神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

文字の大きさ
上 下
57 / 202
絢爛!思いの丈!

 歌

しおりを挟む

 青空の下、不安になる程の速度で雲が千切れながら速く流れている。

 遠く地平線まで続く鏡の大地は、その空と共にテキパキと動く自分達を的確にコピーして写していた。

 宇留とアンバーニオン。

 互いにアンバーニオンの肩アーマーに備え付けられていた二本の琥珀柱が変化した剣を一振ずつ持ち、延々と飽きる事無くチャンバラを繰り返している。
 これは宇留が何度も見るシュミレーションという名の夢。
 動きは最近ようやく互角になったばかり。どちらかが優勢でも劣勢でもない。殺気も感じず、まるでキャッチボールのような感覚だった。
 宇留は記憶から、あるアニメのあるバトルシーンを呼び起こし参考にする。結構キャラクターの細かい一挙一動を覚えているものだと自負していると、アンバーニオンも瞬時にその動きに対応する。

 まぁ当然か?俺が操るアンバーニオンなんだから。

 宇留がそんな事を考えていると、アンバーニオンの目元から水のようなものが散った。

「?」

 雨?
 宇留は空を見上げるも快晴だった。
 
 その世界の太陽。ぶつかり合い光がまたたく琥珀の剣。そして視界いっぱいに広がった煌めくプリズムが眩しくて、宇留は目を覚ました。
 



 

 宇留の部屋のベッド。

                 ギャキーン!「トンコツ大将軍!お待ちどお!」デデデーン♪

 階下からは恐らく両親が視ているであろう朝特撮番組の特殊な効果音に混じって、部屋のエアコンの送風音がうっすらと響いて来る。

 そして曖昧な記憶の片隅。玄関に倒れ込み、ヒメナが母の明日美を呼ぶ大声。そして暗転。

 ···久しぶりに良く眠った気がする。
 宇留がそんな心地の良い倦怠感を堪能している間にも、宝甲の力で強化された体はみるみるうちに本覚醒状態まで引き上がりつつあった。

「······」

 そういえばマネージャームスアウ最近来ないな?

 宇留が視線を枕元に向けると、ロルトノクの琥珀アンバーの中でヒメナがうつ伏せで眠っていた。


 宇留はそのやすらかな寝顔が普通に愛おしくて、手で触れるよりも近くにあったシーツ代わりのシルクのタオルをそっとロルトノクの琥珀アンバーに被せた。

 スマホを開くといつも通り、通知とメールの山だったが、その中に藍罠兄ヨキトと磨瑠香からのメッセージを見付けた。
 
 帰って来ましたか?
 疲れてませんか?
 よかったらアンバーニオン軍非常召集です。
 カラオケに来れますか?

 YES
 YES
 YES

 選択肢に拒否権は無かった。磨瑠香達の冗談に宇留の腹筋が揺れ、ニッコリと表情が崩れる。
 とりあえずヒメナを起こさないように笑った宇留は、真ん中のイエスボタンをタップして詳細を尋ねる文面の作成を開始した。
 





 馬瀬間駅前のとあるカラオケチェーン店。その32号室。

 揃った琥珀王アンバーニオン軍の面子は宇留とヒメナ、藍罠兄妹、そして照臣の五人。

 藍罠兄が有名グループのヒットソングを一人で熱唱している間に、照臣は黙々とピザやポテト、パフェを口に放り込んでいた。
 かと思えば歌い終わった今会のスポンサーである藍罠兄に対し、誰よりも多大な賛辞を贈る照臣。ギリギリまでスナックを口に詰めるだけ詰め、漫画のキャラのように頬を膨らませていた次の瞬間にはそれが消え、曲が終わると同時に全く口ごもる事なく全員の拍手と共に照臣のお世辞が飛んだ。

 パチパチパチパチ···!

「ィェーーイ!お兄さんウマイっすねー!」
「君こそイイ食べっぷりだねー!キョービのワカイモンなのに感心するぜ!」
「特にキミって歌詞に情感込もってましたね?彼女さんの事とか思えばこそなんですかー?!」
「!」
 藍罠兄の表情が興奮のそれから一瞬柔らかくなった。
「ナイナイ!おニィに彼女なんてねぇ?だいたい···」
「すいませーーん!ピザレンジャーのL!あともう三枚お願い致します!あと···!」
 兄を茶化す藍罠妹マルカだったが、藍罠兄は素早く備え付けの受話器とスナックメニュー表を手に取り、照臣の為に追加注文をし始める。
 その一方、磨瑠香は兄のココだけはヘンだヨを宇留や照臣に力説しようとしていた。しかし照臣の予約していた曲が始まって話の腰が折れる。
 照臣はイントロが響く中マイクをクリーナーラックから引き抜き、磨瑠香の話題から逃げるように前に出た。
「あー!ちょ!」
「ハイ」
 宇留は磨瑠香のディスりを塞ぐように磨瑠香の飲み物が入ったグラスを顔の前に差し出し、そのネタに乗った磨瑠香は「オ!オゥオゥ!」と言いながらストローに噛み付いて美味しそうにメロンソーダの入ったグラスを受け取り飲み始める。そして宇留もニコッと笑うと選曲用端末とのにらめっこを再開した。

先輩ウルも、もっと食えるだろ?」
「え?は、はい!」
 黒地に細い金色のラインの入った高そうなジャージに、歩くとペタペタと音がするサンダル。そして首からはドッグタグやら何やらがジャラジャラとぶら下がっている。世間的に見れば公務員っぽい人がそれってどうなの?という私服のチョイス。磨瑠香が時折ジロッと兄を方を睨むのはそれが原因そうではあったが、宇留的には藍罠兄のイメージと合っていて違和感は無かった。

 そして藍罠兄は何故か、先程から宇留を先輩と呼んでいる。宇留は理由を聞いてみようと思った。

「ヒメナ、歌選んでて?」
「うん!」
「プハ!よし!飲んだぞ!あ!ヒメナちゃん手伝うよ!」
「わぁ!ありがとうマルカ!」
 磨瑠香は宇留の隣に座り直し、ヒメナが端末を見やすいように操作を始めた。ヒメナはロルトノクの琥珀アンバーの力で端末の操作はある程度出来たのだが、この時は素直に彼女に甘える事にした。

 照臣の歌う、ちょっぴり説教臭い昔のヒーローソングは更に盛り上がる。

「ヨキトさん、俺の事、先輩って何でですか?」
「ん?それはね~?···あ!イヤ!ネタバレ魔は禁止だ!それは後からのお楽しみ!」
「え~?ハッキリして下さいよ~www」
 宇留のハッキリしろという言葉に反応した磨瑠香は首を傾け、は?という表情を宇留の後頭部にぶつける。
「···だからこうwwwなのwだァ!www♪」
 藍罠兄は笑いを堪え、照臣の歌はイイ所で笑い声になって歌詞の説得力が薄まってしまう。

 その時、ピンポンと部屋のチャイムが鳴って店員が入室してきた。

「失礼致します。ピザレンジャー焼き上がりまで少々お待ち下さい」

「あ、はーい!」
 そう言い終わると男性店員は、テーブルの上に人数分のドリンク五つが乗ったトレイを置く。
 しかし全員がそれぞれ自分の事に集中していた為、店員の顔を見ない事はおろか、ドリンクの違和感にも気付かない。
「こちら当店からのサービス、スペシャルミックスジュースです。もしよろしかったらどうぞ」

 イケボ店員······

 目をギュッと閉じて爆唱中の照臣以外全員、その印象だけが一致する。
 ん?ちょっと待て?俺達全員ドリバー頼んでたよな?何で?
 ようやく違和感に気付き藍罠兄だけが店員に視線を送るも、店員は背中を見せて退室する所だった。
「変なの?」
 藍罠兄は考え無しにスペシャルミックスジュースを口に運ぶ。

「!ーーーーーー」

『宇留ッ!飲むなーーーーー!オレンジジュースが入ってるぞーーー!』
 藍罠兄がテーブルの上にあったマイクで叫ぶ
 だが時は既に遅く、空になったグラスを持った宇留の瞳孔はほぼ点になり、口元はニカッとはにかんでいた。
「し!しまったーーー!!」

「イヘヘヘヘヘ♪」
 宇留のヨッパライが感染したヒメナも甲高い笑い声を上げる。

「「うワアああ!!」」

 32号室の外で部屋の様子を伺っていた男性店員は、牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡をクイッと上げると、ニヤニヤしながらバックヤードに戻って行った。









 

 
 

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

神樹のアンバーニオン

芋多可 石行
SF
 不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。  彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···  今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第五部  遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。 訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。 そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。 同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。 こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。 誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。 四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。 そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。 そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

kabuto

SF
モノづくりが得意な日本の独特な技術で世界の軍事常識を覆し、戦争のない世界を目指す。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...