鳴って店員が入室してきた。

「失礼致します。ピザレンジャー焼き上がりまで少々お待ち下さい」

「あ、はーい!」
 そう言い終わると男性店員は、テーブルの上に人数分のドリンク五つが乗ったトレイを置く。
 しかし全員がそれぞれ自分の事に集中していた為、店員の顔を見ない事はおろか、ドリンクの違和感にも気付かない。
「こちら当店からのサービス、スペシャルミックスジュースです。もしよろしかったらどうぞ」

 イケボ店員······

 目をギュッと閉じて爆唱中の照臣以外全員、その印象だけが一致する。
 ん?ちょっと待て?俺達全員ドリバー頼んでたよな?何で?
 ようやく違和感に気付き藍罠兄だけが店員に視線を送るも、店員は背中を見せて退室する所だった。
「変なの?」
 藍罠兄は考え無しにスペシャルミックスジュースを口に運ぶ。

「!ーーーーーー」

『宇留ッ!飲むなーーーーー!オレンジジュースが入ってるぞーーー!』
 藍罠兄がテーブルの上にあったマイクで叫ぶ
 だが時は既に遅く、空になったグラスを持った宇留の瞳孔はほぼ点になり、口元はニカッとはにかんでいた。
「し!しまったーーー!!」

「イヘヘヘヘヘ♪」
 宇留のヨッパライが感染したヒメナも甲高い笑い声を上げる。

「「うワアああ!!」」

 32号室の外で部屋の様子を伺っていた男性店員は、牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡をクイッと上げると、ニヤニヤしながらバックヤードに戻って行った。









 

 
 

 

 
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